大谷康子(ヴァイオリン) 10年がかりの新たなプロジェクトに挑戦
大谷康子 ©尾形正茂
昨年デビュー40周年を迎えた大谷康子は、ソリストに専念する新たな音楽人生を歩み始めた。
「通常のコンサートに加えて、病院や施設・被災地への訪問演奏、レッスンや講習会・レクチャー、国際交流など、ヴァイオリンでできる活動で考えられることはほとんど行ってきたという確信があります。3歳でこの楽器と出会い、様々な様式の素晴らしい作品を演奏してきたこと、そして音楽で自分を表現しながらたくさんの素敵な方と知り合えたことが、人間大好きの私には何より嬉しく、そのことに改めて感謝したいですね」
4月からBSジャパンで放送が始まった『おんがく交差点』でも、春風亭小朝との絶妙な司会ぶりや演奏コーナー、多彩なゲストとのコラボ演奏で視聴者を楽しませている。そんな彼女の次なる挑戦は、同番組の収録場所でもあるHakuju Hallを舞台にした10年がかり全10回の壮大なプロジェクト『大谷康子のヴァイオリン賛歌』だ。
「今まで音楽に対して抱いてきた情熱、つまりは“私の宝物”を聴衆の皆さんと共に分かち合い、音楽でその一体感の輪を外に向かって大きく広げていきたい…という昔からの夢を叶えるためのスペシャルな企画です」
12月に予定されている記念すべき第1回目のテーマは〈尊敬〉。J.S.バッハの無伴奏曲「シャコンヌ」から、ベートーヴェンの第7番とブラームスの第3番のソナタを経て、バルトーク「ルーマニア民俗舞曲」に至る、“頭文字B”の偉大な作曲家の作品が集められている。ピアニストの練木繁夫との共演も楽しみだ。
「先ずは尊敬してやまない、西洋音楽の偉大な先達たちと向き合うところから始めたいのです。原点回帰の意味でも、学生時代の愛奏曲をベースにしました」
シリーズはその後、ツィゴイネルワイゼンを中心にロマの音楽を巡る第2回〈敬愛〉、ロマン派の巨匠たちが織りなす第3回〈愛〉、愛弟子たちとの共演で紡ぐ第4回〈愛情〉、そして得意のタンゴや映画音楽で魅せる第5回〈情熱〉と続いていく。
「第6回以降はレクチャーコンサートの回、日本の作曲家を集めた回、明日のスターを夢みる幼稚園や小学生の子どもたちと共演する回なども企画しています。そして最後の第10回は、音楽の力で民族や国境を越え“世界中を仲良くひとつに”をテーマにしてフィナーレを飾りたい。10年後の経済や社会情勢がどう変わっているかはわかりませんが、たとえどのような状況下にあっても人々に音楽が必要だということは、あの東日本大震災後の演奏経験から確信しています。全体を通して見えてくるものもあると思いますし、10回でひとつのメッセージだと考えています。10年間という長丁場ではありますが、聴衆の皆様と『音楽の力』を信じて一緒に創りあげていきましょう」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ 2016年11月号から)
12/10(土)15:00
Hakuju Hall
問合せ:Hakuju Hall センター03-5478-8700
http://www.hakujuhall.jp