『エジソン最後の発明』で7年ぶりに脚本と演出を同時に担当する青木豪にインタビュー

インタビュー
舞台
2017.3.23
青木豪

青木豪


緻密な人間観察により日常的な場面に潜む登場人物の葛藤や心情を浮き彫りにした作品で定評のある青木豪。劇団活動を休止後は、さまざまなカンパニーに作品を提供しているが、久しぶりに脚本と演出を同時に担当するのだとか。それが、『エジソン最後の発明』だ。下町の小さな工場を舞台に、近所から「エジソンさん」と呼ばれる男性が、「死者と話す通信機器」の発明に取り組み始めたことから、ラジオの人気パーソナリティとして活躍する娘、その恋人、父親の片腕として働いている息子、さらにはご近所の人びとも巻き込んで悲喜こもごもの騒動が繰り広げられる……。

あくまでも舞台を作りたいので、脚本も演出もできるのはうれしい

ーー『エジソン最後の発明』は、脚本を書き、演出もするという形になりました。

青木 7年ぶりですね。でも最後の作品はラフカットでしたから30分の戯曲なんですよ。その前にさかのぼると、平田満さんのアル☆カンパニーの『ゆすり』(2011)、グリング『吸血鬼』(2009)ですから、ずいぶんやっていなかったんですね。

ーー両方を手がけるというのは?

青木 稽古が始まって思い出したのは、微調整を皆さんと共有しながらできるという感覚でしたね。今回は書く段階で無意識に皆さんの意見を入れることができる余地を残していたんです。現場で「ここなんだけど」と聞かれれば「僕はこういうつもりで書いたんですけど」「じゃあ、こうしましょう」というやりとりができる。劇作家として参加する場合は、脚本をきっちり仕上げて、稽古場で不都合が出てきたら連絡してくださいという形でコンセンサスをとっていたんですけど、それだと現場とのタイムラグができてしまう。そういう意味ですごくライブでものを作るこの感覚がすごく楽しいですね。やっぱり僕は、舞台が作りたくて脚本を書いているので。

ーー演出家としての成長は感じますか?

青木 前よりもかかわっている皆さんの意見を受け入れる度量が広がった気がします。前は狭量だった(苦笑)。でもオリジナル作品は、ここは本がまずいから直そうという作業をするので、本当の演出力とは違う気がします。演出には、舞台を立ち上げることと、そのカンパニーをどういう雰囲気に導くかという二つの側面があると思うんですけど、後者についてはだいぶ鍛えられた気がします。

誰かが亡くなることで変わる人間関係に興味があった

ーー『エジソン最後の発明』はどんな作品をつくろうと?

青木 最初は町工場の話を考えていたんです。ラジオのパーソナリティを登場させようと思ったのは瀬奈じゅんさんの声を聞いたときにいいなと思ったから。じゃあ、もっとラジオの話を膨らませようとプロデューサーと話したり。あとエジソンの最後の発明が死者と話す機械だったというのを何かで読んで覚えていて。この3つをどう絡めていくか、もんもんと練っていた感じですね。でもバランスとしては死者と話す機械のエピソードが大きいと思います。誰かとつながりたい、誰かとしゃべりたいという気持ちというか…。僕も数年の間に両親を立て続け亡くしましたし、親戚も亡くしている。人が亡くなることよりも、僕の中では周囲の人間の関係性がどんどん変わっていくことのほうがたぶん大きいんです。残された人たちがその先をどう生きていこうとするかが。死者と話す機械を作ろうとしている人は誰と話したいのかなとか。主軸はお父さんと娘とその恋人の話で、その機械を軸にどう展開していくか、という話です。

ーー町工場という題材はどこから出てきた?

青木 最初はね、旧作をやろうかという話もあったんですよ。でもマネージメントをしてくださる事務所を移籍しての第1弾だから、新しいことをやりたいなと。その時に旧作にあった工場の風景がなんとなく頭の中にあって。いろんなところを散歩したときに、長く続く鉄の階段が気になったんです。たぶんそれは、どんどん綺麗になっていく街を歩いていて、もっと錆びたものとかノイズがあるものに惹かれる感じが根本にはあったからかもしれません。それとエジソンの機械を自分で作ろうと思っているおじさんがいるんなら、下請けをやっているような町工場もぴったりだと。

小野武彦さんの雑談をきっかけに、役柄それぞれの背景を共有できる稽古場

ーーお父さんと娘とその恋人が主軸の物語ということで、小野武彦さん、瀬奈じゅんさん、東山義久さんそれぞれの印象を教えてください。

青木 お父さんと娘の話をというときに、お父さんは絶対に小野さんにってお願いしたんですよ。新国立劇場で書いた『おどくみ』に出ていただいたとき、小野さんが僕が書いた大事なせりふよりも、くだらないせりふを気に入ってくださったことがうれしかったんです。こういうことを面白がっているんだということをわかってくださっていることが。そこに信頼があるんですよ。今回も、劇的ではない日常的な肩肘張らない空気が続いている中で、ものすごく重要なことが時々ガリ、ガリっと見えてくる感じがいい本だねって言ってくださって。日常的なだけだと、ずるずる流れてしまうから、ここが肝だという部分をさりげなく見せられたらいいよね、という話もしてくださって、ありがたいなと思いますね。

 瀬奈さんはお父さんさんとソリが悪い娘。稽古前半、瀬奈さんは他所で本番を抱えながらだったんですけど、声も雰囲気も切り替えて参加してくださっていた。役者さんにとってそれは面倒な作業だと思うんです。そういう姿勢は尊敬します。素敵なんですよ。柔らかいし、とっても真面目だし、こういうことがやりたいという空気を早い段階で共有してくださいましたね。

 東山さんは腰が低い方で面白い。申し訳ないことに、東山さんの舞台は拝見したことがなくて、普段の印象を膨らませて描かせていただきました。そのままをやってくださいと。でも東山さんのファンは圧倒的に見たことがないキャラクターだと思いますよ。

ーーどういうカンパニーに成長していけばいい?

青木 何気ない瞬間に、その役が抱えている何かの片鱗みたいなものがふわっと浮かび出るようなことが自然にできるようになって、そこにただ皆さんが生きているということをご覧いただけるカンパニーになったら素敵だと思います。今も稽古は小野さんが引っ張ってくださっているんです。「余談だけどさ」といろいろな話をしてくださるんですけど、そのときに登場人物の履歴みたいなもの、この人たちどのくらい会っていないのかなとか、どういう人に対してどういう関係性なのかなということがみんなに共有されていく。この人たちは前から知り合いなんだということが、ふっと見えるとか、そういうふうになっていけばいいなと思いますね。

世の中はわからないことだらけ

ーー豪さんの書くもの。 演出は幅が広くなったというけれど、書く方は?

青木 悩み方は変わりません。ただ前よりも書くのが怖くなったかな。劇団のファンに見てもらっていたときとは違うので、すごく責任を感じるんです。言葉は人を平気で傷つける。だからといっていい人ばかり登場させて全く誰も傷つかない言葉を書いても仕方がない。劇団時代から悪意を持ってではなくて、自分が傷つく言葉ならいいかもしれないと思っていたんです。もしほかの人が傷ついたとしても、僕もその傷はわかったうえでやっていますと言えるので。それがもっと大きくなってきた気がします。

 あとはきつい話が少なくなってきた気がします。そういうことで自分が喜ばなくなってきた。それは年齢じゃなくて、震災以降、ここ何年かはみんなきついじゃないですか。しんどいときにもっとしんどいものを見せてどうするって。そうそう、今回もう一つ付け加えると、この世の中、世界のシステムだったり、人が生きているといことについては、わからないことだらけなんだろうなということはどこかで書きたかったかもしれないと、気づきましたね。

青木豪(作・演出) プロフィール:1997年に劇団グリングを旗揚げ。以後、2009年の活動休止まで作・演出を務める。プロデュース公演や多くの劇団にバラエティに富んだ作品を提供。近年の舞台作品では、脚本として『ガラスの仮面』『八犬伝』『断色』『鉈切り丸』『9 days Queen』『天鼓』『ブルームーン』『花より男子 The Musical』など、演出として『往転-オウテン』(第66回文化庁芸術祭新人賞受賞)『The River』Dステ19th『お気に召すまま』(演出担当)などを手がける。そのほか、NHK FMシアター「リバイバル」でABU賞受賞、HTBスペシャルドラマ「ミエルヒ」ではギャラクシー賞テレビ部門優秀賞など受賞歴多数。
 

取材・文:いまいこういち

公演情報
『エジソン最後の発明』
 
■日程・会場
【東京公演】 2017年4月2日(日)~23日(日) シアタートラム
【名古屋公演】 2017年5月1日(月) 青少年文化センター アートピアホール
【大阪公演】 2017年5月2日(火)、3日(水) サンケイホールブリーゼ
 
■作・演出:青木豪
■出演:
瀬奈じゅん 東山義久 岡部たかし まりゑ 安田カナ 武谷公雄
八十田勇一 小野武彦
■オフィシャルサイト https://edison.amebaownd.com/​

シェア / 保存先を選択