若手シンガーソングライター&作家両方で注目される男『エンタメの今に切り込む新企画【ザ・プロデューサーズ】第十四回・森大輔氏』
ザ・プロデューサーズ/第14回森大輔氏
編集長として”エンタメ総合メディア”として様々なジャンルの情報を発信していく中で、どうしても話を聞きたい人たちがいた。それは”エンタメを動かしている人たち”だ。それは、例えばプロデューサーという立場であったり、事務所の代表、マネージャー、作家、エンタメを提供する協会の理事、クリエイターなどなど。すべてのエンタメには”仕掛け人”がおり、様々な突出した才能を持つアーティストやクリエイターを世に広め、認知させ、楽しませ、そしてシーンを作ってきた人たちが確実に存在する。SPICEでも日々紹介しているようなミュージシャンや役者やアスリートなどが世に知られ、躍動するその裏側で、全く別の種類の才能でもってシーンを支える人たちに焦点をあてた企画。
それが「The Producers(ザ・プロデューサーズ)」だ。編集長秤谷が、今話を聞きたい人にとにかく聞きたいことを聴きまくるインタビュー。そして現在のシーンを、裏側を聞き出す企画。
圧倒的歌唱力と心地の良いR&Bサウンドで、頭角をあらわすシンガーソングライターでありながら、Kinki KidsやEXILE ATSUSHIなど幅広い楽曲の提供を行うサウンドプロデューサーでもある森大輔氏を直撃した。
ザ・プロデューサーズ/第14回森大輔氏
――ピアノ少年だった森さんがブラックミュージックと出会ったきっかけは?
スティーヴィー・ワンダーです。TVCMで「Isn’t She Lovely」を聴いて、歌というものに初めて感激をしました。それまではピアノをやっていた事もあって、楽器のメロディとかサウンドに対するセンサーは働いていましたが、歌にはあまり興味がなく、でも「Isn’t~」を聴いてすぐスティーヴィーのベスト盤を買いに行きました。そこからダニー・ハサウェイとかニューソウルのアーティストに広がっていった感じです。
――プロでやっていこうと思ったきっかけを教えていただけますか?
明確にあったわけではありませんが、根拠のない自信があったんですよね、当時は。「こんなにいい曲が書けるんだから天職だろう」と(笑)。自分の生きた証をそうやって形に残せるという事は、自分のライフワークだと思っていましたし、自分が年を取った時に、やっぱりデビューしたかったなと思って死にたくないと考えていました。
――大学卒業後は就職しようと思わなかったですか?
大学が音楽系の学科だったので、大学に行って学びたい事を学ぶ、やりたい事をやる4年間にしようと思っていたので、4年後の事は考えずに音楽に没頭していました。
――音楽と自分に対して、すごく純粋ですよね。
よく言うとそうですが、悪く言うとアホですよね(笑)。僕がいた学部が元々教育学部だったので、教員になる人も多かったのですが、僕は音楽の勉強はやりたかったけど、先生になるのはちょっと違うなと思っていました。出たい授業だけ出席して、あとは家でずっと曲を作っていました。向こう見ずでしたが、その時その時でやりたい事に正直であったのはよかったと思っています。
――今の事務所にデモテープを送った事がデビューのきっかけになりました。
事務所の先輩の久保田利伸さんの当時は一ファンで、デモテープを送ったら聴いてもらえるかなと思い、デモテープオーディションを受けました。それで合格の返事をもらい、そこからワーナーミュージックからデビューするまで2年間は、デモテープ作りや、色々なアーティストとレコーディングしたり、ライブにコーラスで出演したりして、経験を積み、自信満々でデビューしました(笑)。
――J-R&Bという言葉が出てきて、ブラックミュージックをサウンドに取り入れたアーティストが増えてきている中で、森さんが作る曲、歌は、より本格派が登場したという強烈な印象が残っています。
自分ではあまりカテゴリーやジャンルは気にしていませんでした。今もそうですが、それが自分の中で楽しさを保つ秘訣なのかもしれません。流行とかファッションとしての音楽は、僕の中では核心ではなくて、後からついてくるもので、音楽に対する魅力や醍醐味が、まずあった上での枝葉の部分として考えています。もしかすると流行を念頭に、オシャレな音楽をやりたい、最先端の音楽をやりたいという事が核になっている方が、この業界では仕事がしやすいのかもしれないですね。でも僕は音楽が好きでこの仕事を始めたので、その順序を自分の中で逆転させる事はできないです。それを自分らしさという言葉でごまかしながらやっていこうと思っています(笑)。
――デビューから12年ですが、やはり“いい歌”を残しているからこそ、長く続けられるんでしょうね。
アレンジは古っぽい、新しいという感じはあると思いますが、メロディの本質的な部分は実は昔からそんなに変わっていないと思っています。泣きたいとか、刺激で満たして欲しいとか、音楽に対して求められるものが時代によって変わっていると思います。
ザ・プロデューサーズ/第14回森大輔氏
――活動の中で、コンポーザーとして初めて他の人に楽曲提供をしたのはいつですか?
2006年にKinKi Kidsさんに提供した「さよなら」という曲です。それ以降もジャニーズのアーティストには何曲か提供していますが、ジャニーズっぽいものを書こうという意識はなく、逆に先方のディレクターからは、「最近はトラックありきで曲を作る人が多いけど、森君はそうじゃなくて、すごく貴重な存在だと思う」とおっしゃっていただけたりして、勉強になります。
――アイドルだけではなく、色々なアーティストに楽曲を提供していますが、コンポーザーとして曲を書く上で一番大切にしていることを教えて下さい。
この曲は本当に僕だけにしか作れない曲だろうかという事です。採用になった曲以上に、ボツになった曲が多いですが、長い目で見た時に、やっぱり自分が楽しくないとこの仕事は続かないと考えたら、楽しくやり続けるためにはそういうスタンスでいないと、それが自分自身の身を守る手段かなと思います。その人が歌っている姿を想像して曲は作りますが、森大輔が作った意義をどこかに残したいと思っています。
たぶん曲を作っている時に、自分自身が心が動いているのかどうかが判断基準になっていると思います。自分が「ここは絶対グッとくるなぁ」と思う部分が入っていないと、人に聴かせられないと思っているので、そこが情緒を感じる部分なのかなと思います。
――3月に発売した4thアルバム『Music Diner』には、タイトル通り、食堂のメニューのように、森さんの様々な音楽性を味わう事ができます。カッコよくてオシャレで美味しいです。
自分でも和訳して食堂って言ったりしますが、いわゆる食堂というのとはちょっと違うかなと(笑)。日本語でダイナーという時の、レストランじゃないんだけど、ちょっと気取っている感じがしっくりくると思います。
ザ・プロデューサーズ/第14回森大輔氏
――しっとり系、ポップな感じのもの、色々な曲があって、満足度が高くてちょうどいい感じでおなかを満たしてくれるダイナーです。
ライブのために書いた曲が多いからだと思います。ライブに毎回足を運んでくれるお客さん、初めて来てくれたお客さん、そのどちらも満足させたいと思い、ライブが始まってみたら、「あ、こんな曲を今回書いたんだ」とビックリもさせたくて、色々な曲を詰め込んだ感じです。
――森さんのライブシリーズ「森の音楽会」は、もっとライブがやりたいという想いから生まれて、アルバムをリリースしてライブ、という既成の考え方ではなく、より森大輔というアーティストを伝える手段になっていますね。
音楽業界も含めての周りの状況もあって、数年前に活動の軸をライブに変えました。今の時代の音楽の聴かれ方を考えると、そういうやり方の方が、むしろ色々な人の耳に届くと思いました。毎回ライブのテーマを決めて、内容、演出も考えるのと同時に新曲も作らなければいけないので、やることが多くて大変ではありますが、その分やりがいもあります。デビューしてからやってきたライブは、スタジオで作品を作って、リリースした以上はライブをやらないといけないという必要に駆られてやっていた感じでした。ライブに、スタジオで曲を作っている時と同じ気持ちで臨んでいたので、とにかくハイクオリティなライブを作らなければと思い、自分で自分の首を絞めていた気がします。だからライブの事を考えると、気が重くなっていた時期もありました。
――こだわりにこだわったライブは、お客さんにとっては満足度が高かったと思います。
そうであって欲しいです。でもライブをやっている時の自分の気持ちが変わったなと思うのは、むしろライブに向けての準備やリハーサルにかける時間が増えていて、昔はとにかく音源を再現する事しか考えていなくて、それ以上の創意工夫をライブについて考えていませんでした。ライブとレコーディングは別物だなと思えるようになってからは、ライブでオリジナル曲との距離感を計るのは、曲によっては必要ですけど、あまり神経質になるのはやめようと。そうすると準備は大変になりましたが、本番での自分自身の解放感みたいなものが、全然違います。本番が始まった瞬間に、これだけ準備はしたけど、それを一回忘れようという吹っ切れる感じというか、ある種開き直れるというか。ここからの2時間で起こることは、今日限りの事だから何が起きても楽しくやろうと思えるようになりました。
――そういう考えに至る大きな理由はなんだったのですか?
2年以上、人前で歌わない時期があって、その間もデモテープを作ったり、レコーディングはやっていましたが、ライブというものがなくなった時に自分の中で枯渇感が出てきました。やっぱり人前で歌いたかったんだなということを、自分自身で再確認できて、そこから「森の音楽会」へとつながっていきました。
――リリースしてライブ、という事を続けなければいけないし、その流れの中でいったん止まって考えたいし、振り返りたいんだけど、振り返ってはいけないんじゃないかという想いもあったと思います。でも振り返る事が必要だったということですよね。
そう思います。自分自身振り返る事は悪だと思っていたので、でもそうじゃないんだなというのは、休まなければわからなかったんですよね。
ザ・プロデューサーズ/第14回森大輔氏
――その結果「森の音楽会」という自身が一番楽しめて、イコールお客さんも楽しめる素晴らしい企画がスタートし、恒例になりましたね。
人によっては、ライブの中で定番になるものがあった方がいいんじゃないかと言う人もいますが、「森の音楽会」を始めた時からとにかく外に向いたライブにしたいという気持ちが強くて、なんの情報を持たずに来た人でも、終わった時に「楽しかった」と思ってもらえるライブにしたいです。「友達に連れられて初めて来ましたが楽しかったです」と言われると、満足感というか達成感を感じます。
――「森の音楽会」は12月に9回目が行われますが、ファン層は変わってきていますか?
始めた頃はほぼ女性でしたが、最近は一人で来てくれる男性のお客さんも増えてきています。一人で来てくれて、しかも踊ってくれているのを見ると嬉しくなります。
――森さんが、他のアーティストに提供した楽曲を聴いて、森さんに興味を持った人もいると思います。そして音楽好き、音にうるさい男性ファンは、森さんのアルバムにはビビッドに反応すると思いますし、ライブに行きたいと思うのもわかります。コーラス部分とかは同期を使ったりしているんですか?
そうですね。そういう人が足を運ぶ先として、コンスタントにライブをやっている意味があると思います。同期は使っていなくて、それこそ曲によっては同期を使った方がいいと言ってくれる人もいますが、出所がわからない音は出したくないんです。僕だけかもしれませんが、いないはずのバイオリンの音が聴こえてくるのはちょっと……。今はそういうのが当たり前になっていますが、僕は使えないです。
ザ・プロデューサーズ/第14回森大輔氏
――逆に森さんの作品を聴いていると、これをどうやってライブでやるんだろうと行って確かめたくなります(笑)
編成の多い少ないにかかわらず、そこが醍醐味になってくれるといいなと毎回思っています。
――今の音楽シーンは森さんの目にはどう映っていますか?
周りの状況に柔軟に合わせてやっていこうとは思っていますが、ただ聴き手の趣味が細分化している分、場所を正しく選びさえすれば、作る側も遠慮なく正直な作品を作って、発表できる時代がもっと加速していくと思っています。時代に添えているか、自分が生きやすい時代かどうかは別で、自分自身の好きな音楽を追及し続ける事が、長くやっていく方法だと思います。
ザ・プロデューサーズ/第14回森大輔氏
企画・編集=秤谷建一郎 取材・文=田中久勝 写真=三輪斉史
2016年12月2日(金)
duo MUSIC EXCHANGE(渋谷)
全自由 ¥4,000
18:30 開場 / 19:00 開演
2016年12月4日(日)
福岡ROOMS
17:00 開演
大阪府生まれ。シンガーソングライター。