ゴッホ、ルノワールなど『デトロイト美術館展』にて必見の名画4点に迫る

コラム
アート
2016.4.19
デトロイト美術館展 大西洋を渡ったヨーロッパの名画たち

デトロイト美術館展 大西洋を渡ったヨーロッパの名画たち

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この春から秋にかけて『デトロイト美術館展 大西洋を渡ったヨーロッパの名画たち』が愛知、大阪、東京にて開催される。モネ、ルノワール、ゴッホ、セザンヌ、マティス、ピカソら巨匠たちの名画が全52点が公開される、今年注目の展覧会である。

本展の出品作品が所蔵されているアメリカのデトロイト美術館は、アメリカでゴッホやマティスの作品を初めて購入した公共美術館だ。2013年には、デトロイト市の財政破綻により、一時は収蔵作品の売却も検討されたが、市民による反対運動などの影響で売却を逃れた過去を持つ美術館としても知られている。今回は、そんなデトロイト美術館から出品される作品のなかから、特に注目の4点の魅力についてご紹介する。

 

ゴッホの"指の跡"がのこる名画

フィンセント・ファン・ゴッホ《自画像》1887年 City of Detroit Purchase

フィンセント・ファン・ゴッホ《自画像》1887年  City of Detroit Purchase

まずは、本展のメイン作品ともいえるフィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)の《自画像》を見ていこう。ゴッホの「自画像」と言えば、耳に包帯が巻かれている痛々しいものを思い浮かべる方も多いだろう。しかし本作品には、それがみられない。むしろ、柔らかい表情のゴッホが淡い色彩の背景・衣服とともに描かれており、穏やかな印象を受ける作品となっている。実はゴッホは、生涯にわたって約40点の自画像を描いており、今回ご紹介している《自画像》は、1887年に描かれたものだ。よく知られた耳に包帯を巻いた自画像は、1889年以降に描かれたものである。

では、1887年ごろは、彼にとってどのようなタイミングであったのかを紐解いていこう。前年の1886年、ゴッホはパリに移住し、弟・テオとの共同生活をスタートし始める。パリはその当時時代の最先端を行っていた印象派の画家たちが盛んに活動していた拠点だった。ゴッホはパリへの移住後、ミーユ・ピサロ、ジョルジュ・スーラ、ポール・シニャック、エドガー・ドガらとの交流を深め、影響を受けたとされている。本作は、これら印象派画家たちと親睦を深めた時期に描かれた作品なのである。それをふまえて再度作品を眺めてみると、全体が淡い色彩で描かれており、また印象派の特徴的な技法である「筆触分割」(絵の具を混ぜ合わせずに、あえて筆触を残したまま描く手法)が用いられ、光を意識した作品となっていることがわかる。ゴッホといえば、うねるような筆致と怪しげな色彩を用いて幻想的な風景を描いたと思われがちだが、そのような作品はこういったいわば”王道”の印象派画法を経てから生み出されたものなのだ。「印象派画家」としてのゴッホを目の当たりにすることができる一作といえるだろう。また、本作の青い服の部分にはゴッホが自身の指で直接色を置いた跡も観ることができる。ゴッホの息吹を生々しく感じとることのできるこの点は、ぜひ展覧会にて近くでチェックしていただきたいポイントだ。

 

"人嫌い"のセザンヌが愛した孤独な山

ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山》1904 -1906年頃 Bequest of Robert H. Tannahill

ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山》1904 -1906年頃 Bequest of Robert H. Tannahill

次に、ポール・セザンヌ(1839-1906)の《サント=ヴィクトワール山》を見ていこう。「ただ単に山を描いているだけじゃないの?」と思われる方もいるだろう。しかしこのサント=ヴィクトワール山は、セザンヌが生涯に渡って約80点以上にも及んでモチーフにしてきた山なのである。それほど、彼を魅了し続け、描いても描き足りない題材だったことは間違いないだろう。サント=ヴィクトワール山とは、セザンヌの故郷である南仏の町エクス=アン=プロヴァンスから眺められる屏風岩のような連山で、元は石切り場として使われていた。しかし、セザンヌが描いていたころは、すでに石切り場としての役割を終えた、人気のない場所であったとのこと。セザンヌは社交下手で人嫌いとされていたことを踏まえると、彼がサント=ヴィクトワール山を愛したのも合点がいくのではないだろうか。

複数点描かれたサント=ヴィクトワール山だが、今回ご紹介しているのは1904~1906年頃に描かれたバージョンのもの。セザンヌの没年は1906年であるので、本作はセザンヌの最晩年に描かれた作品ということになる。それ以前に描いたサント=ヴィクトワール山よりも、太い筆致でダイナミックに描かれているのが特徴だ。また、他のサント=ヴィクトワール山を描いた作品では具体的に描かれている樹木や農道も、その輪郭は曖昧なままだ。輪郭を用いない描き方や、透き通るような色彩からは、サント=ヴィクトワール山を望むセザンヌの穏やかな心持ちが伝わってくるようだ。彼が幾度となく描き、見つめ続けたサント=ヴィクトワール山のある風景への愛を感じることができる一作と言えるのではないだろうか。

 

不遇の画家に向けられた恋人のまなざし

アメデオ・モディリアーニ《女の肖像》1917 -1920年 City of Detroit Purchase

アメデオ・モディリアーニ《女の肖像》1917 -1920年 City of Detroit Purchase

アメデオ・モディリアーニ(1884-1920)は、20世紀を代表するイタリアの画家。面長の顔と、「アーモンド形」と評される瞳が特徴の独特な人物画を確立させた。本作《女の肖像》にもその特徴をみることができる。元々画家として活動していたモディリアーニだったが、1909~1914年ごろには彫刻の創作も併せて行っており、そのころの絵画には、生命力の溢れる豊満な女性の裸婦画が多く描かれていた。しかしこの《女の肖像》には、そのような熱量は感じられず、また女性の描き方も非常に平面的である。
彼は、当時人気のあったキュビズムの絵画とは一線を画した絵画様式であったことや、自身の自堕落な生活により美術界から異端扱いされ、孤立していた過去を持つ。この作品が描かれた晩年期になってようやく評価され始めたものの、病により36歳の若さで夭折した。この作品は、そのような不遇の画家人生を送った彼の曇り心が投影されていると捉えることもできるだろう。

ちなみに、この女のモデルとなったのは、当時交際していた画学生のジャンヌ・エビュテルヌとされている。彼女はモディリアーニの死後、後を追うようにして自殺をした。それほどまでに傾倒していたモディリアーニへ向けられた彼女のまなざしを、ぜひ展覧会でしかと受け止めてほしい。直接作品をみて初めて感じられる、その視線の強さに胸を射抜かれること間違いなしだ。

 

激痛に耐えながら描かれた究極の"美"

ピエール・オーギュスト・ルノワール《座る浴女》1903 -1906年 Bequest of Robert H. Tannahill

ピエール・オーギュスト・ルノワール《座る浴女》1903 -1906年 Bequest of Robert H. Tannahill

ピエール・オーギュスト・ルノワール(1841-1919)は言わずと知れたフランス印象派画家の代表格だ。本展では、そんな彼の《座る浴女》をご覧いただくことができる。

ところであなたはこの作品が、リューマチ性関節炎に侵され、激痛を伴っていた右手によって描かれた作品だと信じることができるだろうか?ルノワールは、1888年頃よりリューマチ性関節炎や顔面神経痛に侵されており、本作品が描かれた1903年~1906年の期間も痛みに耐えながらの創作活動を行っていたという。しかしながら、本作に描かれた女性の豊満な肉体、血色のよい穏やかな表情、柔らかな布の質感にいたるまで、その全てから多幸感が滲み出している。

実は、彼の作風はこの病を機に変化して生み出されたものなのだ。病を患う前の1870年~1880年代にかけてのルノワールの作品は、太陽光のなかにいる都市の人々を描き出す「印象派そのもの」であった。その頃の代表作としては《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏場》や《舟遊びをする人々の昼食》などが挙げられる。しかし、前述の病を経て彼は、生命力の溢れる豊潤な裸婦画を生み出すことへ変化していくのだ。裸婦画は絵画の誕生以来、古代よりあらゆる画家が題材としてきた「美」の代名詞である。病に対面し、生きること・死ぬことを身をもって感じたルノワールが裸婦画に到達したことは、「生」そのもの、「美」そのものを描き出そうとしていたと言えるだろう。西洋美術の大家であるルノワールが、画業の全てをかけて表現しようとした生命の息吹きを、ぜひ目の当たりにしていただきたい。


本展では、これらのほかにもエドガー・ドガ《楽屋の踊り子たち》、アンリ・マティス《窓》、ポール・ゴーギャン《自画像》など全52点を観ることができる。さらに本展では、これら全作品の写真撮影が可能だ。名画の数々を、自らのカメラ・スマートフォンに収めることができる貴重な機会となる。なかでも、イープラスによる大阪展の定員制の夜間貸切公開日であれば、通常よりもゆったりと名作たちを味わうことができるだろう。ぜひこの機会に一度、足を運んでみてはいかがだろうか。

 

イベント情報
デトロイト美術館展 大西洋を渡ったヨーロッパの名画たち

豊田展
会期:2016年4月27日(水)~6月26日(日)※休館日:月曜日(但し、5/2は開館)
開館時間:10:00~17:30 ※入場は17:00まで。但し5/13,20,27及び6月中の金曜日は20:00まで開館。入場は19:30まで。
会場:豊田市美術館
前売り:一般¥1,200 高校・大学¥800

大阪展
会期:2016年7月9日(土) ~9月25日(日)※休館日:月曜日(7/18、8/15、9/19は開館、7/19は休館)
開館時間:9:30~17:00 ※入場は16:30まで
会場:大阪市立美術館
前売り:一般¥1,300 高校・大学¥800 ペア¥2,400 

東京展
会期:2016年10月7日(金)~2017年1月21日(土)※休館日:10月21日(金)
開館時間:9:30~16:30(但し、毎週金曜日9:30-20:00)※入場は閉館の30分前まで
会場:上野の森美術館
前売り:一般¥1,400 高校・大学¥1,000 小・中学生¥500

展覧会公式サイト:http://www.detroit2016.com/index.html
 
閉館後貸切 イープラス特別入場券 
★好評につき追加開催が決定!★

対象公演:大阪展 7月16日(土)、17日(日)、20日(水)
開催時間:通常営業終了後の2時間(最終入場は終了30分前)
:一般¥3,000 高校・大学¥2,000
抽選先行期間:受付中~2016年4月24日(日)18:00
 
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