韓国大ヒット・ミュージカル『メイビー、ハッピーエンド』を日本上演する新's Waveプロデューサー、シン・ジョンファにインタビュー
「新's Wave」CEO シン・ジョンファ プロデューサー
韓国発の大ヒット・ミュージカル『メイビー、ハッピーエンド』が、5月19日から東京は池袋のサンシャイン劇場で日本初演の幕を開ける。主役のオリバー(ロボット)をトリプル・キャストで演じるのがチェ・ドンウク(SE7EN)/ソンジェ(超新星)/KEVIN(ウ・ソンヒョン 元U-Kiss)、また、相手役のクレア(ロボット)をダブル・キャストで演じるのがキム・ボギョン/ソン・サンウンという、豪華な出演陣が実現した。
『メイビー、ハッピーエンド』(原題:어쩌면 해피엔딩)は、昨年(2016年)12月から今年(2017年)3月にかけて、ソウルの演劇街テハンノの劇場で上演されたミュージカル作品だ。開幕直後から観客の圧倒的な支持を受け、が連日ソールドアウトとなった、韓国演劇界最新の話題作である。
そんな同作品を早くも日本で上演するのが韓国ミュージカル制作会社「新's Wave」だ。これまで『ON AIR~夜間飛行~』『Run to you』『カフェ イン』、そして『INTERVIEW~お願い、誰か僕を助けて~』といった傑作ミュージカルを日本で精力的に上演してきた。その「新's Wave」を率いるのが、同社CEOでプロデューサーのシン・ジョンファである。
『メイビー、ハッピーエンド』日本版の開幕に先立ち、シン・プロデューサーから話を聞いた。
--『メイビー、ハッピーエンド』は韓国上演の時、がすぐに売り切れとなり、観たくても観ることのできない人が沢山いたそうですね。人気の理由は何だったのでしょうか、
作品の持つ情緒的な部分が、「今」の時代にとても合ったのだと思います。これは、近未来のロボットたちのSF的なラブ・ストーリーなんです。ロボットは本来、感情がないモノですよね。しかしそんなロボットたちが愛や友情の物語を繰り広げる。そこから切ない情緒が生まれてきます。観客はそこに「今」という時代を感じるのではないでしょうか。
この作品は、劇作/作詞を韓国人の作家パク・チョンヒュ(HUE PARK)が、また、劇作/作曲をアメリカ人のウィル・アロンソンが手掛けました。この二人はミュージカル『バンジージャンプする』(2012年)で数多くのファンを獲得した創作コンビです。こうしたクリエイターたちの背景ゆえに、韓国らしさをそれほど感じさせずに、多国籍的で、どこの国でも上演できそうな雰囲気に仕上がったのです。実際に、アメリカなど世界各国から上演ライセンスのラブコールが殺到しています。
--日本での初演についてですが、韓国上演版と違うところはありますか。
「ノン・レプリカ」方式と言って、台本と楽譜を除いた全ての部分が、日本のお客様に向けて新たに創造されます。しかし、バンドの生演奏というライブ・スタイルは東京でもお楽しみいただけます。
もともとセリフが良く活かされている、言葉の美しいミュージカルなので、日本の俳優さんによる日本語バージョンでの上演が適しているのではないかとも考えました。翻訳のしがいがある作品なんです。しかし5月に公演をおこなうには、日本の俳優さんのスケジュールを押さえることが厳しかったのです。そこで今回は韓国人俳優による韓国語での上演で日本語字幕をつける方式をとることにしました。将来的には日本語による上演も実現させたいですね。
--なるほど。もっとも、韓国ミュージカル好きにとっては韓国語ならではの言葉の美しさを味わいたいので、韓国語で上演して欲しいというニーズが高いかもしれませんよ。……それにしても、この作品が韓国で大ヒットすることは予想していましたか。
クリエイターが有名なかたがたでしたから、相応の成果が出るとは思っていましたが、あそこまで大当たりするとは誰も予想していなかったのではないでしょうか。
--そんなタイムリーで真新しい韓国ミュージカルを日本で上演してくださることに感謝します。その主催と制作にあたるのが、シンさんの率いる「新's Wave」です。この会社の事業内容を簡単に説明していただけますか。
「新's Wave」の事業は、韓国発のオリジナル・ミュージカルをピックアップし、韓流スターをキャスティングして、日本の皆様に紹介することです。その上演方法は2つあります。
ひとつは、今回の『メイビー、ハッピーエンド』のように、韓国人俳優による韓国語上演・日本語字幕というスタイルです。そしてもうひとつは、日本の俳優と韓国の俳優とのコラボレーション舞台。私たちが最初に手掛けた『ON AIR~夜間飛行~』は後者のスタイルで、全体の70%が日本語の歌唱・セリフでした。私たちの強みは、日本の会社とパートナーシップを結ぶことで、韓国語での上演ができたり、日本語での上演もできることです。色々とバラエティに富む形で、韓国ミュージカルの紹介ができるのです。
--シンさんご自身は日頃、どういったお仕事をされているのですか。
1つ目は、作品のセレクションのためにアンテナをはっています。日本のお客さんのアンテナにどのくらいひっかかるか、という作品選定の作業です。
2つ目は、日本での上演の場合、韓流スターを起用することが興行の成功に欠かせませんが、どの韓流スターをキャスティングするかを考えています。これはとても難しいのですが、重要なポイントです。
3つ目は、興行のサイズに合った座席数を有する劇場を探すことです。周辺環境や交通アクセスの情報も入手しながら、検討作業を進めています。
4つ目として、韓国ミュージカルといえども、日本独自のチームをもってローカライズしなくてはいけない、と考えており、そのために日本だけのクリエイターズ・チームを結集させた時に、私が総合的なプロデューサーとして陣頭指揮をとっています。日本独自のチームといっても、その中には韓国人もたくさんいます。日本が大好きで日本に伝えたい思いの強いスタッフを集めています。
5つ目には、日本のコンテンツにも目を配っています。日本のマンガやドラマをピックアップして韓国内で上演する、といった交流の方法もありますからね。いま、日本国内でのコンテンツホルダーにもコンタクトしている最中です。韓国ではオリジナル・ミュージカルを成長させる過程において、国の支援を受けることができるなど方法はバラエティに富んでいます。ですから、日本のコンテンツを韓国でオリジナル・ミュージカルに成長させて、それを日本へ逆輸入する、という可能性だって考えられるのです。
--日本で上演する作品をセレクトするにあたっては、いつも韓国内で舞台をたくさん観てまわるのですか。
台本と楽譜が韓国内での上演前にできあがってくるので、その段階で検討して判断しています。つまり、韓国内で上演して成功したからピックアップするというのではなく、製作過程から見守っていくのです。トライアウトくらいの作品から選定しなければ遅い。ですから、韓国公演前にはすでに日本上演の契約を締結していますね。
--そもそも韓国ミュージカルを日本向けに紹介していこうと考えた理由は何ですか?
私はもともと韓国の放送局で7年間、ラジオ作家として働いていました。ただ、ラジオの仕事は流れ出ていくばかりで、何も残らない。そこで私は形として残せるものを創作したいと思うようになり、チェコのプラハに行って映画の演出の勉強をしました。やがて短編映画を撮り、国際映画祭に出品することになりました。その映画祭がプサン国際映画祭だったのです。そこで色々な国の人々と仕事をして、グローバルの重要性を強く実感しました。そうするうちに、よりクリエイティブな仕事に携わりたいと考え、自分で会社を立ち上げたのです。最初は映画制作の会社でした。それがいつしか、運よくミュージカルの制作にも係わるようになりました。
会社として制作に携わった最初のミュージカルが『ON AIR~夜間飛行~』です。私がラジオの作家だったこともあり、ラジオDJとラジオ・プロデューサーのラブストーリーになりました。先の国際映画祭の経緯もあって、作品を韓国外のかたがたに紹介したいと思うようになりました。それ以降、私の興味は作品のグローバル化に傾注していったのです。
それが何故、日本に対象を絞るようになったか。私の人生の中で一番愛する作家が村上春樹でした。20代の若い頃は、彼なしで生きることができなかったほどです。一方、日本映画も大好きで、たくさん観ていました。私自身がそういったものを好きであったこと。さらに、人々の感性が豊かで、現実的に韓国の作品を受け入れてもらえる。そして代金を支払ってくださる観客がいる、それが日本だったのです。韓流ブームによって、韓流スターという存在が日本国内で認められていたことも重要でした。
--日本での展開ははじめから狙い通りに行きましたか。
はじめの3年間は日本国内で、何のコネクションもなく、私たちのことを知る人も皆無だったため、劇場が借りられず、大変苦労しました。さらに1年間待っていると、私たちに劇場を貸してくれる人が現れました。といっても、キャンセルが出たから、それを埋めるために貸してくれるという理由でしたが、私たちにとってはチャンスの到来でした。しかし、初めてだったので勝手がよくわからず、資金も私や家族の持っているすべてを制作に投じました。それが2014年6月に上演した『ON AIR~夜間飛行~』でした。日本語と韓国語を織り交ぜてのユニークな上演がメディアの目にとまり、大きく取り上げていただきました。それで高い評価を得ることもできたのです。それがきっかけで「一緒にやりましょうか」と言ってくれるところが何社も現れるなど、良い効果を出すことができました。
その後しばらくは『Run to you』『カフェ イン』といった既存の作品を再演し、興行的な成功も収めました。その間に日本の観客の皆さんの動向もわかってきました。いくら韓流スターが出ていても、作品性が弱ければまったく見向きもされない。そこで、今は新しいフェーズに入りました。良質の韓国オリジナル・ミュージカルの作品性を日本の皆さんにいち早く紹介するということが現在の私たちの目標になりました。その意味で『INTERVIEW~お願い、誰か僕を助けて~』は、韓国での本公演に先駆けて京都で世界初演をおこなうことができ、私たちの会社の存在感を示すことができたかなと思っています。
--『INTERVIEW~お願い、誰か僕を助けて~』は昨年(2016年)新人演出家賞をとるなど、韓国で高い評価を得たミュージカルでしたね。私も3月に東京での公演を拝見しましたが、多重人格者の登場するサスペンスはとてもユニークで見応えがあり、また音楽的な聴き応えも抜群でした。その世界初演を韓国での本公演に先駆けて2016年9月に日本の京都劇場でおこなったというのは非常に珍しい形ですよね。
劇場はいくつか候補があったのですが、私以外の全員が「京都はやめるべき」と言いました。だけど京都は古くからの映画の街、カルチャーを大切にしてきた街です。だからこそ『INTERVIEW~お願い、誰か僕を助けて~』のような作品性の高いミュージカルを京都からスタートさせることには意味があると思ったのです。
--最後にお聞きしたいことがあります。これからの日本において韓国ミュージカルの展望は必ずしも楽観視できないのではないかと思っています。個人的な印象としては、日本国内にミュージカル公演だけでもあまりに数多く乱立して飽和状態にあること。そして料金も観劇ファンにとって決して優しい設定とはいえないこと。さらに政治の影響などにも左右されやすい点。日本国内で韓国ミュージカルを字幕付きでたくさん観たいファンの一人として、私も状況を色々憂慮しています。シン・プロデューサーはこうした状況をどう見ていますか。
もともと難しくない仕事はないですよね。私たちが最初に日本で上演したとき、日本に知り合いが1人もいませんでしたし、レートも非常に悪かった。当時は心配の連続でした。それでも、ここまでやって来れました。私は日本の皆様の『目』を見ています。「いいものはいい」と判断してくださる目、あるいは思考力、あるいはセンス。そういったものをすべて日本の観客の皆様が持っていてくださるから、私はそれを信頼している。だからいろんなことを乗り越えていける。
それから、これからはやはり日本へのローカライズがとても大切になってくると思います。韓国からスタッフが総動員で来るのではなく、現地でローカライズというシステムが構築できれば、乗り越えていけるんじゃないかなと思っています。その意味で、2018年には、日本人俳優による日本語での上演を目指していきたいと思っているのです。
--どうもありがとうございました。これからも韓国ミュージカルの傑作をどんどん日本に紹介し続けてください。『メイビー、ハッピーエンド』の成功をお祈りしています。
取材・文・撮影=安藤光夫
◆2014. 6 ミュージカル『ON AIR~夜間飛行~』 五反田ゆうぽうとホール(東京)
◆2015. 5 ミュージカル『ON AIR~夜間飛行~』 Zeppブルーシアター六本木(東京)
◆2015. 6 ミュージカル『RUN TO YOU~Street Life~』 Zeppブルーシアター六本木(東京)
◆2015. 11 ミュージカル『RUN TO YOU~Street Life~』 シアターBRAVA!(大阪)
◆2016. 1 ミュージカル『カフェ・イン』 Zeppブルーシアター六本木(東京)
◆2016. 9 ミュージカル『INTERVIEW~お願い、誰か僕を助けて~』 京都劇場(京都)
◆2016. 11 ミュージカル『カフェ・イン』 Zeppブルーシアター六本木(東京)
◆2017. 2 ミュージカル『カフェ・イン』 サンケイホールブリーゼ(大阪)
◆2017. 3 ミュージカル『INTERVIEW~お願い、誰か僕を助けて~』 Zeppブルーシアター六本木(東京)
◆2017. 5 ミュージカル『メイビー、ハッピーエンド』 サンシャイン劇場(東京)
■会場:サンシャイン劇場
オリバー役(トリプル・キャスト):チェ・ドンウク(SE7EN)/ソンジェ(超新星)/KEVIN(ウ・ソンヒョン)
クレア役(ダブル・キャスト):キム・ボギョン/ソン・サンウン
ジェームズ役:ラジュン
■制作統括:チェ・スミョン
■劇作/作曲:ウィル・アロンソン
■劇作/作詞:パク・チョンヒュ
■演出:キム・ジホ
5/19(金)15:00 アフタートーク・キャストお見送り
5/19(金)19:00 アフタートーク・キャストお見送り
5/20(土)12:00 ソンジェハイタッチ
5/20(土)15:30 KEVIN握手会
5/20(土)19:00 チェ・ドンウクハイタッチ
5/21(日)13:00 KEVIN握手会
5/21(日)17:00 チェ・ドンウクハイタッチ
5/23(火)19:00 ソンジェハイタッチ
5/24(水)15:00 ソンジェハイタッチ
5/25(木)15:00 チェ・ドンウクハイタッチ
5/25(木)19:00 KEVIN握手会
5/26(金)15:00 KEVIN握手会
5/26(金)19:00 チェ・ドンウクハイタッチ
5/27(土)15:00
5/27(土)19:00 KEVIN握手会
5/28(日)13:00 キャストお見送り
5/28(日)17:00 キャストお見送り
※観劇回のアフターイベントはどなたも参加可
※お楽しみ抽選会は、お楽しみ抽選会付きをお持ちの方のみ参加可
そう遠くない将来、21世紀後半。ソウルメトロポリタン郊外の古いロボット専用アパート。人と変わらないほど近い外見の、すでに旧型になって人々から捨てられた。ヘルパーボット5オリバーとヘルパーボット6クレア、故障すると交換する部品も自らを修理する方法もないのでただ古くなっていくだけだ。内向的で古いものが好きなオリバーと、ヘルパーボット5にはない社会的スキルを持ってる活発で賢いクレア。ある日、出会った二人はお互いの存在を意識しながら少しずつお互いのことを知っていく。初めて居所を離れ済州島に向かった彼らはホタルを見て初めて愛という感情を学ぶ。だが愛情が深くなるほど別れの時間もそう遠くないことに気づいていく……。