特別展『禅―心をかたちに―』が開幕 白隠の絵画、秀吉の茶入など50年に一度の名宝が勢揃い
特別展『禅-心をかたちに-』東京国立博物館正面エントランス
上野の東京国立博物館にて、特別展『禅ー心をかたちにー』(2016年10月18日~11月27日)が開幕した。一般公開に先がけて10月17日に行なわれた内覧会より、見どころを紹介する。
国宝、重要文化財あわせて約240件
禅の名宝が上野に集結
会場の様子
本展は、臨済宗と黄檗宗の源流に位置する高僧臨済義玄(りんざいぎげん)禅師の1150年遠諱と、日本臨済宗中興の祖、白隠慧鶴(はくいんえかく)禅師の250年遠諱を記念して開催されるもの。両禅師の遠諱を同時にむかえる機会とあり、臨済宗・黄檗宗15派の全面的な協力のもと、過去最大規模となる禅美術の展覧会が実現した。東京国立博物館 列品管理課長・救仁郷秀明氏は、「これほど大規模で質の高い作品が集まる機会は50年に一度。この特別展をあますことなく多くの方々にご覧いただきたい」と本展にかける想いを語った。
達磨像 白隠慧鶴筆|江戸時代 18世紀 大分・萬壽寺蔵
会場にはいり、まず目に飛び込んでくるのは禅宗の原点である達磨大使の像。近世の禅画を代表する禅僧・白隠による晩年の代表作だ。
禅(Zen)は、マドンナやスティーブ・ジョブス、ミランダ・カーが実践したことをきっかけに、今やライフスタイルのひとつとして欧米でも広く知られるようになった。そのはじまりは、およそ1500年前。達磨大使によりインドから中国へもたらされ、唐時代に臨済義玄禅師によって中国で広められて宗派となった。日本に本格的に伝わりはじめたのは、鎌倉時代。その後、江戸時代に庶民への普及に努めたのが、この絵の作者・白隠禅師だ。黒い墨で塗りつぶされた背景が、この絵をより力強いものにしている。
禅宗15派の全本山を巡る展示
蘭渓道隆坐像|鎌倉時代 13世紀 神奈川・建長寺蔵
本展ではさらに、臨済宗・黄檗宗15派の本山や末寺・塔頭(たっちゅう)などが所蔵する名宝を一挙に楽しむことができる。重要文化財である鎌倉・建長寺所蔵の蘭渓道隆坐像は、2014年から2年の保存修理を経て、本展が修理後初の公開となる。江戸時代に覆われた漆をはがしたことで、鎌倉時代の、当初の姿に近い質感が蘇った。
言葉にできない「心をかたちに」、宗教としての禅
十八羅漢坐像のうち 羅怙羅尊者 范道生作|江戸時代 寛文4 年 京都・萬福寺蔵
禅宗における信仰の姿は、仏像や仏画から窺い知ることができる。この像は釈迦の実子で、顔が醜かったとも伝えられる羅怙羅(らごら)をかたどったものだ。自分の胸を開き、心には仏が宿っていることを示している。中国人仏師・范道生(はんどうせい)の作である。
秀吉・家康が手にした名品に出会う
油滴天目 建窯|中国・南宋時代 12 ~13世紀 大阪市立東洋陶磁美術館蔵
禅文化を語る上で、避けて通れないのが茶の湯文化だ。本展では、天下の名椀である国宝・油滴天目(ゆてきてんもく)をご覧いただける。名椀と言われる理由は、その内側にある。黒い釉薬に浮かびあがった銀色の模様は、光を集め、椀の中で満天の星空のように瞬き、表情を変えていくのだ。両手に収まるほどの小さな茶碗だが、ぜひ奥まで覗きこんでみてほしい。
この展示室では、重要文化財・唐物肩衝茶入(銘「新田肩衝」)にもお目にかかることができる。同館 東洋室主任研究員の三笠景子氏によると、この新田肩衝はもともと秀吉の手元にあったものだが大阪夏の陣での豊臣家の滅亡とともに、一度壊れてしまったのだという。しかし徳川家康の命により、豊臣家の宝物は拾い集められ救い出されることとなった。その後漆で繕われ、家康の手元に届けられたのだという。数々の名将の手をわたった茶入を通じて、戦国時代に思いを馳せてみるのも良いのでは。
禅文化の広がり
南禅寺本坊小方丈障壁画のうち 群虎図 狩野探幽筆|江戸時代 17世紀 京都・南禅寺蔵
終盤の展示ゾーンでは、禅宗の寺院に飾られている屏風や障壁画も展示されており、狩野探幽、伊藤若冲、池大雅と、名立たる絵師の作品が並ぶ。禅が日本文化の形成に与えてきた影響の大きさを感じることができるだろう。
まっすぐ帰るのはもったいない!
限定仏像Tシャツ、チームラボ作品も
いとうせいこう×みうらじゅんプロデュースのRAGORA Tシャツ
本展のオリジナルグッズが並ぶミュージアムショップからも目が離せない。あの、心に仏を宿している羅怙羅(らごら)をデザインしたTシャツ(限定300枚、3,900円税別)は、いとうせいこう・みうらじゅんによるコラボ商品だ。さらに、お帰りの際には本展の会場である平成館1階のラウンジに寄り道しよう。ここでは関連企画として、チームラボの作品《生命は生命の力で生きている》が展示されている。会期後半には、世界初公開となるチームラボの新作展示も予定されているとのこと。最先端の現代アートと禅文化が融合するさまも楽しむことができる。