『レ・ミゼラブル』海宝直人・内藤大希・田村良太がマリウス鼎談~マリウスは難しい!~
(左から)内藤大希・海宝直人・田村良太
2015年から務める海宝直人、今年抜擢された内藤大希、そして2013年以来3度目の登板となる田村良太。30周年を迎える今年の『レ・ミゼラブル』でマリウスを演じる3人にインタビュー!
滲み出る「マリウスっぽさ」を大切に
――マリウスを演じる上で大切にしたいと思っていることを、「マリウス歴」の浅い方から順にお伺いできればと思います。今年初めて演じられる、内藤さんからお願いできますか?
内藤 僕、若手の中で今、海宝君がいっちばん上手いと思うんですよ。プライベートでは身近な存在なんですけど、役者として「すごい!」と思うところがたくさんあって。だから今回マリウス役に決まった時は、作品や役の大きさはもちろんですが、そんな海宝君と同じ役という部分でもプレッシャーを感じたんです。
海宝 …何をおっしゃいますか(笑)。
内藤 いや海宝君、マジで上手いから! だから演じる上では、「じゃあ自分には何ができるんだろう、勝負できるのはどこだろう」って、改めて自分と向き合う時間を大切にしたいですね。今はまだ、模索している段階です。
海宝 僕は、前回は必死に食らいついただけという感じで、「もっとこうできたんじゃないか」という思いがあとから湧き上がってきて。だから今回は、前回以上に丁寧に演じることを大切にしたい。マリウスはすごく人間味のあるキャラクターなので、出会いとか失うことによって変わっていく姿、瞬間瞬間の感情や反応を、もっともっとリアルに描き出せればと思っています。
海宝直人
田村 僕は2013年に、全くミュージカルをやったことがない状態でマリウス役に選ばれました。山崎育三郎さんと原田優一君というすごい方々に囲まれて、自分にできるのは、滲み出る「マリウスっぽさ」を持つことじゃないかと思ったんですよね。それが、エイドリアン(・サープル/演出補)が僕を選んでくれた理由でもあるのかもしれないなって。何かに思いっきり情熱を傾けるとか、ひたむきに誰かを想うとか、そういうマリウスの内面は、ストーリーの大切なピースでもあると思います。だからレミゼ中は、歌や芝居の稽古をしっかりやることはもちろん、私生活からマリウスでいることを大切にしたいですね。
海宝 僕も前回の稽古中、エイドリアンから「君を選んだのは君の中にマリウスがいると思ったからだから、もっと真っ直ぐ演じてほしい」と言われたことがあります。良太さんと原田さんの稽古を見ているうちに色んなことを考え過ぎて、迷いが生じてしまったんですよね。マリウスというのはあまり考え過ぎず、自分をそのままぶつけるほうがいい役なのかなと僕も思います。
――つまりエイドリアンさんは、皆さんそれぞれの中に「マリウスっぽさ」を見出して選ばれたということですね。それって、どんな部分だと思われますか?
海宝 僕がその時言われたのは、男っぽさ。マリウスに対して、僕は何と言うか…少女マンガのヒーローみたいなまろやかなイメージを持ってたんですけど(笑)、僕の中にある強さとか熱さを信じて演じてほしいという言葉をいただいて、ひとつ吹っ切れた感じがありました。
田村 海宝君のマリウスは、革命に向かっていく姿に違和感がなくて、確かに男らしいよね。あとは勤勉なところも、マリウスの要素かなって思う。
内藤 僕はね、品! 海宝君ってどんな役をやっても、ズルいなと思っちゃうくらい品があるんですよ。出そうと思って出るものじゃないから、羨ましいです。
内藤大希
田村 僕は多分、海宝君とはまた違う部分を見られていたんだと思います。というのも、エイドリアンから男らしさを求められたことは一切なくて。マリウスが持っているもうひとつの性質である…「お花畑感」というか(笑)、一直線な部分なのかなって思いますね。
内藤 自分にとって大事なこと、興味のある対象が次々に変わっていく、感覚人間っぽいところっていうことだよね? 良太君もそういう感じがするから、すごく分かる。
田村 うん。恋とか革命とか、ベクトルがすぐ変わるんだけど、完全に切り替わってるわけじゃなくグチャグチャしてるような…。それが、僕のマリウスっぽさなのかもしれません。
海宝 というか良太さんはもう、見るからにマリウスですよ(笑)。移動の仕方にまでマリウス感があるなって、僕はいつも思ってます。見ていると、なんだか応援したくなるんですよね。
内藤 確かに。お客さんが感情移入できることって、すごく重要だよね。僕のどこがマリウスっぽいかは…まだエイドリアンに聞いてないから分からない(笑)。どこなんだろう?
田村 分かんないな、マリウスとして見てないから。
海宝 あれ(笑)?
内藤 ひどい(笑)!
田村 あ、ごめんそうじゃなくて(笑)、マリウスを演じてる姿をまだ見てないから。
内藤 そりゃそうです、まだやってないんだから!(笑)
田村 そうか(笑)。でもなんか、マリウスっぽさがあるのは分かるよ。ね?
海宝 はい。僕は大希君の、喋るような、語るような歌い方が大好きなんですよ。ミュージカルの歌って、音楽の壮大さに流されて大味になることがあるけど、大希君は本っ当に細か~いニュアンスまで表現できる。それって『レ・ミゼラブル』には絶対に必要なことだと思うから、大希君のマリウス、すごく楽しみです。エイドリアンがなぜ選んだかは僕には分からないですけど、そういう大希君の歌い方は、日本語が分からなくてもきっと伝わっていたと思います。
内藤 嬉しい! 鳥肌が立ちました。
将来はバルジャン?ジャベール?それとも…
――皆さんそれぞれにマリウスっぽいことがよく分かったので、逆にマリウス役の難しさなんかも聞いてみたくなってきました。
田村 いっぱいあるなあ~。
田村良太
海宝 全体的に難しいですよね、マリウスって。
田村 うん、多分10コぐらい挙げられると思うんだけど、まとめるとどうなるんだろう。
内藤 10コって(笑)!
海宝 じゃあとりあえず、1コ目から行きましょうか(笑)。
田村 まず表面的な部分から行くと、歌にカタルシスがない。アンジョルラスみたいにパーンって歌い切るところがないから、曲の難易度の割には、「あの人歌上手いな」とは思われないと思うんですよ(笑)。
海宝 確かに(笑)。音域がすごく広いわけでもないですしね。
田村 あとはやっぱり…「今こいつ、気持ちどっちなの?」ってとこじゃない(笑)?
海宝 そこですよね(笑)。観てる方に感情移入してもらえるように演じるのが、すごく難しい。でも多分、それには色々な方法があって、それがマリウス役の個性になるんじゃないかな。
内藤 なるほど~。僕がオーディションの時に思ったのは、どこまでが内側の心情で、どこから誰かに向けて歌ってるのかが分からないなって。例えば《心は愛に溢れて》に「溢れゆく/この想い」って歌詞がありますけど、僕が心情だと思って歌ったら、エイドリアンはコゼットに向けた歌詞だって言うんです。《カフェ・ソング》の最初の「言葉にならない」からして、「もう言葉になってるやん」って矛盾もあるし、そのあたりを詰めていくのが難しそうだなと思います。
田村 「溢れゆく」の稽古、面白いよね。やっぱり難易度の高いシーンだから。
海宝 色々試しましたよね。訳の擦り合わせもありますし。
内藤 やっぱりそうなんだ。歌稽古と違って、立ち稽古はきっといかに色んなものを拾って、色んな球を投げられるかだと思うと、これまでの自分が試されるような気がします。ちょっと怖くなってきたけど(笑)、でも楽しみですね。
(左から)内藤大希・海宝直人・田村良太
――では最後に「30周年」にちなんで、もし「30年後」にも『レ・ミゼラブル』が上演されていたら、どんな関わり方をしていたいかを聞かせてください。
田村 うわあ難しい!
海宝 僕はチャレンジしてみたい役、ありますね。
内藤 何、ジャン・バルジャン? ジャベール??
田村 司教とか?
海宝 ああ、司教もやってみたいね! でもやっぱり、夢はバルジャンです。40代か50代くらいでバルジャンをやって、30年後には、卒業してお客さんになっていたいです(笑)。
内藤 僕もバルジャンは大好きな役なんだけど、僕には向いていないと思うから、テナルディエがやりたいです。で、そのあとに『ミス・サイゴン』のエンジニアをやりたい。舞台の世界は厳しくて、来年どうなっているかも分からないですけど(笑)、30年後ももしミュージカルと関わっていられたらぜひやりたいですね。
田村 僕は、自分の関わり方とはちょっと違う話になっちゃうんですけど…。世界が全然変わって、観ててもピンと来ないシーンが増えてるといいなと思いますね。ヴィクトル・ユゴーがこの小説を書いてから今まで、この作品のテーマがまだ心に刺さるのは、まだまだ「ミゼラブルな人々」が多いから。60周年の時には「ああこの感覚、懐かしい」って思われるぐらい、世の中が変わってたらいいなと思います。
(左から)内藤大希・海宝直人・田村良太
取材・文:町田麻子 写真撮影:原地達浩
■原作:ヴィクトル・ユゴー
■作詞:ハーバート・クレッツマー
■オリジナル・プロダクション製作:キャメロン・マッキントッシュ
■演出:ローレンス・コナー/ジェームズ・パウエル
■翻訳:酒井洋子
■訳詞:岩谷時子
■プロデューサー:田口豪孝/坂本義和
■製作:東宝
■公式サイト:http://www.tohostage.com/lesmiserables/
■配役:
ジャン・バルジャン:福井晶一/ヤン・ジュンモ/吉原光夫
ジャベール:川口竜也/吉原光夫/岸祐二
エポニーヌ:昆夏美/唯月ふうか/松原凜子
ファンテーヌ:知念里奈/和音美桜/二宮愛
コゼット:生田絵梨花/清水彩花/小南満佑子
マリウス:海宝直人/内藤大希/田村良太
テナルディエ:駒田一/橋本じゅん/KENTARO
マダム・テナルディエ:森公美子/鈴木ほのか/谷口ゆうな
アンジョルラス:上原理生/上山竜治/相葉裕樹
ほか
■会場:帝国劇場
■日程:2017年5月25日(木)初日~7月17日(月・祝)千穐楽
*プレビュー公演 5月21日(日)~5月24日(水)
■会場:博多座
■日程:2017年8月1日(火)初日~8月26日(土)千穐楽
■会場:フェスティバルホール
■日程:2017年9月2日(土)初日~9月15日(金)千穐楽
■会場:中日劇場
■日程:2017年9月25日(月)初日~10月16日(月)千穐楽
■『レ・ミゼラブル』日本公式サイト http://www.tohostage.com/lesmiserables/