『オワリカラ・タカハシヒョウリのサブカル風来坊!!』 マジック:ザ・ギャザリング 八十岡翔太に訊く“プロプレイヤー”の世界
撮影=髙橋定敬
タカハシ:あとですね、デッキ(※ゲームをプレイするための60枚以上のカード)を構築するときやプレイしている時の、直感と計算の割合ってどれくらいですか?
八十岡:デッキはほとんど計算にはなると思います。プレイングに関しては、僕は計算よりは直感のほうが多いかなと思います。8割直感かな。
タカハシ:8割直感!
八十岡:10割直感になるのがベストなのかなと個人的には思います。直感って、「経験に基づいて計算しなくてもわかる状態」ということなので。全部が直感になるのがベストなんですけれど、そうそう簡単にはいかないですね。
タカハシ:八十岡さんが組んでいるデッキは「ヤソコン」という名前がつくくらい独特じゃないですか。それは、計算して導き出されたものが、他の人と違うっていうことですよね。それは他の人と何が違うんでしょうか?
八十岡:何が違うのか、と言われると難しいですね。ただ、考え方が違うというのはあるかもしれないです。基本的に勝つだけのデッキではないので、そういう意味で、人と違うデッキを作ろうという意識は持っています。そういうのは人と違う部分ですね。
タカハシ:それは、使いたいカードを使うとか?
八十岡:そうですね。みんながデッキで使っているもの以外でどうにかしよう、という気持ちからスタートすることが多いんで。
タカハシ:それはプロとして、意図的にそうしているみたいなところがあるんですか? 観客に魅せよう、というような。
八十岡:今はそういうのもありますね。それに、「デッキビルダー」としては誰しもオリジナルで勝ちたい、っていう気持ちはあるじゃないですか。最初はそういうところからスタートして、プロとして名前が出るようになってからは、なるべく自分のデッキで勝って見ている人にも楽しんでもらうっていうのは大事にしています。
撮影=髙橋定敬
タカハシ:大会の前日にデッキを組む、という話は本当なんですか。
八十岡:本当ですね。
タカハシ:その場で考えて、みたいな?
八十岡:前々から多少は考えていますね。ある程度みんなが何を使うのかは予想して練習したり、情報を集めて、その上で組む、という感じですね。
タカハシ:大会の前日っていうことは、プロツアーだったら海外の現地に着いてから、っていうことですよね。
八十岡:そうですね。昔は朝組んでいましたね。
タカハシ:はっはっは(笑)。
八十岡:朝3時くらいに起きて作って、8時くらいに完成して、9時から大会、みたいな。
タカハシ:すげえー。それは、長期間長考したほうがいい、っていうことはないんですか?
八十岡:そうですね。いまは発売してからすぐに大会なので、そもそも発売してから2週間くらいしか考える期間はないんですよ。結局2週間前からやっていても、ずっとああだこうだ悩んで目移りしちゃいますよね。だから、そんなに変わんないのかなあという気がします。
タカハシ:あと、これはすごく聞きたいなと思っていたことなんですけれど、「運」ってあると思います?
八十岡:あると思いますね。
タカハシ:それを意識することってありますか? たとえば、麻雀だと阿佐田哲也っているじゃないですか。彼は「運気の流れがあるから、私生活はできるだけダメにして、そのぶんギャンブルに運気を」みたいなこと言うらしいんですね。そういう感じの運の流れとか意識しますか。
八十岡:流れは意識しますね。ツイている、ツイていないっていうよりかは、なにかを引きそうな流れとか、悪い流れだな、とか。
撮影=髙橋定敬
タカハシ:例えば、プレイしていて明らかに悪い流れがきている、みたいなときってそれを打破する方法とかってあるんですかね?(笑)
八十岡:いや、ないですね、諦めるしかない(笑)。逆にいうと、マジックはある程度運があるゲームなんで、理不尽な負けが続いたからってあまり気にしないっていうのが大事かもしれないですね。「ああツイてなかった」で片づけられるというか。
タカハシ:ちなみに、MTGというゲーム自体は、運と実力、何割・何割のゲームだと思いますか?
八十岡:よく言われるんですけれど、とても難しい質問なんですよね。僕は、運3割・実力7割だと思います。
タカハシ:ああ、すごい的確なところな気がしますね。ポーカーは運1・実力9とか言われてるみたいですが、運0・実力10のゲームってあるんですかね?
八十岡:将棋とかはよくそういわれますけれど、「0」とまでと言われるとそうでもない気も……。
タカハシ:ちなみにMTG以外のゲームっていうのはやるんですか? ボードゲームとかアナログゲーム、あるいはデジタルゲームとか。
八十岡:僕けっこうやりますよ。基本ゲームなんでも好きなんで。ボードゲームも一時期は結構やっていましたね。
タカハシ:ちなみにハマったやつはなんですか?
八十岡:『プエルトリコ』とか、『カタン』、『ドミニオン』もやっていましたね。
タカハシ:『ドミニオン』はたしかにMTGっぽいところもありますね。僕『カタン』が大好きで、運と実力が五分五分くらいかなって思うんですが……。
八十岡:いや、それはどうですかね? 結構実力重視な感じがしますけれど。
タカハシ:ああー、それはやっぱりプロの意見ですね。ちなみに八十岡さんは、MTGではコントロール(※積極的に攻めるより相手の行動に対応して場を支配する「待ち」のスタイル)を組むけれど、他のカードゲームではコントロールを組まない、っていう話を耳にしたことがあるんですが……。
八十岡:詳しいですねー(笑)。逆に言うと、コントロールが強いっていうゲームなかなかないんですよね。
タカハシ:たしかにMTGの独特なところですね。コントロールが好き、っていうわけではない?
八十岡:なんだかんだで好きなんだと思いますよ(笑)。
八十岡流・実戦的ドラフト指南書
タカハシ:僕去年マジックをやりだして、最初にスタンダードで対戦しているとき、そんなに深くはハマらなかったんですよ。でも、ドラフト(※未開封のカードを使って4人以上でプレイする遊び。未開封のパックからカードを選んで戦うので、デッキを用意しなくても遊べる)っていうものを知って、これはめちゃくちゃ面白い!ってなって、よくドラフトをしてるんです。八十岡さんもドラフトがお好きなんですよね? どれくらいやるんですか。
八十岡:最近はそんなにですね。やっぱり人が集まらないとドラフトってできないじゃないですか。一時期、マジック仲間と一緒にいたときはずっとやっていましたね。
撮影=髙橋定敬
タカハシ:めっちゃ難しいと思うんですけれど、ドラフトのコツというか、なにかひとつでもドラフトが強くなれる要素ないですか?
八十岡:ドラフトはピック(※カードを選んで取ること)の段階と、実際のゲームの2個あるんですけれど、ゲームの方だとダメージレース(※ダメージを与えあいライフを0にすることを競うこと)とかコンバット・トリック(※戦闘を有利に進めるための呪文)とかそこが一番肝。なので、重要なのは不利な交換はしない、とかですね。3/3が殴って2/2の2体にダブルブロックされると損じゃないですか。そういう積み重ねが結構ゲームに影響するんで。そういうアタック、ブロックの計算が一番大事なゲームかなと。
タカハシ:ピックのときは、1周目の時はまだ自分の色が定まってないじゃないですか。その時って基準はなんなんですか? あきらかに爆弾レア(※すごく強いカード)とかが強いっていうのは別にして。
八十岡:基本的には強いカードから取っていく、っていうのが基本じゃないですか。そのあとはデッキの完成形を考える。あとは、1周して何が回ってくるかを予測しておく。最初14枚入っていて、8人しかいないんで6枚回ってくるじゃないですか。なにか6枚回ってくるかを考えて、回ってきそうな色をとっておくと、その色を組みやすいとか。
タカハシ:それは、基本的に覚えていますか? 14枚を。よほどの弱いカード以外はっていう感じですか?
八十岡:昔は全部覚えていたんですけれど、いまは漠然と覚えていますね。白が2枚あって、緑が3枚あって……とか。で、回ってきそうなやつ2~3枚を覚えておくと「あ、きた」とか。
タカハシ:シグナルってやつですね。
八十岡:そうですね。卓に何人いそう、とか。基本的にはマナカーブ、2マナは多めとか、重いの取らないとか、そういうのが大事なのかなと。
撮影=髙橋定敬
タカハシ:ちなみに好きな色っていうのはあるんですか?
八十岡:青黒ですね。
タカハシ:たとえばドラフトで、自分は青黒が得意だから青黒に寄る、っていうことはあるんですか?
八十岡:そういう環境(※MTGは、新しいシリーズが発売するたびにカードが入れ替わって環境が変化する)の時はありますね。青黒が強いときはそうなりやすい。弱いときは無理してやらないっていうのはありますけれど。
タカハシ:いまの環境はどうですか?
八十岡:あんまりやらないですね。
タカハシ:実戦的なとこでいうと、今の「霊気紛争」環境で強い色はなんですか?
八十岡:赤白と緑とかは結構強いですかね。自分はこの現環境は結構苦手で、全然勝てなくて。
タカハシ:現環境が苦手なのはどういう点で? コントロール向きではないから、っていうことですか?
八十岡:そうですね。それは間違いないですね。1個前の「カラデシュ」の時は結構ずっと青黒で青が強かったんですけれど、「霊気紛争」に入ったら青が弱くなって。
タカハシ:晴れる屋さんのドラフト合宿の記事以外でも、ドラフトはやっていらっしゃいますか?
八十岡:あんまりやっていないですね。どちらかというとMOでやっていますね。リアルで8人集まるってやっぱり難しくて。
MTGの、八十岡プロの、これから
タカハシ:MTGをはじめアナログゲーム全般にいえることですが、現実的に集まるハードルはやっぱりありますよね。そしてMTGはいま世界的にはメジャーですが、日本の若者の文化としてすごく流行っているわけではないじゃないですか。
八十岡:そうですね。
タカハシ:それを、もっと多くの人がやるようになるにはどうしたらいいと思いますか?
八十岡:難しい質問ですね。それはまあウィザーズさん(※MTGの販売元・ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社)に……(笑)。僕ら個人ではやはりどうにもできないですからね。それこそ、この晴れる屋さんとかウィザーズさんとかにもっと宣伝してもらうとか、アニメをやるとか。知名度が上がれば人は増えるのかなという気はしますけれど、所詮は「カードゲーム」という遊びのひとつなのでどれだけいっても限界はあると思います。スポーツとかとは違うんで。
タカハシ:デュエマ(※デュエル・マスターズ。MTGを題材にしてスタートした漫画作品)が漫画でやっていた時は人口が増えたんですかね?
八十岡:増えましたね。やっぱりメディアは大事かなと思います。入りやすさという意味でも。
タカハシ:ゲームのポテンシャル的にはあると思いますか? 将棋のようにメジャーになるような。
八十岡:ちょっと難しいと思いますね。1個あればできる、っていうもんでもないじゃないですか。将棋盤があればできるとか、代々親からそれを受け継げるとかでもない。ある程度お金を使ってカードを集めなくてはいけないし、常にルールが変わっていくからサッカーや野球みたいに普遍的なものでもない。やっぱり限界はあるのかなと。
タカハシ:MTGがよりメジャーになってほしいという気持ちっていうのはありますか?
八十岡:それは思っていますね。格闘ゲームよりすこし下、くらいまでにはメジャーになってほしいです。
タカハシ:個人的に、ドラフトっていう遊び方が一般的に知られていれば、もっとハードル下がるような気がするんですよね。でもお金かかるかあ。1人900円ですけれど。
八十岡:小中学生にとっては900円は重いですよね。
タカハシ:確かにそうですね。ちなみに、小学生くらいのMTGプレイヤーっているんですかね?
八十岡:海外だといますし、日本でもたまに見ますね。
タカハシ:でも圧倒的に難しくないですか? ほかのカードゲームと比べて。
八十岡:遊ぶのは難しくないんです。けど、勝つまでが難しいのかなという気がします。
タカハシ:なるほど……。八十岡さんは、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーをとって、プロツアーも勝って、殿堂入りもして、残す称号は世界選手権だけっていうところですよね。そこがやはり今年の目標ですか。
八十岡:目標ですね。
タカハシ:もしそれを獲得できると、獲れるものは獲ったっていうことになるわけですよね。それ以上の目標っていうと何かありますか?
八十岡:何になるんでしょうね?(笑) プロツアーを1年に2冠とか、そういう話になるんじゃないですかね。グランドスラム達成、みたいな。でもさすがに現実的ではないので……目指すかはわからないですけれど。
タカハシ:MTGはもっとメジャーになってほしい、という話もありましたが、それがなぜかってありますか? やっぱりお金がっていうのも……?(笑)
八十岡:まあ、そうでしょう(笑)。でもその1点ていうわけではなくって、やっぱり自分がやっているものが有名になったほうが嬉しいっていうのはあります。それに加えて、一応プロでやっているので、もっと広がればもっとお金も入ってくるかな、と(笑)。
タカハシ:たとえば、いまプロを目指す人にはどんな言葉をかけますか? たとえば20代の人とかが仕事をやめてプロを目指すとか……。
八十岡:ああ、それは止めますね。
一同:(笑)。
八十岡:やっぱり今の制度だと、基本的に稼げないというか、一握りしか食べていけないですからね。学生さんとかならいいかもしれないですけれど。たとえば20代の人で「いまからサッカーのプロを目指すために仕事を辞めます」って言ったらそれは止めますよね。それと同じかなと。やっぱり強い人って10代なんですよ、海外とかだと特に。だから30代とかになってポッと出てくる人はいない。
タカハシ:なるほど。あと聞いておきたいのが、テゼレット(※八十岡さんが多用したカード)はやっぱりお好きなんですか?
八十岡:うーん……これ言っていいかわからないんですけれど、別にそんなに好きじゃない(笑)。
一同:(笑)。
八十岡:あのカードを使うひとがあんまりいなくて、それで目立ったというのはあるかもしれないですね。
タカハシ:もしも、MTGがこの世になかったら、何していたと思いますか? ゲーム系の仕事についていたとか?
八十岡:それは無いような気がしますね。普通に勉強して、学者とかになっていたかもしれないですね。
タカハシ:もともと調べたりするのが好きっていう?
八十岡:そうですね。数字系とかが好きだったので、数学者とかになっていたかもしれないですね。
タカハシ:やっぱり理系なんですか?
八十岡:どちらかといえば理系ですね。早い段階でドロップアウトしてしまったのですが(笑)。大学受験の時にマジックばっかりやっていて、落ちてしまったんですよね。
タカハシ:でももしその時に大学に受かっていれば、全然別の道に行って、こうして世界一になっていなかったかもしれない。カードゲームの神の思し召し、かもしれませんね。
八十岡:そうかもしれませんね。
インタビューは無事終了、聞きたいことを聞かせてもらってホクホクの風来坊。そして、ここでなんと、八十岡プロが対戦してくれることに……! まさかの世界チャンピオンと、マジック歴1年のミュージシャンの戦いが実現!
撮影=髙橋定敬
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タカハシのマイデッキは、八十岡さんもプロツアーで使用したことのある「ジェスカイ・サヒーリ」。「サヒーリ」というキャラクターと「守護フェリダー」という2枚のカードで無限コンボを目指すコンボデッキです。対して八十岡さんは「ティムール・タワー」。「電招の塔」というカードを駆使して、相手を制圧するコントロールデッキ。
撮影=髙橋定敬
探り合いながらの第一戦、打ち消し合戦の末、あっという間に焼き尽くされました。
でも意外と善戦できたかも……? 次こそは!
タカハシ:シャッフルって練習するんですか? プロの方ってみんなプロっぽいシャッフルするじゃないですか。 八十岡:練習というよりかは、10年くらいやっていると自然とうまくなるんですよね(笑)。あとは、考えているときに自然とシャッフルしていたりとか。 撮影=髙橋定敬
撮影=髙橋定敬
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圧倒的にボコボコにされました……。19機の飛行機械で殴られて−17対20というスタンダードではありえない大差で敗北。あたりまえですが、1ナノも歯が立ちませんでした。しかし、その八十岡プロの高速かつ的確なプレイングを目の前で見ることができ、感無量。八十岡さん、晴れる屋さん、ありがとうございました!
八十岡プロの話は実はいろんなことに繋がっている、と思います。すごく面白かった。
そして「マジック:ザ・ギャザリング」の世界へ、なかなか縁が無いという人も興味を持ったら足を踏み入れてみませんか? 晴れる屋さんやカードショップでは、未体験者向けの体験会なども定期的にやっています。
そしてドラフト、やろう!
撮影=髙橋定敬
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