『オワリカラ・タカハシヒョウリのサブカル風来坊!!』 マジック:ザ・ギャザリング 八十岡翔太に訊く“プロプレイヤー”の世界

インタビュー
アニメ/ゲーム
2017.3.29
左:タカハシヒョウリ、右:八十岡翔太 撮影=髙橋定敬

左:タカハシヒョウリ、右:八十岡翔太 撮影=髙橋定敬

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ロックバンド『オワリカラ』のタカハシヒョウリによる連載企画『オワリカラ・タカハシヒョウリのサブカル風来坊!!』。毎回タカハシ氏が風来坊のごとく、サブカルにまつわる様々な場所へ行き、人に会っていきます。第六回となる今回は、「マジック:ザ・ギャザリング」プロプレイヤーの八十岡翔太氏へのインタビュー取材を敢行。「カードゲームのプロってなに?」「対戦時のコツは?」等々たっぷりお話いただきました。さらに、インタビュー後半ではまさかの対戦も実現!


――あれは20年近く前のことだ。中学生だった僕は、同じ学校の1学年上の先輩と下校していた。家の前に差し掛かった時、その先輩が「面白いもの見せてやるよ」と言って何かのケースを取り出した。「マジック:ザ・ギャザリングっていうカードゲームなんだ」と言ってそのケースから見せられたカードは、1枚1枚が外国の絵画のようなイラストで美しかった。先輩は、簡単にルールを説明してくれたと思う。1枚のカードを取り出して「沼の数だけ強くなる凄いカード」と紹介した。今になって思うと、あれは「黒単夢魔」というデッキだった。俄然興味が湧いた僕は、ブースターを買ってみたが、キラカードが入ってないし、当時の僕の知力レベルではルールが理解できずに挫折した。ちょうど同じ頃、神奈川のカードゲームショップに件の先輩と同じ年の1人の少年が出入りしていた。彼は、後々に日本有数のMTGプロプレイヤーとして成長し、様々なタイトルを獲得、2016年ハワイで行われたプロツアーで優勝し世界一にも輝いた。彼の名前は、八十岡翔太。「ヤソコン」とも呼ばれるその独創的なデッキビルディングや、「blazing speed」と呼ばれる高速のプレイングで、多くのMTGファンを魅了している。

さて、今回のテーマは、24年前に世界で1番最初の「TCG(トレーディングカードゲーム)」として誕生し、今では70カ国以上でプレイされ「1番遊ばれているTCG」としてギネスにも認定されているカードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」。大人になって、僕はいまさらMTGの深すぎる世界にドハマりしている。そんなMTGの“プロプレイヤー”の世界を知るために、八十岡翔太さんに会いにMTG専門店『晴れる屋』さんに向かった。

 

八十岡プロ、MTGに出会う

タカハシヒョウリ(以下、タカハシ):マジック:ザ・ギャザリング(以下、MTGまたはマジック)のプレイヤー向けのインタビューって多いと思うんですけれど、今日はそれよりもうちょっと「あんまりMTGわかんないな」って人向けの話もできたらなって思ってます。なので、初歩的なことも伺うと思うんですけども……。

八十岡翔太(以下、八十岡):わかりました。全然、大丈夫です。

タカハシ:いま僕のまわりでも、小中学生の時にやっていて最近復帰した、っていう人がすごい多くて。僕自身は子供の頃は、指をくわえて見ていたというか(笑)、自分よりちょっと先輩の人とかがやっていて、やりたいんだけど「難しいな!」と挫折したっていう感じだったんです。で、去年から20年越しでやり始めて、今すごいハマっていて。八十岡さんってマジックをやり始めたのはいつからなんですか?

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

八十岡:中学一年ですね。19年くらい前、1997~98年あたりですね。

タカハシ:ちょっと不思議なのが、僕らの世代ってスーファミとかあったじゃないですか。で、ポケモンとか、プレステもあった。デジタルゲームがみんなのコミュニケーションのツールだったと思うんですけれど、そういうのには行かなかったんですか?

八十岡:やっていましたよ。ポケモンとかも、初代の赤、緑とずっとやっていて。

タカハシ:じゃあゲーム全般が好きで。

八十岡:そうですね。ポケモンは小学6年生ぐらいの時に流行っていて、そのあとプレステ出て、FF7出て……その時期でしたね。

タカハシ:じゃあデジタルゲームもやりながら、カードゲームもやっていたと。

八十岡:まあ最初は遊んでいるだけでしたがね。マジックを始めた最初のきっかけは、クラスにマジックをやっている子がいて、部活の先輩にもやっている人がいて、そこから誘われて、ですね。

タカハシ:そこから今日まで、マジックを卒業することなくずっとやっている?

八十岡:そうですね。

タカハシ:まったくやっていない時期っていうのは無いわけですよね?

八十岡:ないですね。

タカハシ:すごい!結構みんな高校生くらいでやめちゃうじゃないですか。あれ何なんですかね? 「やめる/やめない」の境目っていうのは。

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

八十岡:うちらの世代でいうと、まず高校受験の時に一回やめるタイミングがくるんです。僕もその時少しやめて……いや、でもやっていたな(笑)。で、中学卒業した後もカードショップに遊びに行っていて、で、そこに僕が入った高校の先輩もいたんですよ。だから高校ではまたその先輩とやって。なのでやめるタイミングがあんまりなかったというか。

タカハシ:「街のカードショップ」に通うかどうか、ってデカいですよね。めちゃくちゃハードル高いじゃないですか。ここ(晴れる屋トーナメントセンター)は大きくてかなりカジュアルですけど。そういうところで仲間を見つけられるかどうか、って大きいですよね。

八十岡:そうですね。しかも当時はこんなにカードショップがなくて。駄菓子屋とか本屋とかゲームショップの一角にデュエルスペースだけある感じでした。だから行ったときも年配の人ばっかりだったんですよね。社会人の人とかが多くて、という感じでした。

「カードゲームのプロ」ってどうやって暮らしているの?

タカハシ:そんな少年期を経て、MTGのプロプレイヤーになり、昨年はプロツアー優勝ということで…おめでとうございます!でもですね、これ読んでる人からすると、そもそも「カードゲームのプロ」ってなんだ?という……。

八十岡:僕からしても「なんなんだ?」と思っています(笑)。

一同:(笑)。

タカハシ:たとえば、すごい強いアマチュアの人もいるわけですよね。その人が「プロ」になるにはどうしたらいいんですか?

八十岡:他の将棋とかみたいにプロ連盟があるわけじゃないんで、なにがあってプロかといわれると難しい。結構マジックって昔からそこが謎で、「どこからプロなんだ?」っていう風に言われるんですよね。

タカハシ:そうなんですか! プロランクがありますよね?

八十岡:ありますね。

タカハシ:それは何で決まるんですか?

八十岡:年に4回ほどプロツアーっていう大きな大会があって、それが年4回あるんで、4回出れたらプロって名乗っていいかなと……。大きい大会で勝つと、ポイントがたまっていくんですよ。そのポイントが高いと、プロの大会にも招待される感じです。ゴルフとかもあるじゃないですか。

タカハシ:ありますね。シード権的なものが与えられるということですね。ということは、積み重ねなんですね。突然強くても意味ないんですよね?

八十岡:一回ポーンと勝つと、少しだけレールに乗れるというか、そこから落ちないとやっとプロになれるのかなという。1回勝っただけではプロではないですね。

タカハシ:MTGのプロっていうのは世界には何人くらいいるんですか? プロツアー大会に出場できるのは……?

八十岡:それは大体400人くらいなんですけれど、1年間ずっとプロツアーに出続けられる人は100~200人くらい。で、さっきポイントをためると大きな大会に招待されるって言ったじゃないですか。そのポイントに応じてステータスが決まるんです。シルバーレベルとか、ゴールドレベルとか、プラチナレベルになるんです。

タカハシ:八十岡さんは最高のプラチナレベルですよね。

八十岡:僕プラチナですね。

タカハシ:それは何人くらいいるんですか?

八十岡:プラチナは30人くらい。

タカハシ:世界に30人!? 少ねえー。

八十岡:一応そこがプロって呼べるラインなのかなと。

タカハシ:じゃあMTGのプロは世界に30人ってことか…。やっぱりその30人くらいの人が、世界大会の決勝で当たるんですか。

八十岡:いや、必ずしもそうではないですね。でも誰かは残っています。

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

タカハシ:これを読んでいる人も「カードゲームのプロ」ってどんな日常なのか、全く謎だと思うんですが、MTGのプロプレイヤーはどんな生活をしているんですか?

八十岡:普通の生活ですよ、たぶん(笑)。仕事しています。

タカハシ:それは普通の職業?

八十岡:普通の職業、ですかね? 一応僕もカードゲーム関係で仕事しているんですけれど。

タカハシ:カードゲームを作っている?

八十岡:そうですね。

タカハシ:仕事でカードゲームを作りながら、カードゲームで遊んでいる。基本的にカードゲームのことを考えている……。

八十岡:はい。いまの仕事についているのも、もともとマジックで勝って、誘われたみたいなところがあるんで。

タカハシ:カードゲーム系の仕事に就く前は?

八十岡:一年中マジックをやっていましたね。そういう意味では、格闘ゲームのプロに近いのかなと。

タカハシ:その時はどうやって生活をしていたんですか。

八十岡:賞金ですね。

タカハシ:おー! それは、1年間を食べていけるくらいもらえる?

八十岡:ギリギリです(笑)。1年間かなり頑張って、一応普通には生きていけるかなくらい。

タカハシ:いや、でもすごい。たぶん「カードゲーム強かったら食べていける!」って思っている人、世の中にほとんどいないと思うなぁ(笑)。でも今は同時に働いていらっしゃるわけですよね? 今は、MTGの「練習」をする時間っていうのはどれくらいとってるんですか?

八十岡:月に1回なにかしら大きな大会があるのでその大会に出るのと、家でマジックオンライン(※MTGをオンラインでプレイできるネットゲーム。以下、MO)をちょこちょこ触るくらい。なので、そんなにはしていないですね。僕は世界中のプロの中でも少ない時間しか練習していない方みたいです。

タカハシ:ちなみに働く前っていうのは、人生最大でどれくらいの時間やっていましたか?

八十岡:まあ、ずっとやっていましたね。

タカハシ:寝食以外ずっとMTG、みたいな?

八十岡:そこまではいかないですけれど、近いときはありましたね。一番濃いときはそのくらい。

タカハシ:MOで一番やっていた時はどのくらいやるんですか?

八十岡:最初は1日8時間くらいやっている程度だったんですけれど、だんだん1日20時間とか……。一番やっていた時期の最後の方は20時間以上やっていましたね。

タカハシ:20時間以上……!?最低限、トイレ行って寝て……。いわゆるネトゲ廃人的な。

八十岡:ネトゲ廃人でしたねー。

タカハシ:話が戻りますが、「プロ」と呼ばれる人がカードゲームで収入を得るのは、賞金しかないんですか?

八十岡:ここ1年くらいは、カードショップがスポンサーについてくれるようなことも増えましたね。僕はいま晴れる屋のプロなんですけれど、ユニフォームを着てイベントに出るといくらもえるとか。それプラス、勝ったときの成功報酬としてボーナスが出る、みたいなことも。

タカハシ:となると、プロプレイヤーでこれまで勝っていたけれど、ある年にまったく勝てなくなった、みたいな人は年収0円になるとか?

八十岡:契約次第ですね。場所によっては成果報酬にすると0になりますし、最低保証してくれる企業もあります。負けても、一応ユニフォームを着て出場するので。

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

「プロの世界」カードゲームの強い・弱いって?

タカハシ:プロの世界っていうのがすごく気になるので、いろいろ聞いちゃうんですけど、たとえば「強い/強くない」って一体なんなんですかね? 八十岡さんは事実として勝っているわけじゃないですか。それは他のプレイヤーと比較して何が優れているから勝っているのか? そういう点をご自身ではどう考えているのか、気になります。

八十岡:「ミスが少ない」みたいな、細かいところになると思います。将棋とかもなにが強いのか、ってわからないんじゃないですか。「上手いから」としか言えない。「ミスが少ない」とか、「当たり前のことができる」とかですかね。プロと呼ばれる人たちの間では、技術的な違いはほとんどないと思っています。一定水準を越えた上で、「読みが鋭い」とか「ブラフ(=はったり)が強い」とかの違いがそれぞれ出てくる。

タカハシ:そういう世界で戦い続けて、マジックをやり続けてきて、マジックが苦痛だったとか、「ちょっと、そろそろマジックやめてえな」みたいな時は無かったですか。

八十岡:プロ生活を2006年くらいから始めているんですけれど、やはりずっと勝っていたわけではないんで、波はありますね。でもやめたいって思ったことはないです。

タカハシ:逆にマジックのプロだからこそ経験できることってあったりします? 「マジックやっててよかったなー」と思う場面とか。

八十岡:知り合いが増えますね。海外の人とコミュニケーションとったりすることもできます。あとは海外のいろんなところにいけますね。

タカハシ:初めてのプロツアーは?

八十岡:僕が高校一年の時のプロツアーですね。場所はバルセロナです。

タカハシ:高一で海外に行っているんですか!? それもう明らかにめちゃくちゃ強いですよね!?

八十岡:いや、たまたま行けたんです。そこで初めて友晴さん(齋藤友晴、株式会社晴れる屋代表)に会いました。

タカハシ:ちなみに、そういうのの渡航費って自腹なんですか?

八十岡:そうなんですよ。その頃はまだ自腹で。20万くらいかかったんですよ!

タカハシ:いまはある程度結果を残したら渡航費はもらえる?

八十岡:そうですね。でもホテル代や現地での食費は自腹です。

タカハシ:ええ、そうなんですか!? いい飯食わしてくれたりとかないんですか。大会の裏でのケータリングとかないんですか。

八十岡:ないですね。

タカハシ:ないんだ! そこはでも、夢を育んでほしいなぁ(笑)。

八十岡:昔はパーティみたいなのとか、ラウンジでお酒を飲むとかできたんですけれど、気づいたらなくなっていましたね(笑)。

タカハシ:プロの大会だとMTGのモニュメントみたいなのがあって、すごい空間で対戦するじゃないですか。あれってやっぱり緊張感ありますか。

八十岡:そうですね。やっぱり最高峰の大会ということもあって、シーンとしてて、緊張感はありますね。プロツアーに一度出ると、また出たいなという気持ちになって、続ける人が多いですね。僕自身も高校1年の時に出て、また出たいなと思って続けてきた感じです。

タカハシ:プロツアーのどういうところが良かったんですか。

八十岡:プロ同士の大会のピリピリした感じですかね。それまでは和気藹々とやっていたものが真剣勝負にかわる感じですね。

八十岡流デッキビルドの美学、そして「運」の話

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