『ポッピンQ』特別インタビュー連載 「GO TO POP IN Q」vol.1 松井俊之プロデューサーが語る“プロデューサーの仕事”とは
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©東映アニメーション/「ポッピンQ」Partners 2016
この連載から少しでも『ポッピンQ』という作品が見えれば……。 さあ、「POP IN Q」を始めよう。
SPICEアニメ/ゲーム編集長 加東岳史
松井利之氏
――『GO TO POP IN Q』ということで、この連載は制作に携わった皆さんにお話を伺っていこうと思っているんですけれど、まず松井さんからということで、よろしくお願いいたします。
よろしくお願いします!
――今回の企画はそれぞれの方が業界に入られたキッカケ、なぜこのお仕事をしようと思ったのかというところからお話をお伺いしたいなと思っています。松井さんは映画プロデューサーということで様々な作品を作られていますが。
もともと映画を観るって言うのが趣味だったんです。東京には大学進学で出てきたんですけれど、その時から映画を制作したいっていう意志がはっきりしていて。就職するときに映画の制作出来るところしか探さなかったんです。僕のときは大手映画会社の制作分野の新卒採用って、なかなか募集がなくて。東映にも募集がなかったんだけど、大学生の時から東映のVシネマっていうのに目をつけてたんです。
――Vシネマ、一時期大流行しましたね。
東映のVシネマって、Vシネマっていう言葉を作ったはしりで、16ミリフィルムで作ってたんですよ。当時、邦画界は斜陽期で、もう錚々たる映画監督を抱えているのに、彼らに満足のいく仕事が供給できないわけですよ。で、その監督たちを活かすために東映が作った媒体がVシネマ。東映Vシネマって後々使われるVシネって言う言葉とはちょっと違って、すっごい魅力的なブランドだったんです。当時のスタッフは35ミリの本格映画を作ってきた大御所ばっかり。「日本でこんなにきちんと映画を作れる場所ってまだあるんだ」って思って、それを大学のときからやりたくて、一本絞りで受けて出来るようになったと。
――やっぱり映画を見るのが好き!という所から始まって、作る方に来たんですか?
小学校の頃から一人で映画館へ行ってたんで、それこそ小学校低学年の頃から。
――なかなか小さい頃は一人で映画って行かないですよね。
そうなんですよ。だから土曜日とか日曜日とか映画館で一人で映画見ることも多かったんですけれど、昔はシネコンとかじゃないから、1日居て良いんです。何回見ても良い。さらに言うと3本立てとかいうのもあったし。もうパラダイス、最高の居場所だったんです。本当に映画館が最高の居場所。
――ここまで聞いただけで『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い出しますね。
大好きな映画ですね(笑)。
©東映アニメーション/「ポッピンQ」Partners 2016
――そんな松井さんですが、コミックやアニメーションの実写化に関わられていることが多いと思うんですが、最近は実写化映画が非常に増えてきています。かなり黎明期から実写化に関わっていらっしゃいますが、これをやろうと思ったきっかけはあるんでしょうか?
趣味が映画しか無いみたいに言いましたけど、漫画を読むってのも最高の趣味だったんです。マンガが大好きで、家がマンガ図書館みたいになるくらいに持ってて、友達が遊びに来て漫画喫茶状態みたいになって(笑)。マンガと映画が両方大好きだったんで、映画を作る時に普通はそこでアニメ映画作ればいいじゃんって話になるんですけど、僕はどうしても実写の映画をやりたくて。だから両方繋ぎ、自分が見たい映画っていう意味ではコミックの原作モノかオリジナルに当初はすごくこだわってましたね。
――僕らは普段お金を払って映画を見に行く、いわゆるユーザーなんですが、プロデューサーってユーザーまでの距離がちょっと遠い場所にいる“偉い人”というイメージが僕の中にあるんです。その距離をどう埋めるか、プロデューサーってどんな思いで作っているのか、何を意識して制作態勢を組み立てているのかを聞きたいです。普段プロデューサーの方にお話伺える機会少ないので是非。
プロデューサーって僕もそういうイメージがあったんですけど、結局段階がいくつもあるっていうか、日本の場合はアメリカと違ってプロデューサーの職制って凄く幅があるんですよね。例えば会社入ってそういう部署に配属されて、作品を担当しただけでもプロデューサーになっちゃったりするんですよ。でも1から全部やって、企画も立てて、お金も集めて、配給先見つけて、宣伝まで関わってって全部やるのもプロデューサーって言う名前になっちゃうんです。
――同じ名前でも全然重さが違いますね。
後者が真のプロデューサーで、前者は担当プロデューサーってことなんだと思います。そして真のプロデューサーの原点て何かって言ったら「自分が見たいものを作る」っていうことなんだと思います。自分の見たい映画を作るために自分で動いて他者を巻き込んでいくっていうのが原点なので、担当するのは本来違うのかと。
――なるほど……プロデューサーになるってどうすればいいんでしょうか。
僕の場合は、経験という修行を積ませて貰えて、趣味と実益が全部一致する場所っていうのが映画会社だったんですね。制作進行から僕は上がってますから、そこでずっと勉強していけば、その先にプロデューサーになれるって思ってたんです。たまたま僕は運良く制作部から始まってずーっと下積みして勉強させてもらってからプロデューサーになったんです。
――まさに叩き上げ。
それからその後、今度は作りたいと思ったものをお金集めてたりとか、売り込んだりとか、タイアップ取ったりとか、宣伝するとか、そういうのも全部やんないとプロデューサーって言わないっていうのが、下積みを経て段階を経ることで、だんだん分かってきたんですよね。「作品を作る」っていうのが最大の目的なんですけど、そのあとどう売るかというのも考えないといけない。だから宣伝も勉強しなくちゃいけないっていうんで自分から願い出て宣伝部に居たこともあるし。
――ああそうか。作ってもそれを売らないと意味がないですもんね。立案して、動かして、作って、見てもらって稼ぐ、それはなんでもそうですね。
そうそう、その後お金集めるとか宣伝するとか、売るとかっていう作業もしなくちゃいけないって思った時期に、たまたま世の中の流れが製作委員会っていうシステムになってきてたんですよ。だから僕は、とにかくいろんな会社と組んで仕事をしてみたいと思って、映画会社も辞めたんです。その後今度はテレビ局に転職して、色んな製作委員会に参加したり、自分でプロデュースする時にも敢えて様々な職種の会社に声掛けし、製作委員会を組成しました。とにかく局で映画を製作することにおいてはどことでも組めるんですよ。
――どことでも組める?
それまでは東映って会社に居たから東映配給作品しかできないけど、テレビ局に行ったら東宝とも松竹とも仕事が出来るんですよ。アスミックともできればショウゲートとも、どことでも出来るんです。大きい映画も小さい映画も規模に関係なく。さらにはどんな制作会社とも組めるし、製作委員会でも組めるから、パイプづくりとノウハウを積み上げたくて、とにかく色々がむしゃらにそこで勉強させてもらったんですね。その経験を一通りした後、今度は自分で立てたオリジナル企画を実現してみたいと思って、フリーになったら、たまたま自分の企画とノウハウと人脈を必要としてくれるところが東映アニメ-ションだったんです。
――ようやく今に繋がる(笑)。
そう(笑)。 だからそういう意味で言うとプロデューサーの持つ仕事の守備範囲ってものすごく幅広いんですよね。やれる範囲はとてつもなく広く深い。それを一部分だけ担当する人もクレジットされるときはプロデューサーだし、全部やれる人もプロデューサーだしっていうことが意外と知られてないんですね。
――僕らエンドユーザーからすると、プロデューサーって奥の方に居て、指揮しているっていうだけの印象しかないかなっていう。多分、製作委員会っていうものも、フワッとしか皆さん分かってないんですよね。
基本的には裏方ですから。
――製作委員会っていろんな会社が名前出てるからお金はそこが出してるんだろうな……みたいなものなんですよ。でも現場から叩きあげっていうのは、やっぱりこう、1本作品を作るっていうときの思いだったりとか、出来上がったときの感動とかって……。
凄く大きいですよ。その感動を味わいたくて全部やりたいんですよ。結局は。
――自分の子供じゃないけど。
そうですね、初めからすべて関わっていると、子供のようにかわいくなるので、全部関わらないと気がすまなくなるんです。しかし、関わるってことはその役割を知ってないといけないし、まずしっかり身につけてから関わりたいと思ってました。僕の場合はとにかく映画プロデューサーっていう道を極めたくて。どうやったら自分が作りたいものを作り続けられるか?っていうことだけを追って今があるっていう感じですね。
©東映アニメーション/「ポッピンQ」Partners 2016
――例えば監督になろうとは思わなかったんですか?
無いんですよ、これ自分でも不思議なんですけど思ったこと無いんです。
――映画作りたいっていう人は監督だったり、脚本だったりっていう人が多い印象ありますけど。
脚本はあります。脚本作りはプロデューサーにとって絶対に必要なスキルなので自分でも勉強もしましたし、後に現場で揉まれて身に付いてきたものもあります。実際自分で書いたものや、脚本だけ提供した作品もあります。ペンネームで。
――でも監督にはあまり。
監督はね、なんか職種がちがうんですよね。多分自分には向いてないと思ったんでしょうかね。人と人を繋ぎ、様々な職種を掛け合わせて映画が出来上がり、宣伝し、興行していく。僕の中では勝手にプロデューサーが映画を作る人だと思い込んでたんですよ。
――スタートラインがそこなんですね。
そうなんでよね。
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――やっと本題ですが、ズバリなぜこの『ポッピンQ』をプロデュースしようと思ったのか、作ろうと思ったのかを聞かせてください。
オリジナル作品を作るっていう1つの夢なんですよね。映画人としてなのかもしれないけど。漫画好きでもあって、この漫画が映画になったらどうなるだろう、面白そうだから作りたいな!と思うのは、最初に漫画という見えてる作品があるからなんですよ。ストーリーもあってキャラもあって、世界観まである。さっき言わなかったんですけど、実は漫画家になりたいと思った時期もあって。で、残念ながらマンガを描く才能はまったく無いんですよ(笑)。
――だとしたらこういう感じで作るしか無い。
そうです。見える漫画のないところから漫画映画を作ってみたい。それもオリジナルで。漫画は自分で描けないけど、組みたい監督や作家がいれば見たい漫画映画はオリジナルでも作品にできる。そうするとプロデューサーって位置になるんですよね、自ずと。
――なんか凄いですね、願望とやれることが全部一本筋になってる気がしますね。
すべて後付かもしれないですけどね(苦笑)。
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――改めて『ポッピンQ』先日拝見しました。東映アニメーションの60年を95分にグッと凝縮した作品だなっと思ってまして、僕の世代は『東映まんがまつり』世代で、もっと前で言うと、それこそ『長靴をはいた猫』なんかの東映アニメの冒険感というか、ファンタジーというよりは冒険活劇感もあり、プリキュアシリーズを感じさせるダンスもあり……そして思った以上にキャラクターたちが思春期をこじらせてるなと。言い方悪いかもしれないですけど。
いや、上手いこといいますね(笑)。 『ポッピンQ』はまずこの監督とやりたいっていうことで宮原直樹って監督が居た、これがまず第一。宮原直樹という監督はとても能力が高い方なんで、長編デビューしていないこの人を長編でデビューさせたいと。テレビのシリーズじゃなくて、とにかく宮原直樹と映画がやりたかった。
――まずそれがあったと。
まずそれ。でその次にキャラクター原案の黒星紅白さんですよ。この人はイラストレーターでいらっしゃるし、それから挿絵家でもいらっしゃる。
――僕の周りでは、黒星紅白さんがやるっていうのは大きな話題でしたね。
そうなんです、そういう人がすごく多いっていうのを後から知ったんです。宮原監督とプロデューサーの金丸からの推薦があって、僕は知ることになるんですけれど、絵を見た瞬間に「これはイケる!」って思えたんですよね。
――黒星紅白さん描き下ろしのティザービジュアルも雰囲気ありますもんね。
なんかね、このティザービジュアル観て絶対みたいって言う反応を持った人が非常に多いのがありがたいことなんですけど、それと同じような感触。監督に宮原直樹がいて、黒星紅白さんの絵があって、そしたら次に考えることは「やりたいこと」じゃないですか。でその時に黒星さんの絵からイメージしたのはキャラクターの「成長」で、まさに加東さんがおっしゃった「思春期こじらせ」へのフォーカスだったんですよね。
©東映アニメーション/「ポッピンQ」Partners 2016
――本当に見た感想としては、想像以上にすんなりと行かない話なんだなと。
あはははは!(笑)
――正直そんなに長い話じゃないんですよ、世の中には2時間半とかいう映画もある中で、95分とお伺いして、思ったより短いなと。だからスイスイ行くのかなと思ってたら、思ったよりスイスイ行かないんですよ(笑)。 悩んでるし、前に進まないし、ある意味ウジウジしてる。でもそれが凄くリアルだったんですよね。世代も思ったより上の世代を狙ってる気がして。どのくらいの世代に観てほしいなというのは有りますか?
本作はマーケットからモノを作らないことを大切にしたので、ターゲット世代層もこちらでは特には決めてません。目線もあえて子供に落とさずに大人の目線を意識して作りましたけど、宮原監督らしい良質な作品ですから、堂々と子供たちにも見てもらいたい、と言うのは正直なところです。
©東映アニメーション/「ポッピンQ」Partners 2016
――最後に、これ皆さんにも聞く予定なんですが、『ポッピンQ』は思春期がテーマになってると思ってるんです。では今回は自分の思春期の頃、さっき言ってた映画少年だった頃の松井少年に今の自分から一言かけるとしたらなんといいますか?
「映画作れてますよ」ってことかな。
――夢を叶えてますよって。
夢が叶うというのはちょっと違うんですけれどね。なんだろうなあ、夢が叶うのって、こうなったらいいなという夢があって、それを努力して手に入れるって感じじゃないですか。
――そうですね、信じていれば夢は叶う、と言いますし。
さっきも言いましたけど、映画を作るってどういうことだとか、プロデューサーがどういうことだとかの具体が分かってないのに、僕には映画を作りたいしかなかったから。だから、なんていうか思い描いた夢が叶ったって言う感じじゃないんですよ。映画の送り手になるって言うことに関しては惑ったことがないんで。
――自分は送り手になると。
絶対送り手になると決めてたから、今なってますよっていうよりは、自分の見たいと思える映画を作れてますよって感じですかね。
――そのまま真っすぐ今になっていると。
そうですね。なので叶ってるから大丈夫だよ、とか言うのはないですね。そのままここにたどり着いた感じ。昔も今も、大事なのはどんな映画が作れてるか、ということろですから。まさに成長過程です。
――そこまでブレないというか、まっすぐ来れるってなかなかないと思うんですよね。『ポッピンQ』のキャラクター、ブレブレじゃないですか。
思春期ってみんなブレブレですよきっと。どうでもいい話になるけど、僕の思春期って『ビー・バップ・ハイスクール』みたいな世界観でしたから。喧嘩に勝つ以外価値観ゼロでしたからね(笑)。不良の方がモテてたし。
――僕らの中3くらいって、どこどこ中学の誰それが現在最強だ!みたいな話ってコミュニティの中ではビッグトピックだったんですよね。
そうなんですよ。どこどこ中学に伝説の強者が居るって聞いたら必ず見に行ったし。密かにウォッチして「今日はダメだ、時期じゃない。また来よう」とか(笑)。 だからあれだな、僕もなんだかんだで思春期こじらせてるんですよやっぱり。絶対勝〜つ!って勇んで行って、戦わないで帰ったりしてるんだもん(笑)。
――じゃあ思春期は誰しもブレブレってことで。
はい。『ポッピンQ』はそんな世代の少女たちの話です。自身の内にある障壁を乗り越えて成長して行こうとする彼女たちの姿を観て、思春期にブレてた自分を思い出した大人から、今を生きる同世代、そしてこれからその時期に向かおうとしている子供たちまで、あらゆる世代の今後の成長に活かしてもらえると嬉しいです。
松井俊之氏
アニメにかかわらず、映画を作るプロデューサーというのが、どういう人種の人なのか余り印象を持っていなかった僕にとって、今回のインタビューはかなり緊張の面持ちで迎えた時間でした。しかし松井さんは映画に対する情熱がどこまでもまっすぐで、面白いと思ったものをなんとかして届けたいという僕達と同じ“エンタメ人”でした。この人に監督をやらせたい、この人のイラストが素晴らしい、そこから導き出される物語は何だ?ある意味逆説かもしれませんが、制作陣の作品作りはどこまでもまっすぐな印象を受けました。これから関係者にたくさん話しを聞いて回りますが、そこから見えてくる『ポッピンQ』という作品は、皆さんの目にはどう映るのでしょうか? 次回インタビューはもう一人のプロデューサー、金丸裕さんです、お楽しみに。
インタビュー・文・撮影=加東岳史
©東映アニメーション/「ポッピンQ」Partners 2016
2016年12月23日(金・祝)より全国ロードショー
監督:宮原 直樹
キャラクター原案:黒星 紅白
企画・プロデュース:松井俊之/プロデューサー:金丸裕/原作:東堂 いづみ
脚本:荒井 修子/キャラクターデザイン・総作画監督:浦上 貴之
CGディレクター:中沢大樹/色彩設計:永井留美子/美術設定:坂本 信人/美術監督:大西 穣/撮影監督:中村俊介/編集:瀧田隆一
音楽:水谷 広実( Team-MAX )、片山 修志( Team-MAX )
主題歌:「FANTASY」 Questy(avex trax)
アニメーション制作:東映アニメーション
配給:東映
製作: 「ポッピンQ」Partners
【キャスト】
瀬戸麻沙美、井澤詩織、種﨑敦美、小澤亜李、黒沢ともよ
田上真里奈、石原夏織、本渡 楓、M・A・O、新井里美
石塚運昇、山崎エリイ、田所あずさ、戸田めぐみ
内山昴輝、羽佐間道夫、小野大輔、島崎和歌子