北村想の大胆解釈による、女優二人芝居版『ドグラ・マグラ』~perky pat presents 8『DOWMA』

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 『DOWMA』チラシ表

『DOWMA』チラシ表

天下の奇書のエッセンスを抽出&凝った演出で、魅力あふれる舞台に

日本三大奇書の一冊として知られる夢野久作の『ドグラ・マグラ』を原作に、北村想が独自の演劇論を盛り込み、女優二人芝居という大胆な設定に置き換えて描いた『DOWMA』。この異色作が、名古屋のperky pat presentsにより今週4月9日(土)から毎週末、3週にわたって名古屋で上演される。

『DOWMA』は、もともと関西で活躍する女優(船戸香里、津久間泉)の二人芝居のために書き下ろされ、2014年10月に伊丹「AI・HALL」で初演されたものだ。この作品について構想段階から北村に聞いていたperky pat presents主宰の加藤智宏は、話を聞いてすぐ、自身のプロデュースによる名古屋での上演を決意したという。

それから準備期間を経てようやく上演の運びとなったわけだが、舞台美術を地元の美術作家3人に依頼して舞台オブジェを毎週変えたり、昼公演は自然光、夜公演は人工光で上演するなど、加藤は本作で趣向を凝らしたさまざまな演出に挑んでいる。まもなく開幕するこの作品が誕生したきっかけや今回の企画の経緯、演出プランなどについて、作者の北村想と演出の加藤智宏に話を伺った。

左から・作者の北村想とperky pat presents主宰・演出の加藤智宏

左から・作者の北村想とperky pat presents主宰・演出の加藤智宏

── まず、想さんがこの作品を書かれたきっかけから教えてください。
 

北村◆『怪人二十面相・伝』(2008年に『K-20 怪人二十面相・伝』として金城武主演で映画化もされた、自作の小説)をね、ひとり芝居にしたことがあるんですよね。1本は船戸香里、もう1本は津久間泉が演じて、両方とも想流私塾の師範やってた中村賢司が演出したんです。深津(篤史)存命の頃です。「ひとり芝居とひとり芝居を合わせて、今度は二人芝居をやるのも面白いかな」と思って、「じゃあ、なんか二人芝居の題材があったら書いてみるわ」って、いっちゃったんだ。わりと自分に枷を課すというか、キツイ方が面白いんだよね(笑)。だから普通に芝居にするのも難しい『ドグラ・マグラ』を女優二人でやれないか、って考えて。不可能犯罪みたいな感じだけどね(笑)。

── 一見無理そうなことを考えるのがお好きなんですね。

北村◆そう。オレはだいたい探偵派じゃなくて犯人派だから(笑)。犯罪する人の方だから、で、『ドグラ・マグラ』。これは、だいたいみんな上巻で放り出しちゃうんだけど、後半がものすごくドラマチックなミステリーになってるんですよ。ハラハラドキドキの展開で、どんどん前半の辻褄を合わせていくっていうね。途中で<脳髄論>とかいろいろ入ってくるからわからなくなってくるんだけど、かいつまんでミステリーの部分だけを引っ張り出すと、そんなに入り組んだ話じゃない。結局は法学者と精神医学者の闘争でしかないんだよね。それで「これは二人で出来るわ」と。それを女優にしたのは、「母親の心がわかっておそろしいのか」(巻頭歌より)って、母親のことを書いてあるわけだからね。それだったら女性にぴったりだなと思ったんで、書いたんですよ。

── 加藤さんが企画された発端は何だったんでしょう?

加藤◆5年ぐらい前のお正月に想さんと話してた時、『ドグラ・マグラ』をやるんだっていう話が出て、しかもそれを女二人でやると聞いて、どうやってやるんだろう?と。まだホンが出来てなかったんじゃないかな。でも、その時にもうやるって決めてたのね。そのあと台本がネットにアップされてたんですよ、PDFになって(虚空文庫 http://suiseidou.cool.coocan.jp/main.html 北村想のページより閲覧可能)。先に演ろうかと思ったけど、それはさすがにいかんだろうと(笑)。

── それが今のタイミングになったということなんですね。

北村◆最初は「こんな難しいのやるのっ」っていったんだけど、加藤さんは『ロストゲーム』(1994年 北村作)もやってるしね。あれも二人芝居なんだけど、何の事件が起こったのかワカラナイっていう、ややこしい話だもんね。それで大丈夫だろうと。

稽古風景より

稽古風景より

── 今回の上演にあたっては、台本に新たに手を加えたりされているんですか?

北村◆もうちょっと縮めようかと改稿してみたんだけど、逆にセリフの順番を間違えたりして加藤さんに指摘された。

加藤◆そうそう。「これ、矛盾があるんですけど」って(笑)。

北村◆無理矢理にくっつけたりしたもんだから(笑)。

── 台本には想さんご自身の演劇論がたくさん引用されていますね。

北村◆原作に出てくる<脳髄論>の代わりに<演劇論>を使ったんですよね。それはオレの著作の『恋愛的演劇論』(2013年 松本工房刊)に『ドグラ・マグラ』を引用してるから、『DOWMA』には逆に、その『恋愛的演劇論』を引用したんだ。原作でも『ドグラ・マグラ』という小説が出てくるけど、それを劇作家が書いたという風に変えてね。

── そのあたりがとても違和感なくなじんでいると思いまして。やはり『ドグラ・マグラ』や夢野久作に対してシンパシーを感じられている部分が多いんでしょうか?

北村◆そうですね。『ドグラ・マグラ』と小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』、中井英夫の『虚無への供物』が日本の三大奇書と言われてるけど、最も理論として優れているのは『ドグラ・マグラ』で、初めて読んだ当時からそれがすごく面白かったですね。「脳髄は物を考える処に非ず」っていう<脳髄論>とかがね。

── 原作のエッセンスが巧みに抽出されていて、内容がわかりやすくなっていると思いました。

北村◆すごくわかりやすくしてありますよ。だから『DOWMA』を観れば、『ドグラ・マグラ』っていうのは、こういう話だったんだというのが逆にわかるようになってるんです。こんだけの話だよ、って。

稽古風景より

稽古風景より

── 演出プランについては、どんなことを考えられたんでしょう。

加藤◆<演劇論>をどうお客さんに伝えるのかっていうところが、演出のポイントですね。聞いてるだけだと、お客さんの脳が飽和していって置いてきぼりを食っちゃうから、そこをどうフォローするかっていう。

── 具体的な見せ方としては?

加藤◆私がよく使うのは、書いちゃう。

北村◆『ロストゲーム』の時も書いてたもんね。視覚的に見せると、すごくわかりやすくなるんだなと思った。

加藤◆ポイントになるものを置いておいてあげるとお客さんは、「あぁ、このことね」と思うし、言葉と言葉の関係性を線で結ぶだけで意味がピッと通じていって、頭の中が整理されるから。

── たしかに、それがあるのと無いのでは理解度が変わってきますね。

加藤◆それを消さずにどんどん書き込んでいくと、やがてグチャグチャなものが出来上がっていって、それが作家の頭の中だぞっていうね(笑)。そういうのをちょっと見せながら。

左から・出演者の秋葉由麻と古家暖華

左から・出演者の秋葉由麻と古家暖華

── 舞台美術を各週、3パターン用意されていますが、これはどういった意図で?

加藤◆全体を通じて演出っていうことなんですけども、始まりからまた終わっていく、ループしていくようなイメージを持ったんですね。ループしながらも、どこかでズレていくというか変わっていくというか。遺伝子もコピーを繰り返していくんだけど、800回に1回くらいミスをするらしい。それが恐らく変容していくことになってるんだろうと思うんだけども。同じことを回している中でも、なんか知らないけどちょっとずつ変わっていく。同じ夢を見ながら本の位置がちょっと変わっているとか、そういうようなことができないかなと思った時に、「美術変えちゃおうか」っていう。

── 3人の美術作家さんで、というのは最初から決めていたんですか?

加藤◆決めてた。3パターンぐらいがちょうどいいかなと思って。最初は、でっかくてインパクトの強い作品を作ってらっしゃる白木ロコさんに声を掛けたんだけど、なかなかあとの2人が決まらなくて。というのはね、立体で大きい作品を作っている作家さんが少ないんですよ。で、次に中谷ゆうこさん。彼女、絵を描くんですね。ずっと絵描きだというイメージでいたんだけど、ロコさんと2人展をやってる時に見に行ったら、立体やってるじゃん、と。それで声を掛けて。で、もう一人がどうしても決まらなくて、ツイッター上で呼びかけたら「はーい!」って加藤恵利さんがやって来た。加藤さんも知り合いで元々知っていたんだけど、円の作品を作っていたので(作品写真参照)、円だと閉じちゃうなと。『ドグラ・マグラ』は閉じたらいけないんじゃないのと思ってたから、加藤さんに声を掛けるのは今回はなぁ…と思ってたんだけど、「こういうのもある」と別のパターンの作品を見せてもらったので、「じゃあ、お願いします」と言って。

── 前回の「あいちトリエンナーレ」でアート作品とコラボした演劇もありましたけど、美術作家さんがその芝居のために創った作品で、という形は珍しいですよね。

加藤◆『DOWMA』という作品をどう表現するか、っていうことを全体で考えていて。そしたら音楽をお願いした田村俊明さんも面白がってくれて、「それぞれの作家に合わせて曲を変える」と言い始めて。ひとりの作家さんで4ステージあって曲が3パターン、昼公演と夜公演があるからこれを1つずつズラしていくと全ステージ、違う劇が出来るなっていう(笑)。

北村◆困っちゃうんだよな、観る方は。全部観たいような気がするからさ。


核を残しつつ、原作の持つ濃密な空気をほどよく希釈したような北村テイストの台本に、創意工夫を凝らした演出プランという引き算と足し算。その塩梅の良い世界観に、艶のある声が印象的な秋葉由麻(若林医師と正木医師の女医二役)と、素朴な少年の雰囲気を備えた古家暖華(少年・呉イチロウ役と少女の声)の個性がマッチした本作は、夢野久作ファンはもちろん、『ドグラ・マグラ』読破を断念した人にもぜひ観てほしい舞台だ。通算12回すべてが違った演出で観られるだけに、2回、3回と見比べてみるのも。
 

酒屋の隣、向かって左側が会場の『新世界』スタヂオ。民家を改造して造られており、1階にある定員約20名の舞台エリア奥には中庭が。また、一部が2階の床を抜いた吹き抜けになっているため、今回の上演では2階の窓から入る自然光や中庭を生かした演出がなされる

酒屋の隣、向かって左側が会場の『新世界』スタヂオ。民家を改造して造られており、1階にある定員約20名の舞台エリア奥には中庭が。また、一部が2階の床を抜いた吹き抜けになっているため、今回の上演では2階の窓から入る自然光や中庭を生かした演出がなされる


 
 
【舞台美術】 ※チラシ掲載文よりコメント抜粋
4月9日(土)・10日(日) 白水ロコ
「作品世界は、現実でなく創造的な方が、作る自分も見る人も面白い、という思いで今作りたいものを作っています。今回は、自分の中に潜む猟奇的な部分を、明から様に表現できればと思っています。心の奥にある陰の部分を、とじ込めず曝け出す手段を持ち併せている事は、恵まれていると思います。」


4月16日(土)・17日(日) 加藤恵利
「私の作品は、空間を体感し人々の想像力や身体性を引き出す装置です。私にとって壊す事ができる事でもあり、そこで生じる臨場感が息づくような空間を作りたいと思います。」



4月23日(土)・24日(日) 中谷ゆうこ
「油絵を描き、立体をつくり空間を作品にしています。意識下の世界ですべての魂は繋がり、そこは生まれたばかりの魂の宿る無垢な場所である、と私は思っています。こちら側の世界から境界を越え、意識下の世界へつづく出入口をつくりたいのです。」


イベント情報
perky pat presents 8『DOWMA』

■作:北村想
■演出:加藤智宏
■出演:秋葉由麻、古家暖華(M.カンパニー)

■日時:2016年4月9日(土)13:00・18:00、10日(日)13:00・18:00、16日(土)13:00・18:00、17日(日)13:00・18:00、23日(土)13:00・18:00、24日(日)13:00・18:00
■会場:吹上『新世界』スタヂオ(名古屋市昭和区塩付通1-6)
■料金:一般/前売2,500円、当日2,800円 学生以下/前売1,500円、当日1,800円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄桜通線で「吹上」駅下車、3番出口から徒歩7分
■問い合わせ:office Perky pat 加藤 090-1620-4591 rsm87200@nifty.com
■公式サイト:http://officeperkypat.web.fc2.com/
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