豊原功補が圓朝落語『名人長二』の舞台化に挑む! 明後日プロデュース第2弾、男も女も惚れる世界観
明後日プロデュースVol.2 芝居噺「名人長二」
5月25日(木)より新宿・紀伊國屋ホールにて、豊原功補の主演舞台、芝居噺『名人長二』が開幕する。『名人長二』は、落語中興の祖と称される三遊亭圓朝が発表した新聞の連載小説だ。モーパッサンの短編『親殺し』に着想を得て執筆されたとされている。今回の舞台化にあたっては、豊原功補が企画、脚本、演出も手がけている。キャストが顔を揃えた通し稽古より、本作の見どころをレポートする。
【あらすじ】
物語は、享和から安政の時代(江戸時代後期)、幼い頃に両親を亡くし、本所の〆切の指物師・清兵衛(モロ師岡)の弟子となり、名人の名を得た、長二郎という指物師の物語だ。ある時、長二郎(豊原功補。以下、長二)は弟弟子の兼松(森岡龍)と湯河原へ湯治に行く。そこで温泉宿の仲居(梅沢昌代)から、長二は自分が捨て子であり、背中の古傷が実の親に竹藪に放り捨てられた時にできたものだと知らされることになる。すでに他界した育ての親に深く感謝し、天龍院に通うようになるがそこで出会ったのが亀甲屋幸兵衛(山本亨)。そして、産みの母親と思われるお柳(高橋惠子)だった。生みの親となると懐かしいもの。長二は向こうが名乗り出るのを待つのだが……。
原作への敬意と演出にみる遊び心
豊原功補 明後日プロデュースVol.2 芝居噺「名人長二」
この舞台では、脚本だけでなく演出にも落語を意識した遊び心がちりばめられている。たとえばオープニングの演出。高座の豊原によるマクラ(落語でネタに入る前の話)で始まり、ストーリーの背景を解説してくれる。言葉つき、リズム、話の途中で羽織を脱ぐ身のこなしは、本物の噺家のよう。狂言回しのようなこの役回りはモロ師岡へ、さらに次の役者へと、寄席の出番が回るようにバトンタッチされていく。
小道具には、手ぬぐいと扇子をフル活用。劇中で坂倉屋助七(モロ師岡)が長二に仏壇づくりを発注する場面では、懐から出した手ぬぐいを設計図に見立てていた。白い扇子を箸に蕎麦をすする場面もある。ちなみに高座に見える台は可動式だ。3台の組み合わせと並べ替えで、セットチェンジしていく。
豊原功補 明後日プロデュースVol.2 芝居噺「名人長二」
高橋惠子 明後日プロデュースVol.2 芝居噺「名人長二」
個性際立つ登場人物
本作では11人のキャストで18役を演じている。これだけ多いと印象に残らない役も出てくるものだが、いずれの役も個性が際立っていた。1人2役を務めるベテラン勢の演技はさすがで、わずかなシーンしか登場しない鍼医、丁稚、仲居、奉行所の同心など、愛すべき(時に恐ろしい)名脇役たちが劇中のスパイスとなっている。
若手役者同士の瑞々しい掛け合いも、大事な役割を果たしていた。兼松と坂倉屋の娘・お島(牧野莉佳)のやりとりはその後の納得感を上げ、兼松と亀甲屋の手代・萬助(岩田和浩)の関係性は一筋縄ではいかないラストへの伏線となる。
牧野莉佳 明後日プロデュースVol.2 芝居噺「名人長二」
(右端)神農直隆 明後日プロデュースVol.2 芝居噺「名人長二」
お柳(高橋惠子)が煙管を燻らし半生に思いを馳せるシーンや、幸兵衛(山本亨)の緊張感みなぎる殺陣のシーンには、現代の日常生活ではまず目にできない色気と美しさがあった(けれども山本は、そのすぐ後にスタッフとキャストも大爆笑の町奉行も嬉々として演じている)。
そして豊原は、「長二の美学」の深い洞察に立脚した、豊原にしかできない長二を創り出そうとしている。劇中の台詞を借りるなら、長二は竹を割ったような了見の男だという。ならば圓朝よりも、豊原の長二の方が、美学を貫き筋を通してはいないだろうか。そうまで思わされる豊原の迫真の演技と、脇を固める名演に圧倒された約2時間。セットも照明演出もない稽古場だったが、ラストには目頭が熱くなった。
明後日プロデュースVol.2 芝居噺『名人長二』は、新宿・紀伊國屋ホールにて5月25日(木)に開幕、6月4日(日)までの全14公演。
明後日プロデュースVol.2 芝居噺「名人長二」
明後日プロデュースVol.2 芝居噺「名人長二」
取材・文=塚田史香