NHK・BS「ベルリン・フィルがキプロスの史跡で野外コンサート、伝説のピアニスト・ソコロフのリサイタルと併せ放映」

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クラシック
2017.5.26
『クラリネット協奏曲第1番』でソロを務めるアンドレアス・オッテンザマー、指揮はマリス・ヤンソンス

『クラリネット協奏曲第1番』でソロを務めるアンドレアス・オッテンザマー、指揮はマリス・ヤンソンス


5月28日・日曜深夜24時(29日・月曜午前0時)放送のNHK・BSプレミアム「プレミアムシアター」では、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の5月恒例『ヨーロッパ・コンサート』を、ツアーのドキュメンタリーを間に挟み、2部に分けて放送。次いで、ロシア出身の「伝説のピアニスト」グリゴーリ・ソコロフのリサイタルを放送する。

ベルリン・フィルは、欧州の歴史的建築での演奏会『ヨーロッパ・コンサート』を、楽団創立記念日の5月1日に開催している。1991年スタートだから、もう4半世紀以上続く恒例行事である。例えば、チェコのスメタナ・ホール、ハンガリー国立歌劇場、ポルトガルのリスボンにあるジェロニモス修道院、英国オックスフォード大学のシェルドニアン講堂、はたまたスウェーデンでは沈没軍艦ヴァーサ号が展示されているヴァーサ博物館……と、会場は音楽ホールにとどまらず。

今回は、地中海に浮かぶキプロス島のパフォス城特設会場で、なんと野外コンサート! パフォスは、愛と美の女神・アフロディーテ(ヴィーナス)誕生の地として名高い港町で、一帯はユネスコ世界文化遺産に登録されている。しかも今年は「欧州文化首都」に選ばれ、1年を通して街中でさまざまなアートイベントが開かれる。そんなタイミングに、ベルリン・フィルが訪れたのだ。パフォス城は東ローマ帝国(ビザンツ帝国)時代の13世紀に造られ、オスマン帝国時代の崩壊、修復を経て今日に至っている城塞で、近年は芸術祭「パフォス・アフロディーテ・フェスティバル」の会場にもなっているようだ。

ちなみに、ベルリン・フィルでは、毎夏6月の最終日曜にベルリン郊外のワルトビューネ野外音楽堂で、緑に囲まれての野外コンサートを開いているが、『ヨーロッパ・コンサート』での野外公演は極めてレアなケース。地中海の太陽の光が燦燦と降り注ぐリゾート地で、ウェーバー(1786~1826)の『クラリネット協奏曲 第1番』、ドヴォルザーク(1841~1904)の『交響曲 第8番』などが、マリス・ヤンソンスの指揮で演奏される。

『クラリネット協奏曲 第1番』は、1811年にミュンヘン宮廷楽団の名奏者に書かれた作品で、中でもクラリネットがエレガントな旋律をゆったりと歌い出す第2楽章は、聴きどころたっぷり。ソリストは、首席奏者のアンドレアス・オッテンザマー。心が開けていくような、爽やかで健康的な音色の持ち主だ。フルートを思わせる明るく華のある高音で歌ったりされると、聴き手はすっかり陶酔してまう。自然に身体を動かしながらの、アクティブな演奏も特徴的である。

アンドレアスは1989年ウィーン生まれで、2011年に首席に就任した精鋭だが、家族もスゴい。父エルンストは83年から、兄ダニエルは09年から、なんとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者。一家に、世界のトップ・オーケストラの首席が3人もいるとは、今風にいうとまさに「神ってる、クラリネット父子!」である。3人それぞれソロはもちろんのこと、父子トリオでも活動していて、来日公演の模様がNHK・BS「クラシック倶楽部」で4月に放送されたばかりだ。アンドレアスの人となり、音楽や楽器に対する考え方などは、楽団のライヴ中継や貴重な名演などの公式配信Web「デジタル・コンサートホール」でも紹介されている。

さて、キプロスは「地中海の十字路」と呼ばれ、ギリシャやアラブ諸国、トルコなど、さまざまな文化の影響を受けながら発展してきた国で、食が豊か。ドキュメンタリーで、舞台裏の楽員たちの様子とともに歴史や食文化に触れるのも楽しみ。そして、ぜひ旅人の気分で、ドヴォルザークの故国・ボヘミアの香りに満ちた『交響曲 第8番』に、耳を傾けていただきたい。

続く『グリゴーリ・ソコロフ ピアノ・リサイタル』は、今や日本で「伝説的存在」のソコロフ(1950~)の演奏をたっぷりと。ソコロフは、1966年の「チャイコフスキー国際コンクール」優勝者。レパートリーが広く、聴き手の眠っている感覚を呼び覚ますような音を自在に発し、闊達な魂を感じる圧巻の演奏ながら、欧州基盤のため20年以上来日していない。日本ではもはや「知る人ぞ知る」ピアニストと化している。うま味の詰まった美しく濃い響きを、深夜~明け方の時間帯に聴いてしまうときっと眠れない、いやすっかり目が覚めてしまうかもしれないが、貴重な放送である。

文=原納暢子

放送情報

5月29日(月)【5月28日(日)深夜】午前0時00分~午前4時15分
◇本日の番組紹介
◇ベルリン・フィル ヨーロッパ・コンサート2017  in パフォス【5.1サラウンド】
◇ドキュメンタリー ヨーロッパ・コンサートの舞台  世界遺産パフォス(キプロス)
◇グリゴーリ・ソコロフ ピアノ・リサイタル【5.1サラウンド】

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◇本日の番組紹介  午前0時~午前0時2分30秒
ナレーション: 水落幸子(みずおち ゆきこ)

◇ベルリン・フィル ヨーロッパ・コンサート2017  in パフォス
午前0時2分30秒~午前0時46分30秒/午前1時5分~午前1時51分
<曲 目>
歌劇「オベロン」序曲  ウェーバー 作曲
クラリネット協奏曲 第1番 ヘ短調 作品73  ウェーバー 作曲
交響曲 第8番 ト長調 作品88  ドボルザーク 作曲   他
<出 演>
クラリネット:アンドレアス・オッテンザマー
<管弦楽>ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
<指 揮>マリス・ヤンソンス
収録:2017年5月1日 パフォス城 野外特設会場(キプロス)

◇ドキュメンタリー ヨーロッパ・コンサートの舞台 世界遺産パフォス(キプロス)
午前0時46分30秒~午前1時5分
<出 演>
ハリス・パスパリス(アーティスト)
ディミトリオス・ミハイリディス(考古学者)
レオニトゥ・レオニダス(漁師)
アンゲル・コナリ(歴史学者)
ユミト・イナチェ(アーティスト)
ソフィア・キリアク(伝統料理研究家)
ヨルゴス・ディミトリアディス(ギリシャ料理店オーナー)
字幕:米沢啓子

◇グリゴーリ・ソコロフ ピアノ・リサイタル  午前1時53分~午前4時15分
<曲 目>
・パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV825  バッハ 作曲
・ピアノ・ソナタ 第7番 ニ長調 作品10第3  ベートーベン 作曲
・ピアノ・ソナタ イ短調 D.784  シューベルト 作曲
・楽興の時 D.780  シューベルト 作曲
・マズルカ イ短調 作品68第2  ショパン 作曲
・マズルカ 嬰ハ短調 作品30第4  ショパン 作曲
・マズルカ 嬰ハ短調 作品63第3  ショパン 作曲
・マズルカ 嬰ハ短調 作品50第3  ショパン 作曲
・前奏曲 変ニ長調「雨だれ」  ショパン 作曲
・前奏曲集 第2巻から「カノープ」  ドビュッシー 作曲
<出 演>
ピアノ:グリゴーリ・ソコロフ
収録:2015年8月18日 プロバンス大劇場(フランス)

http://www4.nhk.or.jp/premium/

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