ジャズ・ピアニスト 山下洋輔が率いるビッグバンドが結成10周年の記念公演に豪華プログラム
Photos: Eiji Kikuchi
ジャズ・ピアニストの山下洋輔と、15名のミュージシャンによるスペシャル・ビッグバンドが、今年で結成10周年を迎える。今月28日に開催を控えるサントリーホール公演では、節目の年にふさわしいガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」と、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」をメインに据えた豪華なプログラムが予定されている。オープニングでは、山下の書き下ろし曲を、若手ジャズ作曲家の挾間美帆がアレンジした「Knockin’ Cats(ノッキン・キャッツ)」が世界初演奏されることでも話題になっている。そんな山下洋輔に本公演の魅力を伺った。
注目の新作は“扉を叩く猫“のイメージ。
若手実力派によるアレンジも要注目
――スペシャル・ビッグバンドの公演は2年に一度、今年で6回目の開催です。会場のサントリーホールはクラシック音楽の殿堂としておなじみの場所ですが、その魅力とは。
サントリーホールのように響きの豊かな空間で演奏できることを、管楽器奏者は特に喜びますね。僕自身も非常に相性がよく、多くの挑戦と経験を積ませてもらいました。
――公演のオープニングを飾る「Knockin’ Cats」は、アップテンポでノリがよく、宴の幕開けにふさわしいナンバーです。
猫が扉を叩く姿をイメージした約6~7分の楽曲で、ビッグバンドの15名を紹介するために作曲しました。最初に登場するのは、ハイノート・ヒッターとしておなじみのトランペット奏者、エリック宮城。彼は最初から派手にかましてくれることでしょう(笑)。
――この作品は、近年アメリカを拠点に活躍中のジャズ作曲家、挾間美帆がアレンジを務めているそうですね。
最初のコラボレーションは2008年でした。東京オペラシティで演奏した私の自作曲、ピアノ・コンチェルト第3番「エクスプローラー」のオーケストレーションを担当してもらったんです。当時の彼女は音大生でしたが、僕の細かい要望を完璧に音楽化してくれた。僕がそれまでに書いた全楽曲をコラージュして、ひとつの作品にまとめてくれたんです。以来、彼女には絶大な信頼を寄せています。
原曲にはない醍醐味が満載な2大名曲、ジャズならではの丁々発止に乞うご期待
Photos: Jimmy & Dena Katz
――このスペシャル・ビッグバンドの結成のきっかけになったのが、今回演奏するガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」だったと。
ジャズとクラシックを融合した作風で知られるアメリカ音楽の開祖、ガーシュウィンの最高傑作として名高い「ラプソディ~」は、オーケストラとの共演では何度も演奏したことがあったのですが、僕はかねがね、ジャズのビッグバンドでこの傑作を弾くことは“特別な”意味があると思っていました。それを実現するために結成したのが、このバンドなんです。ビッグバンド版で「ラプソディ~」を演奏する、原曲にはない醍醐味は数多いですが、その最たる例が、最後のカデンツァ・ソロだと思いますね。今回は、僕のピアノと、高橋信之介のドラムが激しくやり合います(笑)。
――今回のメインを飾るのは、ドヴォルザークの最も有名な作品のひとつ、交響曲第9番「新世界より」ですが。
「新世界より」をこのビッグバンドで演奏するのは2年ぶりです。前回と同じ松本治の編曲で全4楽章をお届けします。彼は、我々のバンドのトロンボーン奏者で、この楽曲と「ラプソディ~」では指揮者を務めるマルチな才能の持ち主。今回は、エリックのトランペットと、中川英二郎のトロンボーンが繰り広げる楽しい丁々発止や、第2楽章「家路」で、池田篤のアルトサックスが奏でるこの上なく美しいソロなど、日本ジャズ界きっての腕達者たちの饗宴を存分にお楽しみください!
取材・文:渡辺謙太郎(音楽ジャーナリスト)