イケメンと行く妄想アートデート★"深くて新しい"恵比寿篇
『イケメンと行く 妄想アートデート』連載企画がスタートします。これは、巷で話題のイケメンと共に"アートにまつわるデートをしてみたら……?"というアート好き女子の妄想をかきたてる連載企画です。毎回、美術館やギャラリーなどのアートスポットを素敵男子とともに巡り、その様子をご紹介していきます。
約2年間の休館を経てのリニューアル・オープンで話題の東京都写真美術館にイチ早く行きたい!ということで、今回は恵比寿エリアを舞台にしたアートデート。お相手は、若手のペインターとしてご活躍中の山脇紘資さん(以下Y)。バンドでギターボーカルも務めるなど、マルチな才能の持ち主です。
今回は、「付き合って数日」という、なんとも初々しい設定でのデート! 忘れかけていた(?)照れやドキドキを存分にご堪能ください。
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お一人様歴3年。恋愛ってなんだっけ?!と忘れるくらいだった私に、3日前、ついに春が来た。ひょんなことからお付き合いすることになった彼は、なんとアーティスト。東京藝術大学の大学院を卒業して、画家としてキャリアをスタートさせた今注目の若手です。何となく以前からお互いに気になっていたものの、実は彼のことをそんなに深く知らない……。もっとお互いのことを知る第一歩ということで、お付き合いして初めてのデートは彼の大好きな美術館に繰り出すことに。恵比寿在住の彼の提案で、今回は恵比寿アートデートに決定しました。
私:私もちょくちょく来ていたよ!
Y:実は、僕がペインターになって最初にお世話になったのが写真のギャラリーだったんだ。その影響もあって写真を見るのが好きなんだよね。
などと話しながら、リニューアルで広くきれいになった受付を抜けて展示室へ。今回は、『世界報道写真展』と『杉本博司 ロスト・ヒューマン』展の2つの展示をみることにしました。まずは、サクッと観られそうな『世界報道写真展』へ。
私:世界報道写真展、実は初めてきたよ〜。お硬いイメージでなかなかハードルが高そうだけれど……。
Y:イメージは確かにそうかもしれないけど、意外と面白いよ。世界報道写真展って、ドキュメンタリーや報道写真の展覧会で、コンテストで選ばれた作品が展示されてるんだ。今年は約83,000点の中から選ばれた作品なんだって。
私:そんなに応募があったのね!
Y:世界中から応募があるんだけど、今回はめずらしく日本人写真家の作品も選ばれてて気になっていたんだ。見てみようよ〜。
人々の部門で1位をとったという、小原一真氏の写真はこちら。
人々の部 組写真1位 小原一真(日本)2015年6月30日 キエフ(ウクライナ)
Y:この写真は、チェルノブイリにあった家に残されていたフィルムを使って、原子力事故の被害者を撮影した作品なんだ。
私:フィルムは普通に使えるんだね?
Y:本来なら難しいみたいなんだけど、写真家の小原さんが試行錯誤の上で編み出した手法みたい。加工も一切していないんだって。
私:だから、写真がぼんやり白っぽくなってるのかな。
被写体は胎児の時に被爆した女性。一見なんの損傷も受けていないように見てるけれど、甲状腺炎や、うつ病などに苦しんで戦いながら生きているのだそう。
Y:今回大賞に選ばれたのはこの写真だよ。
と、指差した先には難民がまさにフェンスを越えようとしているシーンが写っています。
世界報道写真大賞 スポットニュースの部 単写真1位 ウォーレン・リチャードソン(オーストラリア)2015年8月28日 レスケ(ハンガリー南部)
午前3時頃、月明かりだけを頼りに撮影されたこの写真。撮影したウォーレン・リチャードソン氏は下記のように語っています。
「家族を大切にする彼らが望むことは、私たちが享受しているのと同じ生活をすることだけなのです。結局のところ、この地球は私やあなたのものであるのと同じく、彼らのものでもあるのです。フェンスを作り、あなたはこっちの土地には来られないからそっちにいなさい、と言うことがなぜできるのでしょうか。」
テレビのニュースでは見ることができない、ほんの一瞬だけれど大切な瞬間。堅苦しい、と敬遠せずにもっと早くみに来ればよかったと思いました。
そして、次は楽しみにしていた『杉本博司 ロスト・ヒューマン』展へ!
Y:杉本博司さんは写真家として世界中で超有名だけれど、写真だけでなく舞台の監修をしたり、建築家としての顔を持っていたり、幅広いジャンルで活躍しているから写真家というより現代美術家って感じだよね。
私:そうだよね。杉本さん設計のレストランや美術館には、私も行ったことあるよ。
Y:展示は3階がインスタレーション、2階が新作の写真作品みたい。コレクターとして色々収集していることでも有名な杉本さんの一面も観られそうだね!
今回の展覧会は「人類と文明の終焉」というテーマを掲げ、世界初発表となる新シリーズ<廃墟劇場>、日本初公開の<今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない>、新インスタレーション<仏の海>の3シリーズを2フロアに渡って展示しているのだそう。
まずは、3階のインスタレーションの展示室へ。壁がボロボロの廃材で覆われているのと、ほの暗い照明の効果もあって、美術館というよりはテーマパークに来たような感覚を味わえます。
<今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない>では、人類と文明が終る33のシナリオを自身の作品や収集した古美術、化石、書籍、歴史的資料等から構成したインスタレーション。理想主義者、バービー人形、漁師……など色々な職業の人が、世界の終わりに残した手紙、という設定で、手書きの手紙とその人にまつわるアイテムがブース毎に展示されています。
歴史や戦争がテーマになったシリアスなブースもあれば、雷発生装置のデモンストレーションや、30分おきに歌って踊るロブスター、さらにフランス語で「世界の終わり」と話すオウムがいたりと、思わずクスッと笑ってしまう楽しい仕掛けがたくさん。ちょっと緊張気味だった2人も打ち解けてきました。
雷神 鎌倉時代 ©Sugimoto Studio
歌って踊るロブスター ©Sugimoto Studio
私:杉本ワールドのテーマパークみたいだね。頭の中を覗いているような気分になる〜。
Y:それぞれのシナリオがまた面白いよね。手紙は、杉本さんの知人に直筆で書いてもらっているんだって。参加している人も豪華だよね。建築家の磯崎新さんが建築家役を代筆していたり(笑)。
私:展示のセッティングや世界観づくり、手が込んでいるね。
インスタレーションを楽しんだあとは、世界初公開の新作が待っている!ということで2階の展示室へ。今回世界初公開となる<廃墟劇場>は、1970年代から制作している<劇場>が発展した新シリーズ。廃墟と化したアメリカ各地の劇場で、杉本氏自らスクリーンを張り直して映画を投影し、上映一本分の光量で長時間露光した作品です。
〈廃墟劇場〉2015(展示風景)©Sugimoto Studio
2人:ウワァ〜!
と、思わず声が出てしまうくらいカッコイイ作品。杉本氏の作品は、図録や雑誌、WEBサイトなどでは何度も見ていたけれど、オリジナルプリントの破壊力は凄まじいです。
私:すごすぎる……。ほんとにカッコイイね!
Y:廃墟の劇場に実際に足を踏み入れたような臨場感があるよね。近寄ってみても、画像のキメが荒れた感じもないし。劇場シリーズもそうだけど、映画まるまる1本を上映しているあいだ、ずっと撮影して1枚の作品になっているんだって。この、朽ちた屋根の隙間から射し込むやわらかい自然光とかすごすぎる。
私:ほんとだね! どうやって撮っているんだろうねぇ。
作品は、大型カメラでフィルム撮影し、「ゼラチン・シルバー・プリント」という精度の高いプリント技術によって仕上げられたのだそう。ほんとうに細かい部分まできれいに見えるのはそれがヒミツなんですね。
Y:上映している映画の説明を読むと、また見方が変わるよね。これは、黒澤明監督の『羅生門』、あっちはディズニーの『白雪姫』だって。
私:ほんとだ! 映画の解説もわかりやすいね。杉本さんはどんな気持ちでこの劇場には、この映画、って選んでいったんだろうね。
映画の解説文の下には、古典からの一説や杉本氏のコメントが書かれていて、それがまたいい感じ。
杉本博司《パラマウント・シアター、ニューアーク》(スタンリー・クレーマー『渚にて』1959)2015年、ゼラチン・シルバー・プリント ©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery koyanagi
例えば、スタンリー・クレーマー『渚にて』の解説の下にはこんな言葉が。
「たけき者も遂にはほろびぬ ひとえに風の前の塵に同じ」
それぞれの劇場で上映されている作品と、杉本氏の選んだ言葉からは「世界の終わり」「諸行無常」感がたっぷり漂っている気がしました。
〈仏の海〉1995(展示風景)©Sugimoto Studio
廃墟劇場シリーズの部屋を抜けると、ズラーッと並んだ仏様の写真が。
Y:これは京都の三十三間堂の千手観音を撮影した作品なんだよ。1995年に撮影されたものだから結構前のものだけど。
展覧会をみたあとはお昼にすることに。その前に、彼の提案でミュージアム・ショップでお気に入りのポストカードを買って、お互いに交換することにしました。真剣にポストカードを選ぶ彼の姿を横目に、お互いに見えないようにポストカードをゲット。
ちょうど、リニューアルに伴って美術館の1階にカフェ『メゾン・イチ』がオープンしたというので行ってみることに。サンドイッチやキッシュ・デリが人気とのことで、ランチはパンがおかわり自由なのだとか。私達はサーモンのサラダランチをチョイス! おそろいだ〜♡
自家製サーモンマリネのシーザーサラダ(自家製パン付き)/1,000円(税別)
私:おしゃれだね! テンションあがる!
Y:しかもパンすごく美味しい! なんか食べたことある味だなぁって思ったら、恵比寿で時々買いに行くパン屋さんのカフェだった(笑)!
私:え〜普段からおしゃれな食事なんだね!料理とかするの?
Y:うん、するよ。得意料理はカルボナーラとフレンチトースト!
私:女子力高い! 私負けてるかも……。
Y:君が料理できなくても、僕が作ってあげるよ〜。
なんて、さらりと見せる女子力(ほんとは男子だけど)にかなり胸キュン。
Y:あっ、そうだ! 彼女ができたら、アレやってみたかったんだよ〜。
私:アレ?
Y:そうそう、ほら、あ〜ん。
……言うまでもなくキュン死に寸前でした。
そして、いよいよミュージアムショップでお互いに見えないように買ったポストカードの交換タイム!
彼が選んだのは、杉本博司さんのジオラマシリーズで動物が沢山の作品。動物好きの彼らしいチョイスです。私が選んだ廃墟劇場の写真も、すっごく喜んでくれました。
そんな楽しいランチのあとは、ガーデンプレイスのパブリックアートで遊びつつ、ギャラリーと本屋さんが一緒になったオシャレスポットNADiff A/P/A/R/Tへ。彼も画集などをみにちょくちょく来るのだとか。
まずは2~3FのギャラリーMEMへ。今はなかなか見るチャンスのない森村泰昌氏の初期の作品が展示されています。
私:森村さんって写真も撮るんだね。
Y:80年代の作品で、今知られている絵画の登場人物になりきるシリーズよりも前につくられていたものらしいよ。東京で、展示は今回始めてなんだって!
テーブルの上で小さな世界を幾何学的な美しさでみせる作品や、サイコロを積み上げたものを一升瓶越しに写真に納め、それを2007年にデータ処理して3Dプリンタで出力したオブジェなどはじめて見る作品ばかりです。
1900年代以降の作品も2階に展示されています。星男が街をさまよっていくというシリーズ(頭の後ろが星型に刈り上げられています)や、森村氏の考える女優像の作品たちなど。今回はマンレイに関する作品を中心に選ばれているのだとか。
Y:ずっとみていると手にみえなくなってくるね。
私:なめらかな動きや細長い指……なんだか女性の手みたいだけど、森村さんご本人の手なんだってね。きれいな手だなぁ。
Y:森村さんは手というモチーフがとても好きらしく、有名な絵画に描かれた人物の手だけを真似るシリーズもやっているくらいなんだよ。
1階の本屋さんには、今回の展示にちなんだ関連書籍や過去の図録のコーナーも。森村さんご本人イチオシの推薦図書もあるので、展示をみたあとも楽しめちゃいます。
私:楽しかったね。大満足!
Y:ほんと、僕も恵比寿に住んでいるけれど今日は色々新しい発見があった気がするよ。やっぱりデート相手がいいからかなっ?(笑)
なんて嬉しいことを言ってくれるんだろう!とまたキュンキュンしていると……
Y:喉も乾いたし、ビールでも飲みに行こうか?
という嬉しいお誘いが。まだ付き合って数日だけれど、彼のいいところや新しい発見があったアートデートでした!
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そんなこんなで盛りだくさんだった「深くて新しい」恵比寿アートデート、いかがでしたか? 東京都写真美術館で開催中の杉本博司展は、すっごく良かったので筆者もこっそり既に2回訪問しています。2Fの新作<廃墟劇場>は中でもおすすめ。みなさん、アートデートでぜひいってみてください♡
出演=山脇紘資 写真=大野要介 文=新井まる
後期 10月4日(火) – 11月6日(日)
第二部 彷徨える星男 MEM(2F) 9月2日(金) – 10月2日(日)
第三部 銀幕からの便り NADiff Gallery (B1F) 9月2日(金) – 10月10日(月・祝日)
open hours|12:00-20:00
closed | 月曜休廊 [月曜祝日の場合は翌日休廊]
tel | 03-6459-3205
山脇紘資(Kosuke YAMAWAKI )
1985年千葉県生まれ。東京在住。2012年 武蔵野美術大学油絵学科卒業 2014年 東京芸術大学院美術研究科絵画専攻第七研究室修了。国内や北京ら上海などで展覧会を多数開催。
BEYOND THE BORDER ,Tangram Art Center (上海・SHANGHAI)の展覧会では世界的に活躍するZhou TiehaiやZhang Enliや、オノデラユキ、高野隆大、石内都、辰野登恵子らと展示を行う。
村上隆が主催するGEISAIでスカウト審査員賞受賞、アウトレンジ銀メダル、武蔵野美術大学優秀賞など、多数の賞も獲得している。
またペインターの傍ら自身のバンドハグレヤギでvo,gを担当。2012年にCD「ハグレヤギ e.p」で全国デビュー。ギャラリーにて自身の絵画をその場で81枚にカットし、自身のバンドのCDジャケットとして使用し販売。即完売する。