青春の圧倒的な輝きと熱! ミュージカル『RENT』公演レビュー
写真提供/東宝演劇部
1996年の初演以来、世界中で愛され続けるミュージカル『RENT』が、9月8日から日比谷のシアタークリエで上演中だ(10月9日まで。10月16日~18日、大阪の森ノ宮ピロティホールでも上演)。
この作品は、プッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』をベースに、物語の舞台を20世紀末のニューヨーク、イーストヴィレッジに置き換え、当時の若者の世相に鋭く切り込み、貧困、エイズ、ドラッグ、同性愛といった問題と直面しながら尚、愛や友情を信じ輝き続けようとする登場人物たちの姿が深い共感を呼んだ。
作詞・作曲・脚本を担当したジョナサン・ラーソンが、プレビュー公演の前日にわずか35歳でこの世を去るという衝撃的な展開で、翌日の1996年1月26日、オフブロードウェイのシアターワークショップで初演。僅か3ヶ月でブロードウェイのネダーランダー劇場に進出。ピュリッツァー賞ドラマ部門をはじめ、トニー賞ミュージカル部門作品賞、脚本賞、作曲賞、助演男優賞などを獲得して、実に12年4ヶ月のロングランを果たすメガヒット作品となった。様々な魅力を放つミュージカルナンバーと共に世界15ヶ国での上演、更に2006年には映画化もなされ、今なお愛され続けている。
シアター・クリエでの上演は今回が4回目で、2012年に続くオリジナル版の演出を手掛けたマイケル・グライフによる新演出バージョン。初登場のメンバーを含めて、魅力的なダブルキャストをはじめとした多彩なキャスティングが組まれ、エネルギッシュなパワーに溢れるステージが展開されている。
鉄骨を主体とし、様々に可動するセットが印象的な舞台はニューヨークイーストヴィレッジのクリスマスイブからはじまる。映像作家のマーク(村井良大)は、友人でロックバンドのボーカリスト・ロジャー(堂珍嘉邦/ユナク:Wキャスト)と暮らす古いロフトのひと部屋から、家賃(レント)の滞納で立ち退きを迫られている。恋人をHIVで亡くしたロジャーは、自身もHIVポジティブで、せめて死ぬ前に後世に残る曲を書きたいと願いながら、引きこもり生活から抜け出せずにいる。
ある日ロジャーは階下に住むSMクラブのダンサーミミ(ジェニファー/Sowelu:Wキャスト)と出会うが、彼女もまたHIVポジティブだった。そんなロジャーをなんとか外に連れ出そうと試みるマークも、恋人のモーリーン(上木彩矢/ソニン:Wキャスト)に振られたばかり。モーリーンの新しい恋人は女性弁護士のジョアンナ(宮本美季)だが、自由奔放なモーリーンと、恋人としての忠節を求めるジョアンナとの間には諍いが絶えない。
一方、彼らの仲間であるコリンズ(加藤潤一/TAKE:Wキャスト)は暴漢に襲われたところをストリートドラマーのエンジェル(平間壮一/IVAN:Wキャスト)に助けられ、2人は互いに惹かれあうが、2人もまたHIVポジティブという運命を抱えていた。それぞれが自分に残された時間、「525,600分=1年をどう生きるのか?」という問題に直面しつつ、葛藤し、衝突し、別れ、また出会い、マークは彼らを撮り続ける。そして、2度目のクリスマスイブが訪れる…。
作品を通してまず感じるのは、シアタークリエのステージから放たれる熱気のパワフルさだ。出演者それぞれが発するボルテージは限りなく高く、客席にいて息もつけないような気持ちにさせられる力には圧倒的なものがあった。ここに描かれている物語には、貧困、HIV、ドラッグ、セクシャルマイノリティと、様々な困難が溢れているが、それでも尚、登場人物たちがまばゆさを失わないのは、彼らがどんな状況にあっても光続ける若さ故の輝き、青春の魅力に満ちているからだろう。作品が初演された1996年と、現在2015年ではHIVや、セクシャルマイノリティを取り巻く環境にも大きな変化が表れているが、それら内包する問題点よりも更に、青春の熱が全面に出ていることが、作品に古さを与えないパワーになっている。更に2幕冒頭で歌われ、おそらくこの作品で最も有名なナンバー「Seasons of Love」をはじめ、「RENT」「Light My Candoe」「Santa Fe」「I'll Cover You」「La vie Boheme」等々、迫力のサウンドからキュートなラブソングまで、多彩なミュージカルナンバーの魅力が、全編に散りばめられ、音楽の魅力に満ちていることも、この作品が世界中で愛され続ける重要な要素で、今回の出演者たちが十二分な歌唱を披露してくれているのが嬉しい。
そんな作品で、主人公マークを演じる村井良大の存在感が素晴らしい。マークは映像作家としての理想を持ち、その思いと相いれこそしないが、映像にスカウトがかかる才能も持っていて、何より健康だ。この『RENT』という作中世界においては、むしろ負の要素の少ない役どころで、それだけに主人公として立つのは実は相当に難しい難役と言える。だが、村井の清涼感のある真摯な演じぶりが、様々な困難を抱えた仲間の中で、彼らの日々「525,600分=1年」を永遠に記録しようとする、マークの真っ直ぐで切ない心情が伝えて、物語世界を彼が見つめている時間に昇華することに成功している。翻訳ミュージカルにはこれが初挑戦とのことだが、今後様々な作品への登場が期待できる鮮やかな主演となった。
Wキャストの面々は、ロジャー・堂珍嘉邦、ミミ・ジェニファー、コリンズ・TAKE、エンジェル・平間壮一、モーリーン・ソニンの回で観た。
ロジャーの堂珍嘉邦は多くの登場人物が交錯する物語の中で、やはりバッと一目を惹きつける華が圧巻。自身が死に直面していること以上に、愛する人の死に立ち会わなければならなかったショックが、彼から次の一歩を踏み出させる勇気を奪っている。その恐怖と持って行き場のない怒りがよく伝わり、胸を打つロジャーだった。
ミミのジェニファーは、この作品と役柄の出演経験が長いキャリアが、そのまま余裕になっている。むしろ積極的にロジャーに接していく展開に自然さがあり、ロジャーに曲を書かせるパワーを与えたことに説得力を持たせていた。コリンズのTAKEはこのメンバーの中では、少しだけ大人に見えることが、恋人の死に正面から向き合う役柄に相応しく温かさがあった。その恋人エンジェルの平間壮一は、役名の通り作中最も優しい人物であり、作品のラストシーンへの鍵を握る役柄を、実に魅力的に演じている。作中の誰もが言うように、観る者にもにこんな友人が欲しいと思わせるエンジェルだった。モーリーンのソニンは、初登場時のインパクトが絶大。何よりも自由を求める役柄の熱さが、ストレートに伝わるエネルギーに満ちた快演。ジョアンナの宮本美季が見せる真面目さ故のモーリーンとのぶつかり合いが面白く、ベニーのSpiが金銭的に余裕があるという、思えば決して悪くないことが、この作中では嫌味になるという面を巧みに表現していた。
他に、「Seasons of Love」でパワフルボイスを披露したMARU、しなやかな肢体の美しさが際立った小林由佳など、アンサンブルの面々もそれぞれに個性的で、ユナク、Sowelu、加藤潤一、IVAN、上木彩矢、らが演じる回も是非観てみたい、また異なる組み合わせも、との期待が高まった。何より『RENT』という作品が、熱量を失わずに2015年の日本にあることを喜びたい舞台となっている。
この作品は、プッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』をベースに、物語の舞台を20世紀末のニューヨーク、イーストヴィレッジに置き換え、当時の若者の世相に鋭く切り込み、貧困、エイズ、ドラッグ、同性愛といった問題と直面しながら尚、愛や友情を信じ輝き続けようとする登場人物たちの姿が深い共感を呼んだ。
作詞・作曲・脚本を担当したジョナサン・ラーソンが、プレビュー公演の前日にわずか35歳でこの世を去るという衝撃的な展開で、翌日の1996年1月26日、オフブロードウェイのシアターワークショップで初演。僅か3ヶ月でブロードウェイのネダーランダー劇場に進出。ピュリッツァー賞ドラマ部門をはじめ、トニー賞ミュージカル部門作品賞、脚本賞、作曲賞、助演男優賞などを獲得して、実に12年4ヶ月のロングランを果たすメガヒット作品となった。様々な魅力を放つミュージカルナンバーと共に世界15ヶ国での上演、更に2006年には映画化もなされ、今なお愛され続けている。
シアター・クリエでの上演は今回が4回目で、2012年に続くオリジナル版の演出を手掛けたマイケル・グライフによる新演出バージョン。初登場のメンバーを含めて、魅力的なダブルキャストをはじめとした多彩なキャスティングが組まれ、エネルギッシュなパワーに溢れるステージが展開されている。
写真提供/東宝演劇部
鉄骨を主体とし、様々に可動するセットが印象的な舞台はニューヨークイーストヴィレッジのクリスマスイブからはじまる。映像作家のマーク(村井良大)は、友人でロックバンドのボーカリスト・ロジャー(堂珍嘉邦/ユナク:Wキャスト)と暮らす古いロフトのひと部屋から、家賃(レント)の滞納で立ち退きを迫られている。恋人をHIVで亡くしたロジャーは、自身もHIVポジティブで、せめて死ぬ前に後世に残る曲を書きたいと願いながら、引きこもり生活から抜け出せずにいる。
ある日ロジャーは階下に住むSMクラブのダンサーミミ(ジェニファー/Sowelu:Wキャスト)と出会うが、彼女もまたHIVポジティブだった。そんなロジャーをなんとか外に連れ出そうと試みるマークも、恋人のモーリーン(上木彩矢/ソニン:Wキャスト)に振られたばかり。モーリーンの新しい恋人は女性弁護士のジョアンナ(宮本美季)だが、自由奔放なモーリーンと、恋人としての忠節を求めるジョアンナとの間には諍いが絶えない。
一方、彼らの仲間であるコリンズ(加藤潤一/TAKE:Wキャスト)は暴漢に襲われたところをストリートドラマーのエンジェル(平間壮一/IVAN:Wキャスト)に助けられ、2人は互いに惹かれあうが、2人もまたHIVポジティブという運命を抱えていた。それぞれが自分に残された時間、「525,600分=1年をどう生きるのか?」という問題に直面しつつ、葛藤し、衝突し、別れ、また出会い、マークは彼らを撮り続ける。そして、2度目のクリスマスイブが訪れる…。
写真提供/東宝演劇部
作品を通してまず感じるのは、シアタークリエのステージから放たれる熱気のパワフルさだ。出演者それぞれが発するボルテージは限りなく高く、客席にいて息もつけないような気持ちにさせられる力には圧倒的なものがあった。ここに描かれている物語には、貧困、HIV、ドラッグ、セクシャルマイノリティと、様々な困難が溢れているが、それでも尚、登場人物たちがまばゆさを失わないのは、彼らがどんな状況にあっても光続ける若さ故の輝き、青春の魅力に満ちているからだろう。作品が初演された1996年と、現在2015年ではHIVや、セクシャルマイノリティを取り巻く環境にも大きな変化が表れているが、それら内包する問題点よりも更に、青春の熱が全面に出ていることが、作品に古さを与えないパワーになっている。更に2幕冒頭で歌われ、おそらくこの作品で最も有名なナンバー「Seasons of Love」をはじめ、「RENT」「Light My Candoe」「Santa Fe」「I'll Cover You」「La vie Boheme」等々、迫力のサウンドからキュートなラブソングまで、多彩なミュージカルナンバーの魅力が、全編に散りばめられ、音楽の魅力に満ちていることも、この作品が世界中で愛され続ける重要な要素で、今回の出演者たちが十二分な歌唱を披露してくれているのが嬉しい。
そんな作品で、主人公マークを演じる村井良大の存在感が素晴らしい。マークは映像作家としての理想を持ち、その思いと相いれこそしないが、映像にスカウトがかかる才能も持っていて、何より健康だ。この『RENT』という作中世界においては、むしろ負の要素の少ない役どころで、それだけに主人公として立つのは実は相当に難しい難役と言える。だが、村井の清涼感のある真摯な演じぶりが、様々な困難を抱えた仲間の中で、彼らの日々「525,600分=1年」を永遠に記録しようとする、マークの真っ直ぐで切ない心情が伝えて、物語世界を彼が見つめている時間に昇華することに成功している。翻訳ミュージカルにはこれが初挑戦とのことだが、今後様々な作品への登場が期待できる鮮やかな主演となった。
写真提供/東宝演劇部
Wキャストの面々は、ロジャー・堂珍嘉邦、ミミ・ジェニファー、コリンズ・TAKE、エンジェル・平間壮一、モーリーン・ソニンの回で観た。
ロジャーの堂珍嘉邦は多くの登場人物が交錯する物語の中で、やはりバッと一目を惹きつける華が圧巻。自身が死に直面していること以上に、愛する人の死に立ち会わなければならなかったショックが、彼から次の一歩を踏み出させる勇気を奪っている。その恐怖と持って行き場のない怒りがよく伝わり、胸を打つロジャーだった。
ミミのジェニファーは、この作品と役柄の出演経験が長いキャリアが、そのまま余裕になっている。むしろ積極的にロジャーに接していく展開に自然さがあり、ロジャーに曲を書かせるパワーを与えたことに説得力を持たせていた。コリンズのTAKEはこのメンバーの中では、少しだけ大人に見えることが、恋人の死に正面から向き合う役柄に相応しく温かさがあった。その恋人エンジェルの平間壮一は、役名の通り作中最も優しい人物であり、作品のラストシーンへの鍵を握る役柄を、実に魅力的に演じている。作中の誰もが言うように、観る者にもにこんな友人が欲しいと思わせるエンジェルだった。モーリーンのソニンは、初登場時のインパクトが絶大。何よりも自由を求める役柄の熱さが、ストレートに伝わるエネルギーに満ちた快演。ジョアンナの宮本美季が見せる真面目さ故のモーリーンとのぶつかり合いが面白く、ベニーのSpiが金銭的に余裕があるという、思えば決して悪くないことが、この作中では嫌味になるという面を巧みに表現していた。
他に、「Seasons of Love」でパワフルボイスを披露したMARU、しなやかな肢体の美しさが際立った小林由佳など、アンサンブルの面々もそれぞれに個性的で、ユナク、Sowelu、加藤潤一、IVAN、上木彩矢、らが演じる回も是非観てみたい、また異なる組み合わせも、との期待が高まった。何より『RENT』という作品が、熱量を失わずに2015年の日本にあることを喜びたい舞台となっている。
【取材・文/橘涼香 写真提供/東宝演劇部】
公演情報
ミュージカル「RENT」
脚本・作詞・音楽◇ジョナサン・ラーソン
演出◇マイケル・グライフ
日本版リステージ◇アンディ・セニョールJr.
出演◇村井良大、堂珍嘉邦、ユナク(超新星)、ジェニファー、Sowelu、加藤潤一、TAKE(Skoop On Somebody)、平間壮一、IVAN、上木彩矢、ソニン、宮本美季、Spi、新井俊一、千葉直生、小林由佳、MARU、奈良木浚赫、岡本悠紀、都乃(Swing)
●9/8~10/9◎日比谷 シアタークリエ
〈料金〉S席11,300円、A席8,800、エンジェルシート(当日抽選席)5,000円
〈問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-32001-7777(9時半~17時半)
●10/16~18◎大阪 森ノ宮ピロティホール
〈料金〉S席11,500円
〈問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888(10時~18時)