“カワイイ”を発信する増田セバスチャンの日本初個展『Point-Rhythm World−モネの小宇宙−』をレポート
増田セバスチャン
銀座のポーラミュージアムアネックスにて『Point-Rhythm World−モネの小宇宙−』展(2017年7月21日〜9月3日)が開幕した。本展覧会は、きゃりーぱみゅぱみゅのMV美術や、原宿のKAWAII MONSTER CAFE(カワイイモンスターカフェ)をプロデュースしているアーティスト・増田セバスチャンによる、日本初のインスタレーション個展。ポーラ美術館が所有する印象派の画家クロード・モネ《睡蓮の池》(1899年制作)を題材に、増田セバスチャン独自の点描法を用いて、モネの世界観を会場に再構築している。
展覧会タイトルにもなっている「Point-Rhythm(ポイントリズム)」は点描画法を意味するPointillismとrhythmをかけ合わせた造語とのこと。約2トンのカラフルなマテリアルと、VR(仮想現実)技術を融合させた空間は、幻想的な雰囲気に満ちている。7月20日に開催されたメディア向け内覧会より、会場の様子やアーティストトークの質疑応答で明かされた本展の見どころをお伝えしよう。
会場風景
1階ディスプレイ
モネの感情が迫ってくるように感じた《睡蓮の池》
作品制作に先立ち、箱根のポーラ美術館に行き、モネの作品《睡蓮の池》を一対一で鑑賞した増田セバスチャン。これまで、美しい絵を描く印象派画家のモネ、というイメージを抱いていたが、実際にモネの作品を前にすると、「遠くから見ると綺麗な絵だけど、近くでみると、当時のモネが抱いていたであろう感情とか筆圧とか、絵の筆先の感覚が伝わってきて、モネの感情が迫ってくるように感じた」と話す。それと同時に、「地球も遠くから見れば青くて、この世界も美しく彩られて世界が成り立っている。けれども、近付いてみると多様な人種や性別があって、色んな人たちが社会を形成している。これと同じことなんじゃないかな」と、モネの作品から得た印象を語った。
今回の展示の見どころについて、「遠くから離れてみると、モネの世界観がみえる。近寄ってみると、おもちゃや服飾の素材や木々など、色々なマテリアルがみえてくる。遠くからと近くから、どちらの世界観も楽しんでほしい」とのこと。暗闇の中に浮かび上がる作品は、離れてみると庭の風景のようにも思える。しかし、よく見てみると、そこには色とりどりの、様々な質感を持つ素材が集まって一つの空間を成している。パネルに散りばめられた素材は、それぞれが生命力を持っているかのような躍動感に溢れている。
「大人になっても、遊び心を忘れないでほしい」
日本初となる個展を銀座で行うことについて、「原宿という場にはどうしても先入観があって、僕と同年代(40代)の女性は、原宿に行くのが恥ずかしいと思う人が多いかもしれないけれど、それは表面的な一部分でしかない。むしろ、大人になったからこそ、遊び心を忘れないでほしい。銀座という街は、色んな年齢層の方が集まりやすいので、この場所で作品を見てもらうことで、自分たちがどこかで置き去りにしていったものを思い出して、心を豊かにしてほしい」と、銀座で開催する意義を語った。
増田セバスチャン
“カワイイ”は日本の風土が作り上げた概念
今回の展示空間には、作品の一部にソニーデジタルエンタテイメントの協力を経て、VRを用いた透明液晶を使ったり、会場内ではアンビエント・ミュージシャンによる環境音楽を流したりしている。外部の技術を取り込むことについて増田セバスチャンは、「みんなが僕を題材に、各々が持っている技術を用いて作品づくりに参加してもらうことで、最終的には全く想像できないものに昇華されることが楽しみ。僕の作品はきっかけでしかない」と話す。
会場風景
また、これまで発表してきた作品については、「いつも同じことしかやっていない」ことを強調した。それは、「自分が考えている“カワイイ”ということがどういう風に人に伝わっていくかであり、単純に表面的なことではなくて思想的な、哲学の部分。この世界には色んな違った見方があるという考えを発信すること」であるという。「“カワイイ”というのは、日本の風土が作り上げた概念であることを、もっと世界に広めていきたい」と、アーティストとしての情熱をみせた。
あきらめずに、やり続けること
増田セバスチャンが伝える“カワイイ”という言葉の意味には、「誰にも踏み込まれない、自分だけの小宇宙」という考えが含まれている。どこか他人の目を気にして、遠慮がちになってしまう現代社会で、自分を上手く表現できない人へのアドバイスとして、「僕自身、注目されるまでに約20年かかった。それまでの間に色々な批判もあったが、何を言われても諦めなかった。20年の歳月を得ることによって、説得力が生まれたと思っている。傷ついたりつまずいたりすることは、作品や表現としても力になる。とにかく、何事もやり続けるしかない」と、力強いメッセージを残した。
増田セバスチャン
『Point-Rhythm World−モネの小宇宙−』は2017年9月3日まで。期間中は、増田セバスチャンによるギャラリートークや、ライブパフォーマンスなどの限定イベントも予定されているとのこと。国内ではじめての個展となる貴重な機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
会期:2017年7月21日(金)〜9月3日(日) ※会期中無休
会場:ポーラ ミュージアム アネックス
開館時間:11:00〜20:00(入場は19:30まで)/入場無料
http://www.po-holdings.co.jp/m-annex/