『ドラゴンクエスト ライブスペクタクルツアー』が灯した光

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2016.9.10
© ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

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『ドラゴンクエスト ライブスペクタクルツアー』
2016年8月31日 (水)横浜アリーナ

ミュージカルでもなく、サーカスでもない現代の世界最高峰の超大型エンターテインメント・アリーナショー『ドラゴンクエスト ライブスペクタクルツアー』がこの夏、日本列島を沸かせた。

言わずもがな『ドラゴンクエスト』はRPGを代表する日本生まれの作品だ。その誕生から30周年を迎えた今年、1988年に社会現象まで巻き起こしたシリーズ第3作『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』をベースに創られたショーが『ドラゴンクエスト ライブスペクタクルツアー』である。

埼玉、福岡、名古屋、大阪での公演を経たこのショーは、8月31日、横浜アリーナにて千秋楽を迎えた。その日の模様も交えながら、このショーが残したものを今一度振り返えってみよう。

■ステージ

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会場に入って目に飛び込んできたのは、これまで観たこともない形状をした巨大な可動式ステージだ。360度から楽しめるというその斬新さに度肝を抜かれた。これは、北京オリンピックや世界的人気ミュージシャンの舞台装置を手がけるレイ・ウィンクラー氏(Stufish Entertainment Architects)によるもの。

シーン毎に“動く”もとい“浮かぶ”可動式のステージは、勇者たちの動きに合わせて完璧なる変化を自然にもたらす何とも不思議な代物。さらに、可動式の特殊な天吊りのスクリーンとビデオマッピング技術により、客席のどこから観ても立体的に、そしてキャストをより躍動的に魅せ、まさに360度から楽しめる細部まで計算し尽くされたこれらの舞台装置と映像は、壮大な物語であるドラゴンクエストの世界を現実に描き出すことに見事成功していた。

■キャラクター&キャスト

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冒頭でも触れたが、このショーのベースは『ドラゴンクエストⅢ』。しかし、テリー、アリーナ、パノン、ヤンガスが他の物語から迷い込んで来たキャラクターという設定もあり、勇者はそのままに時空を超えたオリジナルの物語なので、『ドラゴンクエスト』ファンは歴史を辿りながら思いを巡らせることができただろうし、作品に詳しくない人でも十分に楽しむことができたはずだ。

そして、空を飛び、ステージ上と客席までアリーナを走り回るキャストには、松浦 司、風間俊介、中川翔子、田中 精、田尻茂一、芋洗坂係長、我善導、そして高橋洋子といった豪華な面々が据えられた。それにも関わらず、ショーの中ではキャストらの芸名を紹介せずに、キャラクターとして終わらせ、夢を壊すことなく『ドラゴンクエスト』の世界を守る演出に好感を抱いた人も多いことだろう。

■サウンド

このショーにおける大きな魅力がサウンドだ。バトルでの音響効果から起こす地鳴り。この実際に振動を感じさせながら、迫力ある映像とサウンドで観せる演出は圧巻だった。

それに加え、武器がぶつかり合う金属音や攻撃音、呪文、敵を倒す時に流れるクリア音などの巧妙に創られたサウンドがゲーム同様に所々で効果的に使用されていたことで、ゲーム世界とリアリティとが見事に融合し、スペクタクルな世界が繰り広げられた。特に、クリア音は馴染みが深すぎて、聴くと安心するし、敵を倒した達成感をキャストと一緒に感じることができた。こうした演出が客席を大いに沸かせていた。

物心が付いた頃に『ドラゴンクエスト』が誕生し、社会現象となった1988年を経験しながらも、現在はゲームから離れて久しい筆者の場合においても、すぎやまこういち氏作曲の楽曲と懐かしいサウンドが夢中でプレイしていた子ども時代へと瞬時に時間を巻き戻してくれたことを付け加えておこう。

余談だが、ショーを鑑賞した翌日、東横線渋谷駅にて「序曲」の発車メロディーを耳にし、即時に頭の中では『ドラゴンクエスト』の世界が広がって、ショーの余韻に浸ることができた。やはり音楽とは、脳内に記憶された特定の世界や思い出の場所に一瞬にして連れて行ってくれるものだと改めて認識する出来事だった。

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■サプライズ

公演終了間際には、千秋楽らしいサプライズがあった。『ドラゴンクエスト』の生みの親である堀井雄二氏が登場したのだ。

「30年前に、まさかこんな素晴らしい舞台になるとは思いませんでした。スタッフの皆さん、キャストの皆さん、そしてファンの皆さん。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」

こう語った後で、30周年にちなんで30個のサインボールを用意して客席に投げ入れ、最後は堀井氏を真ん中に、キャストが一列に並んで全方位のオーディエンスに挨拶、後方では演出の金谷かほり氏も客席に深々とお辞儀をしていた。

■ストーリー&メッセージ

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「勇者は、あなただ。」
このフレーズの通り、勇者やキャラクター、そして会場にいる全員で魔王を倒すという、まるで自分が参加しているような感覚を得られる参加型ショー。そしてキーワードは“名前”。

「自分の名前を忘れるな。苦しい時には思い出せ、お前にその名を与えた者がいる。お前はけして一人ではない。いつ、どんな時でもだ」

こうした直接的なメッセージに加え、勇者に力を貸して魔王を倒すために、ステージ上の勇者に向けてオーディエンスが腕に付けた光を一斉にかざすのだが、コンピューター制御されたその光の粒は会場内を美しく、幻想の色々に染め、ストーリーを盛り上げる効果となっていた。

光とは、皆が持つものであり、勇者の証。この設定も素晴らしいが、客席の子どもたちの真剣な眼差しと、大人たちもしっかりと手をかかげている姿からは改めて『ドラゴンクエスト』という作品が世代を繋ぐものとして多くの人々に愛されていることを証明するシーンだったと言えよう。

このショーは、世界最高峰の技巧が駆使された正真正銘のエンターテインメントであると同時に、『ドラゴンクエスト』の持つ最大の魅力である“勇気”“挑戦”“友情”“チームワーク”“勝利”“敗北”“達成感”といった、人として成り立つために得ておきたいポジティブな感情や動作がすべて描かれているメッセージ性を持った作品であった。堀井雄二氏がよく仰っている「人生はRPG」という言葉をキャストが体現し、その言葉の通り、人生の要素を日本が誇るゲームがベースとなったエンターテインメントショーで学ぶことは大変ユニークであり、新しいエンタメ時代の幕開けとも受け止められた。

また、地元のキッズダンサーたちと、全日本マーチングコンテストや全日本吹奏楽コンクール、マーチングバンド全国大会に出場する7校のマーチングバンドのメンバーが起用されていた点もまた、オーディエンスにとって親近感をもてたことだろう。憧れを手に入る距離がそんなに遠くはないと子どもたちが受け止めてくれたらいい。

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■子どもたちの反応

まもなく2歳になる息子は、普段から走り回っているタイプ。しかし、2時間に及ぶショーの最初から最後まで、休憩時間以外は走り回ることもなく、食い入るようにステージと最寄りの照明さんを見つめていた。ストーリーなどがわからなくても驚きや感動は大いにあった様子だった。

また、ショー中、色とりどりに変わる勇者の証を手にして「キレイ! キレイ!」と連発していた彼は、終演後、そのアイテムの返却を断固拒否して号泣するモンスターと化した。係員の優しいお姉さんを困らせてしまったが、よほど気に入ったのだろう。

同行した『ドラゴンクエスト』大好きの小学三年生男子T君は、すごくリアルで面白かったそうだ。「古いキャラも沢山出て来て楽しかったし、ゲームファンとして期待通りだった!」と語ってくれた。

片やT君と同級生の、『ドラゴンクエスト』にはまだ馴染みのないK君は、「ショーがすごく面白かったから、あんまり知らないけど楽しく観られた!」とのこと。「音、キャラの動き、ダンスが面白かったし、ゲームをやってみたくなった」これはまさに原点回帰。だからエンターテインメントは面白い。

今作のように、子どもと大人、そのどちらもが本気で楽しめるショーは実はあまりない。今夏、不朽の名作『ドラゴンクエスト』は最新映像テクノロジー、スペシャル・エフェクト、そしてパフォーマンスによって世界最高峰のライブスペクタクルショーとなって多くの人の心に光を灯し、新たなショービズの世界を切り開いた。何度も言うが、心を育てる作品として、日本の、いや世界中の子どもたちにぜひ体感して欲しいショーだ。次回に続くことを期待する。

取材・文=早乙女‘dorami’ゆうこ

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