花たん視点で語る、きくおはなの1stアルバム『第一幕』
YURiCa/花たん
ニコニコ動画など、ネットを中心に活動する女性シンガー・YURiCa/花たん。今回、普段から親交のあるボカロP・きくおとのユニット“きくおはな”で、アルバム『第一幕』を3月30日にリリースする。「普段きくおはなのインタビューって、主にきくおさんが喋ってくれていて」と話す花たん。今回は特別に彼女の視点でアルバムを解き明かしてもらった。
また、花たん個人では初となる東名阪ツアーも来月より開催へ。ライヴへの想いや、ここだけの話(?)も訊いたインタビュー。
――3月30日に、ボカロP・きくおさんとアルバム『第一幕』をリリースするとのことで。“きくおはな”として作品を出すに至った経緯をお伺いしてもよろしいでしょうか。
もともときくおさんと出会ったのが2~3年前なんですけど、当時きくおさんのボーカロイド楽曲の「月の妖怪」を聴いてすごく衝撃を受けたんです。そこからよく聴くようになって、“歌ってみた”も投稿したりしてたんですけど、ツイッタ―で私の上げた動画に反応してくださって。ちょこちょことコンタクトを取って、同人や商業のCDに楽曲を書き下ろしてもらっていたんですよ。その中で、ガッツリと何か一緒にやれたらいいねって話していたんですけど……そこから一年くらい経ってしまっていて(笑)。お互いにバタバタとしていて、なかなか一緒にやる機会がなかったんですけど、私の4枚目のアルバム『Flower Rail』で楽曲依頼をした時に直接会って打ち合わせをさせてもらったんですよ。その時に、「二人でやりたいっていう話はまだ諦めてないんですけど……」ってお互いに言ってて(笑)。
――ようやくコラボに至ったわけですね。
そこからきくおさんが「すぐに浮かんだので是非!」って、1曲作ってくださって。多分打ち合わせをした二日後くらいだった気がします(笑)。それがアルバムに収録されている「うらみのワルツ」っていう曲なんですけど、これは『Flower Rail』用に書き下ろしてもらったものなんですよ。でも、今回の『第一幕』用にすべてミックスし直してくれたので、『Flower Rail』の「うらみのワルツ」とは全然違う雰囲気になってますね。
――花たんさんから、こういう雰囲気にしてほしいっていう要望はお伝えしたんですか?
何も伝えていないですね。きくおさんワールドに私が入りたかったので、「お任せします」ってお伝えしたら、すごくハードルが上がったものに仕上がって……「花たんならこれが歌えるだろう!」っていう感じに(笑)。でも、私の魅力を最大限に引き出したいっていう想いで作ってくださったみたいなので、それに応えられるように頑張って歌いました。
――収録曲を全て聴かせてもらったんですけど、花たんさんの歌声に被りがないといいますか……それぞれの楽曲でいろんなキャラクターを演じていらっしゃるなぁと感じたのですが、自分の中で“この曲は、こう歌おう”って決めてたりしたんですか?
一日スタジオを借りて、全曲プリマスタリングをしたんですけど、その時に“こんな感じで歌おう”って決めました。きくおさんの楽曲って、歌詞と楽曲だけで世界観がイメージできるんです。今回はミュージカル調で歌ったら映えるんじゃないかなって思ったので、その雰囲気を意識しつつ、曲ごとにいろんな自分を演じられたのですごく楽しかったです。中でも、多くの役を演じたのが、9曲目の「のぼれ!すすめ!高い塔」で。
――結構長めの曲ですよね。
そうなんです!(笑) 歌詞も二枚に分かれるんですけど、それにびっしりと。歌詞の中にいろんな役を演じられる部分がたくさんあったので、“ここは子供っぽくしよう”とか“ここは男らしく”って考えたりするのは難しくもあり、楽しかったですね。あと、すごく苦労したのが「光よ」で。すごくキーが高くて、無茶振りをされたイメージが……。ハードルが上がりすぎて、それを飛び越えるのが大変でした。こうしていろいろと思い出しながら話していると、「オオカミ男」はすごく歌いやすかったなっていう印象がありますね。きくおさんの曲って全部が変拍子なんですけど、その中で普通だったのがこの曲で(笑)。おしゃれジャジーな雰囲気の曲だったので、ナルシストなオオカミ男を意識してみました。
――難しい曲が大半だと思うんですけど、レコーディングは結構時間かかりました?
録りは、1曲1時間くらいで、1日2曲を目安に歌ってました。あとは、ぐだぐだと喋ったり、ご飯を食べに行ったりしてて、そっちの方が時間長かった気がします(笑)。でも風邪をひいちゃって声がいつもみたいに出なくて、最初のレコーディングの時に歌えなかったんですよ。スタジオには行ったんですけど、このコンディションで歌うのはやっぱりキツかったので、日程を調整してもらって。だから、1日に歌う曲が2曲から3曲に増えちゃったりした時もあって(苦笑)。きくおさんの曲はほとんどコーラスがなく、メインを録ったら終わりだったので、1日に3曲歌ってもなんとか大丈夫でした。
――レコーディング時、きくおさんから歌い方の指示などはあったのでしょうか。
特になかったんですよ。きくおさん曰く、信頼しているとのことだったので……。自分なりに解釈して歌っている中で「すごく良い」って褒めてくださったので、すごく嬉しかったですし、そこで自分の解釈は合ってたんだって安心できました(笑)。
――それは嬉しい。
あ! でも、「夜行性」では一つだけ指定があって、この曲は虫のオスとメスの話なんですけど、「オスの方は弱々しく歌ってほしい」っていう指定がありましたね。それ以外は、私なりに考えて歌ってみました。
――長い付き合いだからこその信頼関係ですね。
そう……だといいなぁ(笑)。普段きくおはなのインタビューって、主にきくおさんが喋ってくれていて、私は隣で「うんうん」って聞いているだけなので、これで合ってるかな?っていう不安が多少あります(苦笑)。
――そこも、きくおさんはきっと信頼されていると思います(笑)。そして、ジャケットを手掛けているのは『魔法少女まどか☆マギカ』でお馴染みの、劇団イヌカレーさん!
そうなんです!! ツイッタ―とかでも「え!? 劇団イヌカレー……?」みたいな反応がすごくあって(笑)。これはきくおさんたってのお願いで、「自分の世界観は劇団イヌカレーさんに表現してもらいたい!」っていう強い想いがあって。でも、私と担当さんは「無理じゃないかなぁ」っていう感じだったんですけど、そこは担当さんが頑張ってくださって。きくおさんのアツい想いを劇団イヌカレーさんが汲み取ってくださり、今回このジャケットに仕上がったんです。
――今回の“ぶっ壊れお伽話”というテーマに、これ以上ないほどハマってますよね。
劇団イヌカレーさんとの打ち合わせの時には、すでに何曲か出来上がっていたので、曲を聴いてもらいながらお話をさせてもらって。例えば、(向かって)左上部分のイラストは「朝さん夜さん」をイメージしてくださってて、手前が朝で奥が夜になっているんです。あと、この辺り(右上の部分)の細かいイラストは、きくおさんがアップしている動画のイラストをコラージュしたものになっていて。丸いイラストとか、三角コーンとか、右下の女の子が持っている顔も、全部がコラージュで。きくおさんと私それぞれのファンの方からしても、すごく楽しめるものになっていると思います。
きくおはな 『第一幕』
――右側の中央部分にも、花たんさんのジャケットイラストが入っていますし。
そうなんです。よく見ると私の過去の作品で使用した薔薇もあって、「これ自分のだ!」って気づくのが遅れてしまうくらい(笑)、細かくコラージュしてくださってて。まどマギでもコラージュじゃないですけど、リアルな写真とかを使ってるイメージなので、まどマギが好きな方でも、このジャケットを見て「あ! イヌカレーさんだ」って思っていただけるんじゃないかなって思います。
――紙の資料上でしかイラストを見ていなかったんですけど、こうやって現物に近いものを見せてもらうと細かいところまで鮮明に見えて……こんなに細かかったとは。
めちゃめちゃ細かいんです! しかも可愛くって。右下の女の子も好きだし、中央の上にいる子も好きだし……あ、全部好きだ!(一同笑) もう本当に、今回お願いできてよかったです。すごいクリエイターさんには、みなさんついてきてくれるんだな~って実感しました。(しみじみと)きくおさんすごいなぁ(笑)。
――みなさん気になっていると思いますが、『第一幕』ということは『第二幕』も期待してよろしいんでしょうか。
つく……れたらいいなぁ! “第一幕”って、私的にもきくおさん的にも勇気がいったタイトルで。最初タイトルについて話し合っている時に、意味わからないタイトルばっかり出てきてて(笑)。ハンバーグを食べに行った時なんかは、“夢のハンバーグ”とか“ハンバーグ○○”とかどうですか?って(笑)。最終的には、シアターや劇を観ているというコンセプトで作っていたので、劇団っぽいタイトルにしたいねって話してて。私ときくおさんなりの“一回では終わらせないぞ”っていう、自分たちへのプレッシャーも込めて、『第一幕』になりました。『第二幕』はこんな感じにしたいねって、なんとなくのイメージはたまにきくおさんと話したりしています。まだ『第一幕』が発売していないのに、次の話をしちゃってますけど(笑)。でも、私も楽しみです!
――そして、花たんさん個人としては初の東名阪ツアーも開催されますね。タイトルは『YURiCa/花たんの食べましょう歌いましょう、食べましょうツアー』となっておりますが……。
格好つけたタイトルって私らしくないなと思って、こうなっちゃったんですけど……。せっかく地方に行くので、美味しいものを食べたいなっていう思いを込めてつけました(笑)。
――食べましょうが二回出てきていますね(笑)。
大事なことなので、二回入れてみました(小声)。
担当スタッフ:残念ながら、大阪はその日に移動する予定なのであまり食べる時間がないかもしれないです。
……大阪に行くのに、美味しいものを食べれないみたいですね。よく京都でイベントをしていた時は、必ずすき焼きを食べに連れて行ってもらってたんですけど、(担当さんを見ながら)今回はそれがないのかぁ(笑)。大阪一度も行ったことないから楽しみにしてたのに。あぁ、お好み焼き~たこ焼き~(一同笑)。
――お昼に食べれることを祈っております(笑)。さっきもお話しに出ましたが、大阪の翌日は名古屋となってますが。
名古屋は「大阪と近すぎない?」って担当さんにちょっと反対されていたんですけど、私が生まれたところでもあるので、そこでライヴがしたいなぁと思って。昔、いろんな方が出るニコニコ系のライヴイベントとかで名古屋で開催されるものがあれば、「やりたい!」って言って参加させてもらうくらい、名古屋が大好きです。懐かしいなぁ。
――今はライヴイベントより、ワンマンの方が多いイメージがあります。
そうですね、そっちに集中してます。何回かいろんな方が出演されるライヴに出たことがあるんですけど、人見知りなのですごく緊張しちゃって。次の日とか、知恵熱出ちゃうくらい(苦笑)。出演者が大勢いると、自分のお目当ての人を観にきたお客さんって多いと思うので、“ごめんね、私が出てきちゃって”っていう申し訳ない気持ちになったりするんですけど、ワンマンライヴだとほとんどの方が私の歌を聴きにきてくださっているので、“聴きにきてくれてるから頑張ろう!”ってなるんです。ワンマンライヴをやってみて改めて思いましたね。
――今回のワンマンライヴは、前回より開催箇所も増えて、お客さんの人数もかなり多くなっているそうで。
プレッシャーが……(笑)。地方で、しかもワンマンってどうなるんだろうっていう不安はあるんですけど、美味しいものが食べられるから頑張ろうと(一同笑)。あと、バンドメンバーの方もすごく素敵な方たちばかりで。歳も近いんですけど、すごく大人なんですよね(笑)。人付き合いが上手な方たちなので、安心感がすごくあって。ずっとこのメンバーでやっていけるように、頑張らなきゃって思います。
――ちなみに、ライヴでやる曲などは決まっていたりします?
今回初めて歌うものが数曲あるんですけど、その中にきくおはなの曲もあって。
――レコーディングでも苦労したとおっしゃってましたが、それが生で聴けるとは。
そう! 挑戦してみようと思います。歌える曲を探してどうにか歌おうと。こないだきくおさんと「きくおはなでライヴしたいね」って話してたんですけど、最終的に「あれ? 歌える曲ないかも」ってなるくらい難しいんです(苦笑)。バンドメンバーには、まだきくおさんの曲をやるって伝えていないんですけど、今ですら大変なのに、さらにきくおさんの曲を入れるという酷なことをしていいのかなぁ(笑)。でも、今のバンドメンバーならやり遂げてもらえると思います。
――一体どの曲が披露されるのか、当日がますます楽しみになりますね。では最後に、ライヴへ向けて意気込みをお願いします。
歌詞を覚えるのがものすごく苦手なのに、夏休みの宿題を最終日までしないようなタイプなので、歌詞を覚えるのもいつもそんな感じになっちゃって(苦笑)。でも、今回は余裕をもって覚えられるように頑張りたいと思います。盛り上げることはできない人間なのですが、その分歌を聴いてもらって感動してもらえるように頑張るので、みなさんも気軽に歌を聴きにきてくださいね!
インタビュー・文=柴山恵美
きくおはな 『第一幕』
価格:2,800円+税
商品番号:SCGA-00045
ジャケットイラスト:劇団イヌカレー・泥犬
ブックレットイラスト:si-ku
ジャケットアートワーク:ISAMYU
http://www.subcul-rise.jp/kikuohana/1st/