新国立劇場「アンドレア・シェニエ」、名舞台の予感

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2016.4.14
新国立劇場「アンドレア・シェニエ」(2010年公演より) (撮影:三枝近志 提供:新国立劇場)

新国立劇場「アンドレア・シェニエ」(2010年公演より) (撮影:三枝近志 提供:新国立劇場)

現在マスネの「ウェルテル」を好評上演中の新国立劇場では、間もなく開幕する次なる作品「アンドレア・シェニエ」のリハーサルが順調に進められていた。ウンベルト・ジョルダーノの代表作は実在の詩人の生涯を元にした、フランス革命の最中に起きた悲劇の物語だ。

新国立劇場の「アンドレア・シェニエ」は、2005年に初演されたフィリップ・アルロー演出によるプロダクションの、2010年11月以来となる再演だ。揺らぐ時代を象徴する斜めに傾いだ舞台セット、そして聴衆に常にギロチンの存在を意識させる仕掛け、さらに回り舞台を駆使して時代の転変を言葉によらず描き出す、時代と作品の描く悲劇を強く観衆に突きつける美しくも衝撃的な舞台だ。

(2010年公演より/新国立劇場 YouTube公式チャンネル)
 

実在の詩人シェニエも、このオペラも直接には知らないという方も、作品の世界観は皆さんご存知のはずだ。たとえば池田理代子が「ベルサイユのばら」「エロイカ」で描き出したあの時代をイメージしていただければいい(実際に、2005年に本プロダクション初演時にはオペラトークのゲストとして池田理代子が登場している>リンク先では、その際のトーク概要をお読みいただける)。もしかすると、宝塚歌劇団が2013年に発表したこのオペラをベースにミュージカル化した舞台を思い出される方もいらっしゃるだろうか。
また、このオペラからもう少し後の時代になるとジャン・ヴァルジャンが投獄されて、「レ・ミゼラブル」の世界へとつながっていくことになる。これらの作品で革命の時代の雰囲気さえご存知であれば大丈夫、この舞台は存分にお楽しみいただけることだろう。

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さて、再演のプロダクションでは新制作の舞台とは違って、リハーサルにかけられる時間も限られてくる。今回、歌手たちとオーケストラの合わせが最初に行われたのは開幕を木曜日に控えた11日(月)だった。オペラパレスで行われたその貴重なリハーサルは、実に集中した、密度の濃いものとなった。

アンドレア・シェニエにカルロ・ヴェントレ、マッダレーナには「トスカ」の記憶も新しいマリア・ホセ・シーリ、そしてジェラールにはヴィットリオ・ヴィテッリと、新国立劇場ではおなじみとなりつつある実力派が揃ったキャストはこの日、それぞれに舞台の感触を確かめるように歌っていたが、随所でその全力を試すかのような、ヴェリズモ・オペラならではの力強い歌を聴かせていた。その出来栄えについては幕が開いてからのお楽しみと言うしかないけれど、歌に演技に大いに楽しませてくれそうだ、という印象を受けたことはぜひお伝えしたい。

カルロ・ヴェントレ(アンドレア・シェニエ)とホセ・マリア・シーリ(マッダレーナ)の二人(4/10リハーサルより/衣装は出演者私服です) (新国立劇場提供)

カルロ・ヴェントレ(アンドレア・シェニエ)とホセ・マリア・シーリ(マッダレーナ)の二人(4/10リハーサルより/衣装は出演者私服です) (新国立劇場提供)

ヴィットリオ・ヴィテッリ(ジェラール)は歌、演技ともに絶好調(4/10リハーサルより/衣装は出演者私服です) (新国立劇場提供)

ヴィットリオ・ヴィテッリ(ジェラール)は歌、演技ともに絶好調(4/10リハーサルより/衣装は出演者私服です) (新国立劇場提供)

今回の舞台で私が最も注目したいのは指揮のヤデル・ビニャミーニだ。2012年末にはびわ湖ホールのジルベスター・コンサートに登場しているし、今年の3月にはアンナ・ネトレプコの来日公演に登場した、期待のイタリア人指揮者だ。ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団にE♭クラリネット奏者として入団した後指揮者としてキャリアを開始、現在は同楽団のレジデント・コンダクターを務めている。若くしてパルマやローマ、フィレンツェなどイタリア各地の歌劇場、アメリカ大陸各地にデビュー済みと、いま現在その活躍の場を急速に広げつつある注目の若手なのである。

この日のリハーサルで、ビニャミーニはオーケストラ、歌手に加えて舞台スタッフとも密にコミュニケーションを取ってリハーサルをリード、舞台転換のほんの少しの空き時間もオーケストラへの指示や演奏の修正に使う精力的な仕事ぶりを見せていた。
そしてその指揮から出てくる音はといえば、引き締まったテンポ、張りのある力強いサウンドが強く印象に残った。先日の共演での好感触もあったか、東京フィルハーモニー交響楽団の面々も若き指揮者に応えて空き時間に自発的にセクションでの合わせを行うほどの入れ込みよう。オーケストラと歌手が揃う初日だったため、まだ随所で演奏を止めて修正を施していた段階ではあるのだが、その輝かしい音は公演の大成功を予感させるに十分だった。

ヤデル・ビニャミーニ、この機会にぜひ聴いていただきたい指揮者だ (新国立劇場提供)

ヤデル・ビニャミーニ、この機会にぜひ聴いていただきたい指揮者だ (新国立劇場提供)

もし、今回の「アンドレア・シェニエ」を”前に見た舞台だから(新制作ではないから)”と敬遠されている方がいらしたら、ぜひ再考いただくようお薦めしたい。新制作は上演中の「ウェルテル」が最後となった今シーズンの新国立劇場だが、「サロメ」に続いて「アンドレア・シェニエ」、そして「ローエングリン」、「夕鶴」へと現行プロダクションの決定版が続くのではないか……そんな期待をしてみたくなる、「アンドレア・シェニエ」のリハーサルであった。新国立劇場の「アンドレア・シェニエ」、初日の公演は14日(木)の19時、久しぶりに夜公演で開幕する。

公演情報
新国立劇場
ウンベルト・ジョルダーノ作曲 歌劇「アンドレア・シェニエ」
全四幕 イタリア語上演・字幕付き


■日時:
2016年4月14日(木)、20日(水) 19:00開演

2016年4月17日(日)、23日(土) 14:00開演
会場:新国立劇場 オペラパレス
 
指揮:ヤデル・ビニャミーニ
演出・美術・照明:フィリップ・アルロー(再演演出 澤田康子)
衣裳:アンドレア・ウーマン
照明:立田雄士
振付:上田遙
舞台監督:斉藤美穂
キャスト:
アンドレア・シェニエ:カルロ・ヴェントレ
マッダレーナ:マリア・ホセ・シーリ
ジェラール:ヴィットリオ・ヴィテッリ
ルーシェ:上江隼人
密偵:松浦健
コワニー伯爵夫人:森山京子
ベルシ:清水華澄
マデロン:竹本節子
マテュー:大久保眞
フレヴィル:駒田敏章
修道院長:加茂下稔
フーキエ・タンヴィル:須藤慎吾
デュマ:大森いちえい
家令/シュミット:大久保光哉

 
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