『これぞ暁斎! 世界が認めたその画力』展 「妖怪画」から、河鍋暁斎のユーモアを感じる
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《百鬼夜行図屏風》 明治4-22年 紙本着彩、金砂子
河鍋暁斎は、幕末から明治にかけて活躍した絵師である。浮世絵師歌川国芳と駿河台狩野派に学んだ後、美人画や仏画、幽霊画、戯画など、あらゆるジャンルの絵を描いて人気を博した。2017年4月16日(日)までBunkamura ザ・ミュージアムで開催される『ゴールドマン コレクション これぞ暁斎! 世界が認めたその画力』は、イスラエル・ゴールドマン氏所蔵の作品を通して暁斎の全貌に迫る展覧会だ。一般公開に先駆けて行われたプレス内覧会より、「妖怪」という視点から本展の見どころを紹介する。
妖怪の姿に見られる「狂」の精神
暁斎は、かつて「狂斎」を名乗っていた。私淑する葛飾北斎の画号「画狂人」から「狂」を拝借したといわれる。ここでいう「狂」は、絵に対する並々ならぬ熱意であり、新たな芸術を生み出していく個性でもある。明治3年、役人の風刺画を描いた罪で投獄された暁斎は、「狂」の字を「暁」へと改めた。しかし、その後も、「狂」の精神は暁斎の作品に生き続ける。
《百鬼夜行図屏風》では、古道具が変化した妖怪たちが屏風の大画面で大騒ぎしている。暁斎は、古来より描かれてきた妖怪を、時代の転換期にふさわしい姿で描き直した。変幻自在な妖怪たちは、「狂」の精神を表現するのに最適だったのだ。
左:《地獄太夫と一休》 明治4-22年 絹本着彩、金泥 右:《地獄太夫と一休》 明治4-22年 絹本着彩、金泥
右の《地獄太夫と一休》に描かれているのは、伝説の遊女である地獄太夫と、彼女を悟りに導いた一休和尚、打掛の地獄、そして、踊る骸骨たちだ。この絵では、「生と死」、「聖と俗」、「美と醜」、「楽と苦」など、相反するモチーフが妖怪や異界として表現される。価値観の揺れ動く、当時の世相を反映しているのだ。
左:《幽霊図》 慶応3年 紙本淡彩 中:《幽霊図下絵》 慶応4年/明治元-3年頃 紙本墨画 右:《幽霊図》 慶応4年/明治元-3年頃 絹本淡彩、金泥
右の《幽霊図》は、妻の亡骸がモデルだという。写生を重視する暁斎の「狂」の精神が、《幽霊図》にリアリティーを与え、見る者を思わずゾッとさせる。
歌川国芳から受け継いだ反骨の美学
暁斎は、7歳で歌川国芳に入門し、2年間修行した。国芳はいくつもの妖怪画を描いたが、その中には幕府を批判する風刺画もあった。理不尽な弾圧にあえぐ庶民の思いを、国芳は妖怪化したのである。こうした反骨の美学が暁斎の作品にも受け継がれる。
左:《名鏡倭魂 新板》 明治7年 大判錦絵三枚続 右:《不可和合戦之図》 明治10年 大判錦絵三枚続
《名鏡倭魂 新板》は、名鏡の輝きによって追い払われる妖怪たちの中に、洋服姿の外国人が紛れている。「文明開化」を掲げて旧習を破壊する当時の風潮を暁斎は苦々しく思い、それをもたらした欧米諸国を痛烈に風刺した。
左:《新文教歌撰》 明治7年 大判錦絵 右:<暁斎楽画>第三号 化々学校 明治7年 大判錦絵
明治時代に始まった学制を風刺したのは「化々学校」の絵だ。妖怪たちが一生懸命ローマ字を覚えている。純日本的な存在である妖怪でさえ西欧化を受け入れざるを得ない、というのは何とも滑稽だ。
暁斎は、時代の流れに翻弄されつつも、そうした状況をも笑いに変えていった。だから、暁斎の風刺画に登場する妖怪たちは、表情や仕草がユーモラスなのだ。暁斎のユーモアセンスもまた国芳譲りである。
狩野派の“正統”にとどまらない自由な発想
暁斎は、国芳のもとを去ったのち狩野派に入門し、19歳のときに免状を得た。この時期に暁斎が学んだのは、山水画や唐人物画、花鳥画などを中心とする伝統的な絵画技法である。
左:《半身達磨》 明治6年 紙本淡彩、金泥 左中:《釈迦と達磨》 明治4-22年 紙本着彩、金泥 右中:《龍頭観音》 明治19年 絹本着彩、金泥 右:《瀧見観音》 明治4-22年 絹本墨画
左:《蓬莱七福神図》 明治12年 紙本淡彩 左中:《鷹に追われる風神》 明治19年 紙本淡彩 右中:《鬼の恵方詣》 明治4-22年 紙本着彩 右:《貧乏神》 明治19年 紙本着彩
暁斎の作品には、狩野派の技法に忠実な仏画なども多い。しかし、暁斎は、“正統”の枠にとどまらなかった。《蓬莱七福神図》には、狩野派風の山水画に七福神が描かれている。蓬莱といえば仙人であるが、その既成イメージを見事に打ち砕く作品だ。鷹に追われて逃げ惑う風神を描いた《鷹に追われる風神》や、正月の恵方詣りをする鬼を描いた《鬼の恵方詣》も、伝統的なモチーフと自由な発想のコラボレーションである。
左:《鬼を蹴り上げる鍾馗》 明治4-22年 紙本淡彩 中:《鍾馗と鬼の相撲》 明治4-22年 紙本淡彩 右:《崖から鬼を吊るす鍾馗》 明治4-22年 紙本淡彩
鍾馗(しょうき)は中国起源の厄除けの神で、日本でも信仰の対象とされてきた。その鍾馗が、本来は退治すべき鬼と戯れるのだ。鬼は道具として使われ、相撲を取らされ、毬代わりに蹴り上げられる。神と妖怪が一緒に戯れる構図は、暁斎でなければ思いつかないであろう。
暁斎の自由な発想は、神や妖怪から古臭さを払拭した。新たに描き直されたキャラクターたちは、時代や国境を超えて人々に愛されている。現代でも色褪せないその魅力を、ぜひ本展で堪能してほしい。
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これぞ暁斎!世界が認めたその画力
開催期間:2017年2月23日(木)~4月16日(日)
※会期中無休
開館時間:10:00-19:00(入館は18:30まで)毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
主催:Bunkamura、フジテレビジョン、東京新聞
後援:ニッポン放送、ブリティッシュ・カウンシル、日仏会館フランス事務所
協力:日本航空
お問合せ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
■高知県立美術館
2017年4月22日(土)~6月4日(日)
■美術館「えき」KYOTO
2017年6月10日(土)~7月23日(日)
■石川県立美術館
2017年7月29日(土)~8月27日(日)
※会期は予定