大手ファッションブランドと人気ダンサー、ありそでなかったコラボイベントがスタート
ファッション×ダンス。相性がよさそうなのに、うまくマッチングできてなかったジャンル同士。だから、こうしたイベントもすでにありそうなのに実現していなかった。そこを上手に結びつけた『FASHION DANCE NIGHT』が3月20日に東京・渋谷「SHIBUYA duo MUSIC EXCHANGE」で開催される。恐縮ながらは発売2日で完売。でも、彼には野望があるから、次はきっと参加できる。
仕掛け人はVintom代表の愛甲準、若干27歳ながら数々のダンスイベントを仕掛けてきたプロデューサー。慶応大学を出て、有名IT企業、民放キー局という誰もが「もったいないなあ」と嘆くような経歴を投げ出してまで、ダンス界をなんとかしたいと思っている。
「もともと僕も大学ではダンスをやっていたんです。それで就職したあとも仕事のかたわら、卒業してもダンスをやりたいというダンスサークルのOBOGの公演を主催していました。そうすると、ITもテレビ局もエンタメ系の仕事だったので、周囲の方々が面白がってくれた。今の時代どんどんダンス人口が増えているし、企業の皆さんもダンサーを使って何かやりたいと意外と思っている。でも芸人さんだったら吉本興業さんというように入口があるんですけど、ダンスの場合はどこに相談していいかわからないし、ましてやどんなキャスティングができるか、どういう企画の可能性があるかなんてわからないんですよ。そんな話をいろんなところから聞いて、だったら僕がやってみようと思ったわけです」と愛甲。けれど動機の根本は別のところにある。
プロのダンサーという仕事を確立させたい
「大学で今一番人気があるのがダンスサークルで300~500人の団体が都内で30、40はある。EXILEなどの影響やダンスの義務教育化で、これだけ盛り上がっているのに、プロのダンサーという職業はまったく確立されていない。目指す場所がないんです。だから夢を持って上京して事務所に入ってもアイドルをやらされたりするケースがすごく多くて。その状況に社会が追いついていないんです。できれば国に支援してほしいですよ。そのまま夢を捨てて普通に就職していく子たちをたくさん見てきたので。これは世の中的にどうなのかと思って会社を立ち上げたんです。ダンサーの道を作ること、ダンスを使った企画を展開していこうと。その中でダンスでファッションブランドのPRをしようというのが『FASHION DANCE NIGHT』です」
愛甲の言葉が指し示すダンスとは、いわゆるハウス、ロッキン、ヒップホップ……ストリートダンスのこと。ステレオタイプのおじさんにはデニムパンツやキャップで踊る、ちょっとヤンキーでアウトローなお兄さんたちが夜な夜な街中のウィンドーの前で踊っている姿が浮かぶ。
「Japan Dancers’ Championship」 写真提供:Vintom
「いわゆる大人が感じているダンスのイメージって、アングラっぽいと思うんですけど、今やっている子はすごくまじめだし、礼儀正しいし、本当に体育会みたい。そのへんを理解してほしいですね(笑)。とはいえ自分たちのダンスにこだわりが強いから、事務所のようなところに縛られるのがいやだという傾向もあるんです。ダンススタジオやイベントはやっても、なかなか拡大はしていかない。僕はいい意味で中途半端だったのがよかったんでしょうね。ダンスをやっていたと言ってもプロを目指すほどではないし、就職してエンタメ系の仕事をする中で、イベントの開催、広告営業、ITを使った発信、映像制作となんだかんだやってきたことがうまく融合したんです。『FASHION DANCE NIGHT』での僕の役割は、間に入って、うまくつないで調整すること」
ダンサーがブランドの世界観をダンスで表現
では愛甲は何を仕掛けようとしているのか。ダンサーからの視点、ファッションブランドの視点から語ってくれた。
まずはダンサーからの視点。
「正直ストリートダンスは衣裳がかっこよくない。それなりに気は使っているけど、おっしゃったようにこだわりがあって、このジャンルはこういう衣裳が伝統的だからということに捉われがちなんです。そこを工夫したらいい見せ方ができるのに。雑誌作りでもコンセプトを考える編集者がいて、撮影するにはカメラマンだけでなく、スタイリスト、ヘアメイクなどプロがしっかりかかわっているじゃないですか。ダンスの世界は曲選び、振付、衣裳を全部一人が決めるんです。しかも出演もする。それぞれのプロフェッショナルがやることでもっと魅力的で深い世界観を表現できるのを知ってほしい。そのためにはダンスでスターを輩出することが必要。ブランドの力を借りて、モデルとしてタイアップすることで知名度を上げていかれればいいなと」
そしてファッションブランドの視点から。
「ダンス人口は今や600万人と言われています。ダンサーは年に3、4回イベントに出るんですけど、30、40人のチームで衣裳をそろえるんです。仮に1万円だとすると、市場規模で30億円になる。ファッション業界にお金は落としているんですけど、ダンスだったらここ!というブランドがまだないんです。一方ブランド側にも衣裳として使ってもらうことでメリットが生まれる。実際コラボしている中で、このレギンスがかわいいから次の作品で使いたいということがある。そうすれば衣裳が×30、40で発注されるんです。だからこそファッションブランドにもダンス界に参入してもらいたいというのが一つ。
ダンスは動画で表現できるので、ブランドイメージをより深く、リアルに表現ができるんですよ。そしてバズりやすい。今まで洋服を紹介するのはファッション誌、つまり写真が定番ですけど、ダンサーがブランドの世界観をダンスで表現して映像で発信するスタイルを当たり前にしていきたい。あるブランドで実際に週に5本制作しているんですけど、とても好評なんです。そしてブランド側にもダンスへの理解が進んでいく」
「Japan Dancers’ Championship」より 写真提供:Vintom
「Japan Dancers’ Championship」 写真提供:Vintom
そんな思いが組み合わさって『FASHION DANCE NIGHT』は走り出した。とはいえ、双方に強いこだわりがある。ダンサーの世界観とブランドの世界観、その間に入って調整するのが、愛甲の役割。それが容易ではないからこそ、過去にも“ファッション×ダンス”なアイデアはあってもなかなか実現してこなかっただろうと愛甲は推測する。
第1回にあたり、コレオグラフィー(振付)とブランドのセレクトは愛甲が行った。ダンスと相性がよさそうなブランドに声をかけた。ダンサーもクオリティだけではなく、ブランドとやりとりするためのディレクションができることを念頭においた。「s**t kingz」×「New Balance」、「Ruu」×「Lux」、「Eri」×「Heather」、「YUMIE」×「SPINNS」など当日は、20人くらいのチームにより11のコラボダンスが見られる。
「みなさんがストリートという言葉から想像するよりは、アーティストと捉えてもらえるような人選をしています。実際このイベントはブランド側の皆さんもイメージしにくいでしょうし、そもそもダンスとのコラボの実績もないので、まずはこつこつ関係を築いてきました。ファッションショーでただランウェイを歩くよりも、振り付けがついて、照明などいろんな演出がなされることで魅力的に見え、きっと喜んでもらえると思うんです。一度見てもらえばブランドの皆さんにもダンサーにも参加してみたいと思ってもらえる自信はあります」
s**t kingz 写真提供:Vintom
愛甲は『FASHION DANCE NIGHT』を東京ガールズコレクションのようなビッグイベントに育てていこうと考えている。来年、再来年とさらに大きな会場での開催を目論んでいる。
「STREET DANCE FESTIVAL」、大学ダンスサークル日本一を決定する「Japan Dancers’ Championship」などを手がけてきた愛甲。最後にぽつりと言った言葉が印象的。
「やっぱり人のためになりたいんですよ。今はダンスと関わっていますけど、何か地域起こしもやってみたいですね」
取材・文:いまいこういち
■公式サイト:『FASHION DANCE NIGHT』 http://vintom.co.jp/fashion-dance-night/