『ディズニー・アート展』の仕掛け人・内田まほろインタビュー  ディズニーアニメをもっと楽しく見るための、本展の歩き方とは

インタビュー
アート
2017.4.26

 

――会場にはたくさんの作品が展示されていますが、おすすめの見方を教えてください。

「水」とか「動物の表情」とか、ひとつのテーマに着目すると面白いかもしれません。水というテーマは『ピノキオ』、『リトル・マーメイド』、『モアナと伝説の海』などと多くの作品に共通します。技術の進化と同時に表現も変わっていくので、その時々の最先端の表現で水がどう描かれているかという視点で見てみてはいかがでしょうか。水以外にも、「動物の毛並み」や、「女の子の髪の毛の動き」などにもこだわりがあります。「人間や自然の複雑な動きをどう描くか?」というのは、情報量の少ないアニメーションの制作にとって永遠のテーマですからね。

――作り手の視点がわかると作品の見方も変わる、ということですね。

まずはストーリー全体を楽しんで、2回目以降は細部にこだわって見るのがおすすめです。『バンビ』の動きは、実際にスタジオに子鹿を連れてきて学んだ表現なのだそうです。こういった制作の背景を知った上で見直すと、すでに見たことのある作品でも感動の仕方が変わってきますよね。展示を見たお客さまから「もう1回ディズニーの作品を見返してみたくなりました」という感想もいただきまして、とても嬉しかったです。

――具体的に「この作品の、この表現がスゴい」というものがあれば教えてください。

最新作の『モアナと伝説の海』には、「ウォーターアーティスト」という水の表現だけに特化したスタッフがいます。意思を持った海がモアナとコミュニケーションを取るシーンがありますが、ここは表情や言葉すらなく、水の動きや効果音を上手く使って生きている感じを出しています。自然そのものがキャラクターとして確立されているんです。

あとは「火」とか「影」の描き方にも注目すると、アニメーターの卓越した才能と情熱を感じることができます。『白雪姫』で小人の部屋に白雪姫がろうそくを持って行くシーンがありますが、その影の描かれ方が本当にスゴい。白雪姫の動きに合わせて見事に影が表現されています。正直そこまでは観客も気づかないはずで、手抜きできてしまうシーンだと思います。でも、そういった細部でもリアリティの追求をしている。少しマニアックですが、このような作品の見方もありますので皆さんそれぞれで見つけてほしいですね。

――作品単位でいうと、ディズニーのこだわりが色濃く反映されているものはありますか?

『ファンタジア』がずば抜けていると思います。フルオーケストラの演奏を視覚的に見られるようアニメーション化した作品ですが、70年以上も前にそんな実験的なことをやっていたのかと驚かされます。楽曲ごとのテーマはあるのですが、作品を通してのストーリーらしいストーリーもなく、交響曲で表現されているものを視覚化するという実験的な試みです。私はメディアや情報の歴史が専門なのですが、そういった領域においても重要な意味を持つ作品です。

また、ウォルト・ディズニーという個人にフォーカスしたときに外せない作品は『白雪姫』ですね。当時は1時間を超える長編カラー・アニメーションなんてできるわけがないと思われていて、誰も出資してくれなかった時代。そこで、ウォルトは銀行からお金を借りて意地で作ったんです。誰にも頼まれてないのに作られた『白雪姫』ですが、この作品がなかったらその後何十年も長編カラー・アニメーションは存在しなかったでしょう。

――では最後に、本展に来場される方にメッセージをお願いします。

世の中に存在しているものすべてを受け入れるのではなく、その背景にはなにがあるのか? そこに興味を持ってほしいです。今回はディズニーの貴重な資料を集め、作品の背景と歴史がまるごと楽しく見られる展示となっています。目の前にあるものをただ見るのではなく、ディズニースタッフたちの思考のプロセスを追体験してもらい、自分の行動に繋げていただきたいですね。本展を通じて表現力が沸いて、なにかを創作したり、観察してみたり、映画をより深く理解しようと努めたり……。『ディズニー・アート展』を“体験”して終わりではなく、思考して“経験”することで次の一歩に繋がるような、そんな機会になればと思います。

(※1)背景を複数のセル画に分けて描き、それぞれを異なった距離に配置してカメラで撮影することで奥行きを表現する手法。
(※2)映画全体のコンセプトや、キャラクターの性格や外見をイメージした絵のこと。

イベント情報
ディズニー・アート展 いのちを吹き込む魔法​

会期:2017年4月8日(土)~9月24日(日)
会場:日本科学未来館 1階 企画展示ゾーン
休館日:火曜日(ただし、5/2、7/25、8/1、8/8、8/15、8/22、8/29は開館)
観覧料:大人(19歳以上)1,800円 / 中人(小学生~18歳以下)1,200円 / 中人(土曜日)1,100円 / 小人(3歳~小学生未満)600円 ※いずれも当日券の価格(税込)
展覧会公式サイト:http://da2017.jp/

巡回展の予定:
【大阪展】
会期:2017年10月14日(土)~2018年1月21日(日)
会場:大阪市立美術館
【新潟展】
会期:2018年2月17日(土)~5月13日(日)
会場:新潟県立近代美術館
【仙台展】
会期:2018年6月9日(土)~9月24日(月・祝)(予定)
会場:宮城県美術館

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