『ニコニコ超会議2016』終了 会場から感じた「知識の先にある体験」
大盛況で終わったニコニコ超会議2016
4月29日、30日の二日間で15万人以上の来場者を迎えた「ニコニコ超会議2016」。ネット来場者は554万8000人を超え、もはや毎年春のビックイベントと言っても過言ではないだろう。
SPICEでは立ち上げ後初の超会議ということで、30日に参戦。会場の雰囲気を存分に体験させてもらった。
会場で思ったことはユーザーの多様差と出展側の楽しんでいる空気だった。学生のような若いユーザから、比較的年配のユーザー、コスプレイヤー、もっと言えばこういうイベントには参加しなさそうな所謂「硬そうな」人たちも多かった。さまざまな人が渦を巻くニコニコ超会議。僕は具体的にこのイベントをなんと言えばいいのか、その答えが今ひとつ見つからなかった。
アニメコンテンツのブースもゲームのブースも大きく出ているが、同時に各政党のブースも出展。政治家が演説をしたり、小沢一郎と一分間会話して写真が撮れたりもする。フードブースを出しているところもあれば、特撮ブースではミニチュアの町の中で撮影もできる。
小沢一郎と一分間話せるブースも
実際のミニチュアの中で写真を取ることも出来た
自衛隊が戦車を展示しつつ、歌ってみたや踊ってみたのステージに人は熱狂する。
自衛隊から、本物の戦車
ある意味おなじみ「メガ幸子」
あまりにも雑多、だからこそ自由、出展側が楽しそうに見えていたのはこの「自由」な部分なのだろう、他のイベントでは出来ない企画や展示がここならば可能、そしてそれを受けいれる懐の深いユーザーがいる。フランスで開催されている『JAPAN EXPO』は日本の伝統や文化を紹介したいという思いで開催されているが、もっとソリッドでエッジの立ったいい意味での「真剣にバカをやる」精神がここにある。
所謂これは日本だからこそ生まれた本気の文化祭なのだ。自分たちが面白いと思うものを全力で伝えて、オモシロイと思ったら全力で受け止めてくれる。ネットの発達とともに情報伝達が容易になったからこそ、生で触って体験することの感動がそこにある。
「超刀剣ブース」などはそのいい例で、「刀剣乱舞」などで日本刀が以前より身近になったという事実はあるが、実際に日本刀の重さ、製造工程などは知識としてあっても体験がない。
展示されていた真剣
超刀剣ブースは実際に火をおこし、玉鋼を熱し、打っていく工程をリアルタイムで説明を含め見せ続けた。キーーン!という鍛錬の音が響く度に小さなどよめきが起きる、それは知識ではなく、「体験」なのだ、地中を掘り進むライフライン製造ロボが動くところなんて見ることは日常では出来ない。知識をエンターテイメントとして体験する場所、それが超会議なのかもしれないと強く思った。
貴重な刀ができるまでの工程、実際手に持つことが出来た
しかし元々はユーザーが自由に投稿し、発信できる場として注目を浴びたニコニコ動画だが、企業の力がとても強くなったのは事実だ。それはある部分巨大コンテンツになった現在では仕方ないことなのかもしれないが、今以上に「とにかく何か発信したい」と思っているユーザーが、現場で発信できる要素がもっとフューチャーされて欲しい。という小さな願いもある。
そして今回の大きな目玉であった「超歌舞伎」。お遊びでもなんでも無く、江戸から大衆娯楽として楽しまれている歌舞伎が大真面目に初音ミクをゲストとして受け入れ、ニコニコ動画というコンテンツと向き合って作られたスペクタクルショーであった。座長を務めた中村獅童は歌舞伎界の異端児とも言われるが、彼ほど歌舞伎役者として若い世代に知られ、キャッチーに様々なことに挑戦していく歌舞伎役者も少ない。まさに今回の座組にうってつけの人材だったわけだが、何より驚いたのは会場、そして生放送での若者の歌舞伎に対する反応の良さ。
今回のビックイベントの一つ、超歌舞伎
事前の説明動画で「面白いと思ったら拍手し、声を掛けたくなったら大向う(掛け声)を掛けてください」と言っていた、それを素直に受けてユーザーや観客は「萬屋!」「初音屋!」と叫ぶ。そこにはバーチャルの初音ミクだから、伝統ある歌舞伎役者の獅童だからという区切りはない。良いと思ったものに思い切り声援を送るというこれもまた「体験」だ。
本気でネット文化と向き合った歌舞伎は熱狂で迎えられ、そのカッコよさ、面白さに初めて触れた若者は感動する、この体験を得た人たちがこれから歌舞伎座に通うのか?と言われたらそれはクエスチョンがつくかもしれないが、少なくとも抵抗は無くなっているはずだ。なぜなら「歌舞伎は面白い」という「体験」を得ているから。この最初のハードルを超えているかどうかという差はとてつもなく大きいと僕は思う。
しかし、歌舞伎といい、NHKといい、ある意味「古い」と言われていたコンテンツたちが積極的に今のネット文化や若者を理解しようとし、挑戦を続けていくのは印象的だ。ある意味中途半端に歴史があるコンテンツが過去にしがみついて先を見れなくなっている気もする、それは僕が感じただけの偏見だろうか?時代は変化している、守るべき者と取り入れるべきもの。その調和をきっちり取れるものこそが「文化」として根付いていくような感覚を覚えた。
来年の開催も発表されたニコニコ超会議、新たな想像と体験に出会う日が今から楽しみだ。
文=加東岳史
日時:2016年4月29日・30日
会場:幕張メッセ