500年の時を超える"誘惑のまなざし"に出会う 『クラーナハ展』の麗しき全貌をレポート

レポート
アート
2016.11.1
『クラーナハ展―500年後の誘惑』ポスター

『クラーナハ展―500年後の誘惑』ポスター

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あやしく冷めた目線を投げかける謎の美女のポスターと、目が合ってしまった人もいるのではないだろうか。東京・上野の国立西洋美術館で10月15日(土)より来年1月15日(日)まで開催中の『クラーナハ展―500年後の誘惑』は、16世紀ドイツ・ルネサンスの画家ルカス・クラーナハ(父)の日本初となる大回顧展だ。日本ではあまり馴染みのない画家だが、彼の回顧展は長らく待ち望まれていた貴重なものとなる。開催前日のプレス内覧会より、「ここは見て欲しい!」というポイントを4つに絞ってご紹介する。

 

ビジネスの才とブランディング力に注目

ルカス・クラーナハ(父)は16世紀のドイツ・ルネサンスを代表する画家だ。他に類を見ないエロティシズムの画家として、現代まで多くの芸術家に影響を与えている。彼が描く題材は幅広く、宗教改革で揺れ動く激動の時代とそこに生きた人々の肖像画を多く残した。中でも日本では《マルティン・ルター》でよく知られている。

ルカス・クラーナハ(父)《マルティン・ルター》 1525年 ブリストル市立美術館            © Bristol Museums,Galleries&Archives

ルカス・クラーナハ(父)《マルティン・ルター》 1525年 ブリストル市立美術館            © Bristol Museums,Galleries&Archives

本展の序盤では、クラーナハがザクセン公国の都ヴィッテンベルクで宮廷画家として活躍した時代から取り上げる。16世紀初頭においてまだ珍しかった肖像画を得意としたクラーナハは、自ら大工房を開設・運営して息子らとともに大量生産に応えた。また、蛇のモティーフを商標としてブランディングしていたというのだから、そのビジネスの才には驚かされる。

ルカス・クラーナハ(子)《ザクセン選帝侯アウグスト》《アンナ・オブ・デンマーク》1565年以降 ウィーン美術史美術館 © KHM- Museumsverband.

ルカス・クラーナハ(子)《ザクセン選帝侯アウグスト》《アンナ・オブ・デンマーク》1565年以降 ウィーン美術史美術館 © KHM- Museumsverband.

 

謎解き気分で観たい、特異なエロティシズム

クラーナハ芸術で最も人々を惹きつけるのは「裸」のイメージだ。異教の女神や古代のヒロインを、女性の裸体をもって描いている。その独特なエロティシズムは唯一無二といえよう。

中でも《ルクレティア》《正義の寓意(ユスティティア)》《泉のニンフ》は、まるで謎解きのような作品だ。貞操を守り自害した悲劇のヒロイン《ルクレティア》、公平性の象徴である天秤を手にした裸婦が佇む《正義の寓意(ユスティティア)》、「わが眠りを妨げることなかれ」と書かれた《泉のニンフ》。いずれも完全な裸体ではなく、極薄のヴェールを纏っている。何も隠すことのできない薄いヴェールは、余計に観るものを裸体へと引き込むが、同時にその視線を拒むようでもありなんとも悩ましい。

ルカス・クラーナハ(父)《ルクレティア》1532年頃 ウィーン造形芸術アカデミー     ©Gemäldegalerie der Akademie der bildenden  Künste Wien, Vienna

ルカス・クラーナハ(父)《ルクレティア》1532年頃 ウィーン造形芸術アカデミー     ©Gemäldegalerie der Akademie der bildenden Künste Wien, Vienna

ルカス・クラーナハ(父)《正義の寓意(ユスティティア)》1537年 個人蔵            ⓒPrivate Collection

ルカス・クラーナハ(父)《正義の寓意(ユスティティア)》1537年 個人蔵            ⓒPrivate Collection

ルカス・クラーナハ(父)《泉のニンフ》1537年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー     ©National Gallery of Art, Washington

ルカス・クラーナハ(父)《泉のニンフ》1537年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー     ©National Gallery of Art, Washington

描かれた人物の物語を知れば、その誘うようなポーズや目線の謎がわかるかもしれない。作品の横にあるキャプションや音声ガイドを頼りに、自分なりの謎解きを楽しんでみては。

 

「女のたくらみ」に誘惑される

クラーナハの描く女性の魅力は、裸体だけではない。本展のポスターにもなっている代表作《ホロフェルネスの首を持つユディト》をはじめ「女のたくらみ」を主題とした作品には、おそろしさと奥深さがある。

ルカス・クラーナハ(父)《ホロフェルネスの首を持つユディト》1525/30年頃 ウィーン美術史美術館    © KHM- Museumsverband.

ルカス・クラーナハ(父)《ホロフェルネスの首を持つユディト》1525/30年頃 ウィーン美術史美術館    © KHM- Museumsverband.

ルカス・クラーナハ(父)《不釣り合いなカップル》1530/40年頃 ウィーン美術史美術館         © KHM- Museumsverband.

ルカス・クラーナハ(父)《不釣り合いなカップル》1530/40年頃 ウィーン美術史美術館         © KHM- Museumsverband.

そこに描かれているのは、「美しい女性、若い女性の誘惑に惑わされることなかれ」という男性への戒めだ。いつの間にか魅入ってしまうあやしい女性たちに、こちらが試されているような感覚を覚える。

 

ピカソから森村泰昌まで 
近現代の芸術家へ与えた多大なる影響

最後に、クラーナハが近現代芸術に与えた多大なる影響にも目を向けたい。本展ではピカソ、デュシャン、マン・レイ、森村泰昌らの近現代芸術家作品を並べ、日本ではまだ珍しい「古典と近代作品の併置」が試みられている。500年の時を超えてあらゆる時代の人々を魅了する"クラーナハ芸術の誘惑"を感じられる展示だ。

レイラ・パズーキ / Leila Pazooki《ルカス・クラーナハ《正義の寓意》1537年による絵画コンペティション》2011年 作家蔵

レイラ・パズーキ / Leila Pazooki《ルカス・クラーナハ《正義の寓意》1537年による絵画コンペティション》2011年 作家蔵

ウィーン美術史美術館をはじめ、オーストリア、ドイツなど世界10カ国から約100作品が集められた、史上最大規模の『クラーナハ展』。貴重なこの機会を逃さず、彼の芸術を間近で目撃してほしい。

 

イベント情報
クラーナハ展―500年後の誘惑
会期:2016年10月15日(土)~2017年1月15日(日)
会場:国立西洋美術館
開館時間:午前9時30分~午後5時30分
毎週金曜日:午前9時30分~午後8時※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし、2017年1月2日(月)は開館)、2016年12月28日(水)~2017年1月1日(日)
主催:国立西洋美術館、ウィーン美術史美術館、TBS、朝日新聞社
観覧料金:当日/一般1,600円、大学生1,200円、高校生800円
団体:一般1,400円、大学生1,000円、高校生600円
展覧会特設サイト:http://www.tbs.co.jp/vienna2016/

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