『ディズニー・アート展』の仕掛け人・内田まほろインタビュー  ディズニーアニメをもっと楽しく見るための、本展の歩き方とは

インタビュー
アート
2017.4.26
内田まほろ

内田まほろ

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4月8日~9月24日にわたり、日本科学未来館で開催されている『ディズニー・アート展 いのちを吹き込む魔法』。展示される約500点の貴重な原画やスケッチ、コンセプト・アートの多くは日本初公開であり、会場は連日多くの来場者でにぎわっている。日本科学未来館の展示企画開発課 課長・内田まほろ氏は「約90年にわたるディズニーの歴史を意識して、それぞれの作品を見てほしい」と話す。アート、テクノロジー、デザインの融合領域を専門とする内田は、どのような意図で今回の展覧会を企画したのか。

 

――『ディズニー・アート展』、開幕以降とても話題になっていますね。本展のなかでも、特に注目してほしい点を教えてください。

約90年の歴史を持つディズニーでは、常にアニメーションの技術革新が行われてきました。今回はたくさんの貴重な原画を展示していますが、それらを一点一点見て楽しむというよりは、大きな歴史の中でどのような技術が生まれ、作品が誕生していったのかという流れを意識して見ていただければと思います。作品が生まれる舞台裏に足を踏み入れて制作の様子などを知っていただければ、ディズニーアニメーションがもっと楽しく見られるはずです。そこを意識して展示全体を構成しました。

――ディズニー草創期を紹介する展示のなかで特に面白かったのは、『ピノキオ』で使われたマルチプレーンカメラ(※1)です。時代を感じさせる大がかりなセットで、3次元的な奥行きを表現することに心を砕いていた様子が伺えます。

マルチプレーンカメラはディズニーの特許第一号の技術ですが、その仕組みをここまで詳しく展示したのは初の試みです。アニメーションの表現力を高めてきたディズニーの技術開発のスターティングポイントであり、象徴的なプロジェクトです。コンピュータがない時代にどうやって奥行きを出したのか、そこに注目してほしいです。

――水墨画のような表現を取り入れた『バンビ』のコンセプト・アート(※2)や、言葉の話せないゾウの気持ちを表情で伝える『ダンボ』での試みも興味深かったです。

『バンビ』は背景に水墨画の手法を取り込んで、リアリティとは異なるアニメの新しい表現を求めた象徴的な作品でもあります。ダンボは言葉がしゃべれないので、表情だけで悲しみや喜びなどの感情を表現するんですよね。作中でダンボのセリフは当然ながらありませんが、見終わった後にはダンボが言葉を話していたと錯覚する人もいたそうです。

――ディズニーの強みである分業体制が、初期の頃から確立されていることにも驚きました。

ウォルト・ディズニーの頭の中のアイデアを作品にするための分業体制は、早い段階で確立されていました。アニメの制作には、アニメーター、技術者、ストーリーテラー、声優、プロモーターなど多くの人が関わります。チームとしての総合力が必要であり、ウォルトがすべてのクオリティを管理していたんです。さらにスゴいのは、分業なのに目的やクオリティが一切ブレないところです。分業しつつ、イノベーションも生まれている。

――アニメーションの監督ですと、実際に自分の手を動かして細かい表現にこだわる方もいますが、ディズニーの制作はそれとは対照的ですね。

ウォルトがやっていたのは、「自分にない能力を持っている人」を集めることだったと思うんです。それは、どの時代の作品を見ても感じることですね。ワンマンではなく、総合力で勝負するという姿勢があったのではないでしょうか。

――「ディズニー」と聞くとウォルト・ディズニー個人よりも、ディズニーランドやミッキーマウスなど、いわゆるディズニーブランド全体がイメージとして浮かびますよね。「シャネル」や「ディオール」と聞いて、個人名よりもブランドを想起するように。

ディズニーの約90年にわたる歴史の中で、ウォルトが亡くなってから50年以上が経過しています。すでに、ウォルトがいない歴史の方が長いんです。ディズニーブランドの管理では、星ひとつの描き方もスタイルシートがあって決められています。でもそれが絶対というわけではなく、臨機応変に対応しているんです。今回の展覧会のチラシを作るときも、画像の使い方などレギュレーションがある一方で「よりよく見えるためなら柔軟に対応する」という姿勢を見せてくださいました。

 

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