ソロミュージシャン・金子ノブアキの思い、そして野望に迫る【後編】
金子ノブアキ
バンド・RIZEのドラマー、俳優、ソロミュージシャン、大きく分けて3つの顔を持つ金子ノブアキの2017年が熱い。RIZEは結成20周年を駆け抜けようとしている。俳優業では映画『新宿スワン Ⅱ』に前回から引き続き出演していることが話題に。そしてソロミュージシャンとしては、2009年に1stアルバム『オルカ』、2014年に2nd『Historia』、2016年には3rd『Fauve』をリリース。2015年と2016年にはライブツアーを行った、ここまでの集大成であり、新たな制作チャレンジでもある初の映像作品『Captured』を完成させた。単なるミュージックビデオ集でもライブ映像でもなく、それらを混ぜ込み、ドキュメンタリーも加えて”魅せる”作品へと仕上げていったことに対する思いや、仲間であるクリエイターたちとの関係性を中心に、じっくりと語ってもらったロングインタビュー。そこで浮かび上がった、彼の変わらない大切な思いと、世界の音楽シーンが進化していく流れと共にあろうとする姿勢に、あなたはどんな未来を見るのだろうか。
――初期のRIZEは、1990年代に発するオルタナティブロックやラップメタルといった、世界照準のロックを東京から鳴らしていたバンドで、金子さんのソロは、インディペンデントな考え方で今まさに世界と共鳴する東京の音楽。だからRIZEが出てきた頃とソロミュージシャン・金子ノブアキは、私の中で感覚的には近くて繋がっている部分があるんです。金子さんの前進し続けるスタイルがあるから、そうなったというか。そして、RIZEが今も存在していることもまた刺激的で。肉体的なロックがこの時代にしっかりあるんだって思える。
なるほど。そういう捉え方は嬉しいですね。
――そして将来的に、金子さんのアーティスト活動はどうなっていくのでしょうか?
もう最後の野望と言ってもいいかもしれない。いままで個人でやってきたことを成熟させて伸ばしていくこと。それが上手くいったら僕の音楽人生言うことなし。だから、きっとどこにもないものを、エッジの先端から叩きつけていくように提示していくだけ。そう思って特に近年は勝負かけっぱなしですよ。周りのみんなには、本当にいろいろと迷惑かけちゃうんだけど、このまま走り続けたい。その代わり、宣伝という意味でも芸能界にはバンバン出るし、バンドもしっかりやる。ソロにあることが僕が思う本当のこと。なにも恐れずにやれてるから楽しいんですよ。バンドだってもちろん楽しい、でもメンバーがいるから頼れるわけですよ。保険がかけられるし、本当に楽だし。だからそれだけをやってると絶対にダレきて、プレイも切れ味がなくなって気持ちも減ってきて、きっとまた同じことが起こるんです。
――自分が主導権を持つことでしか分からないことや成長も多々あると思います。
そうなんです。そして、こういう極々のところで音を出していくことは、自分自身や周囲を浄化するプロセスでもあります。演奏って、特に打楽器はシャーマニズム的なものがあるって言われるんです。
――演奏とシャーマニズム? ”降りてくる”みたいなことですか?
ライブって、人が演者を見ながら自分の人生を考える時間でもあるじゃないですか。ダンスもそうですよね。
金子ノブアキ『Captured』
――はい、分かります。
この間、コンテンポラリーダンス、森山未來くんと渋谷慶一朗さんのイベントを観に行ったんですけど、即興で2人が舞ってるわけですよ。もう未來くんなんかボロボロになるまで踊っていて。その時、僕は目を凝らしてじっとそれを観じながら、何を考えていたかっていうと、その場で感じたことに感化されて、次のライブのセットリストをイメージしていたり......(笑)。
――ストーリーを追いながら全く別のことを考えている。面白いですよね。
みんなそれぞれ演者と対話しているから、それぞれのことを思うんですよ。僕がやっているライブってそういう感じで、ライブハウスで嫌なこと忘れて盛り上がろうぜって、モッシュやダイブが起こるようなそれもあるにはあるんですけど、手渡しで一人ずつ何かを持って帰ってもらうような。
――金子さんの音楽は、”有名人の金子ノブアキのコアサイド”ではなく、そういった浸透性という意味での強さがあるポップミュージックだと思うんです。私が『Captured』を通して感じたのは”悦び”。金子さんは白い歯を見せず真剣な眼差しでドラムを叩き続けてるんですけど、もう一人の金子さんを背負っていて、彼は笑っていた。
なるほど。逆に我々がお客さんを見てどこかに導かれることもあって、相互作用ですよね。ライブって本当に一期一会だし、お互いに捧げ合っている感じ。互いのインプットとアウトプットがあって回っていったときに、めちゃくちゃ盛り上がることもあれば、なんだか”阿鼻叫喚”みたいなこともあれば、ちょっとびっくりするくらいシーンと静かな瞬間もあって、そのどれもにめちゃくちゃ大きな熱量があるんです。
――静寂に感じるそれって凄まじいですよね。
沈黙に勝る音は無いというか、音がなくなったとき人は何を思うのか、そこには昔からめちゃくちゃ興味があるんです。RIZEを始めた頃、JESSEとブレイクを作ってバシッとハマったときに、「なんか変なことになるじゃん。たまんないよね」とか若いノリで笑いながら言ってた(笑)。その瞬間に宇宙に投げ出されたような感じになって、本当に大事なことを思い出してまた戻ってくる感じ。……ちょっと例えは悪いかもしれないですけど、車とかで事故った瞬間とか、なんかスローになって無音になる、あの感じは表現できるんですよ。ドラマーとしてそこを推し進めている部分はありますね。
――金子さんが意図することに引っ張られることもあれば、発信者の金子さんからしても、さっきの森山未來さんの踊りの話じゃないですけど「お前そんなこと考えてたの」って、とんでもないこと考えてるリスナーや観客もいると思うんですよ。そういう意味で、視覚から音から、この作品はベストだと思います。
絶対にいると思います(笑)。そうやってそれぞれが感じてくれることって、やっぱり嬉しい。
――だからこそ、この作品の”ショーケースライブ”として開催される、ビルボードライブでのステージが楽しみなんです。言える範囲で仕掛けのことや意気込みを聞きたいです。
この日初めて演奏する曲もありますし、そうですね、まさに『Captured』というタイトル通り、ドキュメントにも入ってる「Ranhansha」って曲での廣瀬くん(※廣瀬順二)とのライブフォトセッションはやりたいねって、清水くんも。音楽以外に関わってくる大きなトピックのひとつとして、彼が演奏に合わせて撮る写真をライブで映し出すんです。我々も彼自身も知らない何かが生まれてきそうで、めちゃくちゃ楽しみですね。
――「Ranhansha」は1曲中でのサウンドのコントラストもドラマチックで面白いから、そこに写真がどう絡んでくるか。
廣瀬くんが一番緊張してると思います。「つまずいてこけたら大変だよ」って言ったら、「本当にそういうことは言わないでって」って(笑)。
――ビルボードは時間配分も独特ですが、そこはどう考えていますか?
1時間ほどのセットを2回まわし。実はそれくらいがちょうどだって説もあるんです。たっぷり2時間とかあると濃密過ぎるんじゃないかって。
金子ノブアキ Tour 2016 "Fauve"より
――できるだけ長い尺で流れを作っていく方がベターな音楽というイメージですが。
『ap bank』に出演した時に、演奏時間が30分しかなくて、いろいろ繋いで29分54秒のセットを作ったんです。出捌けは3秒ずつしかないくらい詰め込んで。そしたらめちゃくちゃ反応が良くて、跳ねたんですよ。自分たちでも「今のはなんだったんだ」って思うくらい。だからビルボードでもその感じになるのかも。まあ時間は倍以上あるし、さらにそれが90分とか2時間くらいに感じられるかもしれない。使ってる集中力が普通のライブに比べてどのくらいかで、感じ方も変わってくると思うんですよ。そこにはアンビエントな瞬間とか、映像だけの瞬間もあって、ゼロから100くらのダイナミックな落差も出したいですし、それでどう感じてもらえるか。
――独自の時間軸を持った音楽性だと思うんで、短くするのもありだと思えてきました。
そうなんですよ。結局は満足度というか、そこですから。溢れ過ぎない表面張力のちょうどいいところで止められるくらいの。曲はアルバム3枚も出しているからめちゃくちゃあるんですけど、その中であれもやりたいこれもやりたいっていうことを、どうまとめるか。ステージごとに違った仕掛けもやるかもしれませんし、楽しみにしていてください。
――『Captured』という作品については、この先、どうなっていくと思いますか?
こうしてパッケージされて、フィジカルとしてビデオが出るのはとても感慨深いです。ネット文化の良さって、あらゆるところに届く可能性があるということ。でも物として保有する喜びは絶滅はしないですよね。欧米とかだとそこが極端に分離してきていて、作品を広めるためのフィジカルなんて、もう無いものとして進んでます。レコードは思い出みたいな感覚で、だったらアナログでしょって。でも、日本はガラパゴス化した独特なマーケットだから。アイドル文化とかもあるし。その中で今回の作品は、コレクターズアイテム的な要素もあるし、軽く流しといて欲しいくらいの意味合いでも作ってみたんで、居酒屋とかで流れてたらめちゃくちゃ嬉しいですよね。音はいらないから。あるじゃないですか、MTVとか流れている店。その代わりみたいな感じで。
――白と黒、光と影が主な色彩感。美味しくお酒は飲めますかね?
いけるでしょ(笑)。
――色と言えば、新しいMV「Call My Name」の、シンバルに色とりどりの砂が弾けるシーン、終盤にあの色味は、なんだか心が晴れましたね。
あれ、綺麗でしょ?
――はい。それと、MVに入る前のドキュメント部分で、ドラムにキラキラした音はいらなくて、くたびれた音が欲しい。だから鉄が混じった砂にシンバルを埋めるっておっしゃってましたよね? 倍音が無くなるからとも。それはドラマー視点でどういうことなんですか?
あれは部屋の中で他の音と干渉し合った音。僕の場合はタイプ的に、ルームマイクを上げた方が音はかっこよくなる。ハイハットの間に入っている空気とか、音の表情とかシズル感とか、本当に鳴っている音っていうのはオフに入っているものが多かったりするんで。ただ全体的には、シーケンスがあったり他の楽器との干渉を考えたりすると、オンマイクだけでいけたら一番いいんですよね。コンプレッサーで音を圧縮してアタックをキュッと出す。ルームマイクで一番問題になってくるのはシンバル。金物系はいくらやってもうるさくて駄目で。種明かしをすると、シンバルの音をシーケンスであらかじめ作って、それを上から波形を見ながら貼ってるんですよ。最近はそうやってる人が多いと思うんですけど。
――単体でのかっこよさと、全体の鳴りとのバランスや出したい雰囲気、想像しただけでもう……。
僕は自分のサウンドの出し方は分かってきているし、ミックスもやり始めて自信が深まってきているところ。エンジニアさんに一方的に意見を言うばかりではなく僕自身でも、彼らに敬意を持って何かできなきゃダメだと思うんで、手弁当でこの音を貼ってくれって、参考になる音源を渡したりとか。
――よりスムーズになりますしイメージに近付く。
倍音がいらないっていうのはドラマーならではの悩みなんですよね。どうしても歌と喧嘩しちゃうとか、アンプの音が聞こえないとか、ずっと嫌なところにいる感じとか、これ以上は上げられないんだけど足りないところがあるとか。だからキックもスネアもアタックの音や打点だけを貼ったりもします。
――求めている音があって、そうなる理由をとことん追求していくことってとめどないことで。妥協じゃないですけど、ある程度で止めることでもあると思うんです。でもそこをとことんやりたいんですね。
そうなんです。草間さんがエイブルトンの「ライブ」っていうソフトのインターナショナルトレーナーに認定されて、これって凄いことなんですけど、それを機に草間さんに弟子入り志願して、僕もライブに買い替えてPCも買ってアカウントも取ってシンセも買って、それが2年前くらい。一新して作り方を変えようって。そこからさらに熱が高まりましたね。もうちょっと踏み込んでミックスもやりたいですって。プロツールスの方がTDにはいいんですけど、ライブの方が制作からスライドしていくには全然いいから、そこは納得いくまで毎日何時間も触るんです。性格なんでしょうね。そうやって実験するのが好きなんですよ。だから草間さんとか剛士さん(※AA=こと上田剛士)とは気が合うんです。お二人からの影響は本当に大きくて、先輩に恵まれました。まだまだ吸収したいと思ってますし、自分の名前でやってますから、そこまでいって初めてそういうことなのかなって思うんです。
――金子さんは作曲ができてドラムをしっかり叩いていれば、基本的に誰も文句は言わないと思うんです。だけど理想はどんどん高まって湧き出てくる好奇心が抑えられず、そこにRIZEやサポートドラマーとしての活動、芸能の仕事も入ってくる。相当な密度ですが実際こなせるんですか?
なんでこんな状況で芸能界にもいてバンドもやって欲張ってるのか考えると、もう性分なんでしょうね。誰も行ったことのないところに行ってみたいっていう。新雪を踏むような「この精神状態って誰もいねえだろうな」って思えるところ。プレッシャーも凄いんですけど。今はまさにそんな状態で、すげえアクションの練習しなきゃいけないし、レコーディングもしなきゃいけないしツアーもあるし。で、またそんなときに限っていい仕事が入ってくるんですよ。「誰かにやられたくないな……う~ん、やります!」ってまた自分で自分の首を絞める(笑)。まあそういう欲が出でくることについては、もはや自分でも諦めてるから、この活動が認知されればいいなって思います。
――その新雪を踏むような感覚、私もちょっと分けてもらってるんです。今日ここに取材に来る前に、家族と話すタイミングがあって、母が「今日の仕事は?」って聞いてきたから「金子ノブアキさんにインタビュー」って答えると「その人、知ってる。えっと……」って。それに対して妹が「あれやん、『ブザービート』で最後にいい人になるあの……」みたいな話に。
そうそう、最終回でね。
――私以外の家族はとりたてて音楽に興味があるわけではなく、本当にお茶の間感覚で金子さんを認識しているんです。でも私は今、そんな人からブリストルがどうとかライブってソフトがどうとか、そんな話を聞いているわけで、とても不思議な気持ちに。
入り口が完全に2つあるんで。面白いですよね。去年はRIZEでテレビの音楽番組に、久しぶりにたくさん出たんですよ。そうすると、僕のこともRIZEのことも知ってるけど、僕がRIZEのドラマーだって知らない人がいるわけです。「金子ノブアキ、ドラム超うめえ!」って。「いやいや、最初からやってるわ」ってね(笑)。そういうのは大歓迎。RIZEが売れたときもそんな感じ。ある日タイアップが入ってきて、30人くらいしかいなかったライブのお客さんが300人になって、でも状況が掴めなくて、並んでる人に「誰を待っているんですか」って聞いちゃったら「RIZEです」って言うから「僕です」って。じゃあ写真撮りましょみたいな(笑)。いい経験させてもらってるし本当に周りには感謝してます。
――ここまで話して改めて思ったのは、金子さんはひたすらワイルドサイドを行く人だなと。わざわざめんどくさいことをする、まさにアーティストであり芸能の人なんだと思います。
めんどくさいことしないと出汁が出ないんですよ。苦しんでるところから出るものは、自分の想像を超えてくることがある。悔しくてしんどくてもう嫌でも、楽したらその程度にしかならないっていうことを分かっている以上は、止めるわけにはいかないですよね。欲張ってこのまま肉体の許す限りいきたいです。
――体だけは壊さないでください。
でもワイルドサイドを走り続けて爆発して、それこそ動けなくなることだってあるわけで。もう年齢も年齢だし、そういうことを想像すると、僕には録り溜めたドラムのデータが20年分くらいあるわけですよ。エンジニアさんに頼んだらなんでも作れちゃう。だから70歳のジジイになってもドラムは20代でキレキレ。“Dr. Age 20”ってクレジットを入れてリリースしたい。……これ、結構本気です。
――それは面白いですけど。
そんな風に、僕にしかできないであろうことを考えてるんですよ。まあ五体満足のうちはこの感じで思いっきり叩きまくって、体を捧げてやっていくんで、まだまだよろしくお願いします。
取材・文=TAISHI IWAMI
発売中
金子ノブアキ『Captured』
PDX-0118 / 4500円(税抜)
<収録内容>