【花火大会特集】東北最大規模を誇る花火ショー 夏の始まりを告げる秋田県・能代の花火
『港まつり 能代の花火』が行われるのは秋田県能代市。絶好の花火打ち上げ環境が整うこの場所は、かつて中止の危機に見舞われ、そして長らく開催が途絶えていた。紆余曲折ありながらも2003年に再開を果たし、今年で15年目の節目を迎える。記念すべき大会を前に、当イベントのコーディネートを務める、能代商工会議所の竹内敏之さんにお話を伺った。
ーーまずは、能代花火の歴史を教えてください。
私は能代生まれ能代育ちですが、物心ついた頃から花火大会は自分のすぐそばにあるものでした。毎年花火大会になると祖父母に連れていってもらうことが、夏の楽しみだったんです。花火大会の始まりは1958年、私の生まれる前です。当時の日本国内の主な花火競技大会といえば、能代、大曲、土浦の3本だったと聞いています。能代も大曲も秋田県なのですが、秋田で花火が盛んになったのには理由があります。秋田の主要な産業である農林水産業は秋までに繁忙期終えるため、冬季間の仕事に選んだのが花火業だったのだと花火師に伺いました。花火はとても危険なものですから、住宅密集地では作業ができませんが、その点秋田県のような広大な土地にはそれが適しており、かつ火薬を保管しておくことのできる安全な施設を設ける場所もある。まわりに影響を及ぼすことが少ないということで、花火業に適していると誰かが目をつけたそうです。その後、追随して大曲の各社で花火が盛んになったそうです。
ーーそうして花火大会が能代の目玉になっていったんですね。
ところが、初回から20年余りが経過した頃から、状況が変化しました。その理由の大きな点としては、能代の港湾整備や資材置き場となり、打ち上げをしていた場所が使えなくなってしまったことです。また原木を陸揚げしていたこともあり、着火しやすい素材が多かったなど、これらの理由から開催が懸念され始め、安全性を考慮した結果、1979年を最後に中止となったと聞いています。
ーーでは、2003年に再開したきっかけはなんでしょうか。
観光の一端を担うためですね。能代にしか出来ない観光資源はないか、能代の実力を全国に発信できる何かを模索したい。そこで、観光により集客増を目指していこうと考え始めたのです。現在、商工会議所青年部の主要事業として、港の活性化のために『港まつり』を開催しています。そのような状況下、更なる港湾の活用を考えたときに、そういえば昔、花火大会があったよねと、誰かがぽつりと言ったんです。中止から20年以上経過していたので、能代市民でさえ忘れかけていたけれど、大曲では現在も花火師の方々が現役で活躍されている。ならば、相談してみようと。しかしながら、開催するにも予算の確保が必要ですし、そもそも予測した集客ができるのかもわからない……。そこで、2002年の港まつりにあわせて、小規模で打ち上げを行うことにしたんです。
ーー2002年とは、第1回目の前年ですね。
はい。ですから実は2002年が再開後初であり、私たちは幻の第0回と呼んでいます(笑)。まつりに花火が上がると事前告知はしていたものの、集客については未知数でした。ところが当日蓋を開けて見たら、びっくりするくらい人が来たんです。そこで改めて能代港湾の地図を広げてみたら、能代は花火打ち上げ環境に恵まれていることを再確認しまして、新たに本腰を入れて行うことが決定しました。そうして2003年の第1回に繋がります。当時私は港まつりのプロデュースを行っていましたが、本格的に花火大会がスタートする契機に、花火大会の担当に選出されました。
ーー当時、まだお若かったのでは。
30代でした。なんの実績もなく、もちろん花火業者からの信用も得られず、大変でしたね。でも、必ず数年先には全国を視野にできるように成功させてやるという意地だけはありました(笑)。まずは花火を勉強し、能代はどこを目指すのか立ち位置を決めました。私が追求したのはエンタテインメント性です。以前に、ラスベガスのベラージオホテルの噴水ショーを見て、花火に近いものを感じたんです。音に合わせて水が吹き上げる姿はとても圧巻でした。昼間はもちろん、夜はライトアップされてきれいですし、それが毎度音楽を変えて15分・30分間隔で行われていることに感動を覚えました。これを花火に活かせば素晴らしいものになると直感したんです。花火は世界共通のものなのですが、花火の見方・美的感覚は各国で異なるそうです。日本人はいかに真ん丸に、色鮮やかにできるか、そして打ち上げの技も大切にしている。花火の発祥は中国だと言われていますが、日本とはまた違う素質を持っているんですよ。世界にはいろんなタイプの花火があることを知っていくうちに、能代は格式あるものではではなく、楽しい花火ショーにしようと考えたのです。
ーー確かに、毎回のテーマも面白いフレーズが並んでいますよね。
テーマとは、いわば演目です。能代の花火は、笑顔になる・楽しくなる・思い出になることを念頭に置き、エンタテインメント性を持たせています。それがテーマにも反映されている。ただ花火師に仕事を発注するだけでなく、花火をどうロマンチックに見せるのか、人間の感情をいくつも考え、それをテーマにも活かしています。例えば震災のときは「元気・勇気・希望」。当時は中止にしようかという議論もありましたが、こんなときだからこそやるべきだと。秋田県は東北で一番被害が少なかったので、おなじ東北地方から全国に元気を届けていきたいという気持ちで開催を決意しました。それから、昨年は観客の皆さんをびっくりさせたい気持ちを表し、「びっくりで笑(show)」と名付けてみたり。基本的には文字遊びです。言いやすく、覚えていただきやすいのが絶対条件。そして何より、面白そうだなと思ってもらえるフレーズを感覚的に作っています。街頭の看板を見たりしながらイメージを膨らませ、年がら年中考えていますね。
ーーいつも花火大会のことを考えていらっしゃるんですね。
だんだんネタが尽きてくるんですよ(笑)。だから思いついたフレーズはすぐに携帯にメモして、それを見返しながら今年は何をやれるのだろうと考えて選んでいきます。昨年の「びっくりで笑(show)」というテーマは、1000mのスターマインとか、ナイアガラを最大限長くするとか、三尺玉を2発打ち上げるなど、新しいことをたくさん盛り込んだので、びっくりしていただけるだろうと確信して名付けました。
ーー今年のテーマは“年中夢中”ですね。
実は今年も「笑(show)」を付けたものにするつもりでいたのですが、能代商工会議所70周年記念、花火大会は15回目の節目の年でもあるので、テーマをリセットしようと決めたんです。そんなときに、ある会社の営業の方と出会いまして、その方がとても一生懸命で夢中なんですよ。いつも夢中な方だなと思っていたら、ふと「年中夢中」というフレーズが浮かんできたんです。「年中無休」という言葉はあるけれど、このご時世にその言葉は似合わない。「年中夢中」は今の時代に合っていると思いませんか(笑)。実際に文字にしてみたら字面も良かったし、これで行こうと決めました。
ーー絞り出して考えついたものではないのですね。
苦労して生み出すものではないと思っています。イベントは考えてやるものではなく、時々の空気感や感覚的なものだと私は思います。
ーー立ち上げからプロデューサーを担当して15年。大変だと感じたことはないのでしょうか。
ありますよ。天候や風向きなどで、自分が思い描いた本番ができなかったときは辛いです。それに、自然にはやっぱり勝てないですから、天気の良し悪しはいつでもつきまとっているんです。でも、それを気にしていたら、そもそも花火なんてできないですから……。時期的にはちょうど東北地方の梅雨明けシーズンだったり、台風が来るタイミングだったりするので、雨はつきものですが、意外と午前中に降っていても、本番には止んで開催にこぎつけることが多いんです。ただ、雲や煙が多いと花火がきれいに見えないので……。そんなときはやっぱり辛いですね。
ーー確かに、他の花火大会と比較しても早い時期に開催されますよね。
なぜなら、その日程でないと秋田を代表する花火業者オールスターが集まらないからです。能代の花火に参加してくださる4社は引っ張りだこの花火師なので、全国の花火大会に参加しています。彼らが集結するのが能代の醍醐味であり、花火愛好家の間では“花火の日本代表”と言われるほど貴重な競演なんですよ。だから、彼らの参加は不可欠ですし、この時期しかない。これを逃すと我々のコンセプトとは逸れてしまうのです。恵まれたステージ、そして優秀な演者。環境は十分整っているので、それをどうコーディネートするのかが私の役割だと考えています。
ーーでは、うれしかったことは?
思い描いていたとおりに進行できたときや、お客様から感動した、良かったという言葉をいただいたときですね。能代の花火をきっかけに結婚された方もいらっしゃるんですよ。プログラムにある「メッセージ花火」を使ってプロポーズされたんです。花火を通して誰かの幸せのお手伝いができた瞬間は喜びですね。
ーー今年の見どころは?
毎年の打ち上げ内容については、今までやったことのないことにチャレンジし、アップグレードすることを自分に課しています。全国の花火愛好家の皆さんを唸らせることができるものはなんだろうかと、先日も花火師と協議しました。そして、今年は1000mにわたり、大玉を100連発打ち上げる予定です。花火玉の規模は昨年より上がっていますし、見栄えもよく、圧巻だと言えるプログラムになると期待しています。能代商工会議所70周年記念、そして能代の花火第15回目の節目を、感謝を込めてお届けしたいと考えています。
ーー楽しみです。最後に、各地から能代に向かう方々に向けて、能代の魅力をお知らせいただけますでしょうか。
秋田の魅力は、まずは“食”ですね。秋田は四季がはっきりしていて、寒暖の差が激しい場所です。そのぶん、空気や水がきれいで、美味しい作物が育つんです。米を筆頭に日本酒、白神ネギ、野菜、魚介類はそんな秋田の特徴を存分に受けた作物で、全国的に有名です。それから、比内地鶏は秋田を代表するものですから、召し上がっていただきたいですね。もちろん、きりたんぽも自慢の一品。それから、冬のための保存食として生まれた、いぶりがっこ。日本海の海鮮なども含めて、風土が生み出す料理がたくさんありますので、ぜひ一度味わっていただきたいです。観光スポットとしては、世界自然遺産の白神山地があります。実は能代の花火大会はその麓で行なっているんですよ。晴れていれば夕方には稜線を望みながら、花火が上がります。このような恵まれた打ち上げ環境の中で、最高水準の技術とプログラムを用いて、エンタテインメント性の高いショーをお見せします。繰り返しになりますが、参加してくださる花火師の皆さんは素晴らしい方々ばかりです。能代の花火を見ないと損すると言ってもらえるよう、目下企画進行中ですので、ぜひ一度お越しください。能代でお待ちしています。
インタビュー・文=ふくだゆみ
≫イープラス 花火・祭り 特集ページはこちら≪
https://festival.eplus.jp/