『ティツィアーノとヴェネツィア派展』レポート レンブラント、モネらを魅了した“画家の王者”の傑作が初来日

レポート
アート
2017.1.30
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《ダナエ》1544-46 年頃、ナポリ、カポディモンテ美術館 ©Museo e Real Bosco di Capodimonte per concessione del Ministero dei beni e delle attivita culturali e del turismo

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《ダナエ》1544-46 年頃、ナポリ、カポディモンテ美術館 ©Museo e Real Bosco di Capodimonte per concessione del Ministero dei beni e delle attivita culturali e del turismo

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上野の東京都美術館にて、『ティツィアーノとヴェネツィア派展』(会期:2017年1月21日~4月2日)が開幕した。ティツィアーノの傑作《ダナエ》の初来日を叶えた本展覧会は、日伊国交樹立150周年を記念したもの。ティツィアーノの華々しく長い画歴における技法や作風の変遷を、ヴェネツィア絵画を支えた画家たちの作品とともに辿る内容となっている。一般公開に先駆け開催されたプレス内覧会より、本展の見どころを紹介しよう。

 

“画家の王者” ティツィアーノの影響力を感じる

「ティツィアーノとヴェネツィア派展」エントランス

「ティツィアーノとヴェネツィア派展」エントランス

“画家の王者”とも称される、ヴェネツィア派最大の巨匠・ティツィアーノ。その功績について本展展覧会の監修者である、ジョヴァンニ・カルロ・フェデリコ・ヴィッラ氏(ベルガモ大学教授、キエリカーティ宮絵画館館長)は、「1430年頃にフィレンツェで発明された遠近法に、光、色彩、その他の描写を加えたのがヴェネツィア派だった。フィレンツェ派の絵に比べ、ヴェネツィア派の絵には血、涙、肉が感じられ、温かみがある」と語る。

ジョヴァンニ・カルロ・フェデリコ・ヴィッラ氏(「ティツィアーノとヴェネツィア派展」監修者、ベルガモ大学教授、キエリカーティ宮絵画館館長)

ジョヴァンニ・カルロ・フェデリコ・ヴィッラ氏(「ティツィアーノとヴェネツィア派展」監修者、ベルガモ大学教授、キエリカーティ宮絵画館館長)

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《マグダラのマリア》1567 年、ナポリ、カポディモンテ美術館

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《マグダラのマリア》1567 年、ナポリ、カポディモンテ美術館

ティツィアーノが創り出した技法は、1900年代初めごろまでの数世紀に渡り、西洋絵画の規範としてほぼ変わることなく守られ続けたという。なんでも、ルーベンス、エル・グレコ、ベラスケスもティツィアーノから着想を得たのだとか。時代はさらに進んで、印象派の画家であるマネやモネ、セザンヌでさえ、ティツィアーノの絵を模写して勉強したとされている。

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《教皇パウルス 3 世の肖像》1543 年、ナポリ、カポディモンテ美術館

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《教皇パウルス 3 世の肖像》1543 年、ナポリ、カポディモンテ美術館

ヴィッラ氏は、「フランスの画家・ドラクロアは、『我々は皆、ティツィアーノの血と肉である』という言葉を残している。この展覧会をご覧になった方には『血の通う生き生きとした描写は、ティツィアーノが生み出し、今に引き継がれている』という意味であろうことを、ご理解いただけるはずだ」と締めくくった。

 

もっとも模写された西洋絵画、《フローラ》

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《フローラ》1515 年頃、フィレンツェ、ウフィツィ美術館 © Gabinetto Fotografico del Polo Museale Regionali della Toscana

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《フローラ》1515 年頃、フィレンツェ、ウフィツィ美術館 © Gabinetto Fotografico del Polo Museale Regionali della Toscana

こちらのティツィアーノ作品に描かれた女性は、右手にバラ、スミレ、ジャスミンの花を持っていることから、花の女神・フローラだとされている。ヴィッラ氏によれば、《フローラ》は歴史上もっとも模写された西洋絵画のひとつなのだそう。1800年代の終わり頃、この絵を所有するウフィッツィ美術館には、この絵を模写しようとする画家が日々大勢詰めかけた。その数が一般の観覧者に迷惑がかかるほどになり、当時の館長は『フローラの模写は1日10人まで』というおふれを出さなくてはならなくなったのだとか。

(左)ジョヴァンニ・ベッリーニ《聖母子(フリッツォーニの聖母)》1470年頃、ヴェネツィア、コッレール美術館

(左)ジョヴァンニ・ベッリーニ《聖母子(フリッツォーニの聖母)》1470年頃、ヴェネツィア、コッレール美術館

東京都美術館学芸員の小林明子氏はティツィアーノ作品について、「丹念な色彩の塗り重ねで、柔らかい立体感を表している。ヴェネツィア派が、色調の芸術、色彩の絵画と言われる真意がそこにある」と語る。加えて、「色彩、絵の具の使い方、筆づかい、絵の具の物理的な質感、存在感をみることができるのも本展のおもしろさだ」と展覧会の見どころを強調した。

左から、ティントレットと工房《ヴェネツィア提督の肖像》1570年代、フィレンツェ、ウフィツィ美術館  ヤコポ・ティントレット《ディアナとエンディミオン(もしくはウェヌスとアドニス)》1543-44年、フィレンツェ、ウフィツィ美術館

左から、ティントレットと工房《ヴェネツィア提督の肖像》1570年代、フィレンツェ、ウフィツィ美術館  ヤコポ・ティントレット《ディアナとエンディミオン(もしくはウェヌスとアドニス)》1543-44年、フィレンツェ、ウフィツィ美術館

 

ミケランジェロが嫉妬した色彩

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《ダナエ》1544-46 年頃、ナポリ、カポディモンテ美術館

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《ダナエ》1544-46 年頃、ナポリ、カポディモンテ美術館

《ダナエ》は、ティツィアーノが枢機卿に招かれローマに滞在した時に描いた作品だ。絵のモチーフは、塔に閉じ込められたアルゴス王アクリシオスの娘・ダナエと、彼女と愛を交わすために黄金の雨に姿を変えたユピテル(ギリシャ神話のゼウス)。官能的な神話のワンシーンを切り取っている。カンヴァスの油絵具の厚みや、筆の跡からは、制作時のティツィアーノの視線の動きを想像させられる。本作を見たミケランジェロは、ティツィアーノがもつ色遣いと様式に脱帽し、嫉妬したといわれている。

ヤコポ・ティントレット《レダと白鳥》1551-55 年頃、フィレンツェ、ウフィツィ美術館

ヤコポ・ティントレット《レダと白鳥》1551-55 年頃、フィレンツェ、ウフィツィ美術館

この展示室で《ダナエ》と並んで展示されているのが、ティントレットの初期の代表作《レダと白鳥》だ。スパルタ王の妻・レダに恋をしたユピテルが、今度は姿を白鳥に変え彼女に近づいている。

パオロ・ヴェロネーゼ 《聖家族と聖バルバラ、幼い洗礼者聖ヨハネ》1562-65 年、フィレンツェ、ウフィツィ美術館

パオロ・ヴェロネーゼ 《聖家族と聖バルバラ、幼い洗礼者聖ヨハネ》1562-65 年、フィレンツェ、ウフィツィ美術館

最後の展示室には、円熟期のヴェロネーゼの作品が紹介されている。ヴェロネーゼは、ルーブル美術館で《モナリザ》と向かいあう位置に展示されている特大の絵《カナの婚礼》で知られる画家だ(※2017年1月現在)。ティツィアーノの弟子であり、前掲のティントレットのライバルでもある。

 

バレンタイン、ホワイトデーで訪れたい展覧会

『ティツィアーノとヴェネツィア派展』ミュージアムショップ

『ティツィアーノとヴェネツィア派展』ミュージアムショップ

ミュージアムショップには、本展オリジナルのお菓子や雑貨、ヴェネツィアにちなんだグッズが並ぶ。花の女神「フローラ」があしらわれたイタリアの「イカム」のチョコレートや「デセオ」のビスコッティは、バレンタインの友チョコやホワイトデーのお返しなど、ギフトにも喜ばれるオリジナルパッケージだ。

『ティツィアーノとヴェネツィア派展』展示風景

『ティツィアーノとヴェネツィア派展』展示風景

『ティツィアーノとヴェネツィア派展』は、2017年4月2日まで開催。ベッリーニ工房を中心に展開したヴェネツィア・ルネサンス初期から、時代の流れに沿って70点近い絵画、版画を観ることのできる貴重なチャンスだ。カンヴァスのまわりの空気さえ温めるようなヴェネチア絵画の色彩を、ぜひ会場で体感してほしい。

(左)ボニファーチョ・ヴェロネーゼと助手《最後の晩餐》1540-45年、フィレンツェ、ウフィツィ美術館

(左)ボニファーチョ・ヴェロネーゼと助手《最後の晩餐》1540-45年、フィレンツェ、ウフィツィ美術館

 

イベント情報
アーノとヴェネツア派展

会期:2017年1月21日(土)~4月2日(日)
会場:東京都美術館 企画展示室
休室日:月曜日、3月21日(火)
※ただし、3月20日(月・祝)、27日(月)は開室
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室:金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
観覧料:
当日券 | 一般 1,600円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000円
団体券 | 一般 1,300円 / 大学生・専門学校生 1,100円 / 高校生 600円 / 65歳以上 800円
※団体割引の対象は20名以上
※中学生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご持参ください
特設WEBサイト:http://titian2017.jp

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