良知真次、栗原類らがトニー賞受賞作品に挑む! 日本初演『Take me out』稽古場レポート
2003年のトニー賞で作品賞と助演男優賞を受賞した『Take me out』が、2016年12月9日より、日本で初上演されることになった。翻訳は新国立劇場の次期芸術監督に就任が決定している小川絵梨子、演出はニナガワスタジオで12年間のキャリアを積み『ジャージー・ボーイズ』などで注目を集める藤田俊太郎。そんな強力なタッグのもと、数多くのミュージカルに出演している良知真次や、バラエティやモデルなど活動の幅を広げる栗原類ら個性派俳優たち11人が、日本初上陸作品に挑む。11月下旬、白熱の稽古場を取材した。
舞台は架空のメジャーリーグチーム
『Take me out』の舞台は、架空のメジャーリーグ・チーム。球場内のロッカールームという閉鎖的な空間で繰り広げられるコメディーだ。コメディーとは言っても、アメリカン・ジョークが散りばめられているばかりではなく、人種差別、同性愛など社会的な問題の実情にもスポットを当てており、コミカルな要素とシニカルな要素が巧妙に混ざり合う作品となっている。演出の藤田は、直近のアメリカ大統領選を挙げ、「いろいろな現実や時代と重なりすぎていて、素直に笑えないシーンがあるかもしれません」と語る。
お借りした台本をパラパラとめくっていると、誰からともなく、稽古場でキャッチボールが始まった。野球経験があるという章平(ダレン・レミング役)が、投手役を務める栗原(シェーン・マンギット役)に、ボールの握り方や投球フォームを教えていた。硬式球なのだろう。たしかに、練習をしないと投げるのも難しそうだ。「ナイスピッチング!」「ピッチャーっぽくなってきたな」。稽古場全体で声をかけあう。まるで野球部の練習のように、和気藹々とした雰囲気が漂っていた。
稽古は、野球の試合の場面から始まった。語り部を務める味方良介(キッピー・サンダーストーム役)の台詞とSE(劇中音響効果)に合わせて、俳優陣が一つ一つの動きを確認してゆく。今回の舞台装置は、中央にステージを設け、挟むように客席を配置している。つまり、観客は2方向からステージを観る仕組みになる。そのため、試合のシーンひとつを取っても、あっちを見たり、こっちを見たり、と忙しい。俳優陣の動きは細かく計算され、観客を飽きさせない工夫がされていた。
劇中に流れる曲も、気分を盛り上げてくれた。ほとんど舞台上に出続けたままの俳優たちによる「生着替え」も、ロッカールームが舞台ゆえの、見どころの一つだ。ちなみに、観劇に際して野球の知識がなくても大丈夫だ。その場にいるような臨場感と繰り広げられる人間ドラマをただただ目撃できるはずだから。
緻密な演出と、それに応える俳優陣
物語の中盤からラストまでを通す。目を引いたのは、良知だった。キャリアを着実に積んで来ている良知だが、今回の良知は、一味違った。チームの会計士を務めるメイソン・マーゼックというLGBT(性的少数者)の役を演じているのだが、とにかく、可愛いのだ。周りの俳優陣の体つきに比べて線が細いせいかもしれないが、甘いルックスも相まって、可愛さが炸裂する。衣装も着ていないし、化粧もしていないのに、なぜあんなに可愛いのか。なかなかに難しい役どころだが、俳優としての新たな一面を垣間見た気がした。
章平の全力投球でありながらどこか繊細な演技もいい。栗原は、特に物語の終盤で見応えのある集中力を発揮し、異彩を放つ。Spi(デイビー・バトル役)や田中茂弘(スキッパー役)も、落ち着いた雰囲気で場を引き締める存在だった。
俳優の力量もさることながら、やはり藤田の演出が鋭いのだ。口調はあくまで柔らかいのだが、的確で含蓄のある言葉を巧みに使って、俳優たちの個性を引き出す。時に俳優をコロスに仕立てたり、時に歩き方だけで感情を表現させたり。藤田の要求水準は確かに高いが、俳優たちも藤田を信頼し、それに見事に応えていた。
約2時間の稽古場取材で、十分に順調な仕上がりを感じた。だが、おそらく貪欲な俳優陣たちは初日までにもっと高めてくれるだろうなとも感じた。いずれにせよ、日本初演にふさわしい舞台になると期待している。
(取材・文:五月女菜穂)
<東京公演>
■日時:2016年12月9日(金)~21日(水)
■会場:DDD青山クロスシアター
<兵庫公演>
■日時:2016年12月23日(金)~24日(土)
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
■翻訳:小川絵梨子
■演出:藤田俊太郎
■出演:良知真次、栗原類、多和田秀弥、味方良介、小柳心、渋谷謙人、Spi、章平、吉田健悟、竪山隼太・田中茂弘
■公式サイト:http://www.takemeout-stage.com/