クリエイターの発想と印刷技術が融合する 『グラフィックトライアル2017』展をレポート
7月1日より印刷博物館P&Pギャラリーにて、4名のクリエイターが新たな印刷表現に挑戦する展覧会『グラフィックトライアル2017』が開催中だ。
12回目となる今年は「Fusion : 統合、融合」というテーマのもと仲條正義、ジャンピン・ヘ、吉田ユニ、澤田翔平が、凸版印刷のプリンティングディレクターたちと印刷技術における多様な融合を試みた。第一線で活躍するデザイナーたちの発想と、印刷の知恵と技術に満ちた本展をレポートする。
「印刷表現」を追求する試み
『グラフィックトライアル』ではこれまでも、「おいしい生活」のキャッチコピーを冠した西武百貨店のポスターや、長野オリンピックの公式ポスターなどを手がけてきたアートディレクターの浅葉克己や、多くのミュージシャンのアートワークから空間デザインまで幅広く活躍する森本千絵など、世代を超えて様々な感性を持ったデザイナーたちが印刷表現に挑戦してきた。
100年以上の歴史をもつ凸版印刷株式会社が、色数、用紙、インキ等に制限を設けず、高度な印刷技術によってクリエイターたちの自由な発想を支える。2016年からはオフセット印刷に加えて、スクリーン印刷やインクジェットなども取り入れることで表現の幅を広げてきた。
本展ではいくつものトライアルを繰り返し完成したB1ポスター作品5点に加えて、その制作プロセスのテスト刷りや技法も展示。作品が出来上がるまでのクリエイターのユニークな試みと、それを実現していく印刷の過程を楽しむことができる。
一枚のネコの写真が次々に変化する
資生堂「花椿」誌のアートディレクションを40年以上にわたり担当してきた仲條正義は、画像の抜き合わせに注目。あえて解像度の低い写真をB1サイズ用に引き伸ばし、それが異なる画像といかに輪郭のつなぎ目が混ざり合うかを試みた。
《火の国のネコ》《時間の国のネコ》などと題された作品では、それぞれに異なる世界観を表現するために紙の種類を変更したり、いくつもの印刷手法が試されている。まるで異次元空間にネコが浮かんでいるようなポスターは、仲條の粋な発案に応える印刷の奥深さが伺える。
融合する先達の思想や創造
現在、ベルリンを拠点にし、香港理工大学、杭州の中国美術学院で客員教授を務めるジャンピン・ヘは、第10回世界ポスタートリエンナーレトヤマ2012で金賞を受賞したほか、同年にギンザ・グラフィック・ギャラリーでの個展を開催するなど日本でも知られるアートディレクターだ。
ジャンピンは「Fusion」を思想と創造によって引き起こされる化学反応と捉え、共通する側面を持つ2名の人物のポートレイトを軸にしてポスターを制作。中には、独創的なコラージュ作品で知られる横尾忠則の顔を見つけることができる。
完成した作品では、10名のポートレイトに加えてジャンピンの故郷の富陽(フーヤン)の風景写真が、鮮やかなレリーフのように表現されている。
剥がれ落ちた色の破片も作品になる
Perfumeや星野源のCDアートワーク、渡辺直美展のアートディレクション等、独自の世界観が高く評価されている吉田ユニは、子供の頃から好きだったというスクラッチの技術を用いた印刷表現に挑戦。
普段目にすることの多い銀色のスクラッチではなく、その上からさらに印刷を施すことで、削りかすまでも含めて作品になっている。さらにスクラッチの手法も従来の削るタイプのものに加えて、めくって剥がすものもあり、焼き魚やバナナ、植物などモチーフに合わせて異なるスクラッチ手法を用いている。
合成ではなく実際に撮影した写真をモチーフにすることも多いという吉田は今回もリアルな存在感を追求し、削りかすの大きさや、写真サイズにもこだわったという。
灰色の世界の拡張に挑戦
凸版印刷株式会社に在籍し様々な企業の販売促進ツール、ブランド・アイデンティティなどのアートディレクションやデザインを手がけるほか、Tokyo Midtown Award 審査員特別賞などを受賞した澤田翔平は、白と黒が織り成す曖昧さをテーマに、グレーで奥深い世界を表現することに挑戦した。
作品に使用する写真は、第46回フジサンケイグループ広告大賞クリエイティブ部門優秀賞を受賞した写真家の中津祐一が撮影。澤田のディレクションのもと、ロケハンも含めると長期に渡る制作期間だったという。しかし、こだわり抜いた分、グレイッシュな世界観を表現するポスターが完成した。印刷はそれぞれ異なる手法を用いており、トライアルの過程からは繊細なグレーの変化を知ることができる。
印刷表現の未来を考える
今回参加した4名のクリエイターを支えたのは、高度な画像品質の要求に応えるノウハウを習得したプリンティング・ディレクターたちだ。デジタル画面では感じ取れない質感を表現するこうした印刷技術は、高い芸術性を備えている。
ここで実験されているトライアルの数々からは、これからの印刷表現の可能性を感じられることだろう。完成された作品たちはもちろん、普段何気なく手にしている印刷物にも、作り手の細やかな意図が潜んでいることを想像してみてはいかがだろうか。
グラフィックの可能性を印刷で探るポスター展
日 時 :2017年7月1日(土)〜9月18日(月・祝)
会 場 :印刷博物館P&Pギャラリー
出展者 :仲條正義、ジャンピン・ヘ、吉田ユニ、澤田翔平
開館時間:10:00~18:00
休館日 :毎週月曜日(ただし7月17日、9月18日は開館)、7月18日(火)
入場料 :無料(印刷博物館本展示場へご入場の際は入場料が必要となります)
http://www.toppan.co.jp/biz/gainfo/graphictrial/2017/