福田転球×上田誠、エチュード芝居について語る

インタビュー
2016.9.1
(左から)上田誠、福田転球 [撮影]吉永美和子(このページすべて)

(左から)上田誠、福田転球 [撮影]吉永美和子(このページすべて)


「エチュードは、コメディをやるのに発達した方法じゃないかと思います」(上田)

ヨーロッパ企画の新作『来てけつかるべき新世界』に、「転球劇場」「マサ子の間男」の福田転球が登場する。転球劇場といえば、すべてエチュード(即興芝居)で作り上げたワンシチュエーション・コメディで、演劇界に衝撃を与えたコメディ劇団。ヨーロッパ企画代表の上田誠はそのやり方に刺激を受けて、俳優たちのエチュードを元に脚本を起こしていくという、現在の作劇スタイルを完成させるに至ったとも聞く。というわけでせっかくなので、今回の芝居の内容だけでなく、2人の出会いからエチュードで芝居を作ることの面白さまで、たっぷりと語っていただきました。

参照記事→自由研究付き! ヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』記者会見​


■「ヨーロッパのメンバーは受けが上手いから、エチュードが楽しい」(福田)

──お二人のファーストコンタクトはいつだったんですか?

上田 だいぶ以前に、大阪のTV局の番組でご一緒して、打ち上げでお話したのが初めてですね。「転球劇場の芝居ってどうやって作ってるんですか?」って聞いたら「いや、あれ台本ないよ」と言われて、ええっ?! って思ったんです。
福田 そう、うちは字(脚本に書き起こすこと)すら、一切してなかった。
上田 それを聞いてすごくビビって…その頃から稽古中にエチュードはしていたんですけど、字には僕らはしてますからねえ。それは未だに真似できないですね、やっぱり。
福田 いや、すぐできるよ(一同笑)。

──そもそも転球劇場さんは、なぜ台本のないスタイルになったんでしょう。

福田 僕は(劇団☆)新感線さんや、南河内万歳一座さんなどの先輩の舞台を観てきて「これにはかなわへんな」と思って。じゃあどういう世界でやったらいいかな? と考えた時に「蛍光灯一つで芝居ができたらいい」ということをうたったんです。でも台本なしにしたのは…何でなんですかね?(笑)単純に僕ら(劇団員)3人とも俳優で、作家や演出家がいなかった、それだけでしょうね。最初から「全編エチュードで台本なしで作りたい」と狙ったわけではなく、何かそれで上手くいった、みたいな感じやったと思います。

──それで上田さんが、全編エチュードで作り始めたのは?

上田 最初の頃は、僕が書いた脚本を(役者が)どう演じたらいいかわからへんから、結構頑張って演出しないといけなかったんです。でも今は多分、脚本書いたらある程度すぐできるんで、僕が演出をする時間が短くてもよくなったから、その分をエチュードに使うようになったという。だから脚本とエチュードの比重が、どんどん変わっていった感じですね。脚本を基点に稽古を始めなきゃいけないということではなくて、もう開き直って徒手空拳で稽古場に行って、その場その場で作っていくというのもアリなんだなって。
福田 でもそれって、よそから来た俳優は大変やね。
上田 そうなんです。だから本公演は、どこかでご一緒した人とすることが多いです。

──お二人が初めてご一緒した『昭和島ウォーカー』(2008年)は、ヨーロッパ企画さんのいつもの作り方とはちょっと違ってたんですか?

上田 外部でやる時は、ほんまに何もやってへんかったらやっぱり怒られるんで(笑)、半分ぐらいは脚本を書きます。稽古中にエチュードをやって、それを見ながら更新していくというやり方でした。
福田 みんな楽しそうにやってたもんなあ。受けが上手いんで楽しいんですよ、ヨーロッパとエチュードやると。ちょっとした細かいボケもワーッと、優しく拾ってくれるからすごくやりやすい。あとやっぱり、上ちゃん(上田)の世界が面白いんですよね。考えてることを理解したいと思うし、普段の話も面白い。僕正直人の会話であまり笑わないんですけど、上ちゃんとかヨーロッパのみんなは笑ってしまうんですよ。そういうのもあって、今も一緒にやれてるのがすごく楽しいです。
上田 僕も転球さんは、面白さが面白かった…って、何て言うんですか?(一同笑)たとえば面白い人と「面白っぽい人」がいるとしたら、結構面白っぽくてもバレなかったりするんですけど、転球さんは純粋に、オンリーワンというぐらい面白い先輩。でも「面白い」って、普通に大事なことだと思うんですよ。特にコメディをやる時って、その人の根っこの面白さって、だいぶ(作品にも)出てくるはずですから。

福田転球

福田転球

■「上手く行ってる/行ってないが、エチュードだと検証しやすい」(上田)

──エチュードで芝居を作ることの良さって、どこにあると思われますか?

上田 そうですねえ…転球さんはエチュード作る時って、どこ見てます?「OK」とか「これは違う」の判断って。
福田 僕らの時は、(エチュードが)止まったら「ちょっとちゃうかもな」って。そこからみんなで話し合って、流れを変えて稽古をするという感じでしたね。流れが止まるネタを拾うということは、あまりしなかったです。
上田 あ、そうですね。台本があると一応最後まで(話を)止めずに読めるんですけど、エチュードだと止まったり引っかかったりする。だから検証がしやすいですよね。上手く行ってるシーンと行ってないシーンが。
福田 すぐわかるよね。「乗る」「乗らへん」というのもありますし。そうやね、その見極めがわかりやすいんかな。
上田 僕らは割と流れとか、そういうものの面白さを大事にしてるから。エチュードでやるとやっぱり「上手く行ってへんシーンを無理くり頑張ってもなあ」みたいなことが、台詞をちゃんと決めてるお芝居より判断しやすいかもしれないです。

──逆に、これは困ったみたいなことは?

福田 僕らが一番あったのが、本番の舞台で、前日ウケたのと同じネタで行ったら、その日はウケへんからどんどん伸ばして、どんどん悪い方向に行ってしまうということ。台本があるとね、戻れるんですよ。
上田 あー、引き返せるポイントが。
福田 そう。あと自分がウケたいから、役から逸脱してしまう傾向もようありましたね。「それ、お前が楽しいだけやんけ!」っていう。それはやっぱり、良くなかったなあと。

──ヨーロッパさんはその点、脚本があるから逸脱はしにくい。

上田 でもですね、作家さんが机の前で「うーん」と悩んで、練り上げて書いた言葉のキレイさって、絶対エチュードでは出てこないんです…当たり前ですけど(笑)。エチュードで出てくる言葉ってすごく口なじみがいいけど、小説家が書くような凝った描写の台詞って、やっぱりエチュードでは作りようがない。その辺りを僕はサボっていたので、今後ちょっとはしていかなきゃなあと。
福田 僕は東京で外部の公演に出た時に「こんなにちゃんと台詞を覚えなあかんねや」ってなって(一同笑)。台詞をどう読んでいいかわからへん、台詞を覚えられへんて、俺俳優無理やって思いました(笑)。今でも「下手やなあ、本読むの」ってツッコまれますし、いかに転球劇場でサボってたかというのが、今出てますねえ。
上田 それはありますね。エチュードって「戯曲を演じる」ということとは別の作業ですから。別の作業って言ったらアレですけど(笑)。
福田 普通はありえへんのよ。普通はそこをやらんとあかんねん。
上田 ただ、少なくともコメディを作るには、やっぱりエチュードはいい方法だなあと思いますね。コメディの場合は、僕が普通に台詞を書いて役者に言ってもらうより、もっと役者の身体から直に出てくる言葉みたいなことを言ってもらう方がいいなあと思うので。だからやっぱり、コメディをやるのに発達した方法やと思うんです、僕らにとって。作家が書きたい世界を戯曲に託して、役者が体現するという劇じゃない。

──その逆の世界というか。

上田 作家が用意したフィールドの上で、役者が縦横無尽に、自由に動き回るって感じですかね? スポーツのように、フィールドとルールさえちゃんと作っておけば、どっちが勝っても負けても面白くなるんです。僕はそのルールを、ちゃんと作ればいいという。
福田 はー、なるほどねえ…しっかりしてんなあ(一同笑)。
上田 そういう意味では『来てけつかるべき新世界』は、関西弁でしゃべるということが、一個すごく大きなルール変更です。

上田誠

上田誠

■「お客さんをホロッとさせたら、ちょっと面白いかな」(福田)

──今回の舞台は新世界の串カツ屋という、ローカル色バリバリの場所というのも、ヨーロッパ企画のフィールドとしては異色ですよね。

上田 せっかく新世界を舞台にするなら、やっぱり「ならでは」なことをやりたかったんですけど、串カツ屋さんを舞台にするかどうかは、最初ちょっと迷ったんです。たとえばラーメン屋だったら、究極のスープができるまでとか修行時代の苦労とかのドラマがめちゃくちゃありそうですけど、串カツ屋ってそういう話があまり浮かばなくて(笑)。でも新世界といえば串カツ屋だから「話作れるかな?」と思いながらやってみたんですけど、結果的には正解でしたね。結構いろんなドラマが出てきてますよ。

──その中で、転球さんの果たす役割はなかなか大きそうですが。

上田 振りきれてもらうために、とにかく動いて欲しいと思っています。最初にこの芝居を作る時は、まず転球さんが「出て行け!」って言って、店からロボットを蹴り出す場面が浮かんだんです。
福田 ロボットを蹴る絵が見えたんや(笑)。
上田 しかもドローンのような複雑なものじゃなく、転球さんが蹴ってもビクともしなさそうなごっついロボット。僕はエチュードの時に、相性というか…「この人とこの人は上手くかみ合うなー」とか「この人にこれを合わせたら面白くなる」みたいなモノを見てるんですけど、それで言うと今回は「この人とこの機械の相性」に焦点を当てています。

──手塚治虫先生の『来るべき世界』のように、侵略者的なものと戦うみたいなイメージを勝手に思い浮かべてたのですが、そういう話ではない?

上田 いや、大阪のおっさんはやっぱり汗かいた方がいいから、ドローンとかとめちゃくちゃ戦う話にしようと思ったんですよ。でもエチュードをやっていくうちに、いろんな感じになりましたね。戦う話もあれば、ほだされる話もあるという。
福田 機械を相手にしたエチュードでも、最初は憎たらしいと思ってやってたのに、やっぱり愛着がわく方向に行っちゃってますからね。
上田 あそこ膨らませたいですよね、もうちょっと。
福田 うん、全面に押し出したいなあと。どうしても人情モノにはなるとは思うんで、ほなもうホロッとさせたろかと、お客さんを(笑)。「ホロッとしよったで! まさか!」っていうのを、ちょっとやりたいなあ。
上田 もう全編むちゃくちゃアホらしいシーンが続くんで、その中でそうなったら一番いいですよね。新世界に来たことがない人でも何かあの街の感じがわかる、面白い世界に見えたらいいなと思います。

──この舞台を観て新世界に行きたくなった人に、おすすめのポイントとかありますか?

福田 その辺の地面に何か広げて、いろいろ売ってる人ですかね? 先っぽのないインパクト(ドライブ)とか、片方だけの靴とか「誰が買うねん!」って思いますからね(笑)。
上田 お昼からお酒を呑んで酔っ払って歩いても絵になるというか、溶け込める街って結構めずらしいと思うんです。この前も新世界で昼間から呑んで、顔を赤らめながら帰りの電車に乗った時に「あ! 新世界を一歩出たら、普通に日の高いうちから呑んでた人に見えるんだ」と気づいて(一同笑)。
福田 そらそうや。だんだんだから、そっからみんな出ぇへんようになんねん(笑)。
上田 なのでもし行かれたら、昼呑みをカジュアルに楽しんでみてはいかがでしょう?

公演情報
ヨーロッパ企画第35回公演『来てけつかるべき新世界』
 
■日時・会場:
《栗東プレビュー公演》
2016年9月3日(土)  栗東芸術文化会館さきら 中ホール
《京都公演》 
2016年9月8日(木)~11日(日)  京都府立文化芸術会館
《東京公演》 
2016年9月16日(金)~25日(日)  本多劇場
《広島公演》 
2016年9月29日(木)  JMSアステールプラザ 中ホール
《福岡公演》 
2016年10月1日(土)・2日(日)  西鉄ホール
《大阪公演》 
2016年10月5日(水)~11日(火)  ABCホール
《四日市公演》 
2016年10月15日(土)  四日市市文化会館 第2ホール
《高知公演》 
2016年10月21日(金)  高知県立県民文化ホール グリーンホール
《横浜公演》 
2016年10月27日(木)~30日(日)  KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
《名古屋公演》 
2016年11月2日(水)  名古屋市東文化小劇場

 
■作・演出:上田誠
■音楽:キセル
■出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力/金丸慎太郎、藤谷理子、福田転球(転球劇場)
■公演特設サイト:http://www.europe-kikaku.com/projects/e35/

 
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