アラーキーが独自の死生観で生を激写する 『東京墓情 荒木経惟×ギメ東洋美術館』をレポート
展示のようす
シャネル・ネクサス・ホールにて『東京墓情 荒木経惟×ギメ東洋美術館』(会期:2017年6月22日~7月23日)が開幕した。
会場入り口
日本を代表する写真家として常に最前線を走り続けている、アラーキーこと荒木経惟。その活躍ぶりについて今さら説明は不要かもしれないが、450冊以上に及ぶ写真集の刊行、ほぼ毎年といっていいほど定期的に開催される展覧会の数々と、異常ともいえる精力的な活動には感服せざるをえない。
会場入り口。左に進むとカラー写真のパート、右に進むとモノクロ写真のパートとなっている。
荒木の写真は海外でも熱視線を浴びており、2016年には、フランス・パリにあるギメ東洋美術館にて大規模個展『ARAKI』が開催され、現地でも大きな話題となった。
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これまでの作家活動を振り返るレトロスペクティブとともに発表されたのが、撮り下ろしの新作「東京墓情」である。大病を経験して得た濃密な“死”への意識を抱きながら、50年に及ぶ自身の写真家人生を振り返った本作は、今の荒木経惟を知る上で大変重要な作品だ。
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本展では、『ARAKI』で発表された「東京墓情」を日本初公開するとともに、ギメ東洋美術館が所有する写真コレクションより、荒木本人がセレクトした幕末・明治期の写真作品をあわせて出展。加えて、本展のために撮り下ろした新作も発表される。
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東京は墓場だ。
朽ちゆく花のエロスとタナトス
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本展タイトルを今一度よくみてほしい。そう、「慕情」ではなく「墓情」なのだ。
あの世で自分が撮る写真はどのようなものになるのか、探ろうとしているわけなの。
荒木経惟
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「アタシが撮ったヤツは死ぬのが早い」と明るく語る荒木は、儚さへの感応が人一倍鋭いようにみえる。過去に「気になるやつが死ぬと俺の生命力が倍増する」とも語っていたそうだが、花の写真ひとつとっても、枯れかかった花そのものより、むしろ移ろいゆく命や新たな生命への布石を切り取ろうとしているかのようだ。
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2008年に前立腺がんが判明し手術。その2年後に愛猫チロの死を経験し、そして2013年には動脈血栓で右目を失明と、ネガティブな出来事が立て続けに起こった。しかし、前立腺がん手術の前後をドキュメントした『東京ゼンリツセンガン』(2009)や、ポジフィルムの右半分を黒マジックで塗りつぶした『左眼ノ恋』(2014)を発表するなど、身近に起こった死にまつわる出来事を逆手にとってみせ、見事に作品に昇華させてきた。
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呼吸をするようにシャッターを切り、一期一会といわんばかりに被写体と、そして自分自身と真剣勝負する荒木。そんな彼にもひとつ未練があるそうで、それは東日本大震災を撮らなかったことだそうだ。「あえて撮りに行かなかったが、ずっと引きずっている」と理由を語った荒木は、「写真を撮った瞬間から別れがはじまってる」とも語っている。何気ない東京の空の写真にそこはかとなくセンチメンタルさが漂うのには、この言葉がヒントになっている。
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幕末・明治×現代コラボ
パリ個展『ARAKI』の挑戦
シャネル株式会社 代表取締役社長のリシャール・コラス 以前からアラーキーの大ファンだったと熱く語った。
ギメ東洋美術館 写真コレクション主任学芸員ジェローム・ゲスキエール
シャネル社長のリシャール・コラスは「ギメ美術館はアラーキー展をやってから、パリで一番元気な美術館になった」と評し、ギメ美術館のジェローム・ゲスキエールは「ギメで荒木の個展を開くことはかなりのチャレンジだったが、自然な成り行きでもあった」と振り返った。
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実業家エミール・ギメのコレクションを元に誕生したギメ美術館は、ルーヴル美術館の東洋パートを担っており、アジア以外で最大の東洋美術コレクションを誇っている。仏教美術に力を入れ、どちらかというと博物館的要素の強いこの美術館で『ARAKI』を決行したことは、さぞかし意表を突くものであったろう。
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ゲスキエールは、「古写真にコンテンポラリーアートのルーツを見ることもでき(中略)19世紀の日本の写真と荒木の現代写真をクロスオーバーさせることで、歴史の中で残ってきたものと忘れ去られたものを比較する楽しみもある」と本展の意図するところを語った。
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古写真を荒木自らセレクトしたのも大きなポイントで、入れ墨、花といったモチーフや、銀座や吉原に上野といった場所と彼に縁の深いものがピックアップされ、彼の世界観が間接的に表されている。
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「過去と現在を並列に見ることで、そこから浮き上がってくる未来もある」とも語られた本展は、日本のアンダーグラウンドが時空を超えて出会い、拮抗し、または混ざり合い、互いに高めあってもいる、斬新でミステリアスな展覧会である。
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今年は展覧会が目白押し!
止まらぬアラーキーフィーバー
荒木経惟 「やっぱ写真は荒木だね」と得意のリップサービスで会場を沸かせた
今年に入って半年が経過したばかりだが、年明けに行われた『荒木経惟展「Last by Leica」』を皮切りに、すでに5つの展覧会が開催され、本展以外にも複数の展覧会がほぼ同時進行で予定されている。
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「カメラをのぞいたらファインダーが花園。もう撮らなくてもいい」と冗談交じりに語る荒木は常に“今”が最高潮で、「写真は完成しちゃだめなんだ」ともっと上、もっと先を目指し疾走している。そのエネルギッシュな欲動はとどまるところを知らず、ますます感度が冴えるばかりだ。
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今年の5月で喜寿を迎えた荒木経惟。自ら“写狂老人”と名乗り、カメラと一心同体となり、朝から晩まで写真に殉じる彼のユーモアで挑発的な生きざまには脱帽せざるをえない。
「写真をみたあとみんな荒木が一番だと言う」と予言し、会場は拍手に包まれた。
会期:2017年6月22日(木)~7月23日(日) 12:00~20:00 入場無料・無休
会場:シャネル・ネクサス・ホール
中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
お問い合わせ:シャネル・ネクサス・ホール事務局 03-3779-4001
http://chanelnexushall.jp