「唐十郎」見るなら今見ておきゃれ~『ジャガーの眼 2008』『青頭巾』

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『ジャガーの眼』チラシより

『ジャガーの眼』チラシより

天才を開花させた 平岩の 「ネ申」演技が 炸裂!

2012年『ふくすけ』(作・演出:松尾スズキ)に出演していた30代の俳優たちによって2013年に結成された「日本の30代」(略称は「ニッサン」)。2014年の旗揚げ公演で『十二夜』(作:シェイクスピア、演出:鵜山仁)を上演したのに引き続き、今年(2015年)は演出に木野花を招き唐十郎の『ジャガーの眼 2008』に挑んでいる(9/7迄)。

『ジャガーの眼』は1985年に状況劇場の紅テントで初演。その二年前に他界した寺山修司、そしてその著書『臓器交換序説』にインスパイアされつつ唐ならではの妄想力をフル稼働して書き込まれた戯曲は「寺山修司」論として卓抜なうえ、「肉体の一部」を他人に移植すると誰に帰属するのかといったテーマや、登場人物たちの造形も非常に面白い。小室等作曲の劇中歌も印象的だ。数ある唐作品の中でも特に人気が高く、劇団唐組では過去四度も再演された。また1997年に唐十郎が横浜国立大学の教授に就任した際の「伝説」的な初回講義では、この作品の冒頭場面を挨拶代わりに上演してみせた(唐教授が黒板を突き破って登場したことは当時ニュースでも大々的に報道された)。さらに2014年には、状況劇場出身の金守珍(初演時にDr.弁の役で怪優ぶりを発揮した)の率いる劇団新宿梁山泊が上演し、唐の長男・大鶴義丹と長女・大鶴美仁音という異母兄妹を出演させ話題になった。

さて「日本の30代」による『ジャガーの眼』である。俳優陣を見渡すにイメージとしてアングラ臭はあまり漂っていない。宣伝ヴィジュアルも何だか爽やかだ。果たしてどんな『ジャガーの眼』が出来上がるのか、と訝しながら編集子は客席に着いた。開演するや、サンダル探偵社の田口の登場の仕方がオリジナルとは違う。また唐十郎演出版でいつも流れるBGM(マイク・オールドフィールド)もかからない。田口が以前働いていた探偵社の社長「扉」の部下たちが背負う扉戸のサイズがいずれも小ぶりだ(作り物っぽさが目立ち、リアリティが遠のく)…。

初演以来、『ジャガーの眼』全ヴァージョンを見てきた者としては忽ち「違和」感を抱く。しかし演出が違うのだから「違和を以て尊しとなす」のが当たり前、とは思っているので、心を閉ざさずに見てゆくうち早い段階で反対に親近感が大きく増してきた。

とにかく役者たちが素晴らしい。「肉体」の特権性を重視する唐戯曲にふさわしいワイルドな発声や体の動きが良く出来ている。テンポやリズムが良く、切れ味が鋭い。それでいて、細やかな台詞が荒々しいのによく聴き取れる。ここが重要だ。台詞がよく聴き取れることで、物語がよく伝わってきて「なんという面白く、かつ緻密に作り込まれた戯曲であろうか」と新鮮な感動を得られたのだ。私たちは、古典化されつつある戯曲を改めて「再発見」することが出来たのである。これは演出家の力量によるところが大だと思う。

木野花は役者たちに「命懸けよ。存在をかけて立て。圧倒的に立て」と檄を飛ばしたという。これに30代の、脂の充分に乗った肉体たちが真摯に応えた。さらに。役者が足りない分を一人何役も掛け持つことで次々と補填してゆく様を眺めるのもミュージカル『レ・ミゼラブル』方式のようで楽しかったが、狭い舞台裏で早替えがめまぐるしく行われているであろうことを想像すると、その頑張りにも胸が熱くなる。

今回特筆すべきは、調査依頼主にして探偵秘書の「くるみ」役を演じた、大人計画の平岩紙であろう。近頃は城山羊の会などでも絶妙な演技を披露していたが、今回は唐十郎的美学をとことん自らの内に肉化させ、「狂気の愛」に全霊を注ぐ新しいヒロイン像を見事に打ち立てた。「くるみ」は三つ揃えスーツにハットをかぶり、葉巻の煙を燻らせながらダンディな「男装の麗人」として登場。低い声で颯爽と歌う姿は宝塚めいた魔性を放つ。さらに女装に返れば、今度はその情感に満ちた歌と芝居に思わず吸い込まれそうだ。平岩は見た目こそ「紙」のような透明感ある白さを保持させながらも、たとえば消臭剤CMのイメージとは真逆に、アングラロマンの臭みをプンプン撒き散らしながら、奥行きのある演技、迫真の演技で自らの「紙」を突き破ってみせた。これこそが「ネ申」演技というものか。この舞台で平岩「紙」は平岩「神」へと次元の階段をてっぺんまで駈け昇ったのではないだろうか。ふとTwitterを覗けば、元・唐組の丸山厚人も彼女を称賛している。しかし、平岩もさることながら、出演者みなテンションが尋常でなかったようにも見えたけど、編集子が観劇した日、客席で作者の唐十郎氏が見ていたことと関係していたのだろうか。

そういえば演出の木野花は、先日、故・扇田昭彦氏(演劇評論家)のお別れの会で司会進行を務めてらっしゃったけれど、今回の『ジャガーの眼』こそは扇田昭彦氏にもぜひ観て欲しかった、と思っていらっしゃることだろう。

勝手に“一人「唐十郎」フェスティヴァル”のススメ

「平岩の芝居をもう一度眼球に焼き付けておきたい」と編集子はまた観に行くことに決めた。個人的に空いてるスケジュールを確かめると土曜日の昼のみ。しかも、その日は夕方から横浜で劇団唐ゼミ☆の『青頭巾』(作:唐十郎、演出:中野敦之)を観に行くことになっている。『青頭巾』は今春に浅草花やしきで既に観たが、これまた恐ろしく出来のよい舞台だった。つまり、この週末、唐十郎の傑作を一日で二本ハシゴ観劇することになった。無謀かもしれないが、これは案外悪くない組合せで、他の人にもおススメしたくなる。『ジャガーの眼』も『青頭巾』も今回スピーディーな演出で、それぞれ上演時間を二時間以内に収めているので、疲労の心配もあまりなかろう。このハシゴでちょっとした“一人「唐十郎」フェスティヴァル”気分を味わえるのもまた楽しからず哉!

劇団唐ゼミ☆ホームページより

劇団唐ゼミ☆ホームページより


『青頭巾』は1979年状況劇場の初演以来、再演されたのは今春の唐ゼミ☆上演が初めてだ。雨月物語にインスパイアされた作品で、初演を観た編集子もあまり中身を憶えていなかったが、再演を見てその面白さを「再発見」できた。唐ゼミ☆は、前述の横浜国立大学「唐十郎ゼミナール」の出身者達を中心とする劇団で、「唐先生」とは師弟としての適切な距離や関係を保ちながら、その作品を鋭く、そしてわかりやすく「発掘」してきた。今回の『青頭巾』もその成果の一つ。前回のは浅草の特殊な劇場での公演だったが、今度は「海を背にした野外劇」というのも興味津々。どんなスペクタクルが仕掛けられることだろうか。ヒロインを演じる女優は椎野裕美子だが、歴代の唐ワールドのヒロインの中でも屈指の一人である。その意味でも世界はもっと唐ゼミ☆を知るべきであり、色々な要素をもっと評価すべきなのである。

この後は、本家本元たる劇団唐組による秋の紅テント興行『鯨リチャード』が10月に待っている。唐十郎座長の病気休養により久保井研が演出の前面に立つようになってから、戯曲の言葉をいっそう丁寧に扱うようになった印象がある。それによって、ここでも唐戯曲の魅力が「再発見」できるようになった。また若い俳優たちが急速に実力を身に着けているのも頼もしいかぎり。

そして劇団新宿梁山泊は、唐十郎が岸田戯曲賞を受賞した初期代表作『少女仮面』を下北沢ザ・スズナリで9月末から上演する。こちらは主役の春日野八千代(宝塚の名女優)を、かつて唐の妻であり状況劇場のヒロインだった李麗仙が久々に演じることが興味深い。

ともあれ、この時代に生きて演劇という領域に興味を持つ人だったら、日本の演劇シーンに多大なる影響を与えてきた唐十郎の作品とは何であったのか、こういう機会に「好き嫌いを超えて」観ておくにしくはない。演劇は生の空間、生の肉体のうえに成立するものだから、活字や映像で得た知識ではイマイチ良くわからない。しかも、記録や保存とは縁遠い「一回性の芸術」であるから、なおさら観れる時に観ておかないと大いに後悔する。よって、都合の合う人は、それぞれ適宜判断のうえアクションされるのがよかろう。

公演情報
日本の30代『ジャガーの眼 2008』
日時:2015/8/28(金)~2015/9/7(月)
会場:下北沢駅前劇場
作:唐十郎
演出:木野花
出演:井内ミワク、井本洋平、延増静美、少路勇介、鈴真紀史、竹口龍茶、富川一人、羽鳥名美子、平岩紙、町田水城
問合せ:リトル・ジャイアンツ 090-8045-2079
公式サイト:http://www.nihonno30.com/


劇団唐ゼミ☆『青頭巾』<横浜凱旋公演>
日時:9月4日(金) 5日(土)各18:00
会場:みなとみらい臨港パーク
作:唐十郎
演出:中野敦之
出演:椎野裕美子、禿恵、重村大介、熊野晋也、入谷入山、津内口淑香、八重柏泰士、ワダ タワー、鷲見武、林麻子、他
問合せ:劇団唐ゼミ☆(10時〜18時)090-9803-9409
公式サイト:http://karazemi.com/


劇団唐組第56回公演『鯨リチャード』
■2015/10/08(木)~2015/10/17(土) 猿楽通り沿い特設紅テント
■2015/10/24(土)~2015/11/03(火・祝) 雑司が谷・鬼子母神
作:唐十郎
演出:久保井研+唐十郎
出演:久保井研/辻孝彦/藤井由紀/赤松由美/気田睦/岡田悟一/土屋真衣/岩戸秀年/南智章/清水航平/福本雄樹
作曲:大貫誉
問合せ:劇団唐組 03-3330-8118
公式サイト:http://ameblo.jp/karagumi/


新宿梁山泊第56回公演『少女仮面』
日時:2015/9/30(水)~2015/10/7(水)
会場:ザ・スズナリ
作:唐十郎
演出:金守珍
美術:宇野亞喜良
音楽:小室等、大貫誉
出演:李麗仙、金守珍、三浦伸子、渡会久美子、広島光、小林由尚、申大樹、島本和人、 加藤亮介、松山愛佳(文学座)、鴨鈴女(南河内万歳一座)
問合せ:新宿梁山泊 03-3385-7971
公式サイト:http://www5a.biglobe.ne.jp/~s-ryo/

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