LION PRESENTS ミュージカル『 SINGIN'IN THE RAIN ~雨に唄えば~』主演のアダム・クーパーにインタビュー
アダム・クーパー(撮影:中原義史)
英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルとして活躍し、日本でもマシュー・ボーン演出・振付、男性が白鳥を踊る『白鳥の湖』の主役として大人気を博したアダム・クーパー。近年はミュージカル・スターとしても活動、2014年に来日公演を行なった主演ミュージカル『SINGIN' IN THE RAIN~雨に唄えば~』は5万人を動員し、東急シアターオーブの海外招聘ミュージカル作品として最高動員数を記録した。その舞台が4月、待望の再来日を果たす。ミュージカル映画史に名を残す傑作の舞台版に再び挑む心境を訊いた。
――待望の再来日公演が実現しますが、この作品がこんなにも多くの観客に愛される理由とは?
喜びにあふれた作品だからだと思う。すてきなラブストーリーがあって、すばらしいダンス・ナンバーがあって、とても有名な曲が流れて、コメディとしても優れていて。観る人みんなを元気づけて、いい気分にさせる作品だからだと思う。
――来日会見で天海祐希さんが、「観終わった後とても幸せな気持ちになれる作品」と語っていましたが、演じ終わった後のご本人の気持ちは?
めちゃめちゃ疲れてる(笑)。いや、アドレナリンが出ているから、終演後30分くらいはすごくいい気持ちなんだよ。でもその後どっと疲労が(笑)。特に二回公演の日は大変だよ。歌って演じて雨の中で踊って、結構消耗する作品なんだ。というのも、一幕はほぼ出ずっぱりで、ラストの『雨に唄えば』で濡れるでしょ。二幕は出たり引っ込んだりして、途中で14分くらい踊りっぱなしのバレエ・シークエンスがあって、そして最後にはまた濡れて(笑)。もちろんそれが楽しいんだけどね。『雨に唄えば』のナンバーは、技術的にもかなり大変なシーンなんだ。12トンの雨は上から、そして下から出てくるんだけど、足先で水しぶきを飛ばすために、ある程度の深さの水たまりが舞台上にできていないといけない。あんまり浅いと水が飛ばないからね。そういう意味では毎回違う雨の降り方に対処もしなくちゃいけない。
――考えてみれば、イギリスの方って雨が降ってもあんまり傘をささないですよね。
そうだよね(笑)。濡れるのが好きなんだよ。僕も好きだな(笑)。日本人は雨が降り出すとみんなすぐ傘をさすけど、イギリス人は雨が降っても受け入れちゃう。濡れるのが嫌じゃないんだよね。
――それでもさすとしたら、どんな傘がお気に入りですか。
ゴルフ用の特大傘だな。家に持ってるのもそのタイプ。あんまり使わないけどね(笑)。
――作品の中でお好きなナンバーは?
やっぱり「雨に唄えば」だね。その日の舞台の調子がどうであろうと、自分の気分がどうであろうと、あの場面にたどり着くと喜びを感じる。あの場面では、主人公はヒロインへの愛を感じていて、それを自ら祝福したい、まるで雨の中で祝福されているように感じる。そして、その喜び、祝福を、観客と分かち合えるという意味でも特別な瞬間だと思う。あの場面を演じるたび、客席から喜びが伝わってくると感じるんだよね。それだけ、客席からの参加が大きな要素となっている場面なんだと思う。個人的には観客と目を合わせたりするのは好きじゃないんだ。自分は自分の世界にいると思っている方が、自分のやりたいことをできるからなんだけど、あの場面は特別で、むしろ目を合わせようと思う。
――それにしても、アダムさんに水をかけられるのがみんな本当に楽しそうですよね。「かけないで~、でもやっぱりかけて~」みたいな(笑)。
ホントに楽しんでるよね。劇場で濡れるって、やっぱりなかなかない経験だからじゃないかな。僕自身が客席にいたら絶対濡れるの嫌だけど(笑)。ロンドンではあの場面で傘をさしちゃった人もいて。「他のお客様にご迷惑です」って注意されてたよ。
――雨が降っても傘をささないイギリス人が、あの場面ではさすと(笑)。
そうそう(笑)。
――アダムさんは17歳のときから来日していて、ダンス作品の場合は表現上言葉の違いの壁はないわけですが、ミュージカルとなるとその壁があったりしますよね。でも、『SINGIN' IN THE RAIN~雨に唄えば~』について言えば、あの場面では雨が降るよとか、映画を通じてみんなよく知っている物語だから、あんまり壁を感じなくて済むのではないかと。
映画が有名ということもあるし、それに、非常にわかりやすい、筋を追いやすい物語だから、多くの人に楽しんでもらえるんじゃないかな。サイレント映画からトーキーに移り変わる時代のことはみんな多少は知っていると思うし。
――声がない状態から声がある状態へ、ご自身のキャリアのようですね。
その通り。人生とパラレルだよね。
――バレエ・ダンサー時代は、ダンスという要素で役柄を表現していましたが、ミュージカルとなるとそこに歌と演技という要素がさらに加わります。この二つの表現方法の違いについてはいかがですか。
歌があることで表現しやすい部分もあるし、踊りの方がやりやすい側面もある。歌においては歌詞、言葉で具体的に特定されて表現されているから、ある明確な感情を表現することができるよね。ダンスはもっと違うレベルというか、ある意味スピリチュアル、魂の次元の表現になってくるし、そして観客それぞれが観て解釈できる部分がある。だから僕はどちらも好きだし、『SINGIN' IN THE RAIN~雨に唄えば~』についていえばそのどちらの表現も盛り込まれているところがいいなと思っていて。
――会見では、マシュー・ボーン版『白鳥の湖』と『SINGIN' IN THE RAIN~雨に唄えば~』、この二つの作品は何度でも演じたいとおっしゃっていましたが、どちらも全く異なるキャラクターですよね。
そうだね。『白鳥の湖』ではザ・スワンとザ・ストレンジャーの二役を踊ったけど、観た人にとりわけ印象に残っているのは、ワルで、セックスシンボル的なザ・ストレンジャーの方みたいで。一方、『SINGIN' IN THE RAIN~雨に唄えば~』の主人公ドン・ロックウッドはロマンティックな好男子。自分の中のいろいろな側面を出すことができるから、さまざまな役柄に挑戦していくことは演者として本当にやりがいがあるよね。
――この二つの作品の役柄のうち、どちらが自分に近いとか、やりやすいということはありますか。例えば、俺、実はワルだから……とか(笑)。
ハハハ。みんな誰でも両方の側面を持っているよね。そういう意味でも両極端の役柄を演じられるのは、想像をふくらませることができて本当に面白いと思う。実際にはワルじゃなかったりするし(笑)。それにしても、あなたはこういうタイプが合うから……と、いつも同じような役柄を振られることってありがちだけど、自分はそうはならなくて本当に幸せだと思っているよ。
――ウエストエンドで上演された『ガイズ・アンド・ドールズ』のスカイ・マスターソン役も素敵でしたし、『SINGIN' IN THE RAIN~雨に唄えば~』もそうですが、クラシックなミュージカル作品との相性も非常によいように思うのですが。
二つの作品共、ロマンティックな主人公にちょっとひねりが効かせてあるよね。二人とも完璧な男ってわけじゃない、そこが観ていて、演じていて面白い。スカイはギャンブラーでどちらかというとアンチ・ヒーローだし、ドン・ロックウッドにしてもすべてを持っているように見えて実はとても孤独な男だし。僕自身、この時代のミュージカル作品のスタイルがとても好きということも、相性のよさにつながっているのかもしれない。こういうミュージカル映画がテレビでたびたびオンエアされていたころに子供時代を過ごしたから。MGM映画は全部好きだし、ジーン・ケリーなら『雨に唄えば』に『踊る大紐育』、フレッド・アステアなら『トップ・ハット』に『バンド・ワゴン』なんか大好きな作品なんだ。
――パフォーマーとしての活動に加え、演出、振付と多彩に活動していらっしゃいますが、そんな中でもたびたびこうして日本で舞台に立たれています。
日本の観客が、バレエであれ、コンテンポラリー・ダンスであれ、ミュージカルであれ、僕が出演するさまざまなジャンルの舞台を受け止めてくれるのが本当にうれしくて。そればかりか、僕が出演する舞台を観に、海外までやって来てくれる人もいるしね。長年にわたってそうやって支え続けてくれていることに、心から感謝しているんだ。
――今後挑戦してみたいことは?
ダンスが一切入っていないストレートプレイをやってみたいんだ。それから映画も。何か自分とつながるところがあると感じられるストーリーや役柄だったら、何でも挑戦してみたいな。
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 写真撮影:中原義史
■会場:東急シアターオーブ (東京都)
■日程:2017/4/3(月)~2017/4/30(日)
■演出:ジョナサン・チャーチ
■振付:アンドリュー・ライト
■出演:アダム・クーパー、他
■公式サイト:http://theatre-orb.com/lineup/17_rain/
3月4日(土)午後3時30分~ TBSにて放送
2月19日(日)午後2時30分~ BS-TBSにて放送