知念里奈が新エレン役として出演中のミュージカル『ミス・サイゴン』年末年始は5都市でのツアー公演も!
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ミュージカル『ミス・サイゴン』合同取材会より知念里奈(撮影/石橋法子)
『レ・ミゼラブル』を生んだプロデューサーのサー・キャメロン・マッキントッシュ、アラン・ブーブリル作、クロード=ミッシェル・シェーンベルク作曲の第2弾として製作されたミュージカル『ミス・サイゴン』。1992年の日本初演以来、上演回数1400回を超える大ヒット作だ。ベトナム戦争陥落間近のサイゴンを舞台に、ベトナム人少女キムと米兵クリスのドラマティックな愛の軌跡を、多彩な歌で表現する物語。過去4回に渡ってキム役を演じた知念里奈が今年、新たにエレン役として『ミス・サイゴン』に帰ってきた。年末年始をまたいだ全国ツアーを前に、知念が大阪で合同取材会を開催。くるくると表情を変えながら、情感豊かに新たな役と作品への思いを語った。
「さようならキム」「はじめましてエレン」という気持ちです!
――知念さんと言えばキム役のイメージが強いですが、今回はエレン役でのご出演です。
初出演から最後のキム役を演じた2014年までの10年間で、私の人生も色々変化しました。子供を産んでからは、母親としてのキムの気持ちはすごく理解できるようになりました。一方で、前半の無知で何も知らない17歳のベトナム少女を演じるのが難しく感じられるようにもなりました。2年前の公演では最後に自分のできることを全部出し切ろうという気持ちで、やらせて頂きました。10年かけてやってきた大好きな公演だけどお別れなんだなと思い、大千穐楽を迎えたので。その時はエレン役をやるとは思っていませんでした。
――エレン役に挑戦しようと思ったきっかけは?
日本側のスタッフからエレン役でオーディションを受けてみないかと言ってもらって。うーん、どうなんだろうと結構考えました。すごく難しい役ですし、キムとは全然違うものを求められるので。何より、お客様にはキムのイメージがきっとある中で、急にアメリカ人として出るのはどうなんだろう? と。でもオーディション曲「メイビー」を練習し始めたら「あ、エレンてこんな気持ちでいたのか」と、彼女の心理にすごく興味が沸いた。やっぱり、「やってみれば?」と言われたら、役者はやりたいんですよね。そんな自分にも気がついて。すごく厳しいオーディションなので、ご縁があれば受かればいいなと思って受けて、この度の運びになりました。すごく感謝しています。一度「さよなら」した作品に全然違う役で出演するので、「はじめまして」の気持ちでお稽古に参加しました。
――エレンとしてお稽古場に立たれてみて、いかがでしたか。
私はずっとキム側でしかこの作品を見てこなかったので、役作りの面ではすごく面白かったです。キムって最初は急にホテルでエレンと会うから、「誰? ジョンの奥さん?」ぐらいの存在だったけど、今回エレンを演じてみてエレンも戦争の被害者であることに気付きました。クリスを助けて支えたいから、夫婦として最善の道を選び、一緒にバンコクへ向かったんだなと。とても納得のいく、共感できる役です。
ミュージカル『ミス・サイゴン』エレン役の知念里奈
――キムに対しては、どういう感情を抱いているのでしょう。
そこがあまり脚本には書かれていないんですけど。エレンはクリスから「僕にブイドイがいるようなんだ」と説明を受けてバンコクへ行く。それは当時のアメリカ人としての責任感や正義みたいな感情で、きっと「自分が正しいことをするんだ」という気持ちだったと思う。それが、キムに会ってみたら全然想像と違ってた。まだクリスのことを愛してるし、「私が奥さんです」ぐらいのことを言われてしまう。エレンとしては「聞いてなかった!」という感じですね。決してエレンは悪い人ではなく、むしろ普通のとても尊敬できる人だなと思います。
※ブイドイ……アメリカ兵とベトナム女性との間に産まれた子ども
――同じエレン役を演じる三森千愛さんとは、役柄についてお話されましたか。
もう稽古場では三森さんの姿が見当たらないと、挙動不審になるくらい(笑)。今でも楽屋では、キムのスタンバイきっかけのナンバーを聞くとソワソワするので。最初、稽古場では自分がどこに居ていいのかが分からず、三森さんに目で合図してもらってました。三森さんは一生懸命で謙虚な方なので、とても学ばせてもらいました。
――エレンのナンバー「メイビー」を歌うときは、どのようなご心境ですか?
「メイビー」を歌う直前にキムから、「もしあなたのせいでクリスの気が変わって、私たちを捨てていくというのなら…」と、ぶわーっと思いをぶつけられる場面があるんですね。その時のキムの言い方次第で、「メイビー」の歌い方が変わります。そこで貰うものがあると言うか。エレンは感情を吐き出すというより、貰う役なんですよね。
ミュージカル『ミス・サイゴン』エレン役の知念里奈
――ご自身の中に、キムはまだ残っている感じですか。
この間の本番で、新しくキム役で入ったキム・スハさんと共演したんですよ。彼女すごく素敵なんですよね。その時も、「メイビー」の前に彼女から凄く良いものを頂いて。楽屋に帰ってから、涙が止まらなくなった。それはエレンとして苦しくなったのか、自分がキムを演じていた当時の感情を思い出してのことだったのか、分からないんですけど。でも今も油断しているとキムの歌に意識が引っ張られそうになるので、頑張ってエレンやってます(笑)。
――「メイビー」の歌詞にある「望むのなら彼女の元へ 私忘れてくれていいの…♪」も、すごい境地だと思います。
そうなんです。普通の感覚で言うと、旦那さんが急に「異国に自分の子どもがいる」とか言い出す、とんでもない状況なんですけど、エレンは全部許すじゃないですか。それって凄いなと。ある時、演出家が「キムが息子タムを愛したように、エレンはクリスを愛している」と言ったんですね。そこでやっと納得がいったというか。気持ちの辻褄が合わせられるようになりました。キムにとってタムってこれ以上ない存在じゃないですか。男女間でも同じように思えるなら、「私を忘れてくれていいの彼女の元へ」と言えるし、「もう一度君とやり直したいんだ」とクリスに言われれば、分かったと受け入れるだろうし。その演出をもらってから、すごくやり易くなりました。
ミュージカル『ミス・サイゴン』エレン役の知念里奈
――改めて、キムとエレンでは作品の見え方が変わりましたか。
キムをやっていた時は、キムとエンジニアが主軸になっているので、何も知らない状態から次々に起こる問題に無我夢中で対応して、2幕の最後に向かってダーッと駆け上がっていけば良かったんですけど。よく「クリスひどい!」という感想を耳にするのですが、クリスを支える側の奥さんになってみて分かるのは、クリスだけが悪いんじゃない。エレンもキムも、誰も悪くない。やっぱり悪いのは戦争だったんだなと、改めて思っています。
――楽曲を歌い上げる難しさもあると思います。特に『ミス・サイゴン』は戦争の狂気を出すために、キーがすごく高いですよね。
全体的に高いですね。もしかしたら女性よりもクリスの方が高いんじゃないかな。男性キーとしては相当高いと思います。台詞なのか歌なのか、叫びなのか分からないようなナンバーも多いので。全国ツアーは年末からお正月にかけて、一番寒い時季なので。本当に喉をケアしないと、もう乾燥が始まってますから。
「この物語を“伝えなければいけない”という、使命感があります」
――今回は市村正親さんのファイナルステージとしても、注目を集めていますね。
市村さんは、最後と仰っていますけど本当かな(笑)。背中も輝いて見えるほど元気ですよ、嬉しいですね。エンジニア役を25年も務められて、今なお記録を更新し続けている。凄いことだなと憧れますね。
――知念さんは10月21日でデビュー20周年を迎えられました。15才のデビュー当時に今の状態は想像できましたか?
想像できませんでした。まさかこんな風に、20周年の節目の日に東京で子どもを交えてご飯を食べているなんて。感慨深かったですね。上京当時は一人で寂しかったですし。続けてこられて、本当に感謝だなって思いました。
ミュージカル『ミス・サイゴン』エレン役の知念里奈
――舞台についての思いはいかがですか。
実際、歌手活動より舞台の方が長いので。不思議ですけど。好きなんですよね。だから今回もキムやったのに、何でエレンもやるの? なんて聞かれたりもするんですけど、やりたいんですよね(笑)。ただそれだけ。場があれば表現したいし。きっとそう言いながら、この先も続けられるところまで続けるんだろうなって。
――『ミス・サイゴン』の出演歴は芸歴の半分以上を占めますが、そこまでのめり込める本作の魅力とは。
音楽も素晴らしく、ちゃんとしたストーリーがあって、ダンスやヘリコプター、キャデラックなど大掛かりな見せ場もある。一大エンターテインメントですよね。様々な形の愛情もそうですけど、重要なのは戦争が描かれた作品であるってこと。何度も関わってきた作品ですが、いつも「こんな時なんで、平和を考えたいですよね」と言ってるなと、気づいたんですね。やっぱりいまだに世界は不安定で、戦争は無くならない。戦争を知らない世代、知っていたけど忘れてしまっている皆さんにも、エンターテインメントを通して戦争というものを知ってもらいたいと思います。
ミュージカル『ミス・サイゴン』エレン役の知念里奈
――作品を通して戦争を追体験してほしいと。
ビキニ姿の女性たちが出て来たり、新演出になってから本当に刺激的な描写が多くて際どいんですけど、それも事実だし。私は息子が3才の時からこの作品を見せています。絶対お子さんにも見て欲しいと言うわけではないですけど。でも大事なことですよね。例えば私の場合、芝居を見た後に、戦争映画を一緒に見て「ベトナム戦争ってこういうことだったの」と言うと、結構そこでリンクしていくみたいですね。私自身も勉強になるし、後につながっていくと思います。戦争を扱う作品に携わるときは、すごく使命を感じますね。これは”伝えなければならないこと”なんだぞと。
――息子さんの反応は?
3才で見たとき、私はキム役で「ママヘリコプターに乗れなくて悲しかったね」とか、すごい可愛いことを言ってくれて。同時に、3才でも分かるんだなと。うちの息子はやっぱりキム親子が好きなんですね。「絶対あの子はママ(キム)といたかったはずだよ」と。2人がかわいそうっていう考えなので、あんまりこの作品が好きじゃないみたい(笑)。でも、今回エレン役に替わったことを伝えて。車の中でエレンがキムから「タムを引き取ってよ」と言われる場面を練習していたら、「キムってさ、急に子ども引き取ってとか、図々しいよね」と言い出して。彼も私と一緒に見方を変えたというか、一番近くにいる味方だなと(笑)。
ミュージカル『ミス・サイゴン』エレン役の知念里奈
――シェーンベルクの2大作品『ミス・サイゴン』『レ・ミゼラブル』で次々に主要キャストを務められていますね。その点については、いかがですか。
ありがたいことですね。『ミス・サイゴン』と『レ・ミゼラブル』は、毎回オーディションが行われ、日本側そして権利元の本国側のスタッフからもオッケーをもらわないと、舞台の上に立てないので。ちゃんと本国からも「あなたが、やってください」と言われているっていうのは、演じる上ですごく心の拠り所になります。
ミュージカル『ミス・サイゴン』エレン役の知念里奈
――2017年は『レ・ミゼラブル』への出演も決定しています。ちなみに、これまでコゼット、ファンテーヌを演じてきた鈴木ほのかさんが今回、マダム・テナルディエ役で出演されますね。
びっくりですよね! 私全然知らなくて。ちょうどキャストが発表された日に、別件でほのかさんからメールが来て、最後に「レミよろしくね」とあって。あれ?と。ほのかさんファンテーヌやるのかなと思ってホームページで確認したら、マダム役だったので「さすがだ!」と。ほのかさんに希望を感じていますね。コゼット、ファンテーヌやってのテナルディエ夫人。私も頑張ったら出来るのかなと、道が開けた気がしました。分かんないですけど(笑)。ほのかさん大好きです。素晴らしい女優さんですね。
――知念さんの今後のご活躍にますます注目ですね! では、お客様にメッセージを。
お正月には少し重い作品ですが、ぜひ大阪パワーで盛り上げて頂きたいですね。大事なテーマを持った作品なので、年末年始にご覧いただいて、新しい一年を大切に過ごしてもらいたいなと思います。
ミュージカル『ミス・サイゴン』合同取材会より
■作:アラン・ブーブリル/クロード=ミッシェル・シェーンベルク
■音楽:クロード=ミッシェル・シェーンベルク
■演出:ローレンス・コナー
■出演:エンジニア:市村正親/駒田 一/ダイアモンド☆ユカイ(交互出演)
キム:笹本玲奈/昆 夏美/キム・スハ(交互出演)
クリス:上野哲也/小野田龍之介(交互出演)
ジョン:上原理生/パク・ソンファン(交互出演)
エレン:知念里奈/三森千愛(交互出演)
トゥイ:藤岡正明/神田恭兵(交互出演)
ジジ:池谷祐子/中野加奈子(交互出演)
2016年10月15日(土)~18日(火)プレビュー
2016年10月19日(水)~11月23日(水・祝)
会場:帝国劇場
2016年12月10日(土)、11日(日)
会場:岩手県民会館 大ホール
2016年12月17日(土)、18日(日)
会場:鹿児島市民文化ホール(第1)
2016年12月23日(金・祝)~25日(日)
会場:久留米シティプラザ ザ・グランドホール
2016年12月30日(金)~1月15日(日)
会場:梅田芸術劇場メインホール
2017年1月19日(木)~22日(日)
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
■公式サイト:http://www.tohostage.com/miss_saigon/