After the Rain(そらる×まふまふ) 両国国技館のステージで見せたひとつの物語
After the Rain
After the Rain そらる×まふまふ 両国国技館2016 ~モーニンググロウ アフターグロウ~
2016.7.17 両国国技館
人智をもってしても、いまだに司ることが出来ないものだからこそ。人は“時”に対して特別な想いや、遥かなる幻想を抱かざるを得ないのかもしれない。
かねてより親交の深かった、そらるとまふまふがAfter the Rainとして過日に発表したアルバム『クロクレストストーリー』が、まさに“時間”をひとつのモチーフとした奥深い作品となっていたことは、音源リリース当時に当サイトで掲載された彼らへのインタビュー記事でも明らかにされていた通りだ。
そんなAfter the Rainのふたりが実際に生の歌を大観衆に聴かせるという超レアな場が、このたび両国の国技館にて7月16日と17日にわたり行われた『After the Rain 両国国技館2016~モーニンググロウ アフターグロウ~』と題されたライブである。
After the Rain
第一夜の最後に演奏されたという「桜花二月夜ト袖シグレ」を、第二夜の冒頭で敢えてまた歌ってみせるという粋な演出がなされる中で、After the Rainの供する魅惑的な時空間がここから拡がっていくことに。
そらるをイメージする青、まふまふをイメージする白のサイリウムを国技館の場内いっぱいに収容された観客たちがリズミカルに揺らせてみせた。「盲目少女とグリザイユ」は、ホラー映画のような世界観と劇的な早さでシーンが切り替わっていくため、CDで聴く限りライブで再現が不可能ではないかと思わせる超高難易度な楽曲だが、続く「生に縋りつく」と共に軽々と歌いこなしていった。その姿は圧巻の一言に尽きた。
そらる
ソロパートへ切り替わり、そらるが「待ちぼうけの彼方」と「天宿り」の二曲を歌唱。落ち着きのある声と伸びやかなロングトーン、深いビブラートで息をのむような空間を作り上げた。まふまふは「ベルセルク」と「ゴーストルール」を十八番であるハイトーンやシャウトを駆使しながら会場を煽り、鬼気迫る歌声を響かせた。
なお、ライブ中盤戦においては浴衣姿にお色直しをしたそらるとまふまふが、ミニ櫓に乗りメインステージからリアステージへと移動するという、ちょっとしたサプライズな一幕も。和風茶屋の店先にあるような、赤い毛氈の敷かれた縁台に腰掛け、まふまふの弾くアコギのみでふたりがしっとりと聴かせてくれた「いかないで」と「さえずり」の二曲は、日本の夏を感じさせてくれる情緒にあふれいたばかりでなく、そらるとまふまふの仲睦まじさを伝えてくれるものでもあった。
まふまふ
ちなみに、前述したメインステージ~リアステージへの移動、さらにその後またメインステージへと戻る際には移動式櫓タイプのプチステージがめいめいに用意されており、結果的にそらるとまふまふの二人は、大きな国技館の場内をぐるりと一周するかたちとなった。そして、このとき筆者の後方にいたファンの方たちが「ヤバい!凄い近付いて来るんだけど!!」「凄いよね。まさか、動くと思わなかった。楽しすぎ!」と感嘆の声をあげていたことも、ここに付記しておきたい。これだけの大きな空間であるからこそ、オーディエンスとの距離を縮めたいという彼らのホスピタリティが、この粋な演出からは感じ取れたのではなかろうか。と同時に、今回のライブでは国技館というスケール感のある空間を効果的に使う場面が用意されていたのも、注目すべき点だったといえよう。たとえば、前半戦での「生に縋りつく」や、後半での「戯曲とデフォルメ都市」で赤々とした火柱が高く燃え上がることにより、アグレッシヴな楽曲が彩られるというギミックが繰り出された場面では、リアルな“炎の熱さ”が観衆のテンションをより激しく煽ることに。
After the Rain
また、モータウンビートが心地よかった「ネバーエンディングリバーシ」では、そらるとまふまふの二人がリフトアップされる一幕もあり、ここでは何とそらるの高所恐怖症だということが判明。高いところで嬉々とハシャぐまふまふと、必死な表情で手すりにつかまっているそらるの姿(それでも、まふまふと比べそらるの方はリフトアップされている高さがかなり低めに抑えられていたのだが(笑))は、なかなか対照的だった。
かくして、これだけのさまざまな趣向が凝らされたライブの本編をしめくくったのは、アルバム『クロクレストストーリー』の中でも重要な役割を果たしていた楽曲「アイスリープウェル」にほかならない。壮大なドラマがそらるとまふまふの二人によって紡がれてゆく様は、やはりここでもひたすらに圧巻なものであったと言っていい。それでいて、アンコールでの「すーぱーぬこわーるど」と「すーぱーぬこになりたい」では、そらるとまふまふが猫耳をつけ楽しそうに歌う姿も垣間みられ、観衆がこれに対しても大きな嬌声をあげていたことは言うまでもないだろう。だが、それだけにライブの終わり間際でまふまふが口にし始めた以下の言葉には、ひとしおの重みを感じた人も少なくなかったはず。
そらる
まふまふ
「この2日間、こんな大舞台でやらせていただけたことを本当に感謝しております。自分の楽曲は死生観を描いたようなものが多いんですが、(中略)こうやって音楽活動を出来る時間も、息を吸っていられる時間も有限なんですよね。そのことにあらためて気付いた時はかなり衝撃でしたが、それでも僕は音楽を作ることを諦めずにここまでやって来ました。だからこそ、こんな風にたくさんの皆さんの前でやらせていただけることはとても嬉しいです。これからも、自分が自分である限り良い音楽を創っていきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します!」
これに対しそらるはというと、「話が重いんだよ! エへ、じゃねぇ(笑)。確かに彼(まふまふ)は人前が苦手だし、今回のライブの前も緊張してたし、恐くて仕方なかったみたいなんです。でも、こうして実際にやらせていただいた時には凄く楽しそうにしてくれていたんですよね。本当にやって良かったと思います。ありがとうごさいました。どうか、これからもAfter the Rainをよろしくお願いします!」。こんな二人のやりとりのあとに歌われた「セカイシックに少年少女」が、ことさらに解放感と高揚感に満ちた色彩で描かれたことは言うまでもなかろう。
いずれにしても、そらるとまふまふが共に「これからも」と未来に向けた言葉をここで発してくれた以上、我々としてはAfter the Rainの動向を今後もつぶさに追っていくしかあるまい。流れゆく時の狭間に刻まれたこの夏の夜の夢物語に、さらなる続きがあることを今はただ願っていたいと思う。
レポート・文=杉江由紀
After the Rain