新・帝国劇場のコンセプトが明らかに 小堀哲夫による設計で、世界に向けた発信拠点を立ち上げる

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(左から)池⽥篤郎、小堀哲夫

(左から)池⽥篤郎、小堀哲夫

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1911年に開設され、日本初の本格的な西洋劇場として多くの公演を行ってきた帝国劇場。1966年に現在の2代目となり、半世紀以上にわたって演劇ファンに愛されてきた。劇場が入るビルの老朽化に伴い、2025年2月から建て替えのため休館となる。

新・帝国劇場の概要に関する記者発表会が行われ、会見には、東宝株式会社 常務執⾏役員でエンタテインメントユニット演劇本部⻑の池⽥篤郎が登壇。「現・帝国劇場は東宝株式会社の演劇担当役員で劇作家・演出家でもあった菊田一夫が谷口吉郎先生をはじめとする皆様と手を携え、当時の最新技術をもって作り上げた劇場です。初代の意志を継いで2代目が立ち上がり、3代目は“芸術性と大衆性の融合”という精神を受け継ぎ、本物であることを大切に歩みを進めてまいります。新たな劇場は見やすく使いやすく、お客様・スタッフ・キャスト全てに心地よい空間を目指します。また、新たな劇場によってこの街に多くの変革がもたらされることを期待しています」と語る。

続いて、「素晴らしい提案と熱意に魅力を感じた」として、建築家で法政大学教授でもある小堀哲夫が設計を手掛けることが紹介された。小堀は“THE VEIL”というコンセプトを提示し、「ヴェールという言葉が持つ美しさや華やかさ、神秘性を建築が幾重にもまとっているイメージです。新たな帝国劇場におけるヴェールというコンセプトは様々な空間性を持っている。皇居側は美しい自然をまとっているべきだし、街においては賑わいが滲み出すようなものになるべきだと考えました。また、エントランスから舞台・客席へと続く空間体験を実現したいと思っています」と説明した。

小堀哲夫

小堀哲夫

小堀哲夫

小堀哲夫

続いて、質疑応答で3代目帝劇ならではの特徴や機能についての質問が出ると、池田は「特に海外の方とお話ししていると、帝劇は日本のフラッグシップ劇場であると強く感じます。この名前を継いでいく上でふさわしい劇場にしたいというのが第一。現・帝劇は非常にモダンな建築で、自然光を閉じて落ち着いた雰囲気を出していますが、新たな帝劇は自然光を取り入れて明るさと華やかさを持つ場所にしたいと思っています」と構想を話す。さらに、「もちろんバリアフリー、ユニバーサルデザインに則って建設します。また、お客様はもちろん、スタッフや役者がほぼ1日を過ごすバックヤードには特に力を入れたいなと考えています」と、関わる全ての方が心地よく過ごせる空間を目指していることを明かした。

小堀は「新たな帝国劇場は舞台の位置が90度回転しました。入り口の場所と方向は同じですが、入り口から真っ直ぐに客席へアクセスできる。非常に格式の高い構成になると思います。また、自然環境や街との接続を考えました。私がこの場所で特に感動したのは、皇居からの西陽、銀杏並木といった自然の美しさ。その素晴らしさを感じていただきたいと考えました。街は初代、2代目とどんどんよくなっています。劇場が新たにできることで、街と一体となった祝祭空間を作りたいと考えています」と語る。

劇場エントランス(正面より) 提供元「小堀哲夫建築設計事務所」

劇場エントランス(正面より) 提供元「小堀哲夫建築設計事務所」

遠景イメージ(敷地西側より) 提供元「小堀哲夫建築設計事務所」

遠景イメージ(敷地西側より) 提供元「小堀哲夫建築設計事務所」

続いて、新たな劇場になる上でなくなるものがあるのかどうか、新たな劇場の優位性について聞かれ、池田は「現在の帝国劇場は地上9階、地下6階を全て劇場空間としている。これは世界に類を見ないもので、誇れる劇場ですが、今の演出に関してはここまでという部分もあります。現在はオートメーション機構を使うことが多いため、新たな劇場は盆とせりがありません。そのぶん床がユニット機構となっており、奈落と連動して複雑な演出に対応できるフレキシビリティを備えています。また、現・帝劇は歌舞伎公演も可能で、花道を作ることができるぶん客席が高い傾斜を持てませんでした。新たな帝劇はその特性がないため、サイトラインを考慮し、どの席からでも見やすい環境を整えます。客席の寸法にも余裕を持たせることも考えています。地下からの入り口も正面エントランスと同様に考え、エスカレーターやエレベーターを設置することでアクセシビリティを高めようと考えています。他にも、皆さんにご利用いただけるカフェ、街と共に劇場全体を楽しんでいただけるような工夫を考えています」と、様々な観点から快適性をアップさせる予定だということを話す。

サイトラインについてはモデルやVR技術などを活用し、1席ずつ見え方を確認しながら検証・確認しているという。化粧室の待ち時間や列もシミュレーション技術を用いて検証し、ロビーの混雑緩和を目指していると語られた。障害がある方、ご高齢の方が安心して観劇できる環境づくりも重視していると言い、車椅子の方がエントランスから客席まで段差なく移動できるようになるほか、車椅子用の席や多目的化粧室の増加も予定しているそう。

客席(上手側より) 提供元「小堀哲夫建築設計事務所」

客席(上手側より) 提供元「小堀哲夫建築設計事務所」

新たな帝劇のデザインで最も大事にしていることを聞かれた小堀は「歴史を紐解くと、この劇場は各時代の夢の結晶です。初代は日本における演劇文化の実現というチャレンジで、2代目は演劇の可能性をどれだけ広げられるかという点に苦心し、様々な技術を投入した劇場。3代目は未来を見つめた日本らしさを創造・発信していきたいという思いがあります。東宝さんが日本オリジナル作品を世界に発信していこうという中で、舞台のフレキシビリティが非常に重要だと思っています。また、多層生や神秘性を建築によって表現したいと思っています」と語る。

今後のラインナップについての質問には、池田が「もちろん華々しい柿落としにふさわしい演目は非常に重要です。ただ、リニューアルオープンの時期は2030年度を予定しており、演劇の世界は1年ごとに移り変わっていきますから、まだこれと明言はできません。ロンドン公演を行った『千と千尋の神隠し』のようなオリジナル制作も考えていますし、新たな帝劇で上演するべき海外作品があれば手掛けていきたいと思っています。現在もそうですが、マスターピースとなる作品群もベースに置きながら、新機軸を提供していく。バランスをとりながら、皆様に楽しんでいただけるラインナップをそろえていきたいと思います」と意気込んだ。

劇場エントランス(有楽町側より) 提供元「小堀哲夫建築設計事務所」

劇場エントランス(有楽町側より) 提供元「小堀哲夫建築設計事務所」

遠景イメージ(敷地南西側より) 提供元「小堀哲夫建築設計事務所」

遠景イメージ(敷地南西側より) 提供元「小堀哲夫建築設計事務所」

最後に、現・帝劇を作り上げた菊田一夫氏への思いを聞かれ、池田は「菊田イズムは心に染み付いています。菊田さんが考えたのは芸術性と大衆性の両立。クオリティを高めつつ、お客様から離れてはいけない。少し先を見て、新たなものを提供していくのが菊田先生の教えだと思っています。偉大な先人にはなかなか追いつけませんが、少しでも近付きたい。新たな帝劇に、同じ魂を吹き込んでいきたいという思いは全員に共通するものだと思っています」と熱意を持って語る。小堀は「菊田さんと谷口さんがタッグを組んで作り上げたという事実は、非常に緊張して受け止めました。ただ、3代目は初代から未来まで、長いスパンで見ようと思いました。現代において劇場という建築を作り上げる難しさを感じつつ、できるだけ多くの人たちの想いや夢を吸い上げたい。多様な世界をきちんと受け入れながら、演劇を見る方だけでなく、ここで働く人たち・演じる人たちが気持ちよく過ごせることも大事だと思い、多くの方と議論を重ねています。この思いを受け止めてくれる施工チームが入ったら、またさらに良くなると思います。初代・2代目の歴史を紐解いても、本物に近づいていこうという思いをひしひしと感じる。不安定な時代であることをポジティブに捉え、だからこそ乗り越えようという思いで打ち合わせをしています。きっと素晴らしい帝国劇場になると信じています」と締め括った。

現帝国劇場 振り返りPV

取材・文・撮影(会見模様)=吉田沙奈

公式サイト

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