大衆演劇の入り口から[其之二十三] “お外題”って何?大衆演劇ファン用語集

コラム
2017.4.17
大衆演劇は舞台と客席のコミュニケーション。【一本釣り】の舞踊で役者さんが釣り上げる振りをすると、両手を上げて釣られるファン。(たつみ演劇BOX・小泉たつみ座長)

大衆演劇は舞台と客席のコミュニケーション。【一本釣り】の舞踊で役者さんが釣り上げる振りをすると、両手を上げて釣られるファン。(たつみ演劇BOX・小泉たつみ座長)


「もう“お外題”出た?」

「来週は座長の“誕公”だから大阪行くの」

「今日、○○さんの“個人”って何でしたか?」

日々、大衆演劇ファンのタイムラインはにぎやかだ。なかには、一般には聞きなれないと思われる用語も飛び交っている。独特の用語はファンならではの楽しみだけれど、初心者にはちょっとハードルになってしまうかも…。

そこで一部の用語をまとめてみた。筆者もファン歴5年とまだまだ新参者だが、これから大衆演劇の世界に足を踏み入れる方の手助けになれば幸い。

劇場編

お外題(げだい)(別称:貼り出し) 演目のこと。特に芝居の演目を指す。大衆演劇は芝居・ショーとも日替わりなので、どの日に何をやるかはファンにとっては非常に重要。劇場によっては今後のお外題をWEBサイトに載せてくれるが、多くは劇場に貼り出してあるのみ。そこで、貼り出されたお外題をファンが携帯で撮影し、SNSでほかのファンと共有する助け合い文化がある。

貼り出されるお外題は重要な情報。(池田呉服座2016年10月公演 劇団飛翔お外題)

貼り出されるお外題は重要な情報。(池田呉服座2016年10月公演 劇団飛翔お外題)

ミニショー 公演の第一部。役者の紹介=顔を見せる、という意味合いから「顔見せショー」とも呼ばれる。20~30分程度。

芝居 公演の第二部。基本的には江戸時代に設定を置いた時代劇で、悲劇、喜劇、人情劇、史劇など多種類の芝居を演じられるのが大衆演劇の強み。時々、現代劇も演じられる。50分~1時間20分程度。

口上 芝居終了後、劇団員が舞台の上から客席に挨拶を述べる。多くの場合は座長が芝居の衣装のまま喋る。上手に笑いをとる座長、今終えたばかりの芝居についてまじめに語る座長など、それぞれの人柄が出る。口上で明日以降の演目を告知したりするので聞き逃せない。

座長の人柄が出る口上は大きな楽しみ。(春陽座・澤村かずま座長)

座長の人柄が出る口上は大きな楽しみ。(春陽座・澤村かずま座長)

舞踊ショー 公演の第三部。演歌、ポップス、浪曲など様々な曲をBGMにして踊る。手拍子や掛け声で舞台と客席が一緒に盛り上がれる時間だ。1時間~1時間30分程度。

送り出し(略称:送り) 公演終了後、役者さんが劇場前で観客のお見送りをしてくれること。握手して、公演の感想を言ったり一緒に写真を撮ったりできる。送り出しは緊張する、何を言ったらいいかわからないという声も聞くが、「楽しかったです」の一言で役者さんは充分喜んでくれる。

写真 ほとんどの劇場では、芝居は撮影禁止だがミニショーおよび舞踊ショーの撮影は許可されている(ただし動画撮影・フラッシュ使用は禁止)。撮った写真のブログ・SNSへの掲載は劇団によって可否が異なるので、送り出しで「ショーの写真をインターネットに載せてもいいですか?」と聞けば答えてくれる。公演に行けなかったファンにとって、他のファンがブログ・SNSに載せてくれる写真は大切な癒し。Twitterには「写真待機」「レポお待ちしてます」などのつぶやきが日々流れてくる。

大入り 劇場によって観客50人で大入り、100人で大入りなど基準が異なる。大入りが出ることは劇団・観客・劇場みんなの喜びであり、出た場合は終演後に手打ちが行われる。劇団別の大入り数を貼り出す習慣があるところ(主に関西の劇場)では、各劇団の大入り競争がいっそう熾烈だ。

ゲスト 一日だけ、数日間だけなど期間限定で、役者さんが他劇団に出演すること。ゲスト出演日にはゲストファンが多数詰めかける。

前売り券 芝居後に役者さんが客席に降りてきて売る。次回以降、前売り券で入場すると割引になる。劇団によって3枚でボールペン、5枚でクリアファイルプレゼントなど特典を設けているので、友人の分もまとめ買いするとお得。

座席表 現在でも大衆演劇にはインターネットで座席を予約する習慣がない。予約したいときは電話、あるいは直接劇場に行き、座席表に名前を書き込むのが主流。幕間には座席表に名前を書く列ができる。

篠原のおにぎり 大衆演劇場名物その①。場内で食べ物を売っている劇場が多く、客席での飲食もOKだ。東京・篠原演芸場のおにぎりは米にも具にもこだわった美味しさで、一日500個売れる日もある。

過去記事:十条・篠原演芸場のおにぎりがニッポン一おいしいワケ

鈴成りのたこ焼き 大衆演劇場名物その②。大阪・鈴成り座のたこ焼きはいつもアツアツの焼きたてが提供されると人気。実は熟練のスタッフにより、焼き時間が綿密に計算されている。

過去記事:みんな大好き! 大阪・鈴成り座のたこ焼きのヒミツ

棟梁・裏方 棟梁は各劇場の裏方の中心者。観客と対面することはまずないが、芝居・ショーを成り立たせているのは裏方の力だと皆が知っている。座長が舞台上で「棟梁さん、裏方さん、ありがとうございました」とねぎらうと盛大な拍手が起きる。

センター 大衆演劇は劇場のほか、健康センターや温泉でも公演している。芝居と一緒にお風呂・食事も楽しめるセンター公演は、劇場公演とはまた違うのんびりした楽しさがある。

ファン編

誕生日公演(略称:誕公) 役者さんの誕生日を記念して行われる公演。毎日公演している大衆演劇ならではの習慣だ。この日のために特別な芝居を立てたりショーを作ったりする。ファンにとっては好きな役者さんの年に一度の晴れ舞台であり、誕生日公演だけは遠方でも駆けつけるという人も多い。

誕生日公演はファンからの贈り物で舞台がいっぱいになる。(劇団新・龍新座長<左>)

誕生日公演はファンからの贈り物で舞台がいっぱいになる。(劇団新・龍新座長<左>)

初日・中日・千穐楽・移動日 劇団は一か月ごとに公演地を移動する。基本的には丸一か月=30日間ほぼ連続で興行する(月半ばに休演日が1~2日間ある)。毎月1日が初日、月半ばの15日頃が中日、月末の29日または30日頃が千穐楽、月の最終日が次の公演地への移動日となる。各時期のファン行動としては、初日には「今月はどの劇団を観よう?」と沸き立ったり、月の興行成績が見えてくる中日には好きな劇団の大入り数を見て「まだ大入りが少ない…」とやきもきしたり、千穐楽には泣きながら別れを惜しんだりする。公演のない移動日だけは一日おとなしく過ごし、翌日はまた初日なので「どの劇団を観よう?」に戻る。抜け出せない無限ループである。

通う 好きな劇団が地元劇場にいれば、一か月に複数回観にいくのがファンの基本形態。通勤・通学のごとく劇場に通う。なかには「一か月皆勤」という猛者もいる。「今月は○○劇団の出席率高め」とファン同士で会話したりする。

ロス 好きな劇団の公演の千穐楽が終わった後などに陥る、心にぽっかりと穴が開いたような気持ち。「○○(劇団名・役者名)ロス」が高まると遠征という手段に出る。

遠征 観たい劇団を追って遠くの公演地まで行くこと。繰り返すと夜行バス・新幹線・ホテルについてやたら詳しくなる。

天気予報 テレビの天気予報コーナーでは、ファンは好きな劇団の公演先の天気もチェックしがち。雨や雪の予報だと客入りに影響しないか心配になる。

勘違い席 舞台上の役者さんと目が合ったように思えるラッキーな席のこと。使用例:「今日ヤバいくらい目線来た、勘違い席だった」

大衆演劇は客席と舞台の距離が近く、役者さんと目が合ったように思える席も。(劇団心・碧月心哉座長)

大衆演劇は客席と舞台の距離が近く、役者さんと目が合ったように思える席も。(劇団心・碧月心哉座長)

神セトリ(類語:神選曲) 好みの曲が並んだ舞踊ショー。ファンによってポップス多めが神セトリだったり、演歌多めが神セトリだったりする。

ハンチョウ 観客から役者に掛ける掛け声のこと。「座長!」「○○(役者名)!」「〇代目!」、舞台上にいるのが二人なら「ご両人!」、三人なら「お三方!」等々。

お花 ご祝儀のこと。お花をするファンは舞踊ショーの最中に舞台に近づき、役者さんの襟元や帯にお花を差し入れてヘアピンで留め、握手をして素早く席に戻る。

ヘアピン(クリップ式) 役者さんにお花を付けるために必要。初めてのお客さんから「なぜ劇場の売店でヘアピンを売っているの?」と聞かれがち。舞踊ショーを観てもらえればすぐわかる。

昼夜する 昼の部・夜の部と続けて公演を観ること。計6~7時間座っていることになるので、お尻の痛みとの戦いである。

はしご観劇 昼の部を観た後、移動して別の劇団の夜の部を観ること。20以上もの劇場・センターがある大阪では比較的はしごがしやすい。

初見 初めて観る劇団のこと。使用例:「今日は初見の劇団さんに来た」。劇団にとってもファンにとっても新しい出会いだ。

舞台編

女形 (主に男優が)女の役をすること。梅沢富美男・早乙女太一の例が示すように、美しい女形ができる役者は人気が出る場合が多い。

美しい女形は舞台の華的存在。(たつみ演劇BOX・小泉ダイヤ座長)

美しい女形は舞台の華的存在。(たつみ演劇BOX・小泉ダイヤ座長)

立ち (男優・女優どちらでも)男の役をすること。

女優さんの立ちには独特の切れ味と色気がある。(橘小竜丸劇団・橘鈴丸座長)

女優さんの立ちには独特の切れ味と色気がある。(橘小竜丸劇団・橘鈴丸座長)

花魁ショー 高位の遊女である花魁の格好をするショーのこと。艶やかな花魁姿は人気があり、花魁ショーを目玉企画にしている劇団も多い。

電飾ショー 電飾を付けた衣装を披露するショーのこと。着物や下駄がピカピカ光っている光景は大衆演劇ならではだ。

立ち回り 刀を使った斬り合いのこと。速く美しい立ち回りは普段の稽古の賜物で、芝居・ショーの中で披露されると拍手喝采が起きる。

「俺の額(ひたい)を割りやがったな」 大衆演劇の芝居でおそらくもっとも耳にするセリフ。「悪者に殴られて額から血が出た」という場面で、怒りを込めて言われる。大の男がそんな軽傷で騒ぐの?と、初めての方は疑問に思いやすいが、ここでは男としての面子をつぶされたことが問題になっている。慣れると大衆演劇独特の文法として飲み込める。

ヤマ上げ 主に芝居の見せ場で披露される、強い感情が込められ、朗唱するように声が伸び上がるセリフ回し。役者さんのヤマ上げ→間髪入れず観客のハンチョウ→一斉に拍手という流れが決まると美しい。

個人舞踊(略称:個人) 舞踊ショーで各座員が一人で踊る舞踊のこと。使用例:「今日の○○さんの個人良かった」。好きな役者さんが個人舞踊で何を踊るかは、ショーの最大の楽しみの一つ。二人で踊る舞踊は「相舞踊(あいぶよう)」、三人以上だと「群舞」と呼ぶ。

通し狂言 ミニショーを省いて披露される1時間半~2時間の長めの芝居。芝居から開演するので、もし途中入場すると序盤を見逃してしまう。そのため通し狂言の日は、普段以上に全速力で劇場に走るファンの姿がある。

前狂言・切狂言 昔の大衆演劇は芝居二本立てが基本スタイルだった。先に上演する若手中心の芝居を前狂言、後の座長中心の芝居を切狂言といった。現代でも特別イベントとして、「芝居二本立ての日」が時折企画されている。

劇団編

座長 芝居の主演・脚本、ショーの演出、劇団経営のすべてを担う看板的存在。劇団のカラーにはおのずと座長のカラーが反映されている。座長が複数人いる劇団もあり、二人座長の場合は「二枚看板」と呼ばれる。

座長のパワーが劇団員を引っ張る。(劇団都・藤乃かな座長<中央>)

座長のパワーが劇団員を引っ張る。(劇団都・藤乃かな座長<中央>)

副座長・花形 副座長は劇団の二番手の役職、花形は三番手の役職(どちらかしかいない、またはどちらもいない劇団もある)。そのほかの役職名は劇団によって異なる。例:若座長、若手リーダー、係長など。

太夫元 劇団の責任者的立場で、年配の役者さんが務める。息子に座長を譲った先代座長などが太夫元になることが多い。

投光(とうこう) 照明担当のこと。多くの投光さんは劇団の一員として生活をともにしている。芸の陰影を引き出すのは投光さんの名人芸。

過去記事:舞台を照らして26年―劇団炎舞の照明・橘みつおさんの話

フリー いずれの劇団にも所属していない役者さんのこと。様々な劇団にゲストという形で出演する。フリーの役者さんのファンは、出演情報を得るため公式ブログ・公式SNSのチェックが欠かせない。しかしブログやSNSを一切使用しないフリーの役者さんもおり、その場合、ファンは観劇仲間のつながりで懸命に情報を集める。

乗り込み 月末に荷物をまとめて、次の公演地へ移動する引っ越し作業のこと。「積み込み」「荷物」とも。膨大な衣装・鬘・舞台道具をまとめるので、乗り込みは毎月の苦労と話す役者さんは多い。雨が降るとさらにしんどい作業になるので、毎月この時期は晴天を祈るばかり。

ドロン 突然、劇団から役者さんがいなくなること。ファンにとって一番悲しい事態。

休演日 主に月の真ん中頃に設けられたお休みの日。基本は1~2日間のみ。休演日にほかの劇場にゲストに行く役者さんも多いが、ゆるりと羽を伸ばしたり、リフレッシュに出かける人もいる。そして翌日からまた、熱い舞台を届けてくれる。

…いかがだっただろうか? 用語が生まれる背景には、劇場に通い、舞台と喜怒哀楽をともにしている大衆演劇ファンたちがいる。紹介しきれなかった用語もたくさんあるが、手引きの一つとしていただけたら何よりだ。

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