実際に人が使った手帳を閲覧できる『手帳展』とは? 謎多き展覧会へ潜入レポート

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『手帳展』の一角に置かれたメモ

『手帳展』の一角に置かれたメモ

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「実際に人が使った手帳を閲覧できる展覧会」が開催されている。

『手帳展』と名付けられたその展示は、中目黒にあるギャラリー「Picaresque(ピカレスク)」にて行われている。ここは、東急東横線・中目黒駅から歩いて約3分ほどの場所にある小さなギャラリーで、昔ながらの木造住宅の一階部分に居を構えている。古民家のような心落ち着く空間の中に足を踏み入れると、雑貨風の小さなアート作品やお皿、ポストカードなどがかわいらしく並べられていた。

そんなピカレスクの一角で『手帳展』は行われていた。といっても、「展示」といえるような佇まいではまるでない。そこでは手帳や日記や、スケッチブック、交換ノートなど(それらはまとめて”手帳類”と呼ばれている)が古い木製の本棚に雑然と並べられていた。まるで、実家の自分の本棚に対峙しているかのような、一種の懐かしさまで感じてしまうような、そんな展示空間であった。

約200点ほどの手帳類が置かれている『手帳展』

約200点ほどの手帳類が置かれている『手帳展』

 

早速、それら手帳類を手に取ってみる。これは、所有者が行った美術展、演劇などのチケット・チラシおよびそれに関連する新聞記事を丁寧にスクラップしている手帳だ。ところどころに、スーパーで買った食材などをすべてメモしているページも。いわゆるメモ魔の手帳のようだ。筆跡からも、元の所有者の几帳面な性格がにじみ出ている。

 

こちらは、とある入院患者がつけていたと思われる5年手帳。手帳に付けられたピカレスクの方のコメントには「どのドキュメンタリーよりもリアル」との言葉が。手帳の中には「足が重い、むくむ」「風邪気味で寒気がした」「朝発作して救急車 入院する」などの言葉が残されている。2012年~2016年まで書き込むことができるこの手帳は、2012年12月23日の「メリークリスマスとベッドに書いて貼ってくれた 嬉しかった」という言葉で終わっていた。

 

これは、女子高校生の間で交わされていたであろう交換ノート。表紙のイラストからも、彼女たちの思春期ならではの生命力がびんびんと伝わってくる。ノートの中には、数学がまた再テストになったこと、バスから出てきた憧れの人を見かけたことなど、胸がきゅんとするような青春の日々が刻み込まれている。読んでいるだけで、会ったこともない彼女たちに何故だか無償に愛着が湧いてきてしまう。溢れんばかりの女子高生パワーがにじみ出るこの交換ノートを見つめながら「今頃この子たちはなにをしているのだろう」と少し切ない感情も芽生える。

 

「こちらは詩人の方が使っていたものです」とピカレスクの主宰・松岡詩美さんが手渡してくれたのは分厚い一冊のノート。料理、風景、カバンなどの切り抜きとともに、ぎっしりと詰め込まれた言葉達がページの中を躍っている。所狭しと書き込まれたこの言葉達のエネルギーは圧倒的だった。これらを読んでいると、この所有者であった詩人のなかで渦巻く感情に吸い込まれるような感覚に陥る。ノートのある1ページには「じぶんがだれだか わかりましたか、つたえましたか つたわりますか」「わたしがだれなのか みんなにちゃんとつたえられるようになりますように その前に自分が何者なのかわかりますように」と記されている。ノートの持ち主であった詩人の、痛々しいほどの伝えたいという感情に、胸を打たれる。

 

この『手帳展』は、手帳コレクターである志良堂正史のコレクションの一部をピカレスクが借りる形で行っている。かつて、「あまりにも手帳を集める活動が気味悪がられるので、コレクションを公開して手帳を見る奥深さを他の人にも知ってほしい」と考えた志良堂さんが、『手帳展』のディレクションをピカレスクの松岡さんに依頼したのがきっかけだったそう。

松岡さんは「手帳展を見た人は『面白い、いいね』と言ってくれる人と『気持ち悪い』と言う人の2つに分かれます」と語る。批判的な意見も湧きあがるこの『手帳展』を、それでも開催する意図はなんなのか。松岡さんは「人が普段どういうふうに考えて生きているのかということを知る上で、手帳類はすごく貴重な資料。それを展示するというのはすごくやってみたいなと思った」と語ってくれた。

ピカレスクの松岡詩美さん

ピカレスクの松岡詩美さん

 

BLOGやSNSなど、人の考えを発信し広めていくことが容易になった現代だが、人が考えを形成していくその過程を追体験することは難しい。しかしここで展示されている手帳類には、所有者の考えが形成されていくその過程が生々しく刻み込まれている。それは、ネット上に溢れるメッセージなどとは比べ物にならないほど、整理されていない雑然としたものだ。『手帳展』は、人がいかにぐるぐると複雑に思考し、悩み、感じている生き物であるかということを提示する。また同時に、そんな綺麗に片付かない人間という生物への憎めなさ、愛着をも感じさせてくれた。

今回ご紹介した手帳類はほんの一部。このほかも、筆者が手に取った限りで、高校生の数学ノート、デザイナーのスケッチブック、恋に悩む中年女性の手帳などが展示されていた。気になる方はぜひピカレスクに足を運び、手帳類の数々を手に取って観賞してみてはいかがだろうか。

 

 

イベント情報
手帳展

日時:2016年12月まで常設予定
会場:Picaresque
〒151-0053 東京都渋谷区代々木4-54-7
営業日時:​毎週火曜〜日曜 12:00〜19:00
定休日 毎週月曜、毎月13日
※月曜祝日の場合、12:00〜19:00営業、翌火曜休み
Picaresque公式サイト:http://gallerypicaresque.jimdo.com/
手帳類コレクター・志良堂正史 個人サイト:http://jimi.jp/
手帳類について:http://jimi.jp/collection/
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