SHE'S・井上竜馬インタビュー メジャーデビュー作の制作過程とバンドの強み、その音楽観に迫る
SHE'S・井上竜馬 Photo by Taiyo Kazama
6月8日、SHE’Sがメジャーデビューを果たす。彼らの鳴らす瑞々しさと立体感を感じさせるサウンド、スケールの大きなメロディとアレンジーー邦楽も洋楽も境なくエッセンスを取り込み消化したようにも聞こえるその音は、どのように生まれたのか。今やアンセムとなった「Un-science」という楽曲を超えるべく制作したという表題曲「Morning Glow」をはじめ、カップリングの2曲についても掘り下げながら、バンドの成り立ちや自らの思う”強み”、そしてこれからのことまで、メジャーのフィールドへの旅立ちというひとつの節目を前に、フロントマンの井上竜馬(Vo/Key/G)に訊いた。
――「Morning Glow」のリリース、そしてメジャーデビュー。おめでとうございます。
ありがとうございます!
――率直な感想としてはどうですか? ライヴで発表した際には感極まってましたが。
(笑) 。そうですね、あのときは......感極まってましたねぇ。もちろん、人がいっぱいきてくれて、渋谷QUATTROを埋めるっていう目標を達成できたこともそうですし、バンドを始めてすぐの頃から観に来てくれてるお客さんの顔も、ステージからしっかり見えたんですね。ちゃんとみんなで歩いてこれたんやなぁっていう感慨が、ちょっとグッときすぎて......泣いちゃいましたねぇ......(笑)。
――メジャーデビューする喜びよりも、それまでを振り返って思うことが大きかった。
振り返ってましたね。実際、メジャーデビューへの実感はあまり強くなくて。リリースしたらまた変わるんやろなとは思うんですけど。あのときはメジャーデビューを発表できた!っていうこと自体よりは、応援してくれてるみんなに、伝えたい相手に伝えられたっていう喜びがデカかったですね。
――なるほど。元々の志向としてはメジャーでやりたい気持ちは強かったんですか。
はい。ありましたね。メジャーのフィールドに立ちたいという想いはもちろんあったんですけど、いついつまでに焦ってメジャーに行きたいとかっていうわけではなく。ちゃんと地に足つけてやってこれたから、あそこで感極まれたのかなとは思います。
――そのデビュー作となるのが「Morning Glow」です。表題曲に関してはSHE'Sらしさの中に煌びやかな要素も感じました。
これまで通りの生ストリングスであったりとか、曲のダイナミクスとか、おおまかに曲としては今までのSHE'Sとかけ離れてはいないなと思ってて。アレンジに関してはデモで仕上げていったものをメンバーがそのまま弾いているのに近いので、込み入ったアレンジをすることもなく。
――僕はこれまでのSHE'Sの音楽から立体感を感じているんですけど、そこは今作でもそのまま。それでいて風通しの良さや突き抜けた印象を強く受けました。
それは僕も思いました。「Morning Glow」が完成して聴いたときは、なんというか……それまでの立体感が普通の映画だとしたら3D映画みたいな。そんな感覚はありました。
――デモを作っている段階では見えていなかった感覚ですか?
見えてなかったですね。多分レコーディングのチームが変わって、ああだこうだ話し合いながら作っていたので、そこでのエンジニアさんのアイデアだとか音の作り込み方が違ってて面白かったのはありましたし、その影響もあると思うし......なんか、作りたかった音源にすごい近いというか。全部が透明度が高くてクリアで、棲み分けもはっきりしてるから今まで以上に3D感が出せたんかなぁと思います。
――サウンド面でのテーマや狙いはあったんですか?
この曲に関してはあまりなくて。むしろこれまでの「SHE'S感」というか何となくの洋楽っぽさと、リズムはカッチリしつつスケールは大きくて明るくキャッチーにっていう、それだけを考えて作っていたので。
――まさにいま言ってもらったことがSHE’Sの音楽そのものですよね。
そんな気はしてます。
――一つ前の作品に「Un-science」っていう楽曲がありますけど、あの曲はすごく大きかったと思うんですよ。あの曲は間違いなくSHE'Sのフィールドを広げてくれたと同時に、超えなくてはならない壁にもなったんじゃないですか。
そう。そうでしたねぇ(苦笑)。もともと「Un-science」自体はメジャーデビューのタイミングで出すつもりやったというか、「メジャーデビューシングルとして、一発目この曲出したいっす」って言ってたんです。でもスタッフや会社の人たちと喋ってたら「いやいや、そんな若いのに曲を貯めるなんて、言語同断や」と(一同笑)。甘えるなみたいな。
――はいはい(笑)。
(メジャーデビュー前に)出せ出せ、みたいな雰囲気やったんで「......出しましょう!」って。そのときは行っちゃえ!みたいな勢いでしたけど、そのおかげで良い意味でのプレッシャーはありましたし、あの曲がないと多分、前のアルバムはアルバムとしての強度が無かったと思うんですよ。自分たちの中でわりと革新的な曲で......一定のリズムの中でいろんな楽器が入ってきて、みたいな部分は新しかったし、それでいてメロディはポップスよりというか、ポップにしようと思って書いた曲やったんで。あの新しさは、メジャーに行ってからじゃなくてあのタイミングで出せて良かったなと思います。
――そこから今作への方向性っていうものも「Un-science」があったからこそ出来たものと言えますよね。
そうですね。SHE'Sの顔にできて良かったと思います。SHE'Sといえば、っていう基軸にもなりましたし、そこから「Morning Glow」につながっていった。
SHE'S・井上竜馬 Photo by Taiyo Kazama
――「Morning Glow」のMVも拝見しましたけど、あれ良いですね。ロードムービーみたい。
確かに。車で。
――フィルムっぽい質感もそう。それに朝、夜明けに向かっていく感じが、メジャーのフィールドに向かっていくバンドの現況とシンクロしているなと。
曲の中に明確には「それぞれの朝焼け」っていう言葉を入れてなくて。でも伝えたいこと、俺たちにとっての朝焼け、あなたにとっての朝焼けは違うものであるっていうことを映像で補完できたっていうか。
――女の子とバンドは全然違うところにいますもんね。
そう、けど同じ朝を求めているというか。そういう部分を表現してくれたなぁと思って。
――カップリングについても訊きたいんですが、それぞれ色が出ていて、「日曜日の観覧車」はカラッとした、それこそジェイソン・ムラーズとかそっちの雰囲気も感じます。
あぁ~なるほど。大げさに言えばある種のバンドっぽくなさというか、ポップミュージックとして鳴る形を作りたいなと思ってました。
――そこに......ほとんどの曲で言えることなんですけど、服部くんがロック要素を足していくようなギターを弾いてて。これがまたいい感じにアメリカ南部みたいな。
そうっすよねぇ(笑)。面白いですよね、自分が最初思ってた方向には向かないんだけど、それがオイシイというか。それがSHE'Sだよなぁと。劇的に全員ルーツがまるで違う4人やからこそ、この面白さというか。「日曜日の観覧車」もイントロをピアノ主役にするつもりが、いつの間にかギター主役になってたり。どんな曲をやってもこういうSHE'Sならではの現象が起きるから、これが良いなと思います。
――その確信はいつ頃から得られましたか。
2枚目を作るときから確信してましたね。1枚目のときはそんなに深く考えてなかったんですけど、『WHERE IS SHE?』を作ったくらいからバンド内での制作がスムーズになったというか、僕がそこに気づけたから作りやすくなったのはありますね。みんなが変に空気を読み合うこともしなくなったし、ガツガツ作曲に関わるようになったから。それは確信したからできることなんやろなって思います。
――そこで生まれた個々のカラーとか、遊んでみたりする部分って、今や持ち味になってますよね。
そうですね。定着して。
――広瀬くんや木村くんも持ち味をグイグイ出してきます?
ベースは特別カラーを出してこないかな、エゴも全然ないですし。曲に沿っていこうという感じが強いかもしれないですね。ギターとドラムは結構自分のルーツがプレイに反映されているタイプなので。
――ですよね。プロフィール資料によると服部くんなんて、(好きなバンドが)キッス、ヴァン・ヘイレン。木村くんはニッケルバックにフーファイというアメリカのグランジで。
そうなんすよ、ゴリゴリしたドラムが。
――一方、曲に寄り添う広瀬くんは聴いてる音楽に揚げているのがダフト・パンクという、個性出ますね(笑)。
(笑)。それにあいつHIP-HOPから入ったんですよ、音楽が。だから元々聴いてる音楽ってやっぱり大きいと思いますね。
――そもそもこんな音楽的嗜好の違う4人はなぜ出会ったんですか?
出会い自体は地元のライヴハウスなんですけど、誘ったきっかけは雑食性。臣吾はなんでも好き嫌いなく聴くタイプやったんで、良さそうと思って誘ったし、キムに関しては、僕はそのときニッケルバックもフー・ファイターズも聴いてなくて、アメリカのポップパンク系、ニュー・ファウンド・グローリーとかフォール・アウト・ボーイみたいなのが好きだったんですけど、そこの趣味が被ったというか、「あの曲いいよな」みたいな話をよくしてたんで、一番にキムを誘ったんです。ギターは初期メンバーじゃなかったんで最後に入ったんですけど、元々知ってたし臣吾と中学の同級生やったから良いんじゃない?ってなって。
――一際聴いてきた音楽が違うのはそんな経緯もあって。
そうですね。全然違くて。でも高校の頃から彼のプレイは見てて知ってたので。そのときはSHAM SHADEとかギターの主張が強い曲をコピーしてたし、オリジナルの曲やっててもギターソロがめっちゃハードロックやなぁみたいな感じ。しかもそもそも持ってるギターがすごかったんですよね......キッスか誰かのモデルで、全身メタルのガラス張りみたいな(笑)。
――ははは!(笑)
すごい光がこう、ブワーってやつで。「うわあ、なんやアイツ」って思いながら(笑)。大丈夫かな?と思いつつSHE'Sに誘ったら全然違うギター持ってきたので安心しましたけど。
――あ、普通のも持ってたんですね。
ちゃんと考えてくれるタイプやった(笑)。
SHE'S・井上竜馬 Photo by Taiyo Kazama
――井上くんは最初ギターから入ったんですか?
そうですね。ピアノはレッスンだけやったんで、クラシックの。高校もずっとギターやベースを弾いてて、それで......ギター向いてないなぁと思って(苦笑)。僕は左利きなんですけど、ピアノって右手の方がよく動くじゃないですか。それに慣れてたら、ギターは左手の方が動くじゃないですか。全然弾けないんすよ。
――でも鍵盤もギターも経験したことはその後の曲作りの上でプラスだろうなと思うんです。
ほんまにその通りで、ギターで曲作るときもピアノで作るときもあって、各々で全然開き方が違うというか。アイデアも違うし。面白いなと思うし両方できてよかったなっていうのは思います。
――SHE'Sのサウンドの幅広さっていうのはそこからくる部分もあるのかもしれないですね。で、カップリングに話を戻すと、「日曜日の観覧車」はさっき言っていたバンドっぽくないポップさもありつつ、歌詞は案外ノスタルジーを感じさせます。
観覧車自体が、脳の記憶の仕組みと似てるなと思ったのがきっかけで。乗れる数も決まってるし、誰かが乗って回っていくと降りなきゃいけない人もいる。記憶も覚えられる数がきっと決まってて、増えると忘れていくものもあるしっていう。けど、記憶っていう大きな仕組みの中で、感情を伴ったものは何周か回っていくうちに思い出に変わっていくんじゃない?って思ってて。じゃあなんで何周もできるの?って言ったら、ふとした匂いとか言葉とか音楽とかで忘れかけてたものがふっと甦る場合があるんですよね。
――それによって降りない、と。
そう、降りない。サビではいつか降りていくんだろうなって言ってるんですけど、曲が進んでいくともう一周進んでいくよって、いつしかそれは思い出になって忘れないものになる。この音楽もそういうものになれば良いなとか。
――こういうセンチメンタルな歌詞をポップな曲にはめ込んだのは面白いですね。
今までは明るい曲に明るい歌詞っていうのをベタにやってきたんですけど、例えばこういう突き抜けて明るい曲に「彼女に振られた」て歌詞を書いても、実は面白いんじゃないかって。それは僕がバンドを始めるきっかけになったELLEGARDENがやってたことで。
――「Supernova」とかまさにそうですね。
そうです。でもそういえば自分はやったことない盲点やったなと思ってやってみました。
――もう一曲の「Time To Dive」、これも僕はすごく好きです。
マジっすか! ありがとうございます。
――ストレートな高揚感というか、アガるんですよね。
これはもう、2ビートはしないけどメロコアくらいの気持ちで作りました。これくらいのシンプルさというか真っ直ぐさが一曲ぐらいあっていいんじゃないかと。ライヴで映えそうやし。
――もともとエルレを好んで聴いていた井上くんからしたらこういう曲は作ってて楽しいんじゃないですか。
楽しいですね。気持ちも乗るし言葉も出てくる。<後悔しない選択なんてないよ>っていうワードも曲を作りながら自然に出てきた言葉やったし、きっと気持ちがアガって勝手に出てくる言葉にメロディが乗ってくるし、メロディに言葉も乗ってくるんやなぁって思いましたね。
――仰る通りライヴで聴きたくなる曲。
そうですよね、今までこういう曲は無かったんで。
――リリース後のツアーや夏フェスで聴けるのが楽しみです。
まず、フェス自体が初めてなんで......圧倒的に自分たちを知らない人が多い場で、どれだけアピールできるか、巻き込んだライヴをできるのかっていう、ライヴ自体への楽しみとかワクワクっていうのもありますし、今後の活動の中でまたワンマンツアーをできる時が来たときにも、もっと人も集めて密度の高いライヴができたらなっていうあたりが......一番リアルなやつですね。
――初のフェス出演っていうのが意外でしたけど、イメージはできてますか?
もう(出演が)決まってから毎日考えますね。フェスの光景とかをイメージトレーニングして......多分、無意識にめっちゃ楽しみにしてるんだと思います。イメトレとか言ってますけど、シンプルにめっちゃ楽しみ(笑)。だからそうやって楽しめるように持っていかないとなって思いますけど。
――フェスだと、バンドのダイジェスト版みたいな、自己紹介要素とフックのある曲を持っていかないといけない、みたいな考えもあると思うんですけど、そのあたり通常のライヴとはやっぱり違いますよね。
そうですね。また野外とかなるとさらに。多分、俺がお客さんやったら野外の暑い中でバラードなんか聴きたくないやろって思いますし、だったらバシバシやっていこうとか、そういう作り方はしますね。逆にアコギ持って歌う「Evergreen」とかは、もともと野外で登山しながら作った曲やし、(野外フェスに)合うやろなぁとか想像してます。
――最後に、メジャーデビューのタイミングなのであえて聞きますが、この先目指していくバンド像みたいなものは描いてますか?
ピアノロックバンドとはいいながら、ギターも持ちたいし、シンセ弾くだけの曲も作りたいしっていう枠にはまらない色々な曲を出していって、なおかつそういう自由度の高い曲をアレンジしてオーケストラとホールツアーしたいっていうのは、バンド始めた頃からの目標で。いつかやりたいと思ってます。
――そのあたりは4人で出す、いわゆるバンドサウンドだけにこだわらず、フレキシブルに考えられるバンドですよね。
そうですね、全然こだわることはなく。頭の中に描いた曲を表現しきることに重きを置いているというか。もちろんバンドなので、ある程度のところで歯止めは利かせますけど......でも一番は思い描く音楽が求めてるというか、あるべき姿に寄っていくことに力を尽くす感じですね。シンプルなアレンジが合う曲はシンプルで良いな、と思うし。
――とはいえ、結構スケールの大きいアレンジが似合うタイプの曲が出てきてしまう人じゃないですか? 井上くんは。
そうなんですよねぇ(笑)。だから最近ストリングスが欠かされへんようになってきて、マズいなぁとか思いながら(一同笑)。そこは持ち味にしつつ、全然違うタイプの曲も提示できるようにしていけたら良いなと思います。
撮影・インタビュー・文=風間大洋
SHE'S・井上竜馬 Photo by Taiyo Kazama
「Morning Glow」