烏丸ストロークロック&庭ヶ月が、3年にわたる試みの集大成『凪の砦 総収編』を名古屋で発表

インタビュー
2017.2.22
 烏丸ストロークロック×庭ヶ月 共同連作『凪の砦 総収編』チラシ表

烏丸ストロークロック×庭ヶ月 共同連作『凪の砦 総収編』チラシ表

 

死に方を通して生き方を考える─死と密接した場所で、人類普遍のテーマを静かに描く

京都を拠点に活動し、近年はひとつのテーマやモチーフを元に、短編作品を連作しながら掘り下げ、長編作品へと発展させる創作形態に取り組み続けている烏丸ストロークロック。代表で劇作家・演出家の柳沼昭徳は、2016年の「第60回岸田國士戯曲賞」最終候補にノミネートされ、先日は「平成28年度京都市芸術新人賞」に選出。また、同劇団の女優で制作の阪本麻紀も、『国道、業火、背高泡立草』での演技が評価され「第19回関西現代演劇俳優賞」を受賞するなど、目覚ましい活躍を見せる、今注目しておきたい団体のひとつだ。

そんな彼らが、2014年から「庭ヶ月」(柳沼が各地で取り組んだ市民演劇やワークショップ公演を通して出会った、三重・愛知・京都に暮らす20~50代の社会人7名で構成)と共に行ってきた対話型のワークショップを昨年、短編劇にまとめ京都市内で連続上演を実施。個々の主体性を重視する「庭ヶ月」は、柳沼の主導ではなく、作品の取材から脚本の執筆、俳優からスタッフワークまで全てをメンバーたち自身で担ってきたという。

わずか半年の間に、凪の砦①『逝くにいたる村』&凪の砦②『六つの川の街の白』(2016年3月、東山青少年活動センター)、凪の砦③『還る浜は凪がず』(同年4月、アトリエ劇研)、凪の砦④『ぬめる祠に寄る辺なく』&凪の砦⑤『戸を揺らすもの』(同年9月、東山青少年活動センター)と、5作品の上演を立て続けに行ってきたが(凪の砦③は烏丸ストロークロック公演として上演)、そこに柳沼が新たなエピソードを加え長編劇として再編した『凪の砦 総収編』が、京都公演を経て名古屋の「ナビロフト」でも今週末、2月25日(土)と26日(日)の2日間にわたって上演される。

人口減少による経済縮小と社会保障制度の崩壊に見舞われた近未来の日本社会。退廃した地方都市に開かれた、身寄りのない低所得者向けのホスピス施設「三ツ山養生所」が物語の舞台だ。そこで働くスタッフたちに焦点をあて、あの世へと旅立っていった入所者たちとの思い出と、彼らが語り遺した太平洋戦争、戦後、高度経済成長、バブル崩壊、東日本大震災といった出来事の記憶を元に、これまでの日本のあゆみと、そこに生きた人々の人生を辿っていく…。

テーマや舞台設定、登場人物など作品の軸となる部分は、「庭ヶ月」のメンバーの対話の積み重ねから生み出されたという本作。そもそも「庭ヶ月」はどのように始まったのか、またこれまでの活動内容やどのような思いのもとプロジェクトが進められてきたかなど、過日、情宣のため来名した柳沼昭徳と阪本麻紀に話を聞いた。

作・演出の柳沼昭徳

作・演出の柳沼昭徳

出演者の阪本麻紀

出演者の阪本麻紀

── まず、「庭ヶ月」の活動を始めようと思われたきっかけから教えてください

柳沼 2011年ぐらいから地域の会館が主催する市民演劇の劇作と演出を頼まれることがありまして、ご存知の通り市民劇というと、演劇経験のない市民の方々が集まって一定の期間お芝居創って、本番やってさよならっていう。創り方もだいたいが脚本ありきで、役に当てはまらな人はアンサンブルが多いかなと。一応、地域の文化を高めるっていう名目が大概ついてるんですけど、演出家・劇作家がいないと自立しないっていう問題もありまして、なんとかして自分たちで考えながら作品を創る、自ら作品に関わるという意識を高めてもらうために、台本ナシの状態からみんなでフィールドワークとか取材を重ねながら作品を創るっていう試みを各地でしてもらってたんですね。そういう創り方をして終わっても、自分たちで何かやりたいっていう意欲や劇団を作りたいという思いは残るんですけど、創る場所がなかったりメンバーがいないとか、いかんともしがたい問題があって。私も関わった以上責任はあるなと感じていて、意欲が高い人たちと一緒に、アマチュアだからとか関係なく作品を創ることをしたいと思ったのがひとつ。

もうひとつは、ちょうど時期的に東日本大震災がありまして、その後原発の問題が出てきて、そうこうしてるうちに第二次安倍政権が始まって安保法案どうするのっていう話で、結構庶民の意識が高まってる状況の中で、そういうことを日常生活の中で話すことがあまりにも少ない。例えば会社勤めなんかしてると、「あ、そういう意識高い人なの?」とか言われたりしがらみで本音が語れないとか。学生も、「そういうこと言ったら嫌われるかもしれない」とか「距離を置かれるかもしれない」っていう人が結構いたり。とにかく話す場所が欲しいなと思ったんですね。そのふたつが時期的に重なったというのがありまして、じゃあもう、先に公演が決まってる関係じゃなくて、できる限り長く定期的に集まれる場所を作ろう、というのが始まりです。

始めた頃は「えんげきの庭」と称して、庭でみんなでざっくばらんに話しながら演劇について考えよう、みたいな。あくまでも〈演劇〉というものを軸として語らいの場を設ける、というのが始まりだったんですね。それが2014年で、そこから世界演劇史を学んだり、ボディワークをやったり映画評を書いたり、カメラを持って写真を撮りに行くとか、演劇に関わりのあることないこと関わらず、何か表現してそれに対して誰かが何かを言うっていう、表現と批評を繰り返すことをしてきたんです。そうしてる中で、共通事項や共通言語が増えていって、最初は公演をやらなくてもいいやと思ってたんですけども、欲が出てきて、去年みんなに「どうしますか?」って尋ねたら、「公演やりたいですね」っていう話になったので、「えんげきの庭」から「庭ヶ月」という名前に変えて劇団化したんです。

活動自体は京都でやってるんですけど、私の自宅の滋賀県で隔週の土曜日、日曜日に集まるっていうことをやってまして。最初はこれ続くかなぁって思ってたんですけど、幸い最初のメンバーが今も残ってるんです、脱落者なく。従来の劇団にあるようなルールを設けず、「お仕事が忙しかったら、そっち優先してください」みたいな緩やかなコミュニティーにしてたので、それも影響してると思うんですけど。

2017年2月 凪の砦 総収編/アトリエ劇研(京都)公演より (撮影:東直子)

2017年2月 凪の砦 総収編/アトリエ劇研(京都)公演より (撮影:東直子)

── 隔週となると、皆さんスケジュールをやりくりしないと通えませんよね。

柳沼 そうですね。一番大変だなと思うのが、小学校の先生をやりつつ家庭があって、家庭には娘夫婦と孫がいるみたいな。そんな状況の人がやりくりして来てるんで。

── それだけ詰めて皆さんで顔を合わせていらっしゃると、公演をやりたくなると。

柳沼 うん、せっかくだからってなりますよね。元々が舞台に立ちたいっていう欲求のもと芝居に関わっていた方ですし、そうだろうなと。

── 〈表現と批評〉という活動を様々な形で繰り返しやられてきた中で、変わってきたことというのはありましたか?

柳沼 やっぱり日々人間っていろいろ考えてますけど、表現する機会があまりにも少ないじゃないですか。ブログやってるとかっていうのも表現のひとつだと思うんですけど、その上でさらに誰かの意見を聞いて、自分の意見をフィードバックさせていくという、これぞ対話だと思うんですよ、混ざっていく感じが。それぞれ違う意見を持ってても同じ場で喋っていくうちに、それがならされていくというか総意になっていく。自分の価値観と考え方をみんな擦り合わせてるんでしょうね。環境が人を変えていくんだと思います。

それが一番顕著だったのが、2015年にレポートを書くっていうことを何度かしてるんですけど、その中で漠然と「死生観」を書こうという時間をとったんですよ。20代の人もいれば50代の人もいますから、死の距離感っていうのはバラバラなんですけど、これは面白かったですね。自分の死生観と、調べ物をしてきて何かその死生観にまつわる文献ないし資料というものを自分の手元に置いた状態でレポートを書いていくということをしたんですけど、葬儀の歴史・文化みたいなものを書く人もいましたし、安楽死や尊厳死の話を書く人、病院で死ぬことをいろいろ調べた人、哲学的なこととか宗教論に入っていく人もいて、本当に多岐に渡ったんです。それを何回かに分けて、書いては出して皆で意見を言い合ってというのをやっていくと、「人間らしさって何なのか?」「人間らしい死に方って何なのか?」と。そこから逆を言えば、「人間らしい生き方って何なのか?」っていう話にもなってくる。だいたいみんな、「やっぱり不自然なことはしたくないよね」って。例えば、葬儀を派手にする意味って何なのかとか、墓を豪華にする必要があるのか、とか。チューブに繋がれたまま死んでいくのはどうなのかとか、「“らしさ”って何だろう?」っていう話になってくるんですよね。その時点で、自ずとメンバーの総意が見えてくるというか。

「庭ヶ月」という劇団自体は2015年の半ばくらいからスタートしてるんですけど、2016年に上演する作品何にする?って話し合った時に、「やっぱりそういう話にしていこうか」ということになったんですね。単純に生き死にのことは全人類が関わることですから普遍性があるなということで。それで自分たちが作品を創って、さらにお客さんの話も聞きたいよね、っていうのがテーマになっていった。他の人はどう考えているんだろうと。

2017年2月 凪の砦 総収編/アトリエ劇研(京都)公演より (撮影:東直子)

2017年2月 凪の砦 総収編/アトリエ劇研(京都)公演より (撮影:東直子)

── アンケート以外の形でもお客さんに感想を尋ねたりされたんですか?

柳沼 ほとんどの公演の後に、アフタートークよりもちょっと濃いめのトークの時間を設けて、お客さんが喋れる時間を作ったんです。作品の良し悪しよりも印象的だったのが、例えば福祉の仕事に就いておられる方が、「本当にこの通りなんですよね」とか「でも、うちはこんな良い施設じゃなくって…」とか自分の話をされるんです。それがすごく面白いなと思って。作品が媒介となって、人が話すきっかけになるなと。テーマがテーマだけに、遊びに行って「死に方さぁ…」って話したら、「おいおい、どうしてん?」となりますよね。家族なんかは逆に話しにくいっていうか。そういう話題だからこそ、演劇の場でやるという。

── 連作で上演するというのは、どんな風に決まっていったんでしょう?

阪本 2017年の2月に総収編を上演することは決めていたんですけど、その間に何作品上演するかというのは…。

柳沼 できるだけやろう、みたいな。烏丸の方の公演は2年前くらいから決まってることが多いんで、空いてるところに挟むかなっていう感じで。ただ、「やっぱり試演会1回じゃ足らんよね」っていう意志がありましたね。

阪本 最初の1、2回を上演してから次を考えようって。4回、5回をやるかどうかはまだ決まってなかったですね。やってみて、そこでどういう公演にしようかっていうのをみんなで話して、みんなが合う時期にっていう感じで決まっていったと思います。

── これまでの短編を戯曲化した際は、皆さんの対話を記録していったのか、どういった感じで書かれたんでしょう。

柳沼 そういうのももちろんありますし、稽古の動画を見ながらとか。

阪本 動画から文字起こしをして、それを整理して。あとはみんなで台本を、「ここの部分をあなた書き換えて」と、それぞれで書き換えていったりというのもあるんです。

2017年2月 凪の砦 総収編/アトリエ劇研(京都)公演より  (撮影:東直子)

2017年2月 凪の砦 総収編/アトリエ劇研(京都)公演より (撮影:東直子)

── 本当に皆さんの共同作業で創られたんですね。柳沼さんは、今回それらをどのように総収編(集ではなく“全部収めた”の意で表記)にしたんでしょうか。

柳沼 今まで上演した短編の合計が、2時間半ぐらいなんです。しかもこれが一連の流れになっているかというとあまりなっていなくて、1回1回の短編の中で試せることを試したっていうのがありますので、これをまとめるのが本当に大変で…。なんですけども、「三ツ山養生所」は老い先短い人たちが入ってくるところなので、来てはあの世に行くというサイクルが激しくて、たくさんの方が通り過ぎていく中でスタッフたちがどのように人々と対峙しているのか、っていう様を見せるだけでもこの作品のテーマはわかるなと思って。だからドキュメンタリーチックというとちょっと語弊があるかもしれませんけども、お客さんに「三ツ山養生所」というところが普通の介護施設とか病院と何が違うかを見てもらって、ここにいる人たちがどういう風に利用者さんの世話をしてるのかっていうことを知ってもらうのが一番大きいですね。

演劇とか映画とかドラマって人を殺すじゃないですか。それが結構、物語の進行に影響していくことが多いんですけど、ここでは人が死ぬのが日常ですから。死んだっていうことの衝撃ではなくて、「死ぬことって何なのか?」っていうことを考える時間ですよね。具体的には一切、利用者さんは登場人物として出てこないんですけど、観てる人が利用者さんに自分を投影したり、この人どんな顔してるのかな? とか、どういう人なのかな? っていうことを想像しながら観てもらうっていう。居ない者をみんなでイメージするっていうのが演劇のひとつの醍醐味だと思いますので。そういう設えにはしてますね。

── 「庭ヶ月」の今後の展開としては、どうなっていくんでしょう?

柳沼 評判が良かったらまたやろうかなっていう感じですけど、一応、3年で終わりっていうのは言ってあるんですよ。それもまたみんなで決めようと思ってますけど。もしやるってなったらやるんでしょうし。でも、そもそもはそれぞれの地域で活動すべき人たちなので、最初に言ったのは、「自分で問題意識を持って取り組めるようになる」っていう、自立性みたいなものを養うことがテーマとしてあったんで、それを持って帰ってもらうといいなぁと思うし、演劇が出来なくても、そういう生き方っていうかね。主婦をやってて、パート先と家との往復しかないような方がどんどん若々しくなっていく様を見たので、人生にとって文化っていうのは潤いになるんだなって思いましたね。そういう風に文化的に生きて行くっていうことでもいいかなとも思ったり。
最初は演劇文化が地方でももっと発達すればいいなと思ってましたけれども、それよりも私としては輝かしいものを見たような気がしますね。人々が充実して豊かに生きれば社会は自ずと良くなっていく、っていう風に思うんですよね。

阪本 ちゃんと3年って括ってたから良かったと思います。これが何も決めてなかったら難しかったかもしれないですね。

今回の総収編でひとまず区切りとなる「庭ヶ月」の活動だが、3年の間に培われたひとつの集団の演劇的成果を劇場でぜひ目にしてほしい。また、インタビューでは本作のモデルとなった実在の施設へ取材した際のエピソードなどもたっぷりと語ってくれた両氏。〈私たち鑑賞者との対話〉も目的とした公演だけに、終演後のアフタートークでその辺りのことを尋ねてみるのも。尚、名古屋公演の後、3月4日(土)・5日(日)には愛媛県松山公演も予定されている。

取材・文:望月勝美

公演情報
烏丸ストロークロック×庭ヶ月 共同連作『凪の砦  総収編』

■作・演出:柳沼昭徳
■出演:阪本麻紀、生坂美由紀、角谷明子、澤雅展、図師久美子、長谷川直紀、柳泰葉、西村貴浩、たなべ勝也  ※出演を予定しておりました岡村里香が、体調不良により止むを得ず降板することとなりました。

■日時:2017年2月25日(土)13:00・18:00、26日(日)13:00  ※全ステージ、アフタートークを開催
■会場:ナビロフト(名古屋市天白区井口2-902)
■料金:一般前売2,700円、学生以下前売1,700円 ※当日券は500円増し
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「原」駅下車、1番出口から徒歩8分
■問い合わせ:
烏丸ストロークロッック 080-9745-7825
ナビロフト 090-9929-8459
■公式サイト:
烏丸ストロークロックHP http://www.karasuma69.org
ナビロフトHP http://naviloft1994.wixsite.com/navi-loft
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