流山児★事務所『OKINAWA1972』~裏社会から沖縄の歴史を炙り出す痛快アクション活劇

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レポート
2016.9.19
流山児★事務所『OKINAWA1972』

流山児★事務所『OKINAWA1972』


9月16日、米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐって福岡高裁が翁長沖縄県知事の対応を違法だとする判決を下した。これに対して翁長知事は「地方自治制度を軽視し、県民の気持ちを踏みにじるもの」と批判した。そんなニュースを目にしながら、同じ日、Space早稲田という地下小劇場に流山児★事務所『OKINAWA1972』を観に行った(10月2日まで上演中)。

沖縄の問題について見解を述べることは本当に難しい。もちろん「難しい」といって済むことではない。沖縄の長きに渡る色々な犠牲の上に今の日本があることを思えば、その難しさには真摯に謙虚に向き合うべきだろう。だが、それにしては我々は色々なことを知らなさすぎる。無知から謙虚さは生まれてこない。だから、私たちはもっと貪欲に沖縄を知る必要がある。それも、様々な切り口から沖縄でこれまで何があったのか知識を得ることが大事だ。『OKINAWA1972』を観ながら、改めてそう思った。

流山児★事務所『OKINAWA1972』

流山児★事務所『OKINAWA1972』

『OKINAWA1972』の作・演出を手掛けたのは、風琴工房を主宰する詩森ろばである。社会的テーマを積極的に扱い、緻密な取材をもとにエッジの立った作品に仕上げることを得意とする彼女が今回描いたのは、タイトルがズバリ示すとおり、1972年の沖縄だ。日本の敗戦以来アメリカの統治下にあった沖縄は、1972年5月に日本に返還された。その年の沖縄に……というか、その年の沖縄の歴史の皮をひとめくりして、「裏社会」の動きにスポットライトを当てたのが今回の作品である。

主人公は日島亨という若者。米軍軍属のフィリッピン人が沖縄女性をレイプした末にこの世に生を得た混血児である。彼が暴力団の一員となり、親分の意を受けて敵対する組織のボスを殺害するまでが綴られる。これは沖縄で実際に起きた事件である。日島亨にも日島稔という実在のモデルがいる。過去にも日島稔を扱った小説『海燕ジョーの奇跡』(佐木隆三)があり、これは映画にもなった。

流山児★事務所『OKINAWA1972』

流山児★事務所『OKINAWA1972』

そもそも沖縄に裏社会は存在しなかった。しかし戦後、米軍の施政下に置かれたことがきっかけとなって複数の暴力団組織が生まれる。彼らはやがて分裂し抗争を繰り返すが、本土復帰によって新たな局面を迎える。本土から巨大暴力団が渡ってくる動きに対して一度は大同団結して「沖縄を守ろう」となった。が、事態は一筋縄には行かなかった。その末に日島の事件が勃発し、それがさらなる熾烈な報復合戦を招く。

一方、佐藤栄作総理大臣の日本政府は、米国からの沖縄返還にあたりニクソン側から「有事における核持ち込み」という、我が国にとって認めがたい条件を付きつけられていた。佐藤は当初それをのらりくらりとかわしながらも、やがて返還のために「密約」という形で吞まざるを得なくなる。

これら現代史の裏側で進行した二つの史実を、詩森はフィクションとして、並行的に、小気味よく描き出した。

流山児★事務所『OKINAWA1972』

流山児★事務所『OKINAWA1972』

開演して数分もたたぬうちに、ヤクザ同士の激闘が狭苦しい舞台上で「ワー」「トリャー」と派手派手しく繰り広げられる。しかも、そこに荒々しくビートの効いたロックがかぶさるのが気持ちいい。この芝居には、そういう危険な高揚感あふれる乱闘場面が随所に登場する。これぞ流山児★事務所の真骨頂である。流山児祥の率いる流山児★事務所、その前身は1970年代に小劇場界きっての武闘派として知られた「演劇団」だ。気に入らない演劇人は殴る、気に入らない劇団の興行には殴り込みをかける、有り体にいえばそんな劇団だった。そうした悪党気質が底流にある劇団なればこそ、ヤクザの抗争シーンはまさに水を得た魚なのだ。

詩森は今回の題材をかねてより温めていたそうだが、自分の劇団ではできずにいた。「いつやるか?」…そんなところに流山児★事務所から話が来て、すかさず「いまでしょ」と思った。「伸び伸びと書き、暴れたいだけ暴れて演出しました」と当日パンフに書かれている。

流山児★事務所『OKINAWA1972』

流山児★事務所『OKINAWA1972』

個々の俳優が役にうまくハマっている。日島役の五島三四郎、友人のチンピラをチャラく演じる眞藤ヒロシ、また「昇龍会」大親分・国仲役の新納敏正をはじめ、「那覇派」比嘉役の杉木隆幸、「山原派」知念役の甲津拓平、「昇龍会」から追放される金城役の栗原茂、その側近・新垣役の東谷英人ら各々が個性色濃く演じている。皆、面構えが実にリアルなのである。また、知念の妻・伊藤弘子、比嘉が贔屓にするクラブのホステス役・佐原由美荒木理恵も堂に入ってる。村松恭子が演じる日島の母親は、沖縄の悲哀を背負った人間味を健気に醸し出す好演。

さて、本来ならばヤクザのボスあたりを演じていそうな流山児祥は、といえば、これがなんと佐藤栄作首相を演じているのである。それ自体が一種の異化効果として面白いのだが、佐藤の、のらりくらりとした優柔不断、かと思うと突然激昂するような本質的な部分をしっかり押さえた演技は「これぞ日本国の総理」といった感を漂わせて絶妙だ。流山児によると「長州人というのはあんな感じなんだ。安部もそうだ」とのことである。そして、この首相と、酒巻誉洋の演じる外交密使との黒い密談シーンが(アメリカ側の思惑も含めて)、猥雑でエネルギッシュな沖縄のシーンと比べて、不気味かつ根源的な悪さを漂わす。そして、この密談シーンと沖縄のドラマを並行的に描くことで、良きコントラストが形成され、物語的にもダレが生じることなく引き締まりを見せるのだった。

流山児★事務所『OKINAWA1972』

流山児★事務所『OKINAWA1972』

流山児★事務所『OKINAWA1972』

流山児★事務所『OKINAWA1972』

このように劇自体が優れたエンタテインメントとして提示されることによって、観客はその世界に引き寄せられ、これまで知る機会の少なかった歴史の裏側を肌身で感じとることができる。しかも、それがSpace早稲田という総キャパ百人にも満たない小空間なのだから、登場人物たちの息吹や体温が直に伝わってくる。この観劇によって筆者も、沖縄のあまり知られざる戦後史に興味を掻き立てられた。劇団スタッフの方からは『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』(佐野眞一・著/集英社文庫)を読むことを勧められた。こうした経験を積むのと積まないのとでは(つまり、歴史の裏側をまさぐらないことには)先に述べた沖縄問題の難しさへの向き合いも自ずと違ってくると思われる。

そして、この手の芝居、観客の年齢層がやはり高い。若い層にリアルな興味が湧かないのはわかる。佐藤栄作と聞いて「佐藤B作なら知ってるけど……」と答える若者も多い昨今である。しかし、現在進行形の沖縄の問題は根っこの部分から、とりわけ若い人々にこそ共有して欲しい。豊洲新市場の地下空間に誰かが入ってくれたおかげで、都政の闇がわかった。同様に、Space早稲田の怪しげな地下空間にもぐり芝居を観ることで、沖縄問題の歴史的な真相=深層に触れることができるかもしれないのだ。

 
公演情報
Space早稲田フェスティバル オープニング企画
流山児★事務所『OKINAWA1972』

 
■日程:2016年9月15日(木)~10月2日(日)
■会場:Space早稲田
■作・演出: 詩森ろば(風琴工房)
■出演: 
伊藤弘子
栗原茂
甲津拓平
荒木理恵
五島三四郎
佐原由美

 
新納敏正(今井事務所)
村松恭子(ワンダー・プロ)
眞藤ヒロシ(フレンドスリー)
杉木隆幸(ECHOES)
酒巻誉洋(フォセット・コンシェルジュ)
東谷英人(DULL-COLORED POP)

 
芦塚諒洋
江口翔平(劇団studio life)
岡野優介(クロムモリブデン)
佐々木恭平

 
流山児祥
 
■公式サイト:http://www.ryuzanji.com/

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