パリの展示レポート:『ARAKI』荒木経惟の代表作に観るアラーキーの”写真人生50年”
Musée Guimet
ヨーロッパで最大の東洋美術館と言われる『ギメ東洋美術館』にて開催中の、写真展『ARAKI』に行ってきました。ARAKIとは、世界的にも有名な写真家アラーキーこと、荒木経惟氏のことです。
エッフェル塔から目と鼻の先にあるこの美術館入ってすぐの売り場には、日本語で丁寧にこんな注意書きが出迎えてくれました。
「展示作品の中には、青少年や初めて荒木の作品に接する方には刺激が強すぎるものが含まれています」との注意書きが。
そして、展示会場に入口には、おびただしい数の彼の写真集がずらりと陳列され、彼がいかにこれまで多くの作品を残しているか驚かされます。
今回のフランスでの展示では、荒木氏の1965年から2016年にわたる50年間の代表作を、時系列に紹介するものになっています。
一番最初に登場した巨大な作品は、花。
展示会のポスターにもなっている彼岸花を撮影したシリーズです。
興味深かったのは、この美術館が所蔵している古い日本の写真で造花を撮影したものと、荒木氏の花の写真を併設していた展示です。
その日本の古い写真を見た荒木氏が「これは生花じゃない、彼岸花だ!」といって驚いたというエピソードも紹介されていました。(資料になっていた写真は造花の白黒写真で、人の手によって色が塗られて花の色が再現されていた)
彼岸花の写真に続くのは、彼が奥様との新婚旅行を撮影した「センチメンタルな旅」。
そして、奥様が亡くなって棺桶の中に入っているときの亡骸写真もあり、まざまざと「死」を見せつけられます。
続いて、展示で大部分を占めていた「緊縛」シリーズ。
着物を着た艶かしい女性が陰部や胸をはだけ、畳の上や、和室の宙につられている写真が陳列されています。
フランスでは見慣れない着物の艶美な色と、日本人女性がもつ独特な肌の柔らかさ。日本で見る時に感じる生々しさよりも、アート要素が強まっているように感じました。そして身体を縛られている非日常さと、その写真の前でおもいっきり居眠りする美術館のフランス人警備員のコントラストがシュールでした。
東洋美術館だけあってか、「縛り」という日本独特の文化についても解説がなされていました。日本の15世紀頃に始まったアートであるという紹介で、 頭の上にちょんまげが結われた犯罪者と思われる男が、美しくもがんじがらめに縄でしばられ連行される 写真が掲示されていました。
展示会場のちょうど真ん中辺りで、荒木氏がこれまで行った撮影の記録ビデオが放送されていて、常に10人近くのフランス人が見入っていました。ビデオの中で忍者のように機敏に動いて撮影する荒木氏が、被写体に「イイネ〜」を連発したり 、はたまたピエロのような格好で歌ったりする姿に、フランス人来場者の押さえきれぬ笑い声が漏れていました。
後半は、写真に彼自身がペイントや文字を加えた作品。
今は亡き奥様がいると思われる空を毎日取り続けた作品。
そして、東京の墓を撮影した「東京墓情」へとつづきます。この作品の中心には、巨大な大仏が鎮座していました。
作品解説の中の荒木氏による「私は片足、墓場に足を突っ込んでいるようなものだ。あの世でどんな写真が撮れるかなぁ」というコメントがまた、彼の写真人生に一貫して感じられる「死」が、彼自身に迫っていることを感じさせます。
荒木氏の奥様、花、ネコ、女、日常、空、墓地……。「生」と「死」がぐるぐると駆け回る 写真家人生の50年を、写真を通して体験することができる、寂しさが揺さぶられる展示でした。
日時:4月13日(水)~9月5日(月)
会場:ギメ美術館@パリ
展示会オフィシャルサイト:http://www.guimet.fr/fr/accueil/33-francais/expositions/1273-araki