『杉本博司 ロスト・ヒューマン展』 作品の余韻を楽しむ午後

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東京都写真美術館 外観

東京都写真美術館 外観

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【東京の片隅で、普通に、楽しく生きていく#2】

約2年間の改修を経て、今年9月にリニューアル・オープンした東京都写真美術館の『杉本博司 ロスト・ヒューマン』展へ。この展示は、3階展示室<今日  世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない>と、2階展示室<廃墟劇場><仏の海>の3部構成となっております。まずは、<今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない>から観始めていきましょう。

 

 

「33」に隠された意図とは

ゆっくりと開く自動扉の向こうにあるのは、衰退した文明を表す、錆びたトタンでできた廃墟。「杉本氏の写真がきれいに展示されているんだろうな」と思った筆者はびっくり仰天。この展示は写真ではなく、そこに置かれている「モノ」(不気味なロボットやぼろぼろの服、模型、骨董品など杉本氏のコレクション)が主役のインスタレーションでした。

展示室は「養蚕家」「理想主義者」というように、職業やさまざまな主義者によってブースが分かれています。ブースの入口には、ぺろっと紙が貼られており、その紙にはそれぞれの職業・主義者の立場からみた、"ロスト・ヒューマンに至った経緯"が肉筆で綴られているのです。(しかも、その経緯は皮肉たっぷり。)それらの冒頭はすべて、「今日 世界は死んだ、もしかすると昨日かもしれない」というフレーズで書き始められています。

登場する人物は33名。よって33の立場から見た人類と文明の終末が「今日 世界は死んだ~」の文章とともに表現されていることになります。これら肉筆の文章は、杉本氏に指名された代筆者が書いたこと。例えば、「建築家」の言葉は磯崎新が、「安楽死協会会長」は渋谷慶一郎が、「コメディアン」は極楽とんぼ・加藤浩次が代筆しています。そのキャスティングはどこか現実とリンクするようにも感じられます。しかも肉筆は、肉声と同じようにその人の人となりや魂が映しだされているようで、迫力がありますね。どんな人が、どんな状況で、どんな想いで書いたのだろうと想像が膨らみます。

ちなみに、この33という数字は三十三間堂、三十三観音など仏教に関連することでよく見かけます。なにか意味があってこの「33名」という登場人物数になっているのではと思い、調べてみました。33というのは、元々日本では「たくさんの」という意味を持つそうです。それから転じて、観世様が衆生を救うとき33の姿に変化するという信仰が生まれました。また、観音様のまつられているお寺33カ所(西国三十三所)を参拝すると、現世で犯したあらゆる罪業が消滅し、極楽往生できるといわれているのだそう。

つまり鑑賞者は、ここに表現された33の死んだ世界を廻りながら、人間が犯したたくさんの間違いを悔い、弔い、祈ることで、世界が終末を迎えないよう願っていくといえるのではないでしょうか。その「想い」そのものが、今回の作品であるとも考えられますね。

 

交差する時間軸を感じる

さて、次の展示室に移動していきます。タイトルは<廃墟劇場>。ここに展示されている写真作品は、廃墟になった劇場のスクリーンに、杉本氏が持ち込んだ映画1本をプロジェクターで投影し、それをシャッターを解放したカメラで撮影したもの。その劇場が歩んできた時の流れや廃墟に至った経緯が、壊れたり傷んだりした天井、壁、椅子などからダイレクトに伝わって来ます。

この展示からもっとも感じさせられるのは、1枚の写真と自分との間で時間軸が交錯する面白さではないでしょうか。展示会場には、スクリーンに映画が映されるスクリーン上の時間軸、劇場自体が刻んできた時間軸、そして今自分がそれを観ているという3本の時間軸が存在します。作品ごとにキャプションがついているので、その説明を見ながら「自分がこの劇場にいたら?」と想像を巡らすのも楽しいかもしれません

 

杉本博司にとっての仏教、そして海

最後の展示は<仏の海>。ここにあったのは、京都の三十三間堂の千手観音を、早朝の自然光のみで撮影した9枚の写真作品と、ガラスで作られた五重塔。千手観音は平安の乱世に後白河上皇が極楽浄土への道を模索した際に望んだ仏様の姿です。五重塔は、下部から、地、水、火、風、空をあらわしています。本作品には、杉本氏による作品<海景>とも関連があります。どのように関連しているのかは、ぜひ実際に足を運んでお確かめください。

杉本氏は、やはり仏教や極楽浄土への憧れがあるのでしょうか。そんなことを考えながら外へ。

東京都写真美術館の近くにあるスタンド横丁「BRICK END」

東京都写真美術館の近くにあるスタンド横丁「BRICK END」

 

リニューアルを機に「TOPミュージアム」という愛称がついた東京都写真美術館。ミュージアム・カフェのほかにも、館外にはお酒を飲める所もあり、ミュージアム帰りの人で賑わっていました。たまに会ったお友達や、日頃時間があわないご夫婦、カップルが、同じ時間を美術館で過ごし、その後作品について話しながらコーヒーやワインをいただくというのは、なんとも素敵な時間ですよね。作品の余韻を楽しむ時間までが、アートを見に行くお楽しみなのだなと、改めて思った午後なのでした。

 

イベント情報
杉本博司 ロスト・ヒューマン展

会期:2016年9月3日~11月13日
会場:東京都写真美術館 2階・3階展示室
住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
電話番号:03-3280-0099
開館時間:10:00~18:00(木、金は20:00)
休館日:月休(ただし月曜日が祝日の場合は開館し、翌平日休館)
料金:一般1000(800)円、学生800(640)円、中高生・65歳以上700(560)円
※( )は20名以上の団体料金、当館の映画鑑賞券ご提示者、各種カード会員割引(ご利用案内をご参照ください)/ 小学生以下および障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料/第3水曜日は65歳以上無料
※本展覧会は混雑状況によって、入場制限をする場合がございますので、あらかじめご了承ください
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