一瞬たりとも目が離せない緊張感あふれるサスペンス。直人と倉持の会Vol.2『磁場』開幕!

レポート
舞台
2016.12.12


俳優竹中直人と作・演出家倉持裕がタッグを組む直人と倉持の会、その第2弾となる『磁場』が、本多劇場で12月11日から上演中だ。(25日まで。そののち来年1月21日まで、大阪、島根、名古屋、神奈川と巡演)

2013年12月に行われた直人と倉持の会の第1回『夜更かしの女たち』は、ペンギンプルペイルパイルズの主宰で作・演出でもある倉持裕の作る研ぎ澄まされた上質なストーリーと、コメディからシリアスまで幅広く演じる演技派の竹中直人が、ぶつかり合い火花をちらした傑作だった。そして、満を持しての第2弾となる今回の『磁場』は、とあるホテルのスイートルームを舞台にした心理サスペンス劇。

共演陣は、渡部豪太、大空祐飛、長谷川朝晴、黒田大輔、玉置孝匡、菅原永二、田口トモロヲと一癖も二癖もある俳優たちが、竹中の脇を固めている。

【あらすじ】

ある劇団の脚本を務めている柳井(渡部豪太)は、小さな演劇脚本賞の受賞をきっかけに映画のシナリオの執筆を依頼される。そして執筆のために高級ホテルのスイートルームに缶詰にされ、プロデューサーの飯室(長谷川朝晴)と監督の黒須(田口トモロヲ)と打ち合わせをしている。映画の題材は第二次世界大戦前後に活躍した日系アメリカ人の芸術家、マコト・ヒライだという。

意気揚々と映画作りに燃える3人。すると、スポンサーの大富豪であるマコト・ヒライの大ファンを自認する加賀谷(竹中直人)と彼の秘書である赤沢(菅原永二)がやってきて、脚本の進捗状況を確認し始めるようになる。初めは柳井の才能に惚れ込んだ加賀谷だが、脚本の出来上がりが遅くなるにつれ、確認の執拗さはだんだんすごさを増して、柳井、飯室、黒須を悩ませ始める。

しまいには、加賀谷の秘蔵っ子であるという椿(大空祐飛)という謎の女優をつれて、マコト・ヒライの母親役を演じさせろと懐柔してくる。柳井は次第に狂気に冒され自分を見失い始め、ますます筆が進まなくなり、最後には劇団の先輩である姫野(黒田大輔)をアシスタントとして引っ張ってくるのだが、事態はますます混乱して……。

開演前のSEからすでに舞台は始まっている。インドネシアのガムランのようなエキゾチックな打楽器の音楽が劇場を異空間につれていく。暗転しノイズをスピーカーからわめき散らし、光の渦に包まれ舞台が開けると、そこは名前もわからない高級なホテルの一室だ。 

そこに名前すらない(登場人物はみな苗字だけだ)人物がやってくる。話していることもとある映画(マコト・ヒライすら誰だかわからない)を作ろうとする3人。彼らに映画を作れと迫る謎の出資者。

まるで不条理劇のように、何でもない、どこでもない、どうしてもない、誰でもない、何日もない、時間の経過の概念だけが舞台奥のライトの加減でうっすらとだけわかる舞台。ただはっきりとわかっているのは、映画の脚本を書くという行為だけだ。

さらに、どういうわけか、ホテルの客室係の時田(玉置孝匡)は、ホテルのオーナーと労使協定を結ぼうとしている。そんなわけもわからない空間に投げ出され、観客はただ脚本を仕上げるということに意識を集中させるだけだ。そこには倉持の仕掛けがあるような気がする。「脚本を書く」という行為のみに集中させることで、劇場に流れる意識は爆発寸前の風船のようになって、そこからは、誰が引き金になって爆発させるのかわからないまま、緊迫した会話劇が続いて、観客をグイグイ『磁場』の世界に引っ張っていく。

注目すべきはやはり竹中直人の演技だろう。細かい手の振りやステップ、表情の変化は、竹中の特徴だと思うが、ここでもそれは存分に生かされていて、緊張感の中にそっと笑いが差し込まれる。逆に、脚本ができないで苛立ち、秘書をステッキで殴るシーンは思わず現実に起こっているような気がしてしまうほど迫力があった。

脚本が書けないでもがき苦しむ柳井の渡部豪太の演技も見逃せない。執筆は出資者のためなのか、映画を観客に届けるためなのか、どうしていいのかわからず堂々巡りを繰り返し、長髪の髪をボサボサにしたり、後ろにまとめたりと外見の変化も使って苦悩していく姿は圧巻だった。そしてその姿には、劇団所属の脚本家という設定もあって、作者である倉持の姿がうっすらと浮かんでいる。

さらに、謎の女優・椿の宝塚出身の大空祐飛も素晴らしかった。加賀谷に飼い慣らされることに嫌気がさして不機嫌になっている様子を表情に出したかと思えば、ワインを飲む仕草や、酔っ払って苦悩する柳井に体を預けるシーンは、すらりとした体躯とあいまってとても妖艶で美しい。<

監督の黒須役の田口トモロヲは、加賀谷の提案に抗う唯一のキャラクターを演じていた。最後まで加賀谷に従ってしまう、あるいは従わなければならないキャラクターが多い中で、孤高の戦士を演じていて、たとえどんな要求でも戦う覚悟と凛とした佇まいがひしひしと感じられて、彼の孤独を滲ませた背中に、思わず応援したくなるほど。

逆に加賀谷の秘書・赤沢の菅原は、実直なまでに加賀谷に従う秘書役を熱演。どんなに虐げられていても、どうしても付き従ってしまう従順なキャラクターで、「そこまでしなくても」と思わず涙が出るほどで、現代のサラリーマンのどんなことがあっても上司の命令に従うことの悲哀を感じさせてくれた。

ホテルの客室係・時田の玉置置孝匡は、いつも制服の色や形を気にしていて、それはオーナーのせいだと嘆き、せわしなくコミカルに動く様子で笑いを誘う。柳井のアシスタント・姫野役の黒田大輔は、ルーズで適当なのに、どこか隅のおけない人間を感じさせる。

そんな役者たちが緊迫した会話劇の中で、的確に役を演じ、チームワークよく物語を進め、それぞれが見事にハマっているのだ。とにかくこの竹中・倉本ワールドの面白さは、劇場で体感するしかない。ぜひ本多劇場の空間で、今まさに割れんばかりの風船が目の前にあるような、緊張感のあるサスペンスを味わっていただきたい。

【囲みインタビュー】

大空祐飛、田口トモロヲ、竹中直人、渡部豪太

大空祐飛、田口トモロヲ、竹中直人、渡部豪太

この『磁場』の公開舞台稽古と囲みインタビューが、初日前日に行われ、座長の竹中直人をはじめ、渡部豪太、大空祐飛、田口トモロヲが登壇した。

竹中直人

倉持さんと素敵な俳優さんたちが集まってくださって、みんなで一生懸命頑張っていきたいと思います。今回もこちらからアイデアは出さないで、倉持さんにお任せしています。倉持さんとは3年ぶりですが、生瀬勝久さんとの「竹生企画」による『ブロッケンの妖怪』『ヴィラ・グランデ 青山~返り討ちの日曜日~』を入れれば、これで4回目になるんですよね。今回はかなり怖いことがどんどん重なっていく脚本の構造になっています。日常で精神的に追い込まれることはあまりないですが、衣装合わせでは、田口さんがジージャンを着るかどうかで追い込まれて、セットの隅で座って考え込んでいました(笑)。とにかく、私たちが一緒に作った直人と倉持の会vol.2『磁場』。ぜひ皆さん観に来てください。

渡部豪太

とある映画を撮ることになることになり、その脚本の執筆を依頼される脚本家・柳井を演じます。舞台はサスペンスですが、座長の竹中さんは皆さんを引っ張ってくださって、とても優しくて温かかったです。プライベートでも温かいですよ。2016年から2017年の1月21日まで、『磁場』とともにいるので、このまま年が終わるという感覚があまりないですね(笑)。

田口トモロヲ

映画監督の黒須役です。竹中直人さんとの共演は20年ぶりぐらいですが、僕も含めて歳をとりましたね(笑)。確かに、衣装さんがジージャンを着せたがるんですよね。それで追い詰められたりしましたが、竹中さんが監督役にジージャンは違うとおっしゃったおかげで助かりました(笑)。

大空祐飛

謎の大富豪の加賀谷にお世話になっている女優・椿です。素晴らしい俳優さんばかりなので、稽古場の日々が楽しいだけじゃなくて、刺激的で、1日1秒たりとも無駄にしたくなかったです。竹中さんは、お芝居同様すごく優しくしてくださって、役と重なっています。2016年はあっという間でしたが、『磁場』が今年最後の舞台になるので、この舞台とともに年越しをして、来年も良い1年にしたいなと思います。

大空祐飛、田口トモロヲ、竹中直人、渡部豪太

大空祐飛、田口トモロヲ、竹中直人、渡部豪太

【取材・文・撮影/竹下力】

公演情報
直人と倉持の会 vol.2『磁場』

◆作・演出:倉持裕
◆出演:竹中直人、渡部豪太、大空祐飛、長谷川朝晴、黒田大輔、玉木孝匡、菅原永二、田口トモロヲ

<東京公演>
◆日程:2016年12月11日(日)~12月25日(日)
◆会場:本多劇場
料金:6500円[全席指定]
一般発売:2016年10月8日(土)~

<大阪公演>
◆日程:2017年1月15日(日) 
◆会場:サンケイホールブリーゼ
料金:7000円[全席指定]
一般発売:2016年10月8日(土) ~

※他に島根、愛知、神奈川公演あり

◆公式サイト:http://mo-plays.com/jiba/



演劇キック - 宝塚ジャーナル
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