2015年のトニー賞にノミネートされなかったのは誰だ

コラム
2015.7.28
NYのタイムズ・スクエアに並ぶミュージカルの広告たち。「受賞」はもちろん「ノミネート」だけで大きな宣伝文句となる

NYのタイムズ・スクエアに並ぶミュージカルの広告たち。「受賞」はもちろん「ノミネート」だけで大きな宣伝文句となる

ヒュー・ジャックマン、マシュー・モリソンも“無視”されていた

渡辺謙がミュージカル主演男優賞にノミネートされ、そして主演作『王様と私』が見事リバイバル作品賞を受賞したことで、日本でも大きな注目を集めた今年のトニー賞。そのノミネートが発表されたばかりの4月28日、アメリカの演劇情報サイトTheaterMania.comに「ノミネートされなかったのは誰だ」と題した記事が掲載された。それによれば、トニー賞に“無視”された主な作品とスターは以下の通り。

●ミュージカル部門
・『ネバーランド』(『ピピン』のダイアン・パウラス演出、マシュー・モリソン主演)
・『ドクトル・ジバゴ』(『ジャージー・ボーイズ』のデス・マカナフ演出)
・『It Shoulda Been You』(デヴィッド・ハイド・ピアス演出、シエラ・ボーゲス主演)
・『ハネムーン・イン・ベガス』(ジェイソン・ロバート・ブラウン音楽)

●演劇部門
・『Fish in the Dark』(ラリー・デヴィッド作・主演)
・『Living on Love』(ルネ・フレミング主演)
・『The Country House』(ブライス・ダナー主演)
・『The River』(ヒュー・ジャックマン主演)

●俳優部門(カッコ内は過去の代表作)
・『ネバーランド』:マシュー・モリソン(ドラマ「glee」)
・『星ノ数ホド』:ジェイク・ギレンホール(映画「デイ・アフター・トゥモロー」)
・『The River』:ヒュー・ジャックマン(トニー賞授賞式の司会でもお馴染み)
・『恋の手ほどき』:ヴァネッサ・ハジェンズ(ドラマ「ハイスクール・ミュージカル」)
・『It’s Only a Play』:ネイサン・レイン、マシュー・ブロデリック(『プロデューサーズ』)
・『A Delicate Balance』:グレン・クローズ(『サンセット大通り』)
・『A Delicate Balance』:ジョン・リスゴー(『ペテン師と詐欺師』)
・『ネバーランド』:ケルシー・グラマー(『ラ・カージュ・オ・フォール』)
・『You Can’t Take It With You』:ジェームズ・アール・ジョーンズ(『フェンス』)
・『リアルシング』:ユアン・マクレガー(映画「スター・ウォーズ」)
・『ハネムーン・イン・ベガス』:トニー・ダンザ(ドラマ「Taxi」)
・『It’s Only a Play』:ストッカード・チャニング(『パル・ジョーイ』)
・『ハイジ・クロニクル』:ブライス・ピンカム(『A Gentleman’s Guide to Love and Murder』)

この記事を、授賞式が終わり、そして筆者自身ブロードウェイに飛んだ後に改めて読んで、3つのことを思った。ひとつは、渡辺謙の成し遂げたことの偉大さだ。ノミネートのニュースが駆け巡った際、トニー賞自体を知らない知人からよく「それってどれくらいすごいことなの?」という質問を受けた。その度に「アメリカ演劇界最大の栄誉で、映画のアカデミー賞、音楽のグラミー賞に匹敵する」などと説明してきたのだが、ヒュー・ジャックマンやマシュー・モリソンでさえ、作品に恵まれなければ容赦なく無視されると言えばもっと分かりやすかったかもしれない。

ふたつ目は、「トニー賞に無視された=つまらない」とは限らないということ。かなりの話題作であったにもかかわらずノミネートゼロという事態に、相当つまらないのだろうと覚悟して臨んだ『ネバーランド』が、筆者にとっては作品賞を受賞した『ファン・ホーム』『王様と私』以上によりワクワクできるミュージカルだったのだ。確かに、映画の舞台化という点でも、演出面でも特に目新しいことはなく、賞に値するとは言えないところがある。その意味で、トニー賞はやはり信用度が高いと改めて思う一方で、「価値の高い作品」と「自分が楽しめる作品」は別物であるという教訓を得たのだった。

今シーズンに繋がる“秋開幕作品は弱い問題”

そして記事は、最後にノミネートと開幕時期の問題に触れている。曰く、今年はノミネートの87%が上演中の作品に集中していて、既にクローズした昨秋開幕の作品の中に、2部門以上でノミネートされたものはひとつもないのだとか。トニー賞は本来、そのシーズンのブロードウェイの総決算的なイベントで、前年のノミネート発表後から翌4月までの1年間に開幕した全ての作品が対象。だが近年は、影響力の大きいトニー賞にロックオンするかのようにノミネート発表直前に開幕する作品が多く、審査員もまた「券売の増加に直結する作品を選ぶ傾向にあるのではないか」と記事は指摘している。

トニー賞の商業化問題はさておき、この“秋開幕作品は弱い問題”が、筆者が思いを馳せた3つ目。昨シーズンの秋前に開幕したミュージカルは、確かに揃いも揃って振るわなかった。客席を造り変える演出が話題となった『Holler If Ya Hear Me』、日本語版も熱い支持を得ている『サイド・ショウ』のリバイバル、スティングが音楽を手掛けた『The Last Ship』などの注目作が、次々と数か月でクローズ。結果、トニー賞のみならず、この記事にまで“無視”される形となってしまった。

だが今シーズンは、それでは困るのだ。何しろ秋に開幕予定のミュージカルは、日系人俳優のジョージ・タケイの自伝的作品にタケイ自身と『ミス・サイゴン』のレア・サロンガが出演する『Allegiance』、傑作コメディ映画がアンドリュー・ロイド=ウェバー作曲で舞台化される『スクール・オブ・ロック』、お馴染みの『屋根の上のヴァイオリン弾き』の5度目のリバイバルなどなど、日本人にとっても観逃したくないものばかり。ぜひともまずは年を越し、できればトニー賞にも絡んでロングランとなることで、そう頻繁にはNYに足を運べない世界のミュージカルファンが観られる機会が増えることを願ってやまない。

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