大友克洋×ブリューゲル! 超絶技巧で描かれた“大友版 バベルの塔”『INSIDE BABEL』お披露目会見をレポート

レポート
アート
2017.4.18
左から、河村康輔、大友克洋

左から、河村康輔、大友克洋

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4月18日より東京都美術館で開催される『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展』を記念し、『AKIRA』で知られる漫画家・映画監督の大友克洋が、ブリューゲルの絵にアレンジを加え再構築した“大友版 バベルの塔”を制作した。その発表会見が4月13日、DNP銀座ビルにて行われた。作品は題して『INSIDE BABEL』。原画にはない塔の切断面を描くことで、大友独自の『バベルの塔』解釈を細密な構成で表現したという。会見には、大友が共同制作者に指名したコラージュ・アーティストの河村康輔も同席し、制作の過程や裏話が語られた。

ボイスマン美術館にて「本物はちがう」と唸る大友

ボイスマン美術館にて「本物はちがう」と唸る大友

大友が惚れた、ブリューゲル『バベルの塔』

大友はかねてよりブリューゲルを好きな画家の一人に挙げており、2作あるブリューゲルの『バベルの塔』のうち、ウィーン美術史美術館所蔵の作品をもとにCM映像『未来都市』(1984)を手がけた経歴をもつ。今回の制作準備にあたり、昨年11月にロッテルダムのボイマンス美術館に赴き原画と対峙。同館の学芸員との意見交換もおこなって構想を膨らませた。実物の『バベルの塔』をみた大友は「500年前の絵とは思えないくらい鮮明で、みとれてしまった」とのこと。ウィーンのほうにも足を運んだそうで、「ウィーンの絵のほうが地平線が高い」など、2作の違いを堪能した様子だった。

ボイスマン美術館の学芸員に絵の構想を語る大友

ボイスマン美術館の学芸員に絵の構想を語る大友

謎に満ちた『バベルの塔』の内部

原画を観察していくなかで、大友が気になったのは「塔の入り口はどこにあるのか」ということ。実際に学芸員に尋ねたところ「わからない」という素っ気ない回答が返ってきてしまった。実のところ、『バベルの塔』はこれまでさまざまな画家が描いてきたが、塔の内部に着眼点を置いたケースは珍しく、研究が進んでいないために現地の学芸員でもわからないことが多いそうだ。だが、大友には「ブリューゲルは塔の中を考えていたのでは」という思いがあり、実際に『INSIDE BABEL』を制作していくなかで「これが入り口なんじゃないかという門を見つけた」という。大友はさらに続けて、「塔の左側に川が流れている。そして手前にきちんと出口がある。これはきっと、塔の真ん中にも川が流れているに違いないと思った」とも語り、SF大作を世に送り出してきた大友らしい独特の着想を明らかにした。

手元にブリューゲルの絵を置きながらデスクに向かう大友

手元にブリューゲルの絵を置きながらデスクに向かう大友

原画をベースにして描くがゆえの苦労もあったようで、「塔の構造が真円ではなかったため、想定していたよりも空洞を小さくしなければならなかった。塔がスパイラル(螺旋)なので更に難しく、遠近法を勉強し直した」と笑いも交えて語った。

自身の考える『バベルの塔』を丁寧にスケッチしていく

自身の考える『バベルの塔』を丁寧にスケッチしていく

大友克洋、河村康輔の共作『INSIDE BABEL』

大友克洋、河村康輔の共作『INSIDE BABEL』

限りなく原画に近い完成度の高さ                                                          

『INSIDE BABEL』は遠目に見ると本物と見間違うほど原画そっくりだ。それもそのはず、本作は「どれだけブリューゲルの絵に近づけるか」を目標とし、大友の描いたスケッチをもとに河村が彩色した線画と、ブリューゲルの絵の画像データを合成して作られているのである。色づかいもデジタル技術で忠実に再現した。スケッチを50枚以上描いたという大友は「ブリューゲルの筆のタッチはとても細かい。おおざっぱに当てはめることはできなかった」と語った。2万5千にものぼる膨大なパーツを貼り合わせたという河村は「コラージュというよりも絵を描いたという感覚。とんでもない時間と労力がかかった」と述べ、「どこを作ったのか自分でもわからなくなることがあった」と緻密な作業の大変さを振り返った。

塔の入り口と推測する門の場所を指し示す大友

塔の入り口と推測する門の場所を指し示す大友

 

壮大で緻密、やはり近くでじっくりみたい        

バベルの塔は、天に達するほどの塔を建てようとした人間の傲慢さが神の怒りに触れ、人々は建設を断念して散り散りになる……という旧約聖書の物語に登場する。破壊の後に再建された「ネオ東京」を描いた『AKIRA』にちなんで、「未完成となった塔のその後“ネオバベル”を次作にどうか?」という質問が飛ぶと、大友は「大変なんで」と笑いながらも、「ブリューゲルの絵は緊張感をはらんでいる。ここまでできあがったものを壊すのは楽しいだろうな」と答えた。

固い握手を交わすふたり

固い握手を交わすふたり

ブリューゲルの画家としての姿勢に対しては「彼が生きた16世紀という中世後半の時代は、凄惨な光景も多かったはずだが、直接的に描くことは許されなかったのではないか」とし、「形を変えて、自分の言いたいことを表現するのは漫画家も同じ。今回の作業を通じてますます親近感を覚えた。今後もブリューゲルの絵をみていきたい」と述べた。

虫眼鏡で見たくなる細密描写。よく見ると人間が小さく描かれている

虫眼鏡で見たくなる細密描写。よく見ると人間が小さく描かれている

「本当に細かく描いてあるので、ぜひ足を運んでいただき近くでみていただきたい」と大友の口からも語られた『INSIDE BABEL』は、『バベルの塔』展の会期中(4月18日から7月2日まで)、東京都美術館ロビー階の企画展示室入り口横ホワイエで特別公開される。絵の中には、ブリューゲルの『墜落天使』をもとに大友が遊び心で描いた“バケモノ”もいるそう。どこに描かれているか探してみるのも面白そうだ。

イベント情報
ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展
16世紀ネーデルラントの至宝 ―ボスを超えて―

会期:2017年4月18日(火)~7月2日 (日)
会場:東京都美術館 企画展示室 http://www.tobikan.jp
開室時間:9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
休室日:月曜日(ただし5月1日は開室)
公式サイト: http://babel2017.jp
 
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