梅田より速報!劇団天華・澤村千夜座長の「鷺娘」とは?(大衆演劇の入り口から・番外編)
劇団天華群舞(2016/10/1)
澤村千夜座長(2016/10/2)
大都会の芝居小屋
大衆演劇の専門劇場というと、地元に密着した商店街の中や、比較的小さな駅近くの立地が多いが……大阪・梅田呉服座は例外。この劇場は都会ど真ん中、梅田駅そばの「プラザ梅田ビル」の中にある。
プラザ梅田ビル入口
エレベーターで5Fを押す。ドアが開くと――目の前に出現するのは、まるでタイムスリップしたかのような芝居小屋!
梅田呉服座内観
梅田呉服座内観
場所柄か、オシャレをしたお客さんが多い。18:00からの夜の部には仕事帰りの会社員の姿も目立ち、大衆演劇場の中でも、独特のシャープな熱気と疾走感を感じる劇場だ。247名の座席数や充実した舞台設備からも、一流劇場の一つとして数えられる。
さて10月公演を担う劇団は梅田初乗り!澤村千夜座長率いる「劇団天華」。10/21(金)・22(土)・23(日)には千夜座長のお誕生日公演というビッグイベントも控えている。梅田公演にかける思いを伺うべく、10/2(日)の終演後、千夜座長にお話を聞かせていただいた。お疲れのところ、快く引き受けて下さった。
いつも以上の気合いをこめて
――今日(10/2)のお芝居『峠の残雪』、気合い入ってらっしゃいましたね!
澤村千夜座長(以下、千) 今日は思いっきりやりました(笑) 普段から全力ですが、今日は特に120%、130%の力で…
――千夜座長はもちろん、座員さんも皆さん張り切ってるように見えました。
千 みんな、気合い入ってたね。
――非常にシリアスなお芝居ですが、2日目という早い時期に持ってきたんですね。
千 どうしようか迷ったんですけどね…自分の自信のあるのを最初に持ってきたほうがいいかなって。梅田呉服座の舞台に飲まれそうな気がしたんで…。案の定、初日はやっぱり緊張したところがあって。だから今日は、自信のあるものにして正解やったかなと思ったんですけどね。
芝居『峠の残雪』の一場面。舞台に横幅があるので美しさが映える。(2016/10/2) ※芝居も劇団・劇場の許可を得て撮影しています
――舞台に横幅があるからでしょうか。芝居の光景がすごく美しく見えますね。
千 うん、良い劇場だと思います。棟梁さんもしっかりしてはるし、大道具もけっこう充実してる。それと何よりね、お客さんからすごく観やすい劇場だと思うんです。どこから観ても絶対観やすい。
梅田呉服座の客席。かなりの勾配があり、どこに座っても視界が遮られない。
――2日目の時点では劇団のファンの方が多いですか?
千 劇団のファンと、梅田に付いてるお客さん。付いてると言うか、たまにお芝居観に梅田に行こうかっていう感じのお客さんですね。
――初めてのお客さんにも行きやすい劇場だと思います。劇団天華が初めて、あるいは大衆演劇自体も完全に初めてっていうお客さんもいらっしゃいます?
千 いるいる、いっぱい。ただ、初めての人には場所がわかりにくいっちゃわかりにくい。駅から近いとはいえ、慣れるまでは…。今日初めて来たっていうお客さんもいたんやけど、駅から来るのにやっぱり迷ったって。もうちょっとわかりやすい目印とかあればな、とは思う。
※スマホ片手に梅田呉服座へ行かれる方は、記事の一番下にgoogleマップへのリンクを貼っているので、ぜひご利用ください!
お誕生日公演 『雪之丞変化』の挑戦
――10/21(金)・10/22(土)・10/23(日)は千夜座長のお誕生日公演ですね。去年に引き続き、3日間連続でされるとのことですが…。
千 3日やるね~。ほんとにネタに苦しんでますけどね(笑)
――3日間やるメリットって、やっぱりお客さんが入ることですか?
千 まずね、公演の1ヶ月間、何かしらのイベントを打たないといけない。できれば1ヶ月全部イベントやりたいんですけど、なかなかそうもいかないし。で、3日間やるほうがお客さんは来てくれるやろし。その分、しんどいけどね。当然、いつもやってるものじゃあかんやろし…芝居やるにしても、ショーやるにしても。
――3日間の内容がとても気になります。まず芝居について、3日間のうち1日は『雪之丞変化』(※)と伺いました。
※『雪之丞変化』…女形役者・雪之丞と義賊・闇太郎の2役を、主演役者が早変わりで演じる。これまで数多くの映画・芝居の題材になっている。大衆演劇でも、複数の劇団で芝居・また舞踊ショーとして演じられている。
千 とりあえずね、早変わりがしたいっていうのがあったのと、男と女の使い分けの芝居がしたかったんですよ。
――他にも早変わりの芝居をいくつかされてると思いますが、それをやってるうちにっていうことでしょうか。
千 なんかこう…自分の中で、役者として何が秀でてるのかなーって考えたときに、そんなガタイがいいわけでもないし、さほど立ち回りがうまいっていうわけでもなく、長台詞をめちゃくちゃ覚えられるわけでもなく。で、まぁ、なんとなしに、自分としては男と女でこんだけ使い分けられて、ここでは勝てるかなぁ…みたいな。自分の良さを強調したいなあっていう。昔から、神龍(澤村神龍副座長)と俺で入れ替わったりはしてたんですけど、両方俺の役でやりたいなぁって思ってはいたんです。そういうのもあって男と女と入れ替わりでやりたいなぁって。
澤村千夜座長立ち・女形。鋭い男と、たおやかな女のギャップが印象的だ。(ともに2016/10/1)
千 今回『雪之丞変化』でやりたいのは、雪之丞と闇太郎のセリフを自分一人で喋るっていうことです。たいていの舞台では、雪之丞と闇太郎が一緒にいる場面があると、雪之丞を主演の役者さん本人がやってるならば、闇太郎は後ろ向いて喋らない。それか、本人じゃなくて違う役者さんが喋る。それを、俺一人で両方を喋りたい。
――えっと、つまり…?
千 たとえば俺が雪之丞の格好してるとすると、雪之丞のセリフは前向いて喋って、闇太郎のセリフは後ろ向いて喋る。闇太郎の演技は、影武者に身振りそぶりしてもらって。
――声を瞬時に切り替えないといけないですね。
千 稽古はまだこれからです。台本がなんとなくできた感じかな。
「3日間、全編に渡って『鷺娘』が絡んでるんです」
千 芝居は一日が『雪之丞変化』で、もう一日は思いっきり大衆演劇っぽいのやろうかなと。あとの一日は、オリジナルの新作芝居を。
――本当ですか!オリジナルをやるっていうことは、記事に書いてもいいですか?
千 大丈夫ですよ~。オリジナルの内容明かしても全然いいですし。
――ぜひ明かしてください!
千 『鷺娘』(※)を題材にしたお芝居です。
※『鷺娘』…歌舞伎・日本舞踊の作品の一つ。雪景色の中、鷺の化身である娘が様々な恋心を踊りで表現する。
千 鷺娘を得意とする女形の役者さんがおって。旦那さん、つまり男のご贔屓ができたんやけど、その人の女房さんが足が不自由で。昔って男が男の役者さんに惚れるとかよくあったんで、女房さんが役者さんにやきもち焼くんです。で、『お前も私みたいに足を不自由にしてやる』って思って、目を離した隙にその役者さんに薬飲まして、そういう目に遭わせる。それで役者さんは舞台に立てなくなって…っていう話です。
――めちゃめちゃ気になってきました…!
千 『鷺娘』って、結果叶わぬ恋で死んでいく話なんです。それにちなんだ部分も出てきたりします。でもそんなにね、大衆演劇的に、おお~っと盛り上がる話ではないかな…。しんみりとしてて。
――そうですね。今聞いてて思ったのが、あまり大衆演劇っぽくないなって。
千 うん。なんか、新派っぽい…。
――だから、よけいに面白そうですね。
千 今回はね、この芝居だけじゃなくて、全編に渡って鷺娘が絡んでるんですよね。3日間あるでしょ。1日は舞踊ショーのラストフィナーレで『鷺娘』をします。で、1日は芝居の『雪之丞変化』の最後に、ちょこっと鷺娘のさわりを踊る。もう1日は、今話した『鷺娘』っていうお芝居をする。
――何がきっかけでそうなったんですか?
千 たまたまです。まず『鷺娘』をしようと思っていて、それから『雪之丞変化』もしようと思って、大川橋蔵さんとかタッキー(滝沢秀明)の『雪之丞変化』を観たんです。そしたら、その中でも『鷺娘』をちょこっと踊ってたんですよ。『雪之丞変化』の“雪”と『鷺娘』の“鷺”をかけてるんかなぁって。それはわかんないんですけど。
――3日間のうち、どの芝居をどの日に置くかはまだ決まってないんですよね?
千 決まってないですね。
――それは楽しみですね。ラストショーのほうはいかがでしょうか?
千 1日はさっき言った『鷺娘』のショー。で、もう1日は『堕天使ルシファー』。あと1日は『スーパー西遊記2』と題して、今やってるラストショー『スーパー西遊記』に龍を出します。今は変面を俺一人でやってるけど、これを神龍と二人でやります。俺が悪役をやって、神龍が孫悟空をやる。
ラストショー『スーパー西遊記』(2016/10/2)
――神龍さんが、これから変面の稽古で大変ですね。
千 まあでも、器用やからいけると思うけどね。できれば宙づりするなら筋斗雲作って、神龍を筋斗雲で飛ばそうかなーって思っとるんやけど。
澤村神龍副座長。お誕生日公演のどこかで、副座長の変面が見られるはずだ。(2016/10/1)
古典の“大衆演劇版”を
――今『スーパー西遊記』でやってらっしゃる変面は、誰からの伝授なんですか?音楽も衣装も変わってますね。
千 あれは、中国の京劇の人から教えてもらったんです。去年4月の三吉演芸場公演のときに、その京劇の人が関東にいて、電話して教えに来てもらって。ただ、変面を教えてもらったままの形でやるのは違うやろーと。俺の中でね。だってそのままやっても、京劇の人の変面には絶対敵わん。ネタを知った上で見ても、速すぎて、今どうやったのかほんとにわかんない。だから自分なりにアレンジしたショーにしてます。
――なるほど…。
千 たとえば『鷺娘』するにしたって、大衆演劇で、古典の教えてもらった『鷺娘』をそのままやったとして…まあそれはそれで、古典的なものもやりはるんやーって言うお客さんもおるやろうけども。しょせん舞踊家には勝てんやろし、多分舞踊家から見たら、ああ下手な踊りしよるなーくらいで。まあ大衆演劇にしては頑張っとるかなくらいの。そしたら、やるからには、やっぱり大衆演劇版の『鷺娘』であり、変面であり…と俺の中では思うんで。
――古典でも、お客さんにわかりやすいようアレンジして…
千 そうですね。今回の『雪之丞変化』にしても『鷺娘』にしても、古典をやってるつもりではいるんです。ネタに苦心しだした頃から、古典にちょっと目を向けて…でも、らしさを出しながら、みたいな。
――たしかに、たとえば今もやってらっしゃる芝居『お里沢市』は、現代の喋り言葉になってるから、予備知識のない人でもちゃんとわかるようになっていますね…。さらに、古典って「わかる」っていう段階で終わりがちなんですけど、ちゃんと感情移入できるようになっていて、感動したっていうところまで持って行ってくれる。
千 それが大衆演劇やと思うけどね。うちの芝居『籠釣瓶』もそうです。色々『籠釣瓶』の古典とか歌舞伎も観て、俺自身が最初はわかんなかったし。2、3回観て、やっと理解したかなみたいな。だからうちの『籠釣瓶』では、ここは絶対っていう名台詞は残しつつ、要所要所はわかる言葉に直してやってる。自分の解釈のところもあるけどね、ホントはそういう解釈じゃないのかもしれんけど…。でも多分、お客さんみんなが理解できるようになってると思う。
――ありがとうございます。最後に、ファンの方への直筆メッセージをお願いできますでしょうか?
――えっと、言葉がやや後ろ向きなんですけど…(笑)
千 いや~もう…ネタが尽きたもので(笑)
――私たちは楽しんでいますが、考える方は大変ですよね…。でも、毎日の芝居も一つ一つ独自のやり方でやってらっしゃいますね。9月のオーエス劇場公演で、天華の芝居の良さに惹かれて、「梅田への定期券を買った」っていうお客さんもいらっしゃいましたよ。
千 ありがたいなぁ…。とにかく1ヶ月、力を尽くして頑張ります!
初日・2日目の舞台を観ていて、舞台上の気合いと緊張感が客席に伝わって来た。演じる側がピンと張りつめるとき、一期一会の名舞台が生まれる予感がある。この記事を読んで下さっている方も、今月足を運んでみれば、それぞれにとっての胸に残る“逸品”にきっと出会えることだろう。梅田公演は、まだ始まったばかり!
澤村千夜座長(2016/10/1)
◆発表されている梅田呉服座の外題・ゲストの予定
◆劇団天華 今後の公演先
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会場:梅田呉服座 公式サイト
期間:10/1(土)~10/30(日)昼の部まで