「音楽好きで良かったね!」ボヘミアンズ、ホリエ、セカイイチが三者三様に魅せた『貴ちゃんナイト vol.9』

レポート
音楽
2017.2.7
貴ちゃんナイト vol.9 撮影=岡村直昭

貴ちゃんナイト vol.9 撮影=岡村直昭

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y’s presents 貴ちゃんナイト vol.9 2017.2.4 下北沢 Club251

「もし自分がライブの主催者になれたら、誰に出てもらおうか?」

音楽好きであれば誰しも、一度はそんな想像を巡らせたことがあるはずだ。自分の好きなアーティストであることは当然として、どういう組み合わせが良いか、“今”みんなに誰を観てほしいか――そんな妄想を実現させてしまったイベントが『貴ちゃんナイト』だ。しかも今回で9回目という長寿イベントになりつつある。

『ミュージック・スクエア』をはじめとするラジオ・パーソナリティとして知られる中村貴子が、「自分の大好きな、一観客として見たいアーティスト」を呼んで行われるこのライブ。第1回目は岡山県の有志によるDJイベントとして開催されたため、ライブ形式で開催するのは8回目だという。歴代の出演者を見渡しても、主催者の想いや意図、あとは趣味がありありと伺える顔ぶれで、ちゃんと作り手の色が出ている……というか、色しかない、みたいな。それでもただの自己満足ブッキングにはならず、毎回きちんと説得力のある内容を用意してきたことで、たとえ良く知らないアーティストが出ていても「まぁ貴ちゃんのオススメなら間違いないだろう」という信頼の上に成り立っているのが、このイベントのすごいところ。だからイベント自体のファンが大勢いるし、出演者が発表される前からを売り出すスタイルにも拘っている。巷で散見される、とりあえず人気ものを並べてみました、みたいなブッキングの真逆を行くスタイル。まずそこからしてロックなのだ。

THE BOHEMIANS 撮影=岡村直昭

THE BOHEMIANS 撮影=岡村直昭

開場すると、自らフロアに立って一人ひとり来場者を出迎える中村貴子。ファンも、ステージ前に殺到するのではなく、まずは中村と会話したり手紙を渡したりと、ホリエアツシ選曲によるBGM(この日は転換中も含めて全てホリエによるセレクト)の流れる中、とても和やかな雰囲気のまま開演の刻を待つ。とはいえ、キャパシティ250人ほどのClub251は、ほどなくしてパンパンになった。大きな拍手と歓声に迎えられ、「あったかいね!」と嬉しそうな中村による前説を経て、まずは一組目、THE BOHEMIANSが登場。ムーディーなSEを歯切れのいい音塊でぶった切り、一気に走り出すと、前奏が終わる頃になってユラユラと不敵に登場した平田ぱんだ(Vo)がビターな歌声を載せる。挨拶代わりの「THE ROBELETS」だ。ザクザクとしたギターにタイトなリズム隊、跳ねるピアノと、構造的にはお手本のようなコッテコテのロックンロール・サウンドで、ビジュアルも往年のロックミュージシャンへのオマージュ満載の彼らだが、歌メロディなどふとした瞬間に懐メロ的日本歌謡の要素も顔をのぞかせ、彼らの音楽が醸し出すなんともいえない心地よさに一役買っている。

THE BOHEMIANS 撮影=岡村直昭

THE BOHEMIANS 撮影=岡村直昭

平田が、中村は以前から自分たちを好きだと言ってくれていたが、そんなこと言ってどうせthe pillowsとかの方が好きなんだろ?と思っていた――と自虐も交えて笑いを誘いつつ「でも、ここに立っているということは、貴子さん、俺らのこと好きだぜ?」と言い放つ。さらに「ラジオはイマジネーションを使えば使うほど楽しめる、ロックンロールも一緒だ」という気の利いたMCから「私のR・A・D・I・O」へと突入する流れ、最高だった。そのピロウズ・山中さわおプロデュースによる近2作のアルバムからは「male bee, on a sunny day. well well well well!」や「あういえ」披露。平田の歌声は良い感じにやさぐれ感が増していき、ビートりょう(G)がお立ち台でギターヒーロー然とした佇まいでソロを弾いたり、そこに平田が寄り添って喝采を浴びたりと、曲を追うごとにパフォーマンスも突き抜けていく。最後は「bohemian boy」で平田が客席にダイブ、そのままフロアのど真ん中で歌うと、会場中から拳を突き上げてのオイコール。満面の笑みで「やったぜー!!」とフィニッシュを決め、セクシーでゴキゲンなロックンロール・ショウを締めくくった。

THE BOHEMIANS 撮影=岡村直昭

THE BOHEMIANS 撮影=岡村直昭

ホリエアツシ 撮影=岡村直昭

ホリエアツシ 撮影=岡村直昭

続いてはホリエアツシ。ご存知、ストレイテナーのフロントマンにしてent名義でのソロ活動も行っている彼による、弾き語り形式のライブだ。もちろん、弾き語りソロ時は恒例といっていい、ほろ酔い状態での緩めなステージ。「ボヘミアンズ、カッコよかったです」と賛辞を送りつつ、平田が本番直前まで現れなかったという暴露ネタを投下。きっちり笑いを取ってから「彩雲」でスタートした。アコギの音色とホリエの柔らかな歌声がすっと染み入って、先程までのアッパーな展開が嘘のように、場内の空気がガラッと変わる。ストレイテナーの新曲「月に読む手紙」は、語り口調で綴られた手紙のような歌詞を、それほど抑揚の大きくないメロディに乗せて歌うのだが、とてもあたたかく、どこか哀愁を帯びた美しい曲。彼の曲はバンドで映えるだけでなく、弾き語り時には歌メロの良さがより際立ち、別の表情を見せてくれる。

ホリエアツシ 撮影=岡村直昭

ホリエアツシ 撮影=岡村直昭

MCは饒舌でフリーダム。以前にセカイイチ岩崎慧(Vo/G)と共演した際に、「STAND BY ME」(ベン・E・キング)を<ウェンザナイ ハズカム>のみで歌うというボケを披露したところ泥酔状態の岩崎が乱入、綺麗にサビを歌われてボケを潰された……というエピソードに続いては、中村貴子との出会いについて語る。15年ほど前に、the pillowsのライブの打ち上げで出会ったのが最初だったとして、「貴ちゃんと巡り合わせてくれた先輩の曲を」と、歌われたのは「ハイブリッド レインボウ」! これにはフロアからも大歓声だ。……そうそう。ちなみに、この日は山中さわおも来ていたのだが、何故か物販スタッフとして働いており、entのグッズを相当な数売っていたことも付け加えておく。後半は、そのentの最新アルバムからの楽曲「How To Fly」と「悲しみが生まれた場所」を続けて披露。初の試みだというシーケンスを交えての演奏だったのだが、シンプルな打ち込みのビートとかすかなノイズがグッと場内を引き締め、青い光とスモークも相まって幻想的な空間を作り出す。最後は「バレンタインも近いので胸キュンな感じの曲を」と、entの2ndアルバム『ENTISH』より「Zoe」。場内を包む軽やかなベルの音色とアコギの調べ、そしてホリエの歌……まさに至高の贅沢というべきひとときであった。

ホリエアツシ 撮影=岡村直昭

ホリエアツシ 撮影=岡村直昭

セカイイチ 撮影=岡村直昭

セカイイチ 撮影=岡村直昭

トリを務めるのはセカイイチだ。ところが、先に登場した岩崎が「時間が巻いたので……」と、急遽ホリエを呼び込み、予定に入っていなかった「STAND BY ME」を演奏することに。もちろん、<ウェンザナイ ハズカム>のみでなんとなく押し切るバージョンだ。これには当然、場内も本人たちも爆笑。2番からは他メンバーも加わって、豪華でオシャレなセッションとなった。ホリエがはけると、「じゃ、やっちまうか!」(岩崎)と、そのまま「HARD-CORE-GEEK」からセカイイチのライブがスタート。ファンキーなコード感とカッティング、ラップのようでもスポークンワードのようでもある歌唱とソウルフルなハイトーンボイスのコントラスト、場内を一気に“都会の夜”っぽい空気が満たしていく。昨今ブームとなっているソウル/ファンク的楽曲なのだが、彼らはずっとそれらをバンドサウンドに落とし込み鳴らし続けてきたバンドだ。アンサンブルの安定感からずば抜けている。「自分のビート、自分の感じで踊ってください」と前置きしてからの「New Days」。言葉通りに、みな自由にステップを踏んだり、クラップしたりと音に身を任せていた。彼らの、16が基本のリズムには半強制的におどりたくなってしまうようなノリがある。

セカイイチ 撮影=岡村直昭

セカイイチ 撮影=岡村直昭

「MCに澱みしかない……」と自虐しながらも、中村とのエピソードを披露したり、即興のラップまで投下して場を盛り上げていくセカイイチ。新曲の「Lay me down」やラストナンバーの「Round Table」はゆったりとグルーヴィに、一方「Looking Around」ではアグレッシヴなロックテイストを前面に押し出して、引き出しの多彩さも見せつけてくれた。ソウルやファンクのエッセンスを注入した日本語のロックというジャンルにおいて、一つの最適解とも言うべき貫禄のステージングで、随所にフェイクやアドリブもどんどん織り込んで盛り上げ、魅了する、あっという間の全7曲。本編のほとんどを近作からの楽曲で固めてきた点も、バンドの充実ぶりと自信の表れではないだろうか。

セカイイチ 撮影=岡村直昭

セカイイチ 撮影=岡村直昭

アンコールでは、まずホリエを呼び込んで「バンドマン」を演奏。このセッションは中村貴子たっての希望だったといい、リクエストを受けたホリエも、曲を聴いて「ぜひ歌いたいと思った」「これからも歌いたい曲」と宣言。それを聞いた岩崎が「あとでコード譜送ります」と返したシーンは、このイベントが新たな出会いと絆を育む場所としても機能していることの象徴であった。その点でいうともう一つ。帰りがけにファン同士がお互いの推しのアーティストを語りながら、ツイッターをフォローし合っている光景もあった。ラジオパーソナリティである以前に一音楽ファンである中村貴子の思いが生んだイベントは、アーティストにもリスナーにとっても、新たな出会いの場となっている。

ホリエアツシ / セカイイチ 撮影=岡村直昭

ホリエアツシ / セカイイチ 撮影=岡村直昭

大合唱の起きた「バンドマン」に続いては、平田ぱんだも呼び込んでピロウズの「RUNNERS HIGH」をカバー。山中さわお本人も「本当ー?」とどこか嬉しそうにしていたが、そういえばピロウズのトリビュートアルバム『SYNCHRONIZED ROCKERS』でこの曲をカバーしていたのがテナーであった。カバーした側=ホリエもされた側=山中も同じ空間にいて、そればかりか山中がホリエの物販スタッフをやっているという状態……よく分からないけど、これはすごく貴重な瞬間ではないだろうか? と、そうこうするうちに、出演バンド全員と中村貴子によるラインナップと記念撮影で幕を閉じた『貴ちゃんナイト vol.9』。フロアに向けて、あるいは自分自身に向けてか、最後に中村はこう呼びかけた。

「音楽好きで良かったね!」
本当、その通りだ。

まだ正式にアナウンスされていないし、気が早い話だが、次回の『貴ちゃんナイト』は10th記念公演となる。どのくらいの規模なのかも、誰が出るのかもまだわからないけれど、きっと納得感いっぱいの内容になることは請け合いだ。だって、この日も中村貴子本人が誰よりも楽しそうに、終始拍手を送り、喜びの声をあげ、ピョンピョン飛び跳ね続けていたのだから。1ミリも嘘がない、そんな姿を見てしまったら、もう全幅の信頼を寄せざるを得ないだろう。そういう人が音楽を紹介する立場にあって、しかも実際に音楽に触れられる場を提供してくれる幸せ(と、打ち上げで振る舞われた251スタッフお手製の鍋料理のあたたかみ)をかみしめながら、僕は大満足で帰路に着いた。


取材・文=風間大洋 撮影=岡村直昭

セットリスト
y’s presents 貴ちゃんナイト vol.9 2017.2.4 下北沢 Club251

THE BOHEMIANS
1. THE ROBELETS
2. GIRLS(ボーイズ)
3. 私のR・A・D・I・O
4. male bee, on a sunny day. well well well well!
5. あういえ
6. That is Rock&Roll
7. bohemian boy
 
ホリエアツシ
1.彩雲
2. 月に読む手紙
3. ハイブリッド レインボウ(the pillowsカバー)
4. How To Fly
5. 悲しみが生まれた場所
6. Zoe

セカイイチ
1. HARD-CORE-GEEK
2. Grave of Music
3. New Days
4. Lay me down
5. Daylight
6. Looking Around
7. Round Table
[ENCORE]
8. バンドマン(with ホリエアツシ)
9. RUNNERS HIGH(with ホリエアツシ&平田ぱんだ/the pillowsカバー) 
 

 

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